第37話 やったねぇ!もて遊ばれたよぉ!

Side 風間雪音orユキカゼ


「む、さすがに強い」


 現在の階層は81層。まさしく迷宮と表現できる入り組んだ石壁で構成された階層だ。

 

 下層にもなると、レベルアップを怠っていた私の力では、モンスターを一撃で倒すことは不可能になっていた。

 とは言え、一撃で倒せないならば、反応される前に二撃入れれば良い話。愚鈍なモンスター相手なら敵じゃない。


「トラップに引っ掛かったのがタイムロス」


 まさか上から蜘蛛の糸っぽい罠が降ってくるとは思わなかった。お陰で体中がベトベトになって気持ち悪い。

 着替えて体は拭いたけれど、まだベトベトの感覚が残ってしまっている。


 でも、そんなことは気にしてる場合じゃない。

 

「逞しいを超えて無敵状態な気がするけど。……彼はトラップを見極められない」

 

 ……ついさっき引っ掛かった自分が言えることではないが、目に見えて分かる範囲にあるトラップなら私は絶対に引っ掛からない。

 

 彼は今のところ、奇跡的な幸運………いや、悪運で生かされている。

 けれど、いつか限界が来る。自分一人じゃどうしようもなくなる時がダンジョンにはある。

 世界2位だって、単体で無双できるのにパーティを組んでダンジョンに潜っている。それだけダンジョンは悪辣で人を確実に殺し切る悪意があるのだ。


 ……なんてことを考えながら歩いていると、辿り着いた大部屋にズラッとモンスターの大群が待ち構えていた。


「モンスターハウス。面倒」


 これは罠ではなく、自然発生するモンスターの大群。

 善意なのか、一体一体は然程強くはないが、数の多さとスキルを駆使してくる攻撃がただひたすら面倒。

 

「ここで時間はかけたくない。──《狂風きょうふう》」


 私は両手に持つ短剣を十字に振った。

 なんてことないように。まるで神に祈るように。

 


 ──刹那吹き荒れた嵐がモンスターの大群を飲み込む。

 悲鳴も叫声も全てを風で掻き消して。



「行こう」


 十秒後に部屋にいるのは私だけだった。



ーーー

Lv.186

スキル

《風》《雪》《韋駄天》《状態異常耐性》《捨て身【魔】》

《罠看破》《罠解除》

ーーー


 



 

☆☆☆



「おはよう。意外にグッスリ寝れたよ。ずっと固い地面で寝てたからかな。寝袋が快適すぎる」


コメント

・微動だにしないから遂に終わったかと思ったわw

・ここ5日で気づいたけど、お前寝相良いんだな…… 

・どうでも良すぎる件

・12時間睡眠とは良いご身分だなァ……


 そんなに寝てたんだ。

 これでも幾度となくピンチを乗り越えてきたんだから、さすがの僕でも疲れはする。人間だからね。

 

「……そういえば何か暗くない? ここって昼夜の概念ある層なんだ」


 辺りが暗いことに気づいた僕は、落ちてきた穴から上を覗く。

 そこには煌々と輝く満月の姿があった。


「なんていうか……うーん。風情? があるね」

 

コメント

・感想出てこないなら黙ってもろて

・語彙力の無さが現れたな

・風情の意味も理解してないだろ、こいつw

・月に失礼だぞ


「月に失礼って、僕に失礼でしょ。僕が月に勝ってるところ……無いね。そっか、だからお月さま、って敬称付きで呼ばれてるのか」


コメント

・いつもの入りましたぁ!

・朝起きて一発の自虐

・夜定期

・違う、そうじゃない

・月と勝負するに値する土俵にすら立ってないんよ


 うーん、リスナーの辛辣さが寝起きに沁みる。

 僕だから良いけど、同じ調子で他の配信者に凸ったら訴えられるからね?  


「まあ、とにかく。お腹空いたしご飯でも作ろうかな」


 と、思い立ったことで僕はとあることに気づいた。


「火が無い……。終わった……」


 そうだった。

 マグマ飯で慣れてたからすっかり忘れてたけど、この階層火がない!! 火種も火の元もなにもない!!

 

コメント

・そういやそうだったなw

・いや、そこまで絶望することじゃないだろw

・《ARAGAMI》今のスパチャの合計金額はどのくらいだい?


「スパチャの合計金額?」


 アラガミさんのコメントに僕は首を傾げる。

 ショップ機能の一つとして、今まで貰ったスパチャの合計金額と残金が見えるけど……何か関係があるのかな?


 僕はスマホでショップを開いて確認する。


「えーと、今は13億9600万円。こんなにスパチャしてたの? 僕が出られたら現金で頂戴よ。手元にないから無駄にしてる感じが半端ない」


 貰ったら貰ったで借りが発生するから嫌だけど。


コメント

・がめついなw

・現金でくれは強欲すぎ

・《ARAGAMI》15億でラインナップが更新される《¥104,000,000》

・サラッと不足分出すのエグいなw

・流石世界2位。財力だけはまともだな


「おぉ、アラガミさん。ありがとうございます!」


 ダンジョン特製スマホの多機能さが便利だなぁ。

 死亡率減らすためなら、最初から最大限の支援をした方がいい気がするけど、何らかの縛りでもあるのかな。知らんけど。

 

 僕は再びショップを開くと、確かにラインナップが変わっていた。


「ふむ。今までのに、『カセットコンロ』『カセットボンベ』『松葉杖』……か。……え、今度から両足も消費しろと? そんな心遣いいらないんだけど!?」


 素直にカセットコンロはありがたいのに、次の商品でテンションがだだ下がりしたよ。なんで消費すること前提なのさ。


 ……消費すること前提だけどね?


 うーむ、これは僕の深層心理が反映されたとしか思えない。


コメント

・草

・草

・松葉杖は草

・良かったね!これで足を消費しても動けるよ!

・雪じゃ意味ない件について

・草ァ

・いらないもん押し付けられてる?w


 これまでに起こったことが誰かの意思によって導かれてる……ことは考え難い。

 だってバカだし。バカの行動を支配できるヤツなんていないよ。だって何するか自分でさえ分かってないんだもん。バカだから。  



「今のところ役に立つビジョンが見えないけど、とりあえず火があるからヨシとする。……レッツクッキング!」


 ショップから食糧一日分を購入。


 上から降ってきたのは、例のごとくホカホカのご飯と、多種多様のお刺し身……って、


「火、使わねーじゃねぇか!! 僕の危惧は何だったの!? 僕でもて遊ぶのやめて、本当に」

 

 口調も崩れるくらいに勢いで叫ぶ僕。

 よく匂い嗅いだら、ご飯もこれ酢飯じゃん。


コメント

・ショップくんも世迷をネタ扱いしてる……!?

・草

・世迷の周りの無機物とか概念が全部擬人化されてるw

・くん、付ければ全部解決よ

・現実問題は何も解決してない件

・悲しい現実突きつけるのやめてあげろよ。滑稽だろ


「君たちのコメントが一番抉ってくるんだよね。心。狼くんに燃やされたり食べられたりしたけど、君らのコメントが一番傷つくまであるよ。《罵倒耐性》無かったら……無くても余裕かも」

      

 実際、何も考えてない僕だから平気説がある。

 いつでもポジティブに、がモットーだからね!! 素でコレだから一切心に響いてないだけだけど。


 とりあえずお寿司食べよ。



「うっま」

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