第38話 やったねぇ!因果応報だよぉ!

「さてと。そろそろ探索するかぁ」


コメント

・夜だぞ

・わざわざ暗い時狙うな

・環境的縛りプレイ


「朝までジッとしてるのも性に合わないし、寒いのあんまり好きじゃないんだよね」


 耐えられないことはないんだけど、動きは鈍るし、手足はかじかむしで、そろそろ嫌気が差してくる。

 まだマグマ階層で狼くんと追いかけっこで遊んでた方がマシだよ。アレは一歩間違えたら即死だったけど。


コメント

・福井県生まれ設定はどこにいった

・設定呼ばわりされてて草

・※福井県は降雪量がヤバいとこはヤバいだけでそんなに寒くないです。

・そんなに(他の豪雪地帯に比べて) 

・雪国の寒くないは世界二信用できない

・世迷の言葉が世界一信用できないんだな、知ってる


 ……んー、まあ東京が暖かいから、それと比べるとね?

 建物と建物の隙間を通る風……なんて言うか忘れたけど、それは寒かった気がする。二年目だからそんなに偉そうなこと言えないけど。


「僕の地元についてはともかく、とりあえず外に出ようかな」


 僕は寝袋類を《アイテムボックス》にしまって、転移魔法陣を踏む。

 ……この視界が揺れる感じが何回乗っても慣れないなぁ。車酔いとかとはまた別で、物理的に揺れてるわけじゃないから、如何ともし難い気持ち悪さに襲われるんだ。


「着込んでても寒いねぇ」


 夜になって冷え込みが増したのを肌に感じる。

 唯一の明かり月明かりだけど、ダンジョンの特性なのかよく分からないし興味ないけど、ある程度の距離までは薄暗いけど辺りを見渡せる程度に視界が利く。

 どういう現象なんだろ。知らんけど。


「うーん、月が綺麗だなぁ。でも、月って利も無ければ害も無い、正直あってもなくてもどうでも良い存在なんだよね。今の僕にとって。よってノット風情」

 

 僕は笑って、月に採択をくだした。

 ゼロ害あって一利なし、的な?


コメント

・風情を語るな

・Don't talk about mood

・わざわざ英語に切り替えたってことは日本リスナーだな

・全翻訳にそんな裏技あったんかw

・結局、風情を語るな、で草


「風情って英語にしたらムードだったんだ……」


コメント

・そこ!?

・学を捨ててアホを得た男

・百害あって一利なしで草

・普通逆なんよ

・これで定期テスト一桁とかどゆこと……?


 最後のコメントは、他のリスナーも結構言っていて、かなり信じてない人が多かった。まあ、散々バカを披露してきたし、信じられないのも無理はないよね。

 でも、これが本当なんだ。


「僕、暗記が得意なんだよね。一日で全部忘れるけど」


 細かく言えば、短期記憶。

 カメラ・アイ、的な特殊能力があったような気がするんだけど、それとは違ってすぐに忘れるのが特徴的。


コメント

・おめー、一夜漬けで偉そうに努力とか語ってたのか……

・騙ってんじゃねーよ、肩書きをよ

・全国の真面目に勉強してるやつらに謝れ

・やっぱ頭世迷だった


「散々な言われよう……」


 歩きながら僕はコメントを見て苦笑する。


 全国の真面目に勉強してる人。ごめんなさい。でも、その能力じゃ1位は絶対取れないんだ……。

 日々の勉強しててもすぐに忘れるんだ。努力の形だけは見せて、それが実ってないだけ。……惨憺じゃん。


「そんなことより。行動指針を発表しまぁす。まずは偵察。あの亀くんがどう考えてもボスだと思うんだけど、他のモンスターと共生することなんてあるの?」


コメント

・《Sienna》あるにはあるわ。遭遇したケースだと、同系統のモンスターだったけれど

・《ARAGAMI》上に同意。アメリカの場合はライオンがボスモンスターで、チーターとピューマが通常モンスターだった

・大型猫類で構成された階層とか恐すぎるだろ

・兎と亀か……関連性があるにはあるけどw

・日本のダンジョンだしないとも言い切れないな


「兎と亀、ねぇ……。僕、あの物語好きじゃないんだよな。日本の童話の中でも」


コメント

・最初に言っておくけどアレ、日本の童話じゃないぞ

・イソップ物語が由来なんだよなぁ……

・何でそれなりに詳しい奴おるんw

・世迷と同じミスだと……!?ちょっと出頭してきます

・世迷と同じ……?い、嫌だ!嫌だ!!

・世迷アレルギー定期

・下がいるから人間は自尊心を満たせるわけで。同レベルに落ちそうになった瞬間に初めて焦るんよな

・解説者おる


「日本の童話じゃないんだ。明日には忘れてるけどタメになったよ。ありがとう」


 僕はニコリと笑って礼を言った。

 それはそうと僕を明確に下認定したね、さらっと。


 知能的にも物理的にも下って言いたいのかな?

 確かに僕は下にいるよ。ダンジョンの。


「そう。僕は君たちの下にいるんだよ。下に、ね?」


コメント 

・何でこいつ急に自虐してんの?

・自信満々な笑みなの脳がバグる

・遂に唯一無二のアホをアイデンティティにし始めたぞ

・誇れるものが人より劣ってることしかないんだ。許せ

・罵倒耐性があるからって容赦なさすぎねぇかwww

・《Sienna》アホアホ言ってるけど、民度の悪さは人のこと言えねぇな、ここ

・《ユキカゼ》無法地帯……


 僕が作り出した景色なだけに申し訳なさをちょっと覚える。民度が悪いと言えばその通りだし、僕への罵倒もフルボッコにする要素を秘めてる。


「人の死にかけ配信に草を生やすリスナーの民度が良いわけないよね、って話。……おっと、スノラビくん来たから雑談はここまで」


コメント

・ご最も

・珍しく芯を突いたな

・純粋に心配してる奴はコメントしないんだよな

・世界中のクソが煮詰まった場所かもしれん

・草

・草


 僕は目視できる距離にいるスノラビくんを発見して、倒すかスルーするか悩む。ペットにする選択肢はない。

 四肢を餌にすればあっさりと殺れるには殺れるけど、全固体がそうするとは限らないし、もしかしたらいきなり首を狙ってくる個体もいるかもしれない。


「かと言って僕の通常攻撃が効くとは思えないし」


 狼くん戦でレベルが大幅に上がったからって、未だにレベル差のあるスノラビくんを一撃で倒せるとは思えないし、手間取ってる間に首を齧られて終わりだよね。


「また一匹……」


 とことん群れないね、君。

 僕は雪をザクザクと踏んで、スノラビくんの元へと向かう。


 僕を視認したスノラビくんは、相変わらず愛くるしい瞳を僕に向けて放つ。どんな相手でも初手に油断させようとするのは変わらないらしい。

 


 ──と思ったら。


 いつの間にか視界が傾いて、僕は雪の中に倒れていた。

 一瞬送れて走った痛みは右足から。どうやら僕はスノラビくんに右足を持っていかれたらしい。

 まったく見えなかった。


「こんなパターンあるなんて聞いてないんだけど」


 サクッとポーションで回復した。

 今回は速さ重視で飲んだから、スノラビくんの二撃目の前に右足を復活することができた。


「キュァァァァァァ!!!!」


「敵意剥き出しすぎない!? 何があったの、君に! 誰が君の殺意をここまで駆り立てたんだ!?」


 僕は防御目的でショップから中華鍋を買う。

 

 ──スノラビくんが中華鍋を見た途端に、文字通り瞳の色を黄色から赤色に変貌させて、断末魔の叫びのように激しい金切り声を上げた。


「キュアァ!? キュ! き゛ゅ゛あ゛あ゛あ゛!!」


 ……うん。うん。なるほど。

 僕はピンときた。


「僕じゃん。君の殺意の原因」


 そういうパターンがあるんだぁ……。

 モンスターってやっぱり僕より知能とか記憶力が高いのか。狼くん然り、今回のことで身に沁みて分かったよ。


「あの時中華鍋で吹っ飛ばしたスノラビくんが恨みを仇で返すためにやってきました、と。因果応報ってやつだね!」



コメント

・自虐で草

・通りで休憩所の近くにポップするわけだよ

・最初から殺意剥き出しはポイント高い

・足からヤったのも芸術点高いな

・これまで、油断に舐めプをかましてきた狼くんとか初手スノラビくんとは違って殺る気に満ち溢れてて良き

・講評すな

・環境もモンスターもリスナーも敵になってんの四面楚歌すぎるだろ




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【書籍化&コミカライズ】決定しました。

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