第35話 やったねぇ!落ちたよぉ!

「何で人は縛りプレイをしようとするか知ってる?」


 縛りプレイ。

 それは一部の特殊プレイのことではなく、発言や行動などを自分で禁止することだ。

 例えばゲームだと、初期装備のみで全クリア、みたいなのだったり、回復アイテム禁止とか。

 そう考えると、ある意味特殊プレイではあるよね。


コメント

・アホだからじゃない?

・ゲームと現実の縛りプレイは危険度も何もかも違うのよ

・同列に語んなて

・前例がいませんのでねぇ……

・刺激が欲しいだけだろ


「まあ、簡単に言えばドMだからだよね。僕の場合は配信映えを意識した結果だけど」


 僕が飽き性なのもあるけど、同じことをしてるとリスナーは飽きる。どんなに注目が集まろうと、それが面白いコンテンツじゃなきゃ人気にはならない。

 注目が集まって、はい終わり。もうニュースにすら流れません、なんて一発屋に僕はなりたくない。


コメント

・自分のこと言ってるじゃん

・命の危機と隣り合わせで自分の命よりも配信映えを意識するとか、それこそドMの鏡だろ。鑑じゃなくて

・Q.鏡よ鏡。世界で一番バカなのは誰?A.名前すら出したくないです

・草

・草


「言っておくけど、僕の真似したら死ぬからね?」


コメント

・当たり前だろ

・これを見て真似しよう思う奴は世迷並みに狂ってんよw

・反面教師の動画としては最適だな

・※特殊な訓練を受けていませんが気合いで生き抜いてます。絶対に真似しないでください。

・切り抜き動画の最後のメッセージじゃねぇかw

・例の切り抜き師が優秀すぎてw


 へぇ、例の切り抜き師さん、そんなに人気だったんだ。

 まあ、僕の真似をする、というかできる人はいないよね。だから注目を集めてるんだろうけど。

 唯一無二のオンリーワン。それが僕なんだ。

 ふっ、何だか鼻が高いね。


「で、何を縛る?」


コメント

・いや、本当にやるのかよw

・で、じゃねーよw

・《ARAGAMI》素手縛り《¥1,200,000》

・金で誘惑しようとするのやめろ

・ってことは中華鍋も禁止じゃね?

・確かに中華鍋も武器だな……

・いや、料理器具


「よし、アラガミさんの提案に乗った。素手縛りでいこうか。今後武器を手に入れても素手で戦うことにするよ。中華鍋も移動手段とかその他の手段では使うけど、直接投げたりぶっ叩いたりは禁止で」


 中華鍋くんは地味に移動手段としても優秀だから、それすら使えないのは少し難しい。

 マグマエリアでは僕を裏切ったとしても、やっぱりこのダンジョン生活において欠かせないのは中華鍋くんだ。

 投げてもよし、乗ってもよし、叩いてもよし。

 

「料理器具……? えっと、中華鍋くんは武器だよ?」


コメント

・全国の中華料理店が泣くぞ

・間違った使い方を正しいと盲目している男

・現実から目を背けるな

・何そのキョトン顔

・こいつ……!本気で言ってやがる……!

・草

・妄想が現実になるのはお前の頭の中だけなのよw


「ちょっと何言ってるか分からない」


 よーし! 中華鍋の武器化の禁止ね。

 ……まずは、ね。飽きたら縛りプレイ。コレゼッタイ。


「さてと。ずっと留まってるとスノラビくんに襲われるかもしれないし、休憩所を探しに行こうか」


 別に必ず休憩所を見つけなきゃいけない、ってわけじゃないけど、寝る場所がないからね。こんな場所で寝たら……まあ、死ぬし、スノラビくんにむしゃむしゃ食べられておしまい人生。


 スノラビくんに足から食べられてみた、とか。いや、それはただグロいだけか。そこまでいったらドM超えて何らかの性癖認定されちゃう。


 考えを振り払って、僕は雪の中を歩く。

 晴れてくれたから視界は良好だけど、積もった雪と、その下にある氷の地面が歩きづらい。


「氷で地面がツルツルの時は、モモを上げて歩くと滑らないんだよ。知らんけど」


コメント

・説得力ないんよ

・初っ端転んだおめーに滑らない豆知識を聞いても……


「まあまあ、冬道でやってみなよ」


 これが実際に効果があるんだよね。

 全てもも上げろ、ってことじゃなくて、見て分かるくらいにツルツルな地面でやってみると、意外に効果がある。

 

コメント

・おい、やったら転んだんだが??盛大に

・草

・草

・早速被害者おって草


「あれ? すり足だっけ? でも、僕は知らんけど、って言ったからね? ……ごめんね?」


コメント

・予防線が意味を為してないw

・リスナーに弱いんだよなぁ……

・謝るんかいw

・謝るのも予防線だろ


 よく分かったね!

 ……そういえば僕もモモ上げて転んだっけ。本当に学んでないなぁ。学んでも秒で忘れちゃうからね。仕方ない。


「ふぅ……寒い」


 ザクザクと雪を踏み締める。歩いた所感は、かなりフィールドが広いこと。マグマエリアより広いんじゃないかな。歩きづらさを加味したら、暑いより厄介かも。

 その分、スノラビくんは僕の四肢を犠牲にワンパンできることが分かったけど。


「休憩所はどこかなぁ〜」


コメント

・砂漠でオアシス見つけるレベルでムズいな

・例えが最適で草

・《ARAGAMI》アメリカダンジョンにも雪エリアはあるが、休憩所は全て洞窟形式だった。が、これ程の深層となると違っていても不思議ではない。手がかりを見つけるまでは闇雲に歩くしか方法はないだろう

・《ユキカゼ》情報源は言えないけど、モンスターが極端に少ない場所に休憩所がある……可能性が高い。斜面を下っている最中に……左右の方向にスノーラビットが何体かいた。その分前方には何もいない。もしかすると、近くにある可能性もある

・《Sienna》上に同意。その情報は初めて知ったけれどね


「おぉ、お三方ありがとうございます! ユキカゼさん! やっぱり困った時にはユキカゼさんだよね」


 僕も初耳だけど、ユキカゼさんが言うならそうに違いない。情報源が言えないってことは、誰かからのリークなのかな? 

 ユキカゼさんはたまにボソッと永遠のソロプレイとか言ってたから知り合いがいないって思ってたけど……良かった。


 ……まあ、つまりこの情報をまとめると。


「とにかく前に全力ダッシュすれば良いってことね!」


コメント

・《ユキカゼ》いや、ちが

・どうしてそうなるw

・人の話聞いてた?w

・違う、そうじゃない

・仕方ないね、バカだから


「え、でも近くにあるなら、虱潰しにダッシュして探すしかなくない? 近くに雪山もあるし、そこに洞窟ができてる可能性もあるじゃん?」


コメント

・だからといって走る必要性を感じられないんだがw


「走る必要? 走りたいからだけど?」


コメント

・知らねぇよ

・何その気分w


 え、ない? 何となく走りたくなる時。

 抑えられない情熱がー! とかじゃなくて「あ、走りたい」ってなる時。ちなみに50m7.5秒。普通だね。


 そんなわけで、僕はザクザクした雪の中を走った。

 当然あんまりスピードは出ないけれど、何となく気分が解消して晴れやかな気持ちになる。

 ……マグマエリアで散々走った気がするけど、それはそれ。


 僕は満面の笑みで走りながら叫んだ。


「今僕は風になって────アッ」


 落ちた。



コメント

・クレバスぅぅぅぅ!!!!

・草

・草

・オチを付けるなんて芸人魂ありすぎかよ

・風になったな、うん

・※世迷言葉の次回作をご期待ください!





 

 

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