第46話 世界を変えたる現役老兵
突然響き出す大きなアラート、そこかしこで起動するシャッターの金属音。
「お客様の避難を最優先に。できることなら非常用通路は避けなさい」
「はいっ」
店員たちは来店者の安全を確保しつつ、避難ルートを確認する。
「たいへんだ~」
「たいへんにゃ~」
「そう」
リコ、フロライア、シナのカタカナ組は大分余裕がある様子。
「ど、どうしましょう奏さん」
「ん」
「事故か人為的か分からないですけど向かった方が良いでしょうか!?」
「真宵待つ」
とりあえずこの場で最も力のある奏に意見を求める門真をちらりとも見ずに、奏は真宵の出ていった方向を見つめる。
小柄なナンバーズの瞳は、どこまでも無感動だ
「でも被害がっ!?」
「問題ない」
ゆっくりと、奏が門真に視線を向けた。門真が息をのむほどに、この場の危機を危機として感じさせない輝き。
目の前を見てるようで何も見ていないかのような、遥か遠くを見通す《瞳》。
門真は思い出す。今日の人間らしい振る舞いで忘れかけていた、日本ナンバーズ3――世界ランキング4位タイという超越者の威光。
琴業奏。与えられたる異名は『惑星の瞳』。
天より地を見下ろすが如く、万象を捉える御業の行使者。
軍事機密を地上に晒すことを事実上不可能にした、
彼女が『問題ない』と言ったならば、それはもはや決定事項だ。
言葉を失う門真に、奏は出入り口に目を戻しながら告げる。
「『庭師』が来た」
「な……っ!」
『庭師』という言葉に絶句する門真。
奏はみて/きいていた。
城のように巨大な商業施設の集合体、その一角が液体のように溶け落ちていく光景を。
†††††
『“救助完了”』
眼前に広がる液体と化した建材、そこから最後の一般人が救助されるのを確認し、黒街みとは隣の上司へと報告を行う。
電子音を通して報告を受けた中年の男は、晒された建物の内部を鋭く睨む。
「ありがとう、みと君。それじゃあ突入だ」
『“支部長……私、面倒事になったら逃げるって……”』
「頼むよ。特別手当はふんだんに出すから!」
『“いや、これ以上貰っても……行こ”』
文句を付ける前に支部長である鳳の顔を見て、みとはため息を吐きつつ不満を引っ込めた。
鳳の顔に刻まれた苦悩の色が、とても他人事に思えなかったかだら。
そんなみとの空気に、鳳は強い感謝を瞳に乗せる。
基本仕事に忙殺されかけている真面目者同士、通じるものがあるらしい。
苦労人二人組は後方の警察などに合図を送った後、テロが起こった施設へと足を踏み入れた。
シャッターをみとの解放力で溶かしながら、二人は早足に進んでいく。
緊急システムのため明かりの消えた通路を歩くなかで逃げ残った民間人を見つけては、わざわざ一本道で残した避難経路へと誘導する。鳳の熟練さとみとの解放力は、派手ではないが確かな救助を可能としていた。
無駄口もなく仕事を続け、500メートルは進んだだろうか。
逃げ遅れた一家を誘導している途中で、それは起こった。
「てめえらアラヤだな!?」
薄暗闇の中でもなお黒い装備を身に着けた、武装者二名。明らかに、事件を起こしたテロリストだ。
悲鳴を上げかける一家を安心させるために笑いかけてから、鳳は前に出る。
「みと君、ご家族を頼んだよ。私は……4年ぶりの実戦だ」
右足を引き、腰を回しながら拳銃を構える。流れるような動作には、老いの影も感じられない。
アラヤ日本支部統括長としてではなく、一人の
その背中を見ながら、みとは音声を作る端末を下ろす。
「…………大丈夫?」
自分が戦う方が良いのではないか、そんな考えが込められた言葉。
黒街みと。日本ナンバーズ5であり、世界ランキングの末席に座る者。
半径250キロメートルもの範囲に存在する無生物の総合状態を自在に操る解放力、『
国一つを丸々開拓可能な能力により、彼女は『国土の庭師』の異名を誇るのだ。
「まったく、忘れたのかい? まだまだ
武装した相手に威嚇されながらも、鳳の声は重みを持って響く。
「だって僕はオールドエイジ唯一の――」
何故、強力無比なナンバーズが鳳に従うのか。
何故、世代を得るごとに洗練されるニューエイジが日本支部統括長にならないのか。
何故、世界を変える六人もの
今示せ、《眼》を開け。
古きが劣らぬと、自らも世界を変えた者だと表すがいい。
「――現役
――世界ランキング5位タイ、勲章下賜名称『見透かす者』。
――――岡弓鳳、参戦。
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