第44話 やったねぇ!終わらないよぉ!

 すぐに行動しなきゃ気絶おちそうだった。

 至近距離で衝撃波食らって真上に打ち上げられたら、まあそうなるよね。

 そんなわけで、《アイテムボックス》を開いて、降ってきたポーションの瓶の蓋部分を口でキャッチ。

 肘と肘で瓶を持ってそのまま口で蓋を開けて飲む。


コメント

・相変わらずの曲芸

・アイテムボックス、そんな使い方できたんかw

・何がヤバいか、って上空から落下中に淡々としてることなんよ

・動きが単純にキモい


 平時なら普通に飲む……というか、体に異常が無ければそもそもポーションを飲むことがないと思うんだ。

 曲芸って言われてるのは、僕ができる思いつく限りの最適解を選んでるだけ。

 今だって両腕骨折中だからだし。


「復k……舌噛んだ」


 まあいいや。

 差し当たっては、真下にいる亀くんをどうするか。


 そのまま落ちたら確実に死ぬんだよね。

 ただの亀に負けるのは僕のなけなしのゼロに近い、小数点以下を切り捨てたらゼロのプライドが許さない。

 

 この状況でコメントにも頼ることはできない。


「んー、考えても無駄か」


 暇が無い。

 いやぁ、僕ってば人気者だから大変だなぁ。色んな多種多様な生物に追いかけ回されてるからね。全く望んでないから消えてくれない?

 

 ──と、どうでも良いことしか頭に浮かばないまま、猛スピードで亀くんの頭付近に近づく。

 ものの数秒で着地して、地面に綺麗な華が咲くに違いない。


 ええい、もうやけくそだ!!


 ヒュー、と落ちる勢いそのままに、僕は亀くんに拳を突き出し────


「一瞬────《一魂集中》」


 拳が亀くんの頭に触れた──と体が感じるより先に勘でスキルを発動させる。

 

「────」


 亀くんは一切の言葉を発さないまま、頭から近く一帯が綺麗に消滅した。

 

「痛っっ!」


 スキルを発動させるために使った右腕が……もう、人様に見せられないレベルでアカンことになってるけれど、それよりも呆気ない幕切れにポカンとしたまま雪山に頭から突っ込んだ。


コメント

・世迷言葉の無双劇が始まる……?

・そんなの望んでない(迫真)

・何だろう。上位探索者が低階層で遊んでるみたいな、スッキリはするけど面白みのないやつ

・《ユキカゼ》ぐふっ

・なんか全体攻撃の流れ弾食らってるやつおるぞw

・《ARAGAMI》世迷言葉にスマートな撃破は似合わない。これで終わりなのか……?おい

・本音出てて草 

・助かったのか、とか心配の前に呆気なさについて不満漏らすこのクズたち

・うーん、安定の民度の悪さw

・かなり勢いよく落ちたけど、まあこいつなら

・足出たまま動かんぞ、こいつw

・マジで危ないパターン?


「チ ン ア ナ ゴ ッ !」


コメント

・心配して損した

・一回逝ってこいよ、マジで

・草

・見えるけどもwww


 かなり色々痛いけどね。

 雪自体が柔らかい性質だったお陰で、頭から落ちたのにそこまで大きな怪我は無さそう。

 早く避けないと雪の白さが真っ赤になりそうだけど。


「よいしょ、よいしょ。脱出!」


 何とか脱出した僕だけれど、右手はひしゃげ、左足は《一魂集中》の副次効果……ごめん、インテリぶった。デメリットでサックリ消滅してる。


「《一魂集中》って、使った腕が消えるわけじゃないんだ。確かにランダムとか言ってたし、本当に四肢アンルーレットじゃん」


コメント

・グロい

・何でおめーは平然としてんだよw

・世迷だから 

・着々と人間らしさを失う男

・(人間らしさを失ったらどうなるんですか)

・(世迷言葉になります)

・元から人間じゃない定期

・四肢ロシアンルーレットじゃなかった?


 コメントでどうせ色々言われてるんだろうな、と思いつつ、サクッとポーションで回復。うーん、安定の回復力。

 

「────ん?」


 回復してようやく気づいた。

 

「そういえば、亀くんの頭ぶった切った時に、確か血が全く出てなかった……? それどころかうんともすんとも言わなかったし」


 僕の脳内が過去を想起する。

 本当に記憶分野が腐ってるのか、所々しか憶えてないけれど、確実に言えることがある。


「亀くん、今まで一度も鳴き声すら発してない……?」


 僕はバッと急いでスマホを取り出し、コメントを確認する。僕の言ってることの何割があっているのか。


コメント

・確かに

・言われてみればそうだな

・《ARAGAMI》間違いない。だが、亀には声帯が無い。鳴かなくとも不自然ではないが、今まで感情という感情が見られないのも深層のモンスターとしては謎が深まる。単純的な攻撃方法。圧倒的な破壊力があるか、と問われれば世迷言葉のも破壊できない不始末さ。どうもボスモンスターとしては不自然さがあるのは前述の通り間違いないだろう

・《Sienna》言われてみればそうね。全てのモンスターが鳴くわけではないわ。ゴーレム系統なんて鳴いた方が驚くし。でも、好戦的でないのが不自然よ。ダンジョンのモンスターは、人間という存在を排すために造られてると言っても過言ではないほどに好戦的よ。これに例外はない。人間と同等の知能を持つモンスターがいるなら別でしょうけど……

・《ユキカゼ》上二人に同じ。どんなに力の差があろうと、人間であれば向かってくるのがモンスター。亀は積極的にフィールドに侵入してきた人間を倒そうという意思は感じられない。視界に入ったのならば、仕方なく倒そう。そんな表情をしているように思えた

・一体は草

・残機扱いしてるやんけ

・遂に世界2位までボロクソ言い始めた

・多分、単にまだ終わりじゃねぇ、って思って興奮してるだけだぞ

・人のピンチに興奮する性癖を持ってるとか業が深すぎだろ

・一応お三方の真面目解説定期


 僕は例のお三方の説明を呼んで打ち震えた。


 そんな……


「僕が長文説明を読んで理解できた……だと……!?」


 知能の発達!?

 今更成長してるんじゃない、僕!!


コメント

・いや、単におめーが分かる単語をギリギリ選んで解説してるだけだぞ

・人様の配慮を自分の手柄扱いするなよ

・アホが黙れよ

・コメントが容赦無さすぎてwww

・存在がギャグだからしゃーない

・ツッコまれないと存在を保てないのか


「いや、そんな概念的な生物じゃないから。実体あるから」


 僕はちゃんと人間だって、何回言えば分かるの?

 それより、まだ終わりじゃないなら、どうして亀くんは頭を失ったまま微動だにしないんだろう。


「……うーん、ピタッて動きが停止してるね。僕の予想だと、第二形態的な感じでこう……変身! 的なことになるのかと」


 ゲームで魔王がよく第二形態になるけどさ、僕、毎回プレイしてて思うけど第一形態の方が厄介じゃない?

 第二形態って体力と攻撃に全振りしてるから、そこさえ何とかできれば余裕で倒せるんだよね。


コメント

・不覚ながら俺もそう思った

・《ARAGAMI》それはそれで面白いと思うが、些かテンプレが過ぎて展開には飽きる

・《Sienna》珍しいモノに期待してんなら、世迷言葉を拉致って24時間観察してたら?

・《ARAGAMI》それはそれでアリだな……

・ヤンデレみたいことしないでもろて

・ニコニコしながら観察してんだろうな……

・多分飽きて放牧し始めんぞ

・人間扱い完全に辞めさせられてて草


「一部層が喜びそうなことするのやめてよ」


 ただでさえ僕と同じ枠に入りそうなアラガミさんなんだから、それ以上やらかしたら完全に僕になっちゃうよ。

 

「とにかく、一応近づいてみようかな」


 僕はそう言って歩──こうとして転んだ。 

 

「あ痛っ、そうだ、左足無かった」


 今までは腕だったから何とかなったけど、足が消えるのは歩くのに支障来すから危険だねぇ。

 どうしようと、思った時に、最近入ったショップのことを思い出した。


「松葉杖召喚!!」


 僕は早速松葉杖を使って──転んだ。


「使えねっ!」


 ぶん投げた。



コメント

・草

・草

・草

・草

・草

・雪中で使えるわけねーだろ

・アホか?

・アホだよ


 アホだよ。


 


ーーー

前話で完結にしてたら、それはそれでネタとして完成していたなぁ、と思いつつ続き書きました。


何だかんだ長くなった二章も後2話か3話です。

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