第48話 【一応本編】オフ会の相談
「さすがにそろそろ煩わしいな」
「本国からの暗殺依頼、でしたか?」
「まあね。なぜ私がドハマリしてる配信者を殺しに行かなければならない? 大手を振って応援してる私にそんな巫山戯た頼み事をするなど正気の沙汰ではないだろう」
「では行かないと?」
「いや、行くが」
「は?」
張り詰めていた空気が一瞬にして解けた。
目を丸くする、スーツ姿の金髪ポニーテールの美女……ユミナ・ラステル。
彼女は私の方を訝しげに見る。
「やれやれ。君とはこれだけ長い付き合いなのに、ちっとも私のことを理解していない」
「狂人の考えが分かるわけないじゃないですか」
酷い物言いをする秘書。世迷言葉のリスナーみたいなことを言わないでくれないか。私は狂っているわけではない。
感情を制御して押し隠すよりも、狂うフリをして全てを嘲笑う方が楽なのだと気がついただけだ。
「なぜ推しに会えるチャンスを不意にするというんだ? 折角本国から依頼、という名の免罪符を手にしたんだ。これを利用する手はないだろう。それに期間を指定しなかった奴らが悪い」
「考え方が直結厨ですよ、それ。しかもいつの間にか推しに変わったんですか。アナタの世迷言葉への愛情? 喜悦? ともかくとして、抱えるクソデカ感情は異常だと思いますが」
私が世迷言葉へ抱いてる感情は、期待と興味と喜悦の三つほどだ。そこまで非真面目に享楽しているわけでもないのだ。
これでも伊達に世界二位と呼ばれていない。
「失敬な。傾倒し過ぎて共に倒れ込むなど本末転倒だろう。私は程々に彼に入れ込んでいるに過ぎない」
「その結果が私への負債、ですか」
……どうせ給料日に多額が振り込まれる。前借りであって、確実に返せる保証があるのだから許して欲しいが。
秘書への借金、ととてつもなく外聞の悪い行為ではあるが、彼女とて世界ランキング上位者。腐る程に金はある。
そんなことを考えていると、まるで思考を透かされたようにジト目で私を見る秘書に、口角の端を歪めることで答える。
「……ハァ。まあ、精々トラブルを起こさないことを祈ります。久しぶりのダンジョン探索でしょうし、頑張ってきてください」
……ふむ?
私は秘書の言葉に首を傾げる。
「何を他人事みたいに言っている? 当然君も行くが?」
「はァ?」
「これを期に世迷言葉リスナーのオフ会を開こうと思う。君は当然強制参加だ」
今度こそ秘書の目から光が失われた。
諦めてくれたまえ。日本には一蓮托生なる言葉があるだろう。それと同じだ。恐らく。
☆☆☆
「は? 何で私がオフ会に行かなきゃならないのよっ! まるで世迷言葉のファンみたいじゃない!」
世界二位からのメールということで身構えていたのが馬鹿みたい。長ったらしいが、実態はただのオフ会。
暗殺依頼とかどうせあの馬鹿なら何とかする。
それを二位も分かっていて誘ってるフシがある。
「私が行くとでも思ってるのかしら。ハッ、世迷言葉のファンだと勘違いしてるなら二位も節穴ね」
私はただ彼のよく分からないアホみたいな……いや、実際ただのアホである奴の思考回路を何とか理解しようと試みてるだけに過ぎない。
好き好んで奴の配信を見て爆笑してる別ベクトルのアホとは訳が違う。
「それにオフ会と言っても、二位と秘書と私の三人だけじゃない。暗殺依頼の名目だからって過剰戦力が過ぎるでしょうに」
東京ダンジョンは、他国のダンジョンと比べて魔境だと耳にする。とは言っても、Sランクのランキング上位者が三人もいればすぐに片がつく。
問題は階層移動にかなりの時間を消費すること。
どれだけ早くても半年はかかる気がする。それだけ東京ダンジョンは広い。
「自国を放っておくわけにも……いや、問題ないわね」
私の国にはもう一人だけSランク探索者がいる。
奴に任せておけば万が一ダンジョン災害が起こっても問題なく片付けることができる。
「はぁ……。面倒だからパスね」
と、断りのメールを送ろうとした時だった。
タイミング良く二位からのメールがもう一通送られてきたのだ。
『秘書です。主人が報酬について明記していなかったので補足をさせていただきます。報酬は即金900億。貴方様が欲しがっていた特S級の赤色魔石も差し上げます』
「……」
私はポチポチとスマホを操作する。
うーん、と背伸びをしてベットに横たわる。
「べ、別に世迷言葉が気になるわけじゃないから! 報酬のためよ! …………いや、本当に気になるわけじゃないわね」
誰に言うわけでもなく叫んだ私だったが、振り返ってよく考えてみれば会いたいという気持ちなど微塵もなかった。
むしろ直接会ったら面倒になるこもは確実。
「……だからと言って報酬に釣られてることが明白なのも癪だわ」
できればダンジョンに沈んでくれないかしら。あのアホ。
閉じ込められてても火種でしかないのに、出てきたら確実に火種どころか爆薬だ。
日本という国はすごいわね。あんな害しかないアホを生み出せるんだもの。
HENTAI文化の極み……。
「直接会えばまともとか……」
無理か。
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