第43話 やったねぇ!星になったよぉ!

「さあ、やって参りました、死出の旅。実況は世迷、解説は言葉でお送りいたします。いやぁ、現在、雪山の向こう側に亀がいる状況ですけれど、これをどう見ますか言葉さん。そうですねぇ、滑る分には問題はないと思いますが、如何にしてジャンプで飛距離を出せるか。そこが勝敗を分けると思いますよ」


コメント 

・い つ も の

・危険度分かっていながらにこやかに実況しとる

・状況と発言のギャップで壊れる

・発言に知性を感じる

・さては何かのスポーツの実況を憶えていたな?


 そうだよ。

 僕が死出の旅、なんて言葉を素で知ってるわけないじゃん。僕の発言に知性を感じることはないよ。覚えておいて。

 

 実際に話した言葉は、それなりに的を射てると思う。

 滑るのは一回やったから問題ないにしても、そこからどうジャンプするかだよね。よしんばジャンプできたとしても亀くんの首に着地、もしくは攻撃ができるかも問題。

 

「まあ、やってみないと何も分からないよね、ってこと」


コメント

・行き当たりばったり定期

・人間の知性を活用しない男

・やっても自分の行動の意味を言語化できないやん

・知性を犠牲に行動力を得るとこうなるのかw

・まずもってダンジョンに潜らなきゃ輝かねぇ能力だなw

・即断即決できる能力だけは羨ましいわw


 僕なりに葛藤はあったりなかったりするけどね。

 ほとんどないけど。

 葛藤してたって、最終的に移す行動は一つなわけで。失敗して人生ジ・エンドしても、その時にした行動を後悔することは多分ない。知らんけど。


「さあ、世迷言葉選手。今、定位置に着きました」


 そんなことを口走りながら、ショップで購入した中華鍋くんに足を置いて、スキー(笑)状態にする。

 急斜面の後に、まるでスキーのジャンプ台かのような芸術的な坂が控えているのは、僕にとっても都合がいいんじゃないかな。


「果たして……えーと、P点? みたいのは超えられるのか!」


コメント

・K点な?

・ほら、知らない単語使おうとするから……

・バレてる無知に無知のトッピングしないでもろて

・追い無知で草

・点Pは数学やろ

・やめろ動くな


 さて、と。

 ここからはコメントに頼れない。

 僕はスキーウェアの内ポケットにスマホを収納して、ゆっくりと向かってくる亀くんを見据える。


 やるしかない。

 月明かりと、ダンジョンの特性による光源で雪はキラキラと輝いて見えた。見えただけで実利ないし邪魔。

 

「──世迷言葉選手、今飛び出しました! グングンスピードが上がっていきます!!」


 ビュウと風の抵抗でバランスが崩れかけたのを微調整しつつ、僕は前傾姿勢で更にスピードを上げた。

 スキージャンプの競技も全然見たことないし、見様見真似だけど、前と違って止まる必要ないし楽かも。


 ……というか思ったよりもスピード出るね。

 中華鍋くんに摩擦ゼロにする能力でも付いてたっけ? もしそうなら何用に作られたの、むしろ。

 料理……? 僕分かんない。


「僕は今風になった」


 

コメント

・アホになっただけだろ

・可哀想に。自分の現在の状況すら把握できないなんて

・《ARAGAMI》ほう……。面白い

・《Sienna》笑顔って状況によっては怖いのね

・《ユキカゼ》じゃあ私は雪……?

・享楽主義と常識人の皮を被ったバーサーカーと世迷につられて世迷い言話す人

・大概世迷の影響受けてて草

・悪影響なんだよなぁw


 

 急斜面を下る僕だけど、レベルアップのお陰で周りの状況は鮮明に見える。動体視力の向上、って極めれば色んなことに使えそうだよね。

 

「──そろそろ……っ」


 離れそうになる足を賢明に調整しつつ、超猛スピードで斜面を下って下って、下る。


 そしてその終わりは──今……ッ!!


「僕は重力をも克服した!!!」


コメント

・高二病の次は中二病を発症し始めたか

・そういう年頃なんだろ、放っておいてやれよ

・その対応が一番傷つくだろw

・テンション上がった時ほどろくでもないことが起こるもんだ

・めっちゃ飛んでて草

・思ったより飛距離出てるしw

・《ARAGAMI》タイミングドンピシャだ。間違いなく首に着地することができるだろう

・《Sienna》※何事も無ければ

・《ユキカゼ》フラグ……

・わざわざフラグ建築すなw


 吹き荒れる風とともに地面を飛び立った僕は、少しの興奮を覚えつつ、体の向きを更に調整することで亀くんの首に向かえるようにした。

 その甲斐があったのかは知らないけれど、普通に亀くんの首に着地できそう。今刈って上げるよ、その首を。


「ふっ、鈍臭い亀に僕を止めることなんて不可能なんだよ。人間の速さを舐めちゃいけな────」


 ──スッと凄まじいスピードで首を動かした亀くんは、のほほんとした瞳を僕に向けて、カポリと口を開けた。


 目の前、僕。

 頭上からやってくる僕に向けられて……ますね、はい。


 まだ2秒くらい時間ありそうだね。

 すぅ、と大きく息を吐いて、



「僕をいくら傷つけても────」


 

 次の瞬間、僕の全身を慣れた感覚が包み込む。

 痛みとバラバラに張り裂けそうな気持ち悪い感触。


「──心まで奪われ……衝撃波ァァァァァァ!!!!」


 僕はそのままほぼ真上に打ち上げられて──


 

 星になった。



コメント

・うーん、世迷

・フラグ回収が安定の秒速

・どんな状況でもふざけざるを得ない呪いに罹ってます?

・衝撃波ァァァ、じゃーのよ

・人は愚かなものです。特にお前

・同じ人族にしないでもろて

・《ARAGAMI》私も世迷言葉と同じ種族は嫌だ

・黙れよ人外仲間

・《Sienna》あいつは人間じゃない

・性癖首狩りのバーサーカーは黙ってもろて

・《ユキカゼ》人間って素晴らしい

・現実逃避してて草




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