第27話 【番外編】殺られたね!同じ穴のムジナだよ!

 ───スコルにとって、人間とは知識として知っている個体であり、また自らの元に遠い未来辿り着くことが分かっているモノだった。


 スコルは《ネームドユニークボス個体》である。

 ボス個体とは階層の主を指し示し、ユニークとは

 そして、ネームドとは使を指す。


 つまりは、彼も自身のことを特別と謳って、いずれ来る人間との戦いに向けて享楽を深めていたのだ。

 

 ──あぁ、どんな強き者なのか。

 我を満足させられる存在なのか。


 彼は自意識を持ち合わせてはいるが、何もかも最初から脳内にインストールされている知識でしか知らない。

 ゆえに、コミュニケーションは壊滅的であり、感情は未だ未発達である。


 しかし、種としての本能か、獲物をジワジワと甚振り絶望の表情を見たいという【愉悦】には深い造詣があった。


 ──だからこそ、初めてやってきた人間が取るに足らない雑魚だと理解した時点で、スコルは強者との戦いを楽しむことを諦め、獲物を甚振ることに愉しみを注いだ。




 不思議な人間だった。

 どんなに追い詰めても、どんなに身体的ダメージを与えようとも、人間の表情には一切の絶望を感じることはできなかった。


 ──こいつは何だ?


 それに、謎の飲み物を飲むことで、消し飛ばしたはずの四肢が復活してくることも疑念を抱く一因となる。


 スコルにとって獲物を取り逃がすことは屈辱であった。

 幾ら本気を出していないとて……否、本気を出していないからこそ、まんまと逃げおおせられたことに腹が立っていたのだ。


 人間の言葉は分からないが、安全圏からスコルを挑発するようなニュアンスで叫んでいたことも、スコルの苛立ちを募らせた。

 

 ──雑魚のくせに。

 ──我を愚弄するな。


 怒りに支配されていたことは間違いない。

 多くの場合、感情が希薄であっても、負の感情は些細なことが原因で燃え上がることがある。

 未発達な感情は、人間と出会うことで進化する。

 

 最も、進化ではなかったが。



 スコルは自身のことを特別で、最強で、自分が負けることなんて考えもしないし、理解すらしようとしなかった。

 鋭い爪と牙に、高温の火球。

 そして、自らの持つ隠し玉。


 全てが高水準で、本気を出せば叶うものなどいない。



 


 ──二度目の邂逅は、両者ともに不本意であった。

 スコルは気分転換に散歩に。

 人間は地図を埋めるために散策に。


 両者……というよりかは、人間の圧倒的知能の低さから叶った邂逅は、スコルにとっても不本意なものであった。

 どうせなら、自身の力で捻じ伏せたかった。正面突破で喰らいつきたかった。


 だが、出会ったらならば殺すしかない。

 せめてもの餞にその身を喰らって我が血肉としよう、とスコルは隠し玉を使い、両手を切り飛ばした。

 

 人間が飲み物を飲むためには片手は最低必要だろう、という思考が働いてのことである。


 しかし、人間は持っている知識のカテゴリーに当て嵌まらなかった。


 飲み方といい、動き方といい……若干スコルは引いた。


 ──あいつ気持ち悪い。


 次に目覚めた感情な不快感だった。

 自分の思い通りにならない不快。

 理解し難いモノを見た不快。


 そもそも存在が受け付けない。


 その上、人間はスコルを出し抜いて再び安全圏へと戻ったのだ。謎の粉を振り撒いて無様を晒させた後に。


 

 ──カッと怒りが湧いて、目の前全てが赤色に染まった。激情で何も考えることができなくなった。

 

 次に出てきた時は、全ての力を持って全力で殺してやろうと。泣いて謝っても命乞いをしても無駄だ、と。

 


 奴は恐怖したのか、自ら腕を差し出してきた。

   

 ──ようやく力の差を理解したか。


 スコルは赤色に染まる視界の中でそんなことを思った。

 人間の瞳には、一見敵意も怒りも感じられなかった。


 慈愛? のようなものか。

 それをスコルが理解することはできなかったが、とりあえず何も考えずに怒りのままに右手を喰らう。



 ──あ、人間不味い!

 

 長年望んだ人間が思ったより口に合わなかったこと。

 スコルの悲劇はそれだけではなかった。


 続いて感じたのは、口の中から脳内、更には体の奥深くまでに走る痛みと衝撃。

 まるで内側から肉体を溶かされているような。

 何か大切なモノを徐々に失っていくかのような。


 

 そこからはよく覚えていない。


 マグマに落とされたり、力を吸い取る謎の容器で滅多打ちにされたり、散々な目に遭ったことは薄ぼんやりと覚えている。


 笑みで染まる人間の表情も。


 そして追い詰めたと思った瞬間に自らの体が四散したことも。


 

 ────こんなアホ面した弱そうな人間に殺られるなど屈辱極まりない。

 ────我はまだ何も為せていない。本気だって出していない。非道だ外道だ。悪辣だ。




 ──いや、こんな人間いるなんて聞いてないねん。


 口調を崩してスコルは爆散した。合掌。


 スコルの敗因は、世迷言葉を人間としてカテゴライズしたことである。

 



ーーーーー

本気出せば秒で殺れたのに、本気出す前に完全に弱らされて知能が世迷以下になって、呆気なく爆発オチに巻き込まれたスコルくん可哀想(暗黒微笑)

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