第42話 やったねぇ!飛ぶよぉ!

 僕の原点は何か。

 こういうわりとピンチな時に過去回想すると、一定数の人に嫌われるからやらない。というかそんな余裕ないし、人様に話して同情を得られそうな過去もないね。


「簡潔に言えば、ノリと勢い」


コメント

・急にどうしたw

・お、そうだな(いつも通り)

・勢いでしか生きてないんだよw

・それを一般的に無策って言う

・気合いとノリと根性の間違いでは?

・耐性あるからって笑いながら腕飛ばす奴は根性とかそういう次元にいない

・バケモノォ!


 うるせいやい。

 

「僕は脊髄反射で生きてるんだ。そろそろ僕の突飛な行動も慣れて欲しいんだけど」


コメント

・無理

・次々と新しい狂気を見せつけてくるから慣れねぇのよ

・慣れたら終わりだと思ってるw

・《ARAGAMI》慣れた

・黙れよ世界2位

・扱いが上位探索者のそれじゃないw

・秘書に借金してまでスパチャするやつに敬う必要はあるのか……? 

・(あるわけ)ないです


 僕もそれはどうかと思うよ、アラガミさん。

 2位なんだから結構稼いでるでしょ? 自費負担で貢いでくれると僕としても有り難い。


 ──とか何とか言ってる間に、雪山二つ分離れていた距離が、雪山一つ分にまで減っていた。

 大きさも相まって、実際にはもう少し離れているだろうけど、目と鼻の先のように錯覚してしまう。


 亀くんの瞳には、敵意……といえるくらいの激情は感じられなくて、敵が来たから倒す、みたいな単純的な思考のように思えた。多分。


「どうしよ。本当に無策」


 僕は頭をガシガシ掻きながら叫ぶ。


「唸れ! 僕の小粒納豆サイズの脳みそ!! 君はいつだって僕にも理解できない謎めいた企画を提案してくれるじゃないか!! よくよく考えると正気の沙汰じゃないよね!! ──正気の沙汰じゃないって何だっけ!!」


 考えてる最中に話す言葉だって、適当にそれっぽいことを勝手に口走ってるだけなんだ。理解できないことを話せるって結構すごくない? 褒めても良いよ。


コメント

・おめーのことだよ

・アホ行動を脳みそのせいにするな

・全部お前の一部なのよ

・正気の沙汰じゃねぇわなw

・例え脳みそが自立型だとしても、それを嬉々として実行するお前が正気なわけがないだろwww

・《Sienna》正論パンチがすごい 

・《ARAGAMI》まあ、一拍置いて考える時間がない、という問題もあるから、一概に世迷言葉が悪いとも言えない。急展開の際に思考が邪魔をせず、行動までのプロセスを簡略化できるのは、紛れもなく才能と言えるだろう

・さすが世迷ガチ勢w

・まあ、分からなくもないw


「僕の擁護は今どうでもいいから、さっさと倒す策をプリーズ!!」

 

 そういうのは何もない日常回にしてくれない?

 戦闘中ってわりと君たち優しいよね。

 うん、それを普段から発揮してくれると僕も大変ありがたいし、無駄に罵倒耐性くんが仕事をすることもないと思うんだ。ね?


「お、衝撃波が止んだ。ずっと出し続けられるわけでもないみたいだね」


 まさしく鈍足の歩みだからこそ、こんなに悠長にスマホに向かって喋り続けられるわけだけど……。

 世の探索者はリスナー頼りに探索を進めたりしないし、僕が特殊なだけかな? 知らんけど。


コメント

・策なんてあるわけないよなぁ?

・あっても逆張りするだろ定期

・そういうのはお三方か、新参の固定マーク付き探索者に任せるわ

・俺たちはそれを眺めながらビール飲んでるだけよw


「人が大変な思いして生き抜いてる様子を肴にしてる酒クズがここにいます!!」


 今更定期。

 僕は今までのやり取りでそうなんだろうな、とは思ってるけど、少しは自分のカス精神を心の内に秘めておくべきだと思うんだよね。


 明け透けに何でも言うのって日本人の特権じゃないから! むしろ、日本でそんな風潮あるなんて聞いたことないよ。


コメント

・《ARAGAMI》ふむ。鍵は一魂集中のスキルだが、解析によると、そのスキルは全体攻撃型ではなく、部分攻撃型であることが分かった。6位、翻訳

・《Sienna》お前が頼むのかよ。……はぁ、つまり、狭い範囲限定の超攻撃特化ってことよ。アホが亀に攻撃しても、一発で倒せないし、どこかの部位を削り取るくらいしかできないわね。小さい敵であるほど有用なスキルね。残念。あとはもう一人翻訳

・《ユキカゼ》首落とせばいける

・草

・連携プレイしてて草

・最初から説明諦めるなよw

・簡潔すぎて草


「なるほどね。正直、よく分からなかったけど、首落とせばいけるんだね。じゃあ、問題はどうやって首を狙うか」


 ブラキオサウルスと見間違えるほどに、首が長いし、当然それを支えている本体はもっとデカい。

 どう足掻いてもジャンプじゃ届かない。


「《一魂集中》は、触れないと駄目」


 ……あ、触れた一定の範囲を消し飛ばす技なのかも。

 それならさっきの説明も何となく分かる。


「……うーん」


 悩んでも当然良い案が浮かぶはずもなく。

 灰色の脳細胞、的な優れた脳細胞を自分に当てはめて比喩する表現があった気がするけど、僕の場合虹色の脳細胞だと思うんだ。薬物やってんじゃねぇか的な自虐の意味合いも込めて。


コメント

・《ARAGAMI》私が巨大な敵と戦った際は、魔法とスキルで大した手間を掛けずに遠距離から撃破できた。参考にはならないだろう。つまり、頑張れ

・丸投げで草

・無理ってことね 

・《Sienna》私は身体能力強化のスキルで跳躍して首を落とすわ。当然、参考にならないわね。つまり、頑張れ

・やる気無くて草

・助ける気がないんよなw

・《ユキカゼ》ごめん。頑張って

・お三方何も無し 

・終わったな


「別にお三方に案がなかったとしても怒ることはないよ。絶望は……しないね。何も思いつかないけど何とかなるんじゃない?」


 知らんけど。


コメント

・無策と無謀のハッピーセット

・アンハッピーで草

・そんなセットはいらないw

・何か道具でも使えば?w


 僕は『道具を使う』というコメントで、光明が開けたような気がした。


「それだ!! 何も生身で向かう方法を考える必要もないよね、よく考えたら」


 そうだ。

 僕が使えるもの。

 いつだって役に立ってくれたもの。



「──中華鍋召喚」


 ボスモンスターの討伐には君がいないと始まらない。


 そうでしょ?


 僕は今層最後となる……最後にしたい作戦名を叫ぶ。


「──ドキドキっ! スキージャンプで後はノリと勢い作戦!!」


コメント

・飛ぶ……のか

・無謀に加えて蛮勇がログインした件

・死にたいの?

・作戦と言えないだろw

・《ARAGAMI》確かに世迷言葉はバランス感覚が優れているうえに器用ではある。曲芸のお手並み拝見といこうか

・《Sienna》はぁ

・《ユキカゼ》……


 何か言ってよユキカゼさん。ねえ。ねえってば。



ーーー

──呆れて物も言えない

世迷言葉。ついに飛びます。



時刻は夜。月が出てます。飛びます。

察してください。


隔日更新に切り替えます!!



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