第28話 【番外編】やったね!大注目だよ!
色んな人視点
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Side Allen Laster(ハンドルネームARAGAMI)
「くふっ、くはっ、ふっくっく……ッッ!!」
「副長。のたうち回るのはやめてください。誰が掃除すると思ってるんですか」
「無論君だが?」
「殺しますよ」
いつもの秘書のお小言が気にならない程度に、私は笑いを抑えることができなかった。
これがどう落ち着けと言うんだ。無理だ、不可能だ。
笑わないのは彼にも私にも失礼だろう。
徹頭徹尾、ギャグ的世界線に巻き込まれて討伐された狼は憐れと思うが、結局跳ね返せなかったのが悪い。ダンジョンは弱肉強食であり、下剋上が頻繁に起こる世界だ。
しかしだ!
まさか、レベル100にも満たない少年が500階層のボスを倒すだと? あり得ないとバカバカしく一笑する話題だろう。私とて到底信じられない。
だが彼はやり遂げた。
私がこの目でしかと見た! あり得ない世迷い言は、彼の行動によって真実へと相成った!!
「はははッ! 面白い。面白いぞ
ふと私は銀燭に反射する自分の顔を視た。
耳にかかる野暮ったい金髪に、赤と青に輝く瞳。
私自身の悩みである中性的な外見は、その悩みを払拭するようにギラギラと野性味ある眼差しで相殺されていた。
私はかつてない感動と興奮を覚えている。
無論、私に男色の気はない。秘書がたまに見せてくるBL漫画の受け主人公に彼が似ていることもどうでもいい。
「はぁ、はぁ……世迷言葉」
「息を荒くして男の名前を呟くのは意味深じゃありませんか?」
「黙れよ脳腐れ」
「いつになく冷静さを失っているようで」
「当たり前だ!! いつ死ぬかも分からない虚弱で無知な少年が、誰も辿り着けなかった東京ダンジョンの深層に辿り着き。更にはそのボスまで倒した!! 天運に恵まれたとしても、討伐手段は彼の突飛な思考によるものだ! あり得ない! あり得ないからこそ……面白いッ!」
私はソファに立ち高笑いをした。
その瞬間に射殺すような秘書の視線を受けたが、私にとっては些事だ。日本式に習って部屋の中は土足厳禁なのだ。それくらいは良いだろう。
「はぁ」
秘書は興味無さげに頷く。
やれやれ、何に対しても興味が薄いのも考えものだ。
「それに……動画解析、参考文献の件で、風間雪音とのコンタクトを取ることができた。謎に包まれてきた彼女が私に正体を晒したのだ。更には世界中の上位探索者も彼の配信を見ている。ある意味世界が纏まっているとも言える」
「まあ、Sランクは人外の粋。一国級の戦力と言われていますからね」
「そうだ。そして上位探索者であればある程、レベルには頓着しなくなる。私とてアメリカダンジョンの深層に潜ろうと思えば潜れるし、世迷言葉がどれだけレベルを上げようと2秒で仕留める自負がある。スキルが全てを支配しているのだ」
一般人には秘匿している上位探索者の本当のレベル。
ダンジョンは攻略してしまえば、消えてしまう。
最下層のモンスターを倒し、更にその奥地に眠っているダンジョンコアを壊すことで、莫大な経験値と恩恵に与ることができるのだ。
それは、攻略者唯一人の恩恵のみであり、ダンジョン資源を第一としている国が許すはずもない。
現に、ダンジョン攻略済みのインドは、経済が破綻してしまい国として機能が働かなくなった。
ダンジョンは攻略してはいけない。
Sランクに辿り着いた者にだけ知らされる真実なのだ。
……もしも、彼が攻略したのが最下層だったら。
……いや、どのみちダンジョンコアの存在も知らない彼には関係のないことだろう。
余計なことなど考えずに、彼には彼の覇道を進んでもらいたい。
私の享楽のために。
「……副長は自身を倒せる者を欲しているのでは?」
秘書の言葉に、私は見当違いだと笑った。
「そんな破滅願望は持ち合わせていないさ。それに、彼は私より強くなるだろう。そう願っているし、そんな予感がある」
レベルアップで受ける恩恵は、動体視力の向上。
それに付随する最適な体の動かし方。
レベルアップは人間が努力する過程を省略し、限界を超えた結果を押し付けるものだと考えている。
いずれはスキルをレベルが追い越す日もあるのかもしれない。
私は呆れた表情の秘書を見ながら続ける。
「私は未知が見たい。既知はつまらない。理解できないものを理解する時ほど楽しい時はない。君にも分かるだろう? 世界第3位ユミナ・ラステル」
「……副長、そのセリフが言いたいだけでしょう。日本の漫画やアニメに影響を受けすぎです」
バレた、か。
秘書がそれなりに強いのは本当だ。ただ、君にも分かるだろう、から繋げたかった。格好いいからね。
「さて、世迷言葉は何をして──くくくくっ、あははっ!!! こふっ、ぐふっ、かはは!!」
また腕飛ばしてるあのアホ。
☆☆☆
Side Sienna Cattrall(シエンナ・カトラル)
「気色悪い。関わりたくない。でも面白い」
☆☆☆
Side 風間雪音
「……ぬかった」
現在77階層、粘着トラップで宙釣り中。
☆☆☆
「「「…………」」」
会議室の円卓テーブルに肘を預ける10人の老若男女たち。
彼らは一様に無言を携えていた。
『あぁ……ッ! 僕の中華鍋がひしゃげてる……!!』
『中華鍋くん……!! 僕を守ってくれたんだね。……ありがとう。最後まで裏切らないでいてくれて。ぐすっ』
『あっつ!! クソが!!』
円卓テーブルの真ん中には、ホログラムで映る世迷言葉の配信……の切り抜き。情緒が狂いに狂った配信だ。
「……こいつ、ヤバくないか?」
比較的新参の二十代後半の男性の発言は、今この場にいる全員の心の内を代弁することになった。
「何とか変色魔石とその他のアイテムを売って欲しいが……。もしも彼が生き残って脱出した場合、強引な手段は取れない。魔窟と呼ばれる東京ダンジョンを単騎で脱出なんかされてみろ。誰も手出しできないイカれた最強が誕生する。絶望でしかない」
男性の言葉に誰もが唸った。
ダンジョン協会は治安維持組織である一方、金に目がくらんだ利権者に組する裏の者の集まりだ。
「変色魔石を買い取れるだけの金の猶予があるか?」
「政府に取り次げば何とかなるだろう。開発費予算という名ばかりの歳入を回せば問題なかろう」
「いっそのこと殺して奪えれば良いのだがな……」
再び彼らは黙った。
これまでずっと後ろめたいことをやってきた反面、組織を総動員しても勝てないような存在──風間雪音とそのポテンシャルを秘めた世迷言葉の両名には、とことん弱かった。
あくまで搾取するための組織であり、そこに金以外の戦略的余地はない。
「奴は争い事を嫌っていたぞ」
「だが自らトラブルに突っ込むだろう」
「もうやだあの危険分子」
彼が脱出への道が拓けるほど彼らが飲む胃薬の量は増えていく。
理知的な人間であれば、会話という手段が通じる。
しかし、思考回路と行動基準が読めず理解できない純粋な──アホには会話手段が取れない。
リスクとリターンが見合っていない。
もっと給料寄越せと、協会の最高幹部10人は思う。
頼むから死んでくれと。
胃に穴が開く前に。もっと資源を集めて政府から睨まれる前に消えてくれと。
彼らは願う。
注目を集めてしまった時点で、後ろめたい裏の手段を講じることは可能ではあるがリスクが高い。
出てくるなら。
出てきてしまうのなら。
もっと頭が良くなってから帰ってこい、と。
彼らは腹を抑えながら願わずにはいられなかった。
ーーー
次回から二章開始
アレンくんことアラガミと秘書は、日本すきすきだいちゅきー、なので普段から二人の時は日本語で話してます。
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