第39話 やったねぇ!慈悲だよぉ!
「困った。僕の通常攻撃の不意打ちが使えない!」
コメント
・不意打ちを通常攻撃にカテゴライズすな
・正々堂々の言葉が辞書にない男
・あったらこんなんなってないw
・元はと言えばおめーのせいじゃねーかw
・回り回っただけ定期
うん、まあそうだけど。
僕が中華鍋スキー中に轢いたスノラビくんであることは、目の前で犬歯剥き出しにされたらよく分かる。
でも、あの時も言ったけど、君が前に来ただけであって、僕から率先して轢く意思はなかったんだ。
結論。
「スノラビくんさァ……逆ギレとか恥ずかしくないの?」
コメント
・おま言う?
・不意打ちとか恥ずかしくないの?
・発言一つで自分の首締めに行くのやめーや
・ブーメラン好きすぎワロタw
そんなことを言ってもスノラビくんに伝わるわけもなく、更に歯を剥き出しにしても怒りが増していく事実。
いつ首が持っていかれるか分からないし、かと言ってスキルを使うのは、これからの探索に支障が出る。
スノラビくんは中華鍋を警戒してるのか、なかなか仕掛けてこないね。……まあ、気がついたら吹っ飛ばされてたんだもんね。トラウマになるか。
「うーむ、中華鍋も縛りで武器に転用できないし。素手でどうにか倒すしかないけども」
コメント
・自縄自縛人間
・命を張って制限かけるのがおかしいんよ
・昨今の体張る芸人よりえげつないぞ
・コンプラを捨てた男
コンプラとか腕飛ばしてる時点で捨てたよ。
地上波に流したNTDの方がコンプラ無視の覚悟ガンギマリ状態だと思うけど。未だに流してる辺り、何らかの執念を感じる。
「キュイ゛ッ!」
「──ッ! 痛ぇぇ!!」
不意に襲いかかってきた衝撃に、僕は息を吐き出しながら後ろに倒れる。
……いった! 直接的な痛みじゃなくて、何かを経由にして送られてきた痛み、的な?
中華鍋くんに突進してきたから直撃は避けられたけど、威力が軽減してもこの痛み。
「中華鍋くんがなかったら胴体真っ二つになってたかも」
スノラビくんのこと舐めてたけど、速さと攻撃力が尋常じゃない! 僕のカスみたいな防御じゃ、防いだとしても衝撃で内臓ぐっちゃになるのがオチだよね。
コメント
・(なんで中華鍋くんに傷一つないんですか)
・中華鍋だから
・納得
・中華鍋くんに傷はなくても、世迷にはしっかりダメージが通る模様
・ダメじゃねぇかw
・おいおい、防具なんだからちゃんとしろよ
・調理器具定期
「こう考えたら、スノラビくんの油断させる作戦の方が弱いんじゃない? 最初から本気で命狙ってくる方が絶対強いでしょ、これ。なんで種族全体で弱体化するようなことしてるの?」
僕みたいなアホには通じないし、スノラビくんが悪辣なことを知ってる人なら、いくら可愛かろうと即殺するでしょ。僕には不思議でたまらない。
一撃目は不意打ちをするにしろ、なぜ二撃目を即座にしないんだろう。
コメント
・悲しいことにスノラビに騙される奴は一定数おるんや
・俺は騙されない!からの首ぶしゃエンドはよくあるw
・《ARAGAMI》一説によれば、スノーラビットという種族は魅了系スキルをパッシブで使っている可能性があるそうだ。スキル鑑定の所持者が極端に少ないから何とも言えないが、そうだとしたら引っ掛かる人がいるのも無理はない
・世迷に魅了とか効くわけなかったのか。バカだから
・バカの方が効くとは思うけど、こいつの場合狂ってるから効かないんやなw
「へぇ、そうなん──ぐふっ」
スマホのコメントに目を移した瞬間にやってきた三撃目に、再び僕は後ろに倒れる。
執拗に中華鍋くんを狙ってくるのは、リベンジの意味合いもあるのかな? 効率悪いと思うんだけど。
あー、もう腹立つ!
どうせなら四肢を狙ってよね。
「そろそろ倒したい。どうしよ」
捨て身分で攻撃力は上がってるから、当てさえすれば素手でも倒せると思うんだ。その当てるのが難しいわけで、ぴょんぴょんぴょんぴょん跳ね回るし、素早さが高すぎて攻撃の瞬間に捕まえることも絶対無理。
思ったより厄介だ……。
僕は無い頭で考える。
どうすれば倒せるのか。どうすればスノラビくんの素早さを消すことができるのか。
考えて、考えて。
僕は思いつく。
そしていつものように叫んだ。
「──ドキドキっ! 中華鍋カンカン騒音作戦!!」
コメント
・《ARAGAMI》企画来たァァァ!!
・さっきの冷静な解説はどこ行った世界2位w
・ちゃんとファンしてるの草
・久しぶりに先が見えない作戦名だな
・《ユキカゼ》怪我しないように……ね
・無理だ。こいつは怪我をする(確信)
・《Sienna》理解できてしまった私が憎いわ
・侵食されし世迷マインドw
僕は両手が塞がる事情から、スマホを内ポケットにしまう。ここから先は僕の力で解決してみせようじゃないか。
僕の作戦は単純だ。
多分、きっと、恐らく、スノラビくんは耳がいい。
というか、うさぎ自体が耳がいいみたいな話をどこかで聞いたような気がした。多分ね。
だから──
「さあ、来い、スノラビくん!」
僕はスノラビくんの猛り狂う赤い瞳を見つめる。
どう見ても絶対殺す、という意思を感じる他に中華鍋くんをどこか恐れているようにも見えた。じゃなきゃさっさと僕本体を狙うはずだし。
その隙を突く。
散々中華鍋くんに突進してきたんだ。次も君は狙う。
僕は中華鍋くんをひっくり返して、食材を入れる方にする。ごめん、名称が分からない。
「きゅい」
鳴き声と共にスノラビくんの姿が搔き消えた──と同時に僕は全身を使って中華鍋くんをスノラビくんごと引きずり落として、地面に閉じ込めた。
「いっっつ……でも、成功したね」
「きゅぅっ! ぎゅあ゛っ! きゅい゛!」
中華鍋の中でガンガン音を出して暴れるスノラビくんを、僕は必死に押さえつける。衝撃は勿論とんでもなくて、多分色んな骨がボッキリいってる。
まあ、いつものことだよね。
コメント
・……珍しくやるやん
・閉じ込めても倒せないけど大丈夫そ?
・めっちゃ暴れてるしw
「ここからが僕の作戦だよ」
ニヤリと笑って、《アイテムボックス》からポーションを二つ取り出す。別にコレは飲むために出したわけじゃない。
僕は足で中華鍋を抑えながら、ポーションの小瓶を中華鍋に小刻みに叩きつける。
──カンカンカンカンッ!
「きゅあ!? きゅきゅ!?」
スノラビくんの抵抗が激しくなったね。
よく分からない甲高い音が鳴ったら、そりゃ驚くか。人間ですら、鍋とかフライパンを叩いた音を耳元で鳴らされたら驚くし、少し耳が痛くなる。
それを聴覚が良いスノラビくんにやったわけ。
「カンカーン、カンカン、カーン♪」
コメント
・なんの音楽
・サイコパスに見えてきたw
・歌いながら無表情なのなんなんw
僕は無表情でひたすらカンカンする。もう、それはしつこいくらいにカンカンと。僕の耳まで痛くなりそう。
その間にも抵抗は激しいけど、それも徐々に収まっていって鳴き声すら聞こえなくなったタイミングで僕は中華鍋を放した。
「ふっ、作戦成功」
そこにはぐったりと気絶するスノラビくんの姿があった。
「後はスノラビくんをぶん殴るだけ……。なっ!?」
う、腕が動かない!
スノラビくんをぶん殴るだけなのに腕が全然動かない!
「……僕にまだ情が残ってたなんて」
コメント
・敵側に寝返った情に厚いキャラやめーや
・コンプラ気にしてるだけだろ
・多分こいつあんまり何も感じてないぞw
・今更なんだからさっさと倒せよw
スマホを取り出してコメントを見る。
「君たちさ。僕が血も涙もない冷酷な人間だと思ってるの? 思い出してみてよ。僕を裏切った中華鍋を使い続けてる僕の慈悲深さを」
コメント
・よく考えれば分かる熱い中華鍋を触りに行ったのおめーじゃねぇかw
・慈悲深いとかw
・似合わないこと言うのやめてもらっていいですか?
・情緒が狂ってる男に慈悲深さとか言われましても……
・情が残ってたなんて、って発言してる時点で情があるわけねぇだろ
確かに。
モンスターはモンスターだし、僕の命を狙ってきた時点で情が発動するわけないよね、って。
でも、無抵抗な相手を一方的に甚振るのも僕の沽券に関わるのは事実。
「よし、捨て置こう」
僕はその場にスノラビくんを残したまま立ち去る決意をした。
コメント
・世迷がモンスターを見逃しただと……!?
・徹頭徹尾モンスター絶対倒すマンだった世迷が!?
・《ユキカゼ》えぇ……?
・《ARAGAMI》それもまた一興
敗北を噛み締めてもっと強く成ると良いさ。
……的なこと言っても罵倒されるだろうし、普通に《一魂集中》を消費したくなかっただけなんだけどね!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます