第33話 やったねぇ!復活の中だよぉ!

「あれは何だろ……。いや、モンスターだとは思うけどさ。狼くんがカスに見える大きさだなぁ」


 アリと象、なんて言葉を思い出す。

 ……どういう意味だっけ?


コメント

・相変わらず呑気だなこいつ

・早く逃げろよw

・踏み潰されてもニョキッと生き残りそうだけどな

・こいつの死ぬビジョンが見えねぇw


 それは素直に嬉しいけど!

 どうにもバカにされてるようにしか……いや、されてるよね。素直に褒められたことほぼ無いし。ツンデレのデレ無しがこんなにもキツイとは。

 

「でも、逃げるったってどこにさ。休憩所の存在も分からないで闇雲に逃げ回っても意味なくない?」


 IFの話だけど、恐竜らしきモンスターの近くに休憩所がある確率も無いわけじゃない。このダンジョンの性質上ある方が確率高いし。

 吹雪の中で、どこにあるか分からない休憩所を探すよりは、恐竜くんの正体を暴いて探した方が効率がいい……気がする。

 ……頭良くない? 僕。

 レベルアップで知能上がったまであるよ。


コメント

・《Sienna》それはそうだけど、アレ、倒せるわけ?

・《ARAGAMI》君のスキルのダメージ算出値が不明な以上何とも言えないが、あの巨体なら二、三発撃つことになるだろう。四肢を全て失った状態でフィールドを彷徨うのはリスキーだ

・おめーの場合は自己犠牲を最初から勘定に入れてるからダメなんよw

・リスクヘッジって知ってる?


「ダメ出ししかしないじゃん。言ってること分かるけど」


 まあ、腕くらい、って思ってる節がある。最初の頃は好きで消費してないし! とか喚いてたのに、失うことに慣れすぎてリスクを勘定に入れるのを忘れていた。

 

 よし、逃げよう。


「じゃあね、恐竜くん。また会う日まで」


 キリッと決め顔を作って踵を返そうとした時、ふと頭上に明るい日差しが差して、僕の目の前に影ができた。


 ──雪が止んだ。



コメント

・おっと

・これはこれはw

・《ARAGAMI》ナイスタイミングだ

・《Sienna》おいおい、あいつ死んだわ

・上位勢狂ってる奴らしかいねぇw


 雪が止んで、舞う雪が晴れ、隠されたシルエットが明らかになる。

 恐竜くん……君の姿が今、ようやく分か──



「────亀じゃん! 首の長い亀じゃん!」


 恐竜じゃなかった。

 首がクソ長い真っ赤な甲羅を背負った亀だった。


コメント

・草

・草

・でも、クソでかいな

・恐竜かと思ってたら亀でした、ってなんなんw


 僕が言いたいよ。

 

「僕の郷愁と夢をぶち壊しやがって。亀なんてお呼びじゃないでしょ。よく考えてよ。何で君、ここにいるの? そもそも亀って低温じゃ過ごせないでしょ。バカなの? 図体だけデカい君は呼んでないんだよ!! 去れ!!!」


 やっぱり恐竜って特別な存在だと思うんだ。

 太古の昔に存在していて、生きてはいないけれど、今を生きてる人たちに夢や憧憬を抱かせる動物。

 今にいないからこそ上がる価値ってものはある。友達と図鑑を囲んで笑い合う日々。そんな過去が、大切な過去があるんだ。


 僕は期待していた。

 あのシルエットは誰がどう見ても恐竜だよ。キリンのシルエットでもない。横から見たらあの亀は、シルエットだけならブラキオサウルスだったんだ。

   

 騙された!! ちくしょう、ふざけるな!!


コメント

・勝手に期待して失望するヤツ

・自分から来たくせに帰れとか言うヤツ

・バカがバカとかw

・初対面が最早悪印象しかないんよ

・おめーは階層のデカい生物に喧嘩売らないと死ぬんか?


 僕だって、期待通りだったら何も言うことはなかったさ。でも、裏切られたら文句を言うしかないと思うんだ。

 それが如何に横暴なことが理解していてもね。だって、思ったら口に出しちゃうんだもん。バカだから。


 

 ジッと僕を見る亀くん。

 ふいにガポッと口を大きく開けて、


「あ、嫌な予感」


 ──咆哮が辺りを包んだ。

 咆哮というより衝撃波のそれは、呆気なく僕の体を吹き飛ばして、一際標高のある雪山の頂上に顔から突っ込む結果になった。


 ひゅーん、って。

 本当に風切り音って鳴るんだね。

 体中痛いけど感動した。


「ですよねえええ!!」


 いっっっった!!

 今までの単純な切断とか溶けるとか食われるとはまた別の痛み!

 内蔵がかき回されるような気持ち悪い感覚と、全身に響き渡る鈍痛の数々。


「げほっ。雪山なかったら危……げふっ。吐血ッ!!」


 僕はこのままじゃ失神してジ・エンドだと察して、《アイテムボックス》からポーションを取り出し急いで飲む。


「いやぁ、雪に彩る血のグラデーション。素晴らしいですねぇ」


コメント

・急に何言ってんだこいつ

・一々ギャグ調なのなんなん

・傍から見たらグロいのに発言のせいでギャグ補正かかる

・何も素晴らしくないんよw


「数々の怪我を体験した僕が、今更吐血くらいで慌てるわけないでしょ……それにしてもだいぶ飛ばされたね」


 今までは確かに外から見える形で怪我をしてきた。

 焼かれたり溶けたり食われたり。

 体の内側に響く攻撃ってのも新鮮なんだけど、リスナーに目に見えて分からないから配信映えしないんだよね。


 亀くん。

 君もクビ。


 

 心の中でリストラを言い渡して、僕は飛ばされた雪山から辺りを見渡す。アニメみたいな吹っ飛び方をしたせいか、スキーができるレベルの雪山の頂上にいる。

 亀くんは遠目からジッと見つめているけど、また何かしてこないとは限らない。



「ここは雪山。急斜面。……なら、やることは一つだよね」


 僕はショップから『中華鍋』を召喚する。

 ふふふ、と口角を上げる。


「──ドキドキっ! 名誉挽回、中華鍋でスキー作戦!」


コメント

・い つ も の

・──見えた!バカの糸!

・中華鍋くんの名誉を貶めたのお前じゃねーかw

・自作自演の結果、不名誉の称号を得た中華鍋

・世迷言葉の被害者

・《ARAGAMI》待ってた

・《Sienna》折角寝ようと思ってたのに

・6位は何だかんだファンなのか?w

・享楽主義者の宴


 まあ、ドキドキシリーズは企画モノだからね。それなりに楽しんでくれると僕も嬉しい……のかな? 知らんけど。

 生き残る上での策でもあるからね。それが正しいのかはやってる僕にも分からないし、結果オーライ至上主義に任せようと思うんだ。


 僕は中華鍋の底にお尻を乗せて、柄が前方に来るようにして柄を左手で掴む。

 底がそれなりに深くて、柄があるお陰で何とか形になる。


 そして、雪山の斜面に腰掛ける。

 いざ、出発の時だよ。


「さあ、中華鍋くん。僕に火傷させた中華鍋くん。今度は裏切らないでよね」



コメント

・いや、ソリじゃねぇか

・雪山降ることをスキーって言うの冒涜だろ

・二個用意してから言えよ 

・バチバチ根に持ってて草

・自分から触りに行ったくせによく言いやがるw


「確かに!! これソリじゃん!!」


 僕としたことがこんな初歩的なミスをするなんて。

 ちょっとリスナーの評価を見直さないとダメかな?


 僕はリスナーに少しの感謝をしつつ、もう一つの中華鍋を召喚して立つ。


 こう……スッと、片足ずつ中華鍋に足を乗せて……。



「やるか」



コメント

・敢えて難易度上げに行くのなんなん?

・ドM精神極まりw

・やる前に気づけよ定期

・バカなの?w


 落とさぬようにスマホを内ポケットに入れて、僕は中華鍋で斜面を降り始めた。


 そこでふと気付く。


「……あれ、これどうやって止まるの?」


 



ーーー

ちょっとしたお知らせと謝罪。


【お知らせ】

一応、この小説経由でギフトを下さった方がいるので、返礼品としてこの小説の裏設定だったり、没にした番外編などを限定近況ノートで投稿したいと思います。


【謝罪】

僕は福井県出身でもなければ行ったこともありません。

ですが、リスペクトと憧憬はあります。本当です。

 

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