第31話 やったねぇ!無慈悲だよぉ!

 まだ腕食わせるなんて書いてませんけど!!!!!




ーーー





「何食べるんだろ。兎って言ったら野菜、とりわけ人参のイメージが強いけど」


 昔行った動物園で兎の餌やり体験をしたのを思い出す。

 なんか人参より僕の指先に噛みつく兎が多かったんだよなぁ……。もしかして兎ってモンスターに関わらず肉食なのかな?


コメント

・人参じゃね。知らんけど

・イメージは人参だけど、そもそもモンスターって物食うのか?

・狼くん……

・世迷肉食ってたな、そういえば

・なんか嫌だその響きw

・世迷肉は草

・食ったらアホになるんだよな、知ってる


「僕のIQが詰まったお肉だからね。まあ、バカになるよ、そりゃ。頭の残念さは自他共に承認されてる事実だし」


 だからって謎の名前を付けられるのは嫌なんだけど。名字だし。名前なら良いってわけでもないけどね? 名字だと対象が増えちゃうから。


コメント

・無いIQを詰めようたって、ねぇ……?

・バカにつける薬はないんだよ


「とにかく人参……。うーん、手元にないし、食糧買い漁って人参出るまでリセマラするのもフードロスがどうのこうのとか言われそうだしなぁ」


 やっぱり環境に良くないことはするべきじゃないよね。

 今までの食糧だって全部無駄にせずに完食した。最初から何作るか示唆されているから、ってのもあるけど、そうじゃなくても無駄にするのは気が引けるよ。


コメント

・なぜそこだけ真面目なんだ……w

・状況的に気にしてられないだろw

・世迷がフードロスを知っているだと……!?

・何も信用されてなくて草


 リスナーのコメントはさておき、チラリとスノラビくんを見るも、どうにも悪い風には思えない。みんな考え過ぎなんじゃないかなぁ。

 散々良心に裏切られてる僕でも、最初は信じようと努力しているんだ。何事も実態を知ってからじゃないと誤解しちゃうからね。


「ちょっと撫でてみようかな」


 動物園に行ったのも小学生の頃だし、身近に動物を飼っている友達がいなかったのもあって動物との触れ合いに飢えていた。

 この殺伐としたダンジョン生活の中で癒しが欲しかった、ってのは再三言ってるね。もふもふは正義だよ。


コメント

・《ARAGAMI》君に支払った分のエンターテインメントを期待している

・一方的に支払っておいて厚かましいぞ世界2位w

・享楽主義者くんさァ……w

・享楽主義者はリスナー全員に言えるんだよな

・《Sienna》いけ!スノラビいけ!やれ!

・アンチおるw


 そういえばアラガミさん、無言で500万スパチャしてたね。期待に添えるかは分からないけど精々頑張りますよ、っとスノラビくんに近づいていく。


「きゅう?」


「あ、可愛い」


 近づいても警戒するどころか甘えた鳴き声まで発声させるスノラビくんは、控え目に言って最高だった。

 そのまま僕はスノラビくんの真正面で膝立ちになって、そっと頭に手を這わせた。


「おぉ……! ふわふわしてる!」


「きゅい♪」


 スノラビくんの毛並みは、野生とは思えないほどに整っていてふわふわしていた。触り心地がすごい。ペルシャ絨毯みたいだ。ペルシャ絨毯触ったことないから知らんけど。


コメント

・良い感じじゃね……?

・あれ、これ成功しちゃう感じ?

・世迷はブリーダーの才能があった……!?

・狼くんは……



「ふっ、やっぱりさ。君たちの目がどれ程曇ってたか分かるよね。どう? フラグを回避してみせた僕に何か言いたいことがあるんじゃないかな?」


 と、スマホに目を移したその時だった。


 なんか、撫でていた右腕がスースーするというか、熱いというか……あ、消えたのか、そっかぁ……。


「餌付けしたって解釈でいい?」


コメント

・安定の即堕ち

・めっちゃ歯を剥き出しにしてるけど大丈夫?w

・ピューピュー血が吹き出てんのに余裕だなこいつ

・食われた時も眉一つ動かしてなかったぞw

・鈍感すぎて気づかなかっただけだろ


 

「痛いには痛いんだよねぇ……復活……と同時にさよなら右手」


 ポーションを飲んで生えかけていた右腕を再びサクッと食われちゃった。てへぺろ。

 スノラビくんは何か不思議な顔をしているけど、首を狙わないのかな? なんか物欲しそうな期待してるような?


 僕はまたポーションを飲む。


 そして食われる。


 ポーションを飲む。


 食われる。


 これを何度か繰り返すと、スノラビくんは僕の腕が復活しても遂に食べなくなった。

 どこかスノラビくんは会った時よりもふっくらしていて、お腹はぽっこりと膨らんでいる。

 表情は満足げで、こぷっと可愛らしいゲップをするくらいだ。


「お腹いっぱいってこと?」


コメント

・うっそだろおい

・首狙うよりも復活する右腕に狙いを定めたのか……

・マジで餌付けじゃね?w

・世迷の顔がたんとお食べ菩薩の笑みに……!

・顔だけなら悟ってんだよな、こいつ

・やってることが修行僧の百倍は酷い


 

「きゅい、きゅい」


 スノラビくんが期待するようなキラキラした眼差しで僕のことを見上げた。

 

「ふむ」


コメント

・《タケシ》こんなことが……

・《ARAGAMI》つまらないな

・何を期待してるんだよw

・期待に添えなかったようで

・スノラビが可愛く見えてきた

・俺らのトラウマが遂に消える……!?


「まあ、だよね。予想できた内容だしつまらない。それに────僕の腕食べたよね、君」


 スノラビくんがコテン、と首を傾げたのを見て、僕は優しげな表情で笑う。何もかも許してあげよう、という聖人の微笑み。


 そのまま僕はスノラビくんに手を伸ばして、


「《一魂集中》」


 ──スノラビくんの体が丸ごと消し飛ばされた。


「よしっ」


コメント

・あァァァァァァ!!!!!

・スノラビィィィィ!!!

・《Sienna》動物愛護団体に訴えてやるぅぅぅ!!!!

・許せねぇぇぇぇ!!!!

・《ARAGAMI》これこれ

・よし、じゃねぇよw


「いや、よく考えてよ。ポーション復活しなかったらお命頂戴されてたでしょ? タケシさんの言った生態通り、ってのが分かったんだから、真面目に倒した僕が何かを言われる筋合いはないと思うんだ」


コメント

・おめーに慈悲とか情はねーのかよ!

・バクバク腕食うやつに情はないか、よく考えたら

・心が狭いのか広いのかどっちなんだよw

・沸点が理解できねぇ……!!

・トラウマが更新された……!


 やっぱりモンスターに愛着とかなかった。

 ペットにしたところで役に立たないと思うし。僕の指示を聞くとは思えないのと、お腹空いたら寝首搔かれるのは決定事項だからねぇ……。


「何を好き好んで虎視眈々と命狙ってる奴と一緒に過ごさなきゃいけないのさ。そんなのドMでしょ。しかも僕は、スノラビくんが人を襲わない無害な存在だと信じたんだ。でも、結果は僕の腕にむしゃぶりついてたわけだし有害。よって有罪。理解した?」


コメント

・正論なだけに得心がいかないなw

・世迷い言じゃない……!?

・モンスターに餌付けしようと最初に考えただけで頭がイカれてるんだよなぁ……


 うるせぇやい。

 僕は一度だけチャンスを与えるんだよ。


 慈悲深いからね!


 僕は失くなった右腕を眺めながらそんなことを考える。

 《一魂集中》のデメリット効果で、僕はしばらく消えた右腕を回復させることができない。

 足じゃなかっただけまだマシだし、血がだらだら出るわけでもなく最初から無かったかのように消えているのが有り難い。失血死の心配をしなくても済むし。



「じゃ、気を取り直して休憩所を探しに行こう」


コメント

・気を取り直せないんだよなぁ……

・あぁ、スノラビ……

・見た目に騙されるな、からのリスナーの手のひら返し

・俺、ちょっと今からダンジョン潜ってスノラビ探すわ!

・首チョンパ確定演出


「僕の真似をするのは結構だけど、わりとギリギリのラインで生き抜いてるから多分死ぬと思うよ。自分の悪運を信じながらやりなよ」


 ここまで来れたのも奇跡だからね。

 何かが掛け違ってたら、僕はこの場に立つことすらできずにマグマ階層で死んでいる。

 つまり、僕は生き抜くプロってことだよね。多分。

 素人がプロの真似したら危ないに決まってるよ、うん。素人は黙って僕の配信を見ていることだ。



コメント

・ギリギリのギリギリのギリギリで生きてる男

・冥界「あいつまだかな」 

・草

・自覚あったのか


 さーて、行くぞぉ!




ーーー

この人本当に主人公なんでしょうかね。

スノラビくん「やったぜ肉ヅルできた」→「アッ」

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