第12話
あれは6年前、僕が小学校5年生の時だ。
クラスメイトたちと、電車に乗って博物館に行く約束をしていた僕は駅に向かった。しかし、はりきりすぎて準備に時間がかかりすぎてしまった僕は、集合時間に遅れたのだ。
当時は携帯も持っておらず、後から聞いた話によると、みんなは僕を置いてさっさと予定通りの電車に乗ってしまったらしい。
それで駅に着いた僕は、あたりに知り合いが見当たらず、一人で底知れぬ不安を感じ、ベンチに座りながらそっと涙を流していた。声を上げるのも恥ずかしく、俯いた状態で静かに頬を濡らしていたのでほとんどの通行人は僕が泣いていることに気づかなかったはずだ。
しかし、一人だけそんな僕の涙に気づいた人がいた。
「君、どうしたの?なんで泣いてるの?」
その声を聞いて、僕は顔を上げた。そのときの彼女の眩しい笑顔を今も覚えている。そこにいたのは高校生らしき制服姿の女の子だった。
「誰かと待ち合わせ?」
彼女の声に、僕は頷いた。
「友達」
と、掠れた声で言う。
「じゃあ、私も一緒に待つよ。ちょっとまってて」
そう言うと、彼女は携帯を取り出し電話をし出した。内容はあまり覚えていないが、ダンスレッスンをお休みしますと言っていた気がする。
そして彼女は僕の隣に腰掛けた。
今はもう、そこで交わした会話は忘れてしまっている。
しばらく、その女の子が僕を励ましてくれ、涙も枯れ果てた頃たったと思う。突然、女の子が言った。
「友達、来なさそうだね」
僕はショックだったが、彼女といるのが楽しかったから、もうどうでもいい気がしていた。
「ねぇ、もしよかったら、今から私と遊びに行かない?」
そう言われて、やってきたのがこの青空公園だ。彼女は一通り景色を僕に紹介した後、台の上に登った。
「何するの?」
と聞く僕に、
「今から、君を照らしてあげます」
と言う。彼女はスマホで音楽をかけ、手でマイクを作って歌い始めた。そうして、二人だけのミニコンサートが幕を開けたのだ。彼女の透き通る伸びやかな声は今でも覚えている。さらに、歌に合わせたキレキレのダンス。
そのとき僕は、本当にその女の子が輝いて見えた。信じられないほどの眩しさ。あの煌めきは今でも僕を照らしている。
その日から僕は、何か苦しいことがあればこの公園に来ていた。ここに居れば、あの子の影、いや光を感じられて、安心するからだ。
そして不思議とそれは今も同じだった。桜井さんの引退を知ってから、アイドルのことを考えるのも辛かったのに、この場所だけは僕を嫌な気持ちにさせない。
僕は街を見下ろした。そしてスマホを横に持って、写真を撮る。
明後日の月曜日、五百木さんに会ったときに桜井さんの話をするのと一緒にこの写真も見せようと思った。
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