第26話 やったね!紙だよ!

「ごふっ……あ、あ、あー、あー。よし、死んでない」


 見なくても死に体なのは分かるけど。

 火傷のダメージがないことから、恐らくこの全身骨折を含めた大怪我は落下ダメージかなぁ。

 ガラガラに枯れた声で発声練習をしながら、僕はボンヤリとそんなことを考えた。


コメント

・マジで生きてたしw

・もう一日経ったから絶対ご臨終したかと思ってたわ

・おめ《¥10,000》

・《ARAGAMI》よかったよかった《¥100,000,000》

・さらっと1億w

・《Sienna》あれで生き残るのか……《¥50,000,000》

《ユキカゼ》本当に良かった……《¥100,000,000》

・ユキカゼ、お前そんなに金あったのか……

・ポンって出せる金額じゃねぇだろw

・てか、どうやって生き残ったんだマジで

・気合いと根性

・ありそうで草


 スマホが行方不明だからどんなコメントが来てるかは分からないけど、祝福だったら良いなって諦め九割で思ってる。


「全身ひん曲がってるけど、ギリギリ右手動くね」


 それでも複雑骨折してるから曲げられない。

 僕はかろうじて動く右手の人差し指と親指で《アイテムボックス》からポーションを取り出す。


 そのまま蓋を二本の指で開けて──ぶん投げる。


コメント

・曲芸で草

・そうか。謎の投擲力の高さは曲芸で養われたものだったのか……!!

・どうやったら指先の動きだけで瓶を口の中に放り込めるんだ

・深く考えたらダメだ。あいつはギャグ補正の持ち主だからな……

・草

・何でもありかよw


「復活の僕」

  

 キュピんと決めポーズ。

 ついでに近くにスマホが転がってたから、僕は傷一つないのを確認して電源を点ける。

 何やっても壊れない、って噂は本当なんだ……。


コメント

・n回目の復活

・四肢消費。全身骨折視聴トラウマ不可避←new!

・四肢が全部バラバラの方向に曲がってんのシュールだろ

・全身血だらけやないか

・で、何があったわけ?


 コメントを見るに、何があったか知りたい人で溢れていた。まあ、急突貫でたまたま上手くいっただけだし、策と呼ぶには浅すぎるからなぁ。

 わざわざ自分の無知加減を披露したくないんだけど。

 今更か。今更じゃん。羞恥とか何それシーチキン? 的な感じだったよね、僕。


「うん、まあ、爆発があったのは理解してくれたと思うんだけど、みんなが聞きたいのはどうやって生き残ったか、だよね。よーく見てたら分かってたかもしれないけど、僕は爆発の前にポーションを飲んだんだ」


コメント

・まあ、じゃなきゃ説明がつかんわな

・でも、あの勢いだったら普通即死じゃね?

・それな

・狼くんが爆発四散するレベルの爆発で、紙防御のお前がどうやって生き残ったんだよw


「まあまあ君たち。最初から答えを聞きたがるのは愚者の特徴だよ? もっと落ち着きを持ってお淑やかに生きていこうよ。僕たちは刹那の時間を生きてる訳じゃないんだからさ」


 見てよ、僕の清々しいまでの表情を。

 これ、何も考えてないんだよ? すごくない?

 脳を通さずに脊髄で会話してるからね。


コメント 

・黙れよ愚者

・ラン愚ド者がなんか言っとる

・草

・草

・造語作るなw

・耐久性と掛けたんか?w

・てか、落ち着きとかお淑やかとか一番かけ離れてるやんけお前www

・お前だけには言われたくないワードを連発すな


「えぇ……。僕、死闘乗り越えて生き残ったんだけど?」


コメント

・全部邪道なのに死闘とかw

・お前の中で鍋を投げつけるのは死闘なのか?


 死闘だよ!!

 火球避けたり衝撃波に顔真っ青になりながら頑張ったんだけど!? それなのにこの扱い……慣れたし良いか。

 もうリスナーのコメントに怒りも苛立ちもしなくなってるんだ。

 これは僕の心が成長してるから。

 リスナーの心無いコメントにも大人な対応をしてあげられるからなんだよね。


「ま、簡潔に言うと、あのゲロマズ紫が通常のポーションよりも効能が高い……しいて名付けるなら上級ポーションって分かったからなんだ。あの舐めた時に、疲れと擦り傷がとんでもない速度で消えた。まるで時が戻ったように、僕の体が最適な状態までリセットされた。だから僕は、このポーションを使えば何とかなるんじゃないかな、って思って、あの爆発。賭けに出たんだよ」


 実際、爆発の傷がないことから、僕の読みは当たっていたことになる。

 ……爆発の勢いで吹っ飛ばされることを勘定に入れるのは完全に忘れてたけど。そりゃそうだよね。爆発の傷が治っても風圧が消えるわけじゃないよね、ウン……。

 

 まあ、生き残ったんだし良し!


コメント

・本当に良薬口に苦しだったってわけか

・《ARAGAMI》ふむ。即死の傷を治す……いや、再生するポーションか。伊達に下層にあるアイテムじゃない。一時的な死者蘇生を可能とするとんでもないアイテムだ

・《Sienna》地上に持ち帰ってたら間違いなく消されてたわね……

・物騒な世界だな、おい

・物騒な世界なんだよ、うん

・《ユキカゼ》生きる本能……


 あ、やっぱり?

 表立って口には出せないけれど、物理法則を書き換えるようなとんでもないアイテムを持ち帰った場合は、他国の暗殺者に消されるか、自国のダンジョン協会に脅されて渡さなきゃいけない、とかいう噂は聞いたことあった。

 ……まあ、持ってても一人の探索者には身が余るし、下手にトラブルを招きかねないから、僕は確実に協会に売っ払うけどね。


「そんな僕には理解できない大人の難しい話は置いておいて、とりあえず狼くんが落としたアイテムでも見に行こうか」


 マグマで消し飛ばされてなきゃいいけど。

 ボックスくんの時も近くに落ちてたし、超常現象的なアレで大丈夫だと思う。……あれ、ボックスくんって誰だっけ? 


 とにかく僕は、例の爆破現場まで戻る。


「……結構吹っ飛ばされたんだね。あのくらいの怪我で済んだのも運が良かったのかな」

 

 

コメント 

・落下ダメージ食らったにしてはマシな怪我だからな

・全身複雑骨折をあのくらい呼ばわりw

・失うことに関しては右に出る者はいないだろw

・知能と信用と四肢と羞恥心とプライドと人間性?

・全否定で草

・ボロクソじゃねぇかw

・最も酷い罵倒を聞いた


「うるさいよ。僕に残ってるものは……希望?」


コメント

・逆に何でそれが残ってんの?マジで

・だから精神性が普通じゃないんだってw

・ポジティブ超えて狂気なんよ


 散々な言われようだなぁ。

 楽しんで僕の配信見てる時点で君たちもまともな人間性はしてないでしょ。自分のことを棚に上げるんじゃないよ。

 

 なんてことをぶつくさ言いながら爆破現場に戻る。


「うわぁ……地形変わってるじゃん……」


 大きな穴が空いたその場所からは、マグマがふつふつと湧き出ていた。上からも地下からもマグマが出てることは驚きだけど、何よりも……


「あぁ……ッ! 僕の中華鍋がひしゃげてる……!!」


 幾度となく僕を救ってくれた中華鍋くんがボッコボコになった上にひん曲がってる惨憺な状況に陥ってた。


コメント

・消失してない辺り中華鍋の耐久性を疑う

・(何でひしゃげてる程度で済んでるんですか)

・世迷だから

・なるほど納得

・説明になってなくて草


「中華鍋くん……!! 僕を守ってくれたんだね。……ありがとう。最後まで裏切らないでいてくれて。ぐすっ」


 僕は涙を流して中華鍋くんに触り────


「あっつ!! クソが!!」


 火傷したから蹴り飛ばした。



コメント

・中華鍋くぅぅぅぅぅん!!!!

・またここに世迷の犠牲者が

・情緒が!!理解とか!!そんな問題じゃないほど!!狂ってる!!気持ち悪い!!!

・《Sienna》なんだこいつ。気色悪いな

・一番裏切ってんのお前じゃねぇかw


 ……さて。

 熱耐性持っててもマグマで熱された中華鍋は熱い、ってことが分かったね。

 そんなことよりも。


 僕はすでに消えている狼くんの死体があったであろう場所を探す。どんな形で倒せたかは観測できなかったけれど、僕の漲る力はレベルアップの証。

 確実に倒せている。



「────あった!!」


 僕の視界の先には、人間の頭程のサイズを誇る白色の魔石と金色に輝く飴玉。

 そして──


「鎧だ!! 絶対すごいやつじゃん!!」


 金色の鎧が横たわっていた。


コメント

・見るからにレアじゃん!

・飴玉……(トラウマ不可避)

・魔石でっっっか。こんなサイズ見たことねぇな

・《ARAGAMI》魔石……あのサイズと変色魔石から、値段は最低でも兆単位だね。あれ一つで向こう5年の電力は賄えるだろうし、変色……つまり、何らかの機械開発に役立てられることから、競りにでも掛けたら指数関数的に値段は上がるだろう

・最近、世界2位真面目じゃね?

・確かに

・《Sienna》秘書にこっ酷く怒られたらしいぞ

・草

・繋がりあるのかよw

・内部リークは草

・鎧!!

・紙防御が直る!?


「うわぁ、絶対トラブルの元じゃん、魔石。そんなにお金欲しくないんだけど。アラガミさん、いる?」


 お金あってもそんなに使わないんだよね。大した趣味もないし、浪費できるくらいの豪快さは持ち合わせてない。

 しかも、ダンジョンから出たら確実に刺客を差し仕組まれるの分かっててどうして欲しいなんて言えるんだ。


コメント

・過ぎた金はあってても困るわな

・《ARAGAMI》大人しく日本のダンジョン協会に売るといい。欲しいなら競売で正式に買うさ。まあ、日本政府の開発団体に渡るだろうけどね


「難しいこと分かんないし良いや」


コメント

・少しは理解しようとする努力をだなw

・端から諦めるな


「あのねぇ……? 難しいことは分かんないんだよ? だって難しいことなんだから」


 理解しようにも付け焼き刃だし、そういうのは専門家にお任せしたい。生きる上でどうしても必要なら、必要に迫られた時に取得するだろうし、ただでさえ脳内のキャパが少ない僕だ。そんな難しいこと覚えたらパッパラパーになっちゃうじゃん。


コメント

・どこかで見たことあるような構文だな

・それはそうw

・見ろよこの目を。アホだぞ

・知 っ て る


「一先ず鎧と魔石は放っておいて、この飴玉どうしよっか。見るからにレアっぽいけど……前科がね」


 これのせいで捨て身とかいうスキルを手に入れた。

 ……んー、でも金色だし大丈夫か。


「頂きます」


 あ、美味しい。

 

「ベッコウアメじゃーん」


コメント

・前科について触れた数秒後に食ったぞ、こいつ

・何も学んでない……何を学んできたんだよ逆に

・曲芸

・草

・草

・言えてるわw


 僕はすぐさまスキルを確認する。



ーーー

スキル 

《鑑定》《アイテムボックス》《苦痛耐性》《熱耐性》

《捨て身》《落下耐性》《罵倒耐性》《スタミナ消費軽減》《起死回生》

《一魂集中》


《起死回生》……回復効果が上がる。瀕死状態での攻撃力が上昇する。

《一魂集中》……四肢を犠牲に攻撃力の四倍ダメージを与える。防御無視。犠牲にした四肢は一定時間の間、回復することができない

ーーー


「四肢ロシアンルーレット……!?」


コメント

・草

・最初にそれか?w

・何ともまあピーキーなスキルで……

・普通に役立つスキルがある一方で、一魂集中の厄介さw

・さらっと混じる罵倒耐性

・俺らのせいやんけw


「それに攻撃力とか言われても数字表記ないからピンとこないなぁ」


 確か自分のステータスの数値を見ることができるスキルがあったような気がするけど、持ってないから何も関係ないね!

 というかさ……やっぱり食べなきゃ良かった。

 

「でも、僕には鎧があるからね。防御なんてこれで賄えるでしょ!!」


 ふふん、とニヤケながら僕はそんなことを口にする。

 

コメント

・《ユキカゼ》あの……捨て身スキルで鎧付けられない…


「あ゛」



コメント

・忘れてたなこいつw

・草ァ

・防御だけは上げさせないという謎の意思を感じるw

・伏線回収で草


「うん、捨てよう」


 僕はやけに軽い鎧を──ひょーいとマグマに放り投げた。じゃあね。


「どうせあの大きさじゃ《アイテムボックス》には入り切らないし、持ち運んで行くわけにもいかないしね」


コメント

・それはそうにしてもよく躊躇なく強そうな鎧を捨てられるな……w

・世迷にとっては役に立つか否かなんだろうなw


 僕は魔石を《アイテムボックス》に収納すると、近くの岩に座る。



「さぁて、帰ろっか」


コメント

・現実見ろ

・あと499階層で帰れるね!!

・なに終わった、みたいな雰囲気出してんの?w

・まだまだあるゾ〜?


 少しくらい非現実に浸りたかったよ。

 

 ちくせう。

 





ーーーーー

1章終了

レベルは二章で。


何ともやべぇスキルを手に入れた世迷の冒険はまだ続きます!


そんなわけで、面白いと思ってくださった方は、画面下部から星を称えるで、応援して頂けると幸いです。

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