第30話 やったねぇ!餌付けだよぉ!
「ふむ」
スノラビくんは僕を愛くるしい瞳で見たまま動かない。これまで問答無用で襲いかかってくる狼くんとか、触ったら腕消してくるマジシャンしかいなかったから、どうにも新鮮な気持ちになるね。
「ペットにしたいなぁ」
コメント
・正気か?????
・見た目に騙されるなよw
・見た目だけは本当にただの兎だからな、この種族
・ここに来て嫌いなモンスターランキング第一位が……
「嫌いなモンスターランキング? そんなのあったんだ。でも、僕がコメント見てても襲わないし、無害なんじゃない? 最初の一撃はミスった的なさ」
ね? とスノラビくんを見ると、彼もしくは彼女はこてん、と可愛らしく首を傾げた。
……癒やされるぅ……。殺伐してたからなぁ。
どうミスったら攻撃を仕掛けるのかは僕も分からないけど、ほら、ここはご都合的なアレだよ。
コメント
・んなわけw
・スノラビの特性知らないから……
・殺されかけたのにミスった、はないだろwww
・《タケシ》どうも。通りすがりのスノラビ研究家のしがないAランク探索者です。いつも楽しくご視聴しています。今回、主さんがあまりスノーラビットについて詳しくないようですので、研究家の私から説明させて頂ければな、とご提案した次第でございます
・スノラビ殺しがおる……
知らない固定マークの人がコメントをしていた。
僕が注視すると、どうやら完全善意で教えてくれようとしている人らしい。単一種族の研究って……これまた酔狂だなぁ。
まあ、そんなことよりも僕は驚いたことがある。
「珍しく良識ありそうで丁寧な物腰……!!」
コメントするリスナーがクズしかいないから、敬語で挨拶までするタケシさんは僕から見て良識がありそうな人だった。
他のリスナーとのギャップ効果があるだけかもしれないけど。
……そして僕は気づく。
「あ、でも僕の配信を楽しく見てる時点でろくな人じゃなかったね……。敬語で外面取り繕ってる辺りたちが悪い。どうも、同類くん。歓迎するよ」
コメント
・草
・草
・いつもの手のひらクルー
・意見翻すの速すぎるw
・瞳輝いて一瞬でくすんでた
・言い草が酷い
・扱い酷いとかブーメランだろ
・説得力あるなぁ……w
・これ、遠回しに俺等のこともディスってるぞw
そうだよ。ディスってるよ。
僕の言動、行動を振り返ってみてよ。
「何も僕は取り繕ってない。ありのままの僕で生きてるんだ。少しは見習って欲しいね」
コメント
・取り繕えよ、お前は
・脊髄で生きてるバカがよ
・ありのまま過ぎるんだよw
・社交性皆無のドクズ人間がなんか言ってる
・探索者クズしかいない定期
・間違いない
「性格良い奴はすぐ死ぬし、良識ある人はそもそも探索者にならない、って聞いた」
僕の場合は金が欲しいわけでも、地位とか名誉を得たくて探索者になったわけじゃないからね。
しいて言うなら暇潰し?
暇潰しの結果、世間を騒がせてるんだよね……?
愉快犯かな?
「ま、とりあえず教えてくれるなら聞こうかな。目の前に敵がいる状況だけど、全然何かする気配ないし」
スノラビくんは何もせずにジッと僕を愛くるしいつぶらな瞳で見つめてくるだけだ。その度に僕の警戒心とかがガリガリ削られていくのを感じる。……あ、元から警戒心なんて持ってなかった。
コメント
・偉そうだなこいつ
・人に教えを請う態度か?あぁん?
・請ってないんだよなぁ
・《タケシ》感謝申し上げます。
・《タケシ》スノーラビット。中層から中下層に出現する兎のモンスターで、どの国のダンジョンでも違いはあれど出現していることが確認されている。見た目はただの愛くるしい兎。大きさも通常の兎サイズでしかない。──しかしッ! この世で最も悪辣な一族である。奴らは見た目で油断させて首に食らいつく。顎、とりわけ歯の発達は凄まじく、噛みつくというより抉り取る、と表現した方が正しい。奴らの攻撃パターンは、第一が有無を言わさぬ不意打ち。体躯の小ささを利用して、陰から首に向かって狙い撃ちをするのが特徴的。突進力に優れているため、大抵の探索者はここで命を散らす。しかし、不意打ちが躱された場合、奴は何もせずにジッとこちらを見つめ、その可愛さで油断させようとしてくる。しかも、こちら側が近づいても、本当に殺れる時までは、か弱い兎の振りをするのだ。当然、背を向けて逃げたら後ろから強襲。その周到さと悪辣さ。種族特性である首を狙ったスプラッタ劇。当然、嫌いなモンスターランキングでは20年連続ナンバーワンを飾り、多くの探索者、視聴者にトラウマを植え付けたモンスターだ。
「長い。二行で」
コメント
・《タケシ》外道。首チョンパだいちゅき。不意打ち躱されたら殺れるまで様子見。逃げれない。みんな大嫌い
「把握しました」
本当に長文説明するバカがいる?
もっと簡潔に分かりやすく説明して欲しいものだよ。
「やれやれ。僕の理解力を知りながら長文説明するなんてね……」
僕は首を振って呆れとともに白いため息を吐き出す。
コメント
・い つ も の
・自虐しておきながら責めてるんだよなぁ……w
・スノラビよりたちが悪いよ、お前
・上位探索者に説明させておいて要約させるのやめろw
・とにかくスノラビがヤバい、ってのは伝わった
「そうは見えないんだけどなぁ」
確かに種族は『デビルスノーラビット』だった。
種族名にスノーラビットって名前が冠されている時点で、大体の性格とか特性は一致しているに違いない。
自称研究家のタケシさんの言うことも、十割と言い切れなくてもほとんどは合っているんだろうさ。
「でも、狼くんには紛れもなく自我があった。あの場合は怒り一辺倒だったけど……。知能があるなら飼えるかもしれないじゃん? 試してみても損はないと思うんだ。見てよスノラビくんの無害そうな瞳。首を傾げるその姿。無抵抗な相手を問答無用で殺すなんてこと、僕にはできない」
これが歯を剥き出しにして襲いかかってきた、って言うんだったら僕は討伐に前向きだったさ。
でも、スノラビくんは無防備で僕の前に姿を晒している。
無抵抗の相手を殺すなんて卑怯じゃないか!!
コメント
・あれ、ボックスくん……
・無抵抗……うっ、頭が…
・モンスター倒して嗤うやつが今更何を
・外道が今更正義ぶったって遅ぇよw
「僕のこと何だと思ってるの? 流石に情くらいあるよ。……好きなもの限定で」
コメント
・あ、こいつボロ出した
・選り好みしてんじゃねぇかw
どうでも良い相手に情けをかけれるくらい僕の懐は深くないんだよねぇ。そんなことしてたら平気で搾取されちゃうし。自助の精神で頑張って。
「と、に、か、く! 僕は信じても良いと思うんだ。スノラビくんの良心をさ。……というわけで」
僕は大きく息を吸って……寒い痛い。
……気を取り直して笑顔で叫ぶ。
「──ドキドキっ! スノラビくんに餌付け作戦!」
コメント
・あ、はい
・どうせ失敗するんだろ。知ってる
・《ARAGAMI》《¥5,000,000》
・無言スパチャ怖い
・ガチ感を感じる……w
・まあ、ガチなんだろうよw
・《Sienna》あー、うん。首狩っちゃって良いよ、スノラビ
・首姫が自らのアイデンティティを託した……!?
・託したのモンスターだけどな
・草
酷い! 酷いよ、シエンナさん!!
ぶっちゃけスキル玉の情報以外役に立ってないからどうでも良いけど!! 僕は誰にも媚びないし過去も失敗も省みないからね。キリッ。
さあ、餌付けの時間だよ!
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