第47話 【番外編】NTD放送局代表取締役のプライド
「社長。バンバン苦情届いてますよ。見苦しいもん映すな、って大騒ぎですわ」
「だろうな。批判は織り込み済みだ。言わせておけば良い。どうせ協会の老害共が手を回しているだけだろうしな」
シニカルに笑う男は、部下からの報告に呆れ顔で返す。
敬う気のない部下の態度と、相変わらず辟易する程に己の邪魔をするダンジョン協会の上役たち。
白髪の混じってきた野暮な髪を弄りつつ、男はため息を吐いた。
日本テレビダンジョンズ。通称NTDの代表取締役である男……
幾らダンジョン配信の影響によってコンプライアンスが多少緩和しようと、やっていることは未成年の実名実写ドキュメンタリー(死)。
PTAやその他諸々から苦情が来るのは当然である。
「いやー、面白いっスね! 普段自分たちだって、人の生き死に見て喜んでるカスのくせして、責める大義名分を持った瞬間に手のひら裏返すんスから。人間って浅ましー」
ケタケタ笑う金髪の男に夜張は、緊張感のない部下だと嘆息しつつも、大部分の苦情処理を任せていることに一抹の申し訳無さを覚えていた。
この金髪、仕事だけは有能なのだ。
それも対人にかかれば右に出る者はいないと言えるほどに。
今でこそ取り繕っていない彼だが、彼の外面は超合金の強化外骨格だ。
雑務のエースである彼だからこそ、夜張は軽い口調に文句を言うこともなく信頼できている。
「……そうは言ってやるな。普段は慈善事業を謳ってやってるんだ。いきなり地上波でスプラッタあたおか配信を流し始めたら責めるのも無理はないだろ」
「それについては世迷が世迷ってるのが悪いと思うんスけどね〜。まさかボクも社長もこんなイかれてる奴とは思わなかったでしょ! というか、アホの思考回路を予想しようだなんて事が馬鹿げていたんス」
「まあ、それは言えてるがな。とは言え、十分と言える程に視聴率だとか広告費を稼がせてもらってるから文句は言えないが」
ハァ、と二人揃ってため息を吐く。
この会話から分かる通り、初めからここまで苦情が届く予定はなかった。
世迷言葉のことは不運な青年だとは思いつつも、明るいキャラクター含めてテレビ受けすると予測したから、地上波で流すことを強行した。
穏健派とも言われていた夜張が、苦情を織り込み済みで強行した理由は、単に金になると思ったからである。
ドデカく稼げるタイミングで、地位と名誉をドブに捨てることを画策していたのは間違いない。
そして、その目論見通り……いや、予想以上に金を稼ぐことができたのは幸運だっただろう。
ただ────
──思ったより世迷言葉がぶっ壊れていたことによる後処理に追われていることを除けば、だが。
世迷言葉の異常性は、一度でも彼のピンチを見れば明らかである。
間違いなく普通の人間の思考回路をしていない。
裏を返せば、独特なキャラが人気を呼ぶこともある……が、常軌を逸している場合は別である。
「でもまあ仕方ないッスよね」
金髪の男は笑った。
諦めと微かな憧憬の混じる微笑み。
夜張も全く同じ表情で笑っていた。
「「ファンになっちまったからには」」
顔を見合わせてフッ、と笑う。
想いは同じ。
そして──ただの諦めの境地である。
ぶっちゃけ、ファンであろうと何であろうと、仕事を増やした張本人だ。自業自得であっても、その責任の所在の一端を心の奥底で押し付けている。
『もう少し思慮深くなってもろて』
これが二人の願いである。無理だ。
「仕事するかぁ……」
「そっスね〜。あ、そういえば近々ランキング上位者が色々と動くらしいっスよ? 世迷が落ちたダンジョンに、救助って名目で行くとか。自分は資源狙いで国から命令されたんじゃないかと思うっスけどね〜」
「あ? そういう大事なことは先に言いやがれ!」
夜張はすみませんっス〜、とヘラヘラ笑う金髪の男を一喝した。
そんなタレコミは寝耳に水であり、ニュース番組も運営しているNTDにとっては、特大のネタ。
詳しく話を聞くべく、夜張は問うた。
「ランキング上位者か。誰が動くんだ?」
金髪の男は「えっと〜」とニヤニヤしながら言った。
「アレン・ラスター、ユミナ・ラステル、シエンナ・カトラル。この三人っスね」
「全員世迷リスナーじゃねぇか!!」
ーーー
箸休め件、伏線回
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