第46話 やったねぇ!復讐だよぉ!
「────え?」
正直、自分でも何を言ったら良いとかが分からない。
それくらいに目を疑う出来事だし……なにこれ本当に。
呆けてる間にも、中華鍋にライドしたスノラビくんはグングン雪山を下ってくる。
てっきり、僕の方に来るかと思いきや、その矛先は気絶しているデカいスノラビくんだった。
とりあえず何か言わなきゃ。配信者としての使命感で、僕は叫んだ。
「──おおっと! スノラビ選手! 雪山を下る、下る、下る! 猛烈な勢いで同族に向かって行くぅ!!」
コメント
・俺たちが呆けてる間に実況してるバカがいる
・てっきり恨みのある世迷の方に行くて思ったわw
・そもそも未だに中華鍋にスノーラビットが乗ってる現実を受け入れられない件について
・ナニコレ感w
僕も受け入れられない。
理由なんか考えてもキリがないし、もう思考放棄してあるがままの現実を実況する方が楽なんだよね。
「君たちも一緒に思考放棄しない?」
コメント
・実況が思考放棄って分かってるんかいw
・おめーにはなりたくないから嫌だ
・《ARAGAMI》主人に変わって秘書がお伝えします。ただいま、ARAGAMIは床にのたうち回って爆笑しているため、今しばらくコメントができない状況となっています。ご理解いただけますと幸いです
・草ァwww
・相変わらずの世界二位
・これぞ二位クオリティ
・概念想像の儀(part2)
・《Sienna》これは笑わない方が失礼だわ
・《ユキカゼ》
・空コメントは草
笑わざるを得ないと思うんだ。
僕の場合は、自分の身に起こったことだから爆笑はできないんだけどね。
アラガミさんに関してはいつも通りとしか言いようがない。あと、秘書さんはキッチリ借金を取り立ててあげれば良いと思う。
コメントに心の中で反応しつつ、僕は実況を続ける。
「もうすぐ到着だ、スノーラビット! ちょこんと座っているスノーラビット! 気絶しているデカスノラビくんに向かっている! 卑怯だ! 卑怯だぞ!」
コメント
・おま言う
・どの口が言うとんねんw
・ブーメランが高速で突き刺さってる
・中華鍋onスノラビがシュールすぎるw
コメントを尻目に、スノラビくんは猛スピードで雪山を下り、もう数秒でデカスノラビくんにぶつかる時がやってきた。
僕の実況にも熱がこもる。
「今、衝突だ!! もうすぐ! もうすぐ! もうす────うわ、グロ」
コメント
・草
・うわ、グロは草
・いや、シュールすぎだろ
・スパーンといったなw
・《Sienna》草
スノラビくんの乗った中華鍋は、高速でデカスノラビくんの首に衝突し、勢いそのままに首を刎ね上げた。
僕の四肢チェックも傍から見たらこんな感じなのかな、とか思いつつ、デカスノラビくんは血を噴き上げると少しして死体が消えた。
後に残るのは、悠然と佇むスノラビくんと拳大の黄色の魔石。それと何かのドロップアイテム。
「モンスターが魔石になる瞬間を地味に初めて見た」
コメント
・確かに、スライムは素手で体内の魔石砕いてたから、魔石は残らんし、ボックスくんはマグマに沈めてたし、狼くんは爆発で自分ごと吹っ飛んだし、最初のスノラビくんは消し飛ばされたし
・スライムの次から倒してるモンスターがエグい
・倒し方邪道すぎて草
……さて、どうしよう。
中華鍋の上で毛づくろいまでする余裕のあるスノラビくんは、怒りや敵意を見せることもなく、落ち着いた様子でジッとしている。
「間違いなく中華鍋で轢いたスノラビくん、だよね」
じゃなきゃ中華鍋の出処の理由がつかないし。
でも、なんであんなに怒り狂ってたのに、今は落ち着いてるんだ。分からない。
コメント
・復讐一択だろw
・わざわざ恨みのある中華鍋で同族を殺すとか皮肉が利いてるなw
・余裕が……世迷にはない余裕があるぞ……!!
・世迷にあるのは虚勢だけだからな
・どう足掻いてもリベンジしか理由がないわなw
まあ、だよねぇ。
正直、四肢は三本あるし、隙を突くことができれば倒すことも可能かもしれない。
──なんてことを考えていると、眼前のスノラビくんがパァと光輝き始めた。
「なに!?」
今度は目を焼くような輝きではなく、直視はできないけど周りにあんまり影響を与えない感じ。
どうでも良いけど何が起きたわけ?
コメント
・次から次へと急展開だなおいw
・スノラビくんが光り始めた
・※中華鍋に乗ったままです
・シュールで草
光はすぐに収まった。
僕は意を決して目を押さえていた手を外し、目の前を見る。
「あれいない────あ」
目の前にはスノラビくんの姿が見えなかった。
中華鍋ごと姿を消したスノラビくんに首を傾げていると、不意に頭に衝撃が走って────
──視界が真っ黒に染まった。
コメント
・え、え、えぇ……?
・えぇ……?
・はぁ?
・《タケシ》え
・《ARAGAMI》ふむ
・《Sienna》あー
・《ユキカゼ》なるほど
☆☆☆
ニンゲンを殺せ。
脳に植え付けられた殺意の塊は、視認した人間を殺すまで止まらない。真っ赤に染まった脳内が。殺意の奔流が行動全てを支配する。
産まれた時より、自由はなかった。
薄ぼんやりとした自意識に、明確な自我はきっとない。
いつか人間を殺し、人間に殺されるまで。
ずっと雪原の中で過ごすと思っていた。
────一度目は視覚外からの途轍もない衝撃。
満面の笑みの人間が乗っている黒い板に吹き飛ばされた時、自意識……植え付けられた殺意の塊がほんのり薄れたのを感じた。
靄がかかっていた脳内がほんの少しだけ晴れた。
だが、塗り固められた殺意は消えず、良いようにしてやられた人間への殺意が高まった。
目覚めかけた自意識は、芽が出ることはなく殺意に染まった。
────二度目は脳に響くほどの不快な衝撃。
再び
殺意を忘れさせる程の不快さと脳に響く衝撃は、死ぬことも許されずに永遠とも思われる時間を過ごした。
──そして次に目覚めた時。
殺意は晴れ、明確な自我を獲得することに成功した。
思い通りに動く体に感動を覚えつつ、今のままでは何を成すこともできないと理解していた。
弱い。この身は攻撃に転じれば、どんなに固い装甲でも噛み砕く自身があったが、防御は脆弱の一言に尽きる。
弱点も多い。
素早さと攻撃力頼りでは、この先を生き抜くことなどできないし、あの人間にまた良いようにされるのは御免だ。
ゆえに、何をすべきかは自ずと理解していた。
この場所を支配する臆病者の同族。
奴を殺し、糧とする。
しかし、完璧に殺し尽くすには攻撃力が足りていない。
腐っても支配者。その防御と能力は厄介だ。
その時ふと目に映ったのが、自分を閉じ込めていた忌々しい黒い板。憎いことに耐久性はこの身をもって証明している。
人間はこの板に乗って移動していた。
速度と威力はもう少し距離があれば真っ二つになっていたのではないか、と言えるほどだ。
ゆえに、真似は癪だが、奴を殺すにはこれしかない。
場所は優れた鼻があれば分かる。
黒い板の突き出ている部分を口で噛みながら雪の中を引き摺る。幸い距離はさほど離れていない。
思考し、自らの意思で行動している。
その喜びに勝るものはない。憎い板がなんだ。自我の芽生えに比べれば我慢できる。
そうして一際標高の高い雪山の山頂にやってきた。
この目に映る、狂気的な人間と、臆病者の同族。
……一瞬どちらを標的にするか迷ったが、目的を見失うことなく、黒い板に乗り、雪山を下る。
そのまま同族の首をあっさりと刎ねた後、訪れる進化の時を待つ。
例の人間が自分のことを見つめる中、進化は完了する。
新たな力を次なる場所で──
──その前にムカつくからキモい人間殴る。
──《中華鍋召喚》
人間を殴り倒した後、新たに得た力を使用する。
憎い黒い板と同じ材質を利用した黒色の鎧。
これで防御面は心配ない。
それはそうと……。
「殺しはしない。自我の目覚めに貴様は必要だった。でもいつか絶対殺す。生理的になんか受け付けないし」
そう言い残した後、同族を殺し出現した魔法陣の上に乗る。
次なる場所で力を得るために。
ーーー
仮免の勉強してて遅れました……
あ、受かりました。
二章終了。
人化したのか、兎のままなのかはご想像にお任せします。
良ければフォロー、☆☆☆、レビュー、♡、感想の方、よろしくお願いします!
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