第34話 やったねぇ!決意だよぉ!

「ふむ」


 猛スピードで斜面を下りながら僕は頷く。

 レベルアップの影響か、こんな不安定な足場でスキー(仮)をしてるのになかなか転ばない。

 

 元々バランス感覚が優れているのは自覚している。じゃなきゃリスナーの言う曲芸ができないしね。

 でも、ここまでスピードがあって揺れる場所で、余裕を保っていられるのは、レベルアップによって体の最適な動かし方を本能的に理解できる……みたいな? 

 バカだから言語化できないけど。


コメント

・何で神妙な顔で頷いてるわけ?w

・ふむ、じゃねぇよ

・ピンチなの分かってる?

・遂に現状の認識すらもできなくなった男

・パッパラパーで草


 さて、どう止まろうかな。

 雪山だからって甘く見てると、氷とかに頭を打ち付けてジ・エンドになる。雪は雪で柔らかいイメージがあると思うけど危険なんだよね。


「無いとは思うけどクレバスとかあっても終わるし」


 雪山が点在する吹雪エリア、って思ってたけど晴れたからなぁ……。単に冬を表してるのかな? それにしては試練が過ぎない? 

 

「あれ。前にスノラビくんいるじゃん」


 群れで行動してそうなイメージがあるのに、出会う時は一匹だなぁ。


「群れないって大事だよね。僕みたいに孤高になるのが正解だと思うんだ」


コメント

・孤高じゃなくて孤独

・四面楚歌が黙れよ

・お前みたいな愉快な孤高気取りがいてたまるかw

・《ARAGAMI》一理ある

・大ギルド所属が何か言ってる

・シッ!ハブられてるの有名だろ……!

・《Sienna》一理ある

・あっ、本物のソロ……

・立場によってこんなに説得力って違うんだな

・《Sienna》首狩るぞてめぇら


 スマホをしまってるから、どんなコメントが飛び交っているかは分からない。罵倒が八割なのは何となく理解できるし、残り二割はアラガミさんとかが発言した時のツッコミかな。

 野生の勘ってやつだよ。


「んー、ぶつかりそう」


 スノラビくんとの距離はあっという間に縮まって、猛スピードで斜面を下る僕に対して、スノラビくんは僕に気づかずに呑気に太陽をぬぼー、と見ている。


「いけ! 中華鍋くん! 轢け!」


「──きゅいっ!?」


 スパコーンと小綺麗な音を奏でて、スノラビくんは僕の視界から消え去った。多分倒せてないけど。

 

「あーあ、可哀想なスノラビくん」


コメント

・嬉々として轢いた犯人が笑顔でなんか言ってる……

・サイコパスで草

・他人事みたいに言うなよw

・テンションの差と思考回路がバグってる


 そこにいたスノラビくんが悪いのであって、僕は悪くない。ただ進行方向にスノラビくんがいて、なおかつ自分の意思で止めれも曲がれもしない乗り物に僕が乗っていたのが運の尽き。


 恨むなら自分の運の悪さを恨みなよ。



「ふっ────ふべっ!!」


 木にぶつかった。


 恨んだよ。自分の運の悪さを。


コメント

・因 果 応 報

・木に人の痕が付いてるのってギャグ補正的認識でおけ?

・怪我と引き換えにギャグを得る男

・配信映えし過ぎてて草

・短期的なざまぁ繰り返すのやめてもらっていいですか?


「……痛たた……。レベル50分の防御力が少しは働いたみたいで良かったよ。見て、ほら。プランプランしてる」


 僕は明らかに折れちゃいけない方向にひん曲がってる左手と両足を、空中でプランプランさせながらアピールした。

 いやぁ、すごい。

 頑張れば曲げられるのも人体の神秘だよね。


 右手は……うん、クールタイム中だったね。


コメント

・笑顔で骨折報告するな

・痛みって大事なんだな

・あくまで耐性なだけで痛み自体は感じてると思うぞ。ただこいつの反応が狂いに狂ってるだけでw

・なんだ世迷だからか

・狂ってる人間と一般常識を照らし合わせたらいけないよな、そうだよな


 色んなところが大怪我状態で、変にプランプランしたせいで更に動かせるリソースが少なくなった。

 ここまで激痛だと一周回って平気になるんだよね。あら、怖い。


 僕は慣れた手付きで《アイテムボックス》からポーションを取り出すと、左手で瓶の蓋を開けて、指の腹で下面を押して口の中に直接放り込む。


コメント

・何だろう。これくらいの曲芸じゃもう驚かない自分がいる

・慣れて刺激を求めるとか世迷と同じになっちまうやんw

・世迷と同じは嫌だ世迷と同じは嫌だ

・俺はバカじゃない。俺はアホじゃない。俺は浅慮じゃない

・遠回しというか最早直接的に馬鹿にしてるじゃんwww

・《ユキカゼ》久しぶりに見たら怪我の仕方がすごくなってる

・ユキカゼ久しぶりやんけぇ!

・生きとったんかおめェ!

・見届ける責任があるだろォ!


 復活した左手でスマホを取り出すと、久しぶりにユキカゼさんがコメントしていて嬉しくなった。

 ユキカゼさんだって暇なわけじゃないだろうし、予定とか用事はない方がおかしいよ。見てくれてるのは嬉しいけど、最初から最後まで見届ける責任なんてものはないと思うんだ。


「ユキカゼさんお久しぶりです! 順調です!」


コメント

・《ユキカゼ》順調……?

・確かに世迷にしては順調やな

・基準が分からんけどw

・てか、右手も復活してね?


 そのコメントで僕は右手も生えていることに気づいた。

 ようやく慣れてたところだったけど……まあ、良いか。


「クールタイムって結局どれくらいだったんだろ」


コメント

・《ARAGAMI》約30分だね。その破壊力を加味すれば妥当と言えば妥当か

・長いのか短いのかよく分からんな

・クールタイムのあるスキルが珍しいからな、そもそも


 へぇ、そうなんだ。

 なんか、強い探索者は全員一撃必殺系のスキルを持ってるイメージが強かったなぁ。ユキカゼさん以外の探索者知らないから偏見だけど。


「ま、気にせず進もうかな。怪我なんて皆するんだし、リスク抱えてこそのダンジョンでしょ? 僕の場合は生き残れなかったら利益ゼロだけど。……困ったな。リスクしかなくない?」


コメント

・いや、それな

・今気づいたのか?w

・下層に落ちた時点でメリットなんてないんよ

・魔石だって持ち帰れなきゃ永遠に開かれることのない《アイテムボックス》の肥やしになるだけだからなw

・《ARAGAMI》君が得ようとしているのはお金だけかい? それよりも得てきた大事なものがあるんじゃないかな?


「アラガミさん……。そうだね、モンスターに対する無慈悲とか学ばない、学べない、そもそも学ぶ気がない……僕の元から自覚していたアホ加減が輪をかけて酷くなったとか。……経験って大事だよね!」


コメント 

・歪んだ経験のせいで歪みが大きくなってる

・総評が適当

・いや、学べよw

・《ARAGAMI》確かに

・納得すんのかよ

・得てきた大事なモノはアホの経験値か

・世も末で草

・誰が世迷を変えたんだ……!

・元から狂人定期


「失敬な。自分を知ることって一番大事なんだよ? 余計なプライドで自分の限界も推し量れないで、身の丈以上のことをして……失敗する。その分、僕はどうさ。プライドはない。限界を知るどころか常に限界。身の丈に合った出来事はこんなところにない。地獄かな??」


 うわぁ、客観的に見たら僕ってヤバいね。

 発言だけ妙に知能が高くなってる気がしないでもないけど、聞きかじった言葉を合ってるか分からないで使ってるだけだからね。成長は皆無だよ。

 成長してない、って事実を声高らかに叫ぶのは何なんだろう。羞恥プレイかな。


コメント 

・結果的に自虐

・論点ズレ男

・地獄なんだよ

・何を今更……

・散々現状把握して地獄ってことは分かってるだろ


 そうなんだけどね。

 一縷の希望とか……ないか。端から都合のいいことが起きるなんて期待してないしね。行動の結果、奇跡を掴むことはあれど、何もしないで奇跡が起きることはあり得ない……って誰かが言ってた。


 ……僕はいつだって、限界を知って、足掻いて足掻いて超えてきた。身を置いている環境が絶望だからかもしれないけれど、僕の身に奇跡が起こったのはいつだって限界を超えた時なんだ。



「縛りプレイ……するか?」


コメント 

・どうして

・待てやめろ

・どうしてそんな発想に至ったのか説明しろ

・《ARAGAMI》アリ……だな

・黙れよ世界2位

・これ以上縛って何すんだよ。緊縛プレイか?



  

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