第45話 やったねぇ!目を疑うよぉ!

「雪のエリアで松葉杖とか正気かな?」


コメント

・使う前に気づけよ

・意気揚々と取り出したお前が正気じゃねぇんだわw

・狂気が黙れ

・道具のせいにするな


「そうだよ、わかってるよ。道具は使い方次第で色んなことができる。でもね? 今。今! 必要なんだよ」


 使い方と使い手で変わるってのは知ってる。

 この場合、使い手側に問題がありそうだけど。おっと、久しぶりの自虐じゃない?

 存在自体がもう自虐のようなものだから大して気にしてないけどね。恥の多い生涯を現在進行系で送ってるし。


「松葉杖の片方を杖代わりにして歩いてみようかな」


 僕は一本の松葉杖を両手で持つ。

 何とか立ち上がると、それを杖にして歩き始めた。

 もちろん、鈍足の歩みではあるけど、転んで進まないよりはマシだと思う。ちなみに抱えるように松葉杖を持ってるから、スマホは一応見れる。


コメント

・珍しく真面目な顔で頑張ってんな

・おめーのいつもの笑顔はどうした

・ほら、笑えよ

・リスナーもサイコパスになってきてて草


 僕はニコリ……ではなく、ニヤリと笑った。


コメント

・悪役の笑顔なんよ

・裏切った元味方の愉悦顔なんよ

・三日月型の笑みとかリアルでできるやついるんかw

・純粋さをお腹の中に忘れてきたんか?

・キモいんよ

・単純な罵倒で草


「笑っただけなのに酷い」


 確かにニヤリって顔だったかもしれないけど、普通の顔立ちの僕が悪そうな顔しても悪役には見えないでしょ。

 顔って使いすぎた。

 ともかく、僕にはそれを否定できるエピソードがある。


「小学生の時の僕って、あんまり笑わなかったんだよね」


コメント

・お、そうか

・急にどうした

・《ARAGAMI》誰かと入れ替わってたのか?

・人格否定してて草

・そりゃ小学生の時と今とが性格違うこともあるだろw


「まあ、良いから聞いててよ。笑わなかった僕だけど、別に友達がいないとかじゃなくて、単に感情を表に出すことが苦手だったんだよね。でも、そんなの周りに伝わるわけないし、笑ってよとか俺の話面白くないの? とか無邪気な顔で言われるわけ」


 内心爆笑したり嘲笑したり苦笑したりしてたんだよ。

 感情が無かったわけでもなくて、本当に表に出すことが苦手だっただけ。それで笑えって言われても難しいものは難しい。


コメント

・なるほどな

・分からなくもない 

・お前にもそういう過去があったのか

・少しは認識を改めなければな


 お、風向きが良い!

 これは僕の評価を上げるチャンスなんじゃない?


「ある日、良い加減笑え笑え煩いもんだから、僕はそこで初めて人前で笑ったんだ。ちょうど今さっき君たちにした笑みをね。でも、友達は僕の顔を見て全員笑ってくれたんだよ。少し表情堅かった子もいたり、嬉しさからか泣いてた子もいたけどね」


コメント

・いや、それ単に気持ち悪くて引いてただけや

・苦笑されてて草

・顔引き攣っとるやんけ

・純粋無垢な小学生が愛想笑いすること殆ど無いぞw

・気持ち悪くて泣いてるんよ

・おめーの勘違いじゃボケ

・思い出を無理に美化させるのよくないです

・《Sienna》鋼超えてオリハルコンメンタル

・《ユキカゼ》分かる

・分かられちゃったよ

・似た者同士で草


「ふぅ。ユキカゼさんなら分かってくれると思ったよ。僕は都合の悪い情報をシャットダウンする能力を持ってるから、生憎君たちのコメントは読めないんだ。あー、残念」


 なんか足一本消え失せてからやけに頭が回る。

 リスナーを小馬鹿にする話し方も様になってる気がする。多分。


コメント

・いつにも増してムカつくな

・《ARAGAMI》あぁ、なるほど。国際スキル学会で、起死回生のスキルが思考能力にも影響する、って言っていた研究者がいたはずだ。つまり君は、四肢を失えば失うだけ頭が良くなるということだ。良かったじゃないか(笑)

・思っきり馬鹿にしてて草

・行動範囲失うだけ、頭が良くなっても意味なくね?w


「そんな効果が」


 攻撃力が上がる、って書いてたはずだけど、なんで思考能力にも影響してるんだろ。まあ、恩恵があるならそれに乗っかるだけだよね。

 あれ、でも待てよ……?


「学校の定期考査を右腕だけ残して受ければ高得点取れるんじゃない……?」


コメント

・メリットとデメリットが釣り合ってねぇよw

・アホの発想だな。思考能力変わんねぇじゃねぇか

・どんなカオスな状況だよwww

・発想が狂人のそれ

・《Sienna》それは、単純に、ヤバい


「そっかぁ……。良い発想だと思ったんだけどなぁ」


 止められるなら仕方ない。

 友達もビックリさせちゃうし、少しは自重しないとダメか。シエンナさんにも引かれたし。


「──と、着いたね」


 そんな話をしていると、亀くんのいる場所に着いた。


 上を見上げると、僕が落とした首の断面が見える。

 血はなく、キュウリの断面みたいな感じになってた。僕の例える能力がカスだからこれで理解して欲しいんだけど。


「うーん、立ったまま動いてないし、明らかにレベルが上がった感じもないなぁ」


コメント

・どういう状況なんだこれ

・亀のスキルか何かか?

・鑑定してみれば?


 鑑定、か。

 確かに何か変化が起こってる可能性もあるかも。


「《鑑定》」


ーーー

《ユニークボス個体》

種族 亀

Lv.1200

ーーー


「今鑑定してみたんだけど、何も変わってなかった。さっきのままだね。……どういうこと?」


 いや、本当に分からない。

 攻撃してこない理由も、そもそも種族亀ってなんだよ。ずっとツッコんでる気がするけど、これはこれでおかしい。


コメント

・《ARAGAMI》近くに転移魔法陣が出現していないことからも、死んでいないことは確実と言っても良いだろう。ただ、そのレベルのモンスターでネームド個体ではないのが些か不思議だ

・《Sienna》階層って深くなればなるほど、神話由来のモンスターとか何かの目的意志に添ったカタチで出現するから、ネームドモンスターがほとんどなのよ。例の狼みたいな感じね。二位はそれを不思議がってるのよ

・補足説明くれるとか優しいな

・優しくなった、というより世迷の異常性に慣れただけなのかもしれねぇw

・草


「確かに。ただの亀、っていうのもおかしな話だし」


 どうなってるんだろう、と僕は亀くんの太い足に触れた。

 ザラザラした爬虫類の感触が手のひらに感じる中、


 ────突如亀くんが光り輝き始めた。


「目がァァ!!」


コメント

・やめーや

・その仕草と口調はアウトなんよ

・いや、眩しいのは分かるけどもw


 僕はあまりの眩しさに、転びながら目を覆う。

 至近距離で光を浴びたからか、脳が痛くて視界がチカチカしてどうも利かない。

 何が起きたのかサッパリなんだけども!!


「いったい何が……」


 光が晴れていくのを感じるけれど、視界不良からはまだまだ回復しない。脳内に星が瞬く……とか格好いいから一度言ってみたかったんだけどダメかな?

 あ、ダメだ。自分の無様を格好いい(自称)ように言ってるだけ(自傷)じゃん。


 少し経って、ようやく視界が回復した僕は、急いで辺りを見渡す。

 松葉杖と落ちたスマホを手に取り、前方を見ると、


 ──そこには一際大きなスノラビくんがいた。


「か、《鑑定》」


 僕は咄嗟に《鑑定》を発動させた。


ーーー

《ネームドユニークボス個体》

種族 トランスフォームスノーラビット

名前 カ・フカ

Lv.1200

ーーー


「とらんすふぉーむすのーらびっと?」


コメント

・亀に変化してたってことか?

・なるほどな

・《ARAGAMI》隠蔽スキルでステータスを改竄していたのだろう。それと、変化系統は多大な力を消費するため、ジッと回復していたのだろう。変化の解除方法は、恐らく一定時間の接触。本体を叩くには今がチャンスだ

・はえー、そうなんか


 はえー、そうなんか。

 つまり、僕の《一魂集中》みたいに変化にデメリットがあるってことでしょ? それで、今ちょうどデメリットを払ってる最中だから、そこを叩けばいける的な。


 確かに目の前のデカいスノラビくんは、目を閉じジッと何かを待っているような体勢で、どう見ても無防備。

 僕が《一魂集中》をその顔面に叩き込めば、一発で倒せるに違いない。


「……うーん、無防備な相手を倒すのは、やっぱり性に合わないなぁ」


コメント

・そんなこと言ってる場合ちゃうやろ

・階層ボスなんだから倒さないと進めんぞw

・変に慈悲深いくせに容赦ないのなんなんw

・あくしろよ


 まあ、そうだよね。

 倒すか倒さないかの二択だったら、倒す以外の選択肢はあり得ない。僕の帰還のため。


「君には犠牲になってもらうことにしよう」


コメント

・だからセリフが悪役定期

・フラグなんだよなぁ……

・アホが変に格好つけると大抵ろくでもないことが起きる


 色々言われてるけど、この状況で何か起こり得ることはなくない? いきなりデカいスノラビくんが復活するとかは正直ありそうだけど、それだけなら予測できるし。


 僕は松葉杖で体を支えながらデカスノラビくんに近づく。亀くんの時には辛酸を舐めさせられた気がする。辛酸……?

 

「じゃあね。《一魂──》」 


 スキルを発動させようとしたその瞬間、僕の耳が誰かが滑り落ちる音を捉えた。

 シャアー、という音はまるでスキーをしているような。


 ちょうど左から聴こえる。


 僕は左側の雪山を見て──目を疑った。



「………………え?」






 ──スノラビくんが中華鍋に乗って滑ってる。



 


ーーー

十二回ほど書き直してこうなりました。

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