第22話 やったね!仲良しだよ!

 僕が唯一人に誇れること。

 

 それは──どれだけピンチになったとしても、思考を止めないこと。考えることを続けられること。

 その考えた事が何にも役に立たないこと。いや、それは自虐。


 とにかく、僕は漫画補正みたいに心の中でベラベラと話すことができるわけで。

 このマグマにダイブする間近。

 僕が取った行動は本能に突き動かされた最適解だった。


「召喚」


 落ちる刹那、僕はスマホのショップ画面を開き、中華鍋を買う。

 すかさず、上に現れた中華鍋の柄を引っ掴んで下に敷くことでマグマに落ちないようにした。


 謎電力で動くラグ無しの高性能スマホと、金さえあれば色々買えるショップだからこそできる荒業。

 

「あっっつ!! いったっ!」


 マグマポチャは避けられたけれど、勢いそのままでマグマに突っ込んだせいか少し沈んだ両足がじんわりと溶けた。


 あちゅい。

 

コメント

・曲芸キタ━(゚∀゚)━!

・何が何だか分からんかったぜw

・よくあの一瞬で思いついたなwww

・結局四肢は削られるのね

・い つ も の

・脱出後の就職はサーカス団か……

・《ARAGAMI》やるねw《¥10000000》

・スパチャ有言実行してるしw

・額がエグいw

・《ユキカゼ》頑張れ《¥5000000》


 僕は溶けた両足をポーションで再生。

 やっぱりポーションは最高だね。どんなに四肢を失おうと一瞬でニョキッと生えてくる。

 

「やった……!! ようやく足もげた!」


コメント

・は?w 

・コンプリート目指すな

・どこに感動してんだよw

・控え目に言って狂ってる

・日を跨ぐ毎に狂っていく男

・末期で草

・瞳キラキラしてるのに発言が狂人


 僕はまともで正常だよ?

 ただ何と言うか……中途半端に失くす方が気持ち悪いじゃん。それならいっそのことコンプリートしてみよう、みたいな。

 って、そんなこと言ってる場合じゃないんだけどさ。


「思ったより底浅い!!」


 落ちた狼くんは、落下ダメージは避けられなかったものの、すぐさま回復して僕を睨む。

 半身が浸かっている状態で、身動きは制限されているみたいだけど、僕の狙っていた窒息は効果を及ぼすことはなかった。


 あれなら宝箱をサルベージできたかも。

 燃えていないなら、って話だけど。



コメント

・底が浅い……自分のことかな?

・草

・そういう意味じゃねぇだろw

・流石にあの巨体は入り切らないか

・てか、念願のマグマ風呂じゃんwww

・ホンマや、夢が叶ったなw


「僕は足湯じゃなくて全身入りたいの」


コメント

・溶けたのに足湯表現www

・全身とかドM極まりだな

・耐性鍛えてから出直してこい

・風呂に入りたいのかマグマに入りたいのか……

・後者だったら怖すぎて何もできねぇw

・《Sienna》凄腕の精神科医を紹介してあげるわよ


 ちらりとコメントを流し読みしながら、僕はマグマにプカプカと浮く。めっちゃ熱いけど。

 そもそも鍋だし、熱を通しやすいわけで。

 今もジュウジュウ熱されてるんだよね。僕はステーキじゃないから調理されるのは勘弁だよ。


 あと僕はまともで正常なんだって。

 

「……よし、もう一個中華鍋召喚!」


 再び中華鍋を召喚する。

 それをオール代わりにしてマグマからの脱出を図ろうとする僕だったけど……


「お、重い……」


 粘性が高すぎて全然動かない!!

 いや、少しは動くんだけど、本当に遅々としてるから狼くんに襲われたらジ・エンド。


 狼くんが今様子を窺っているだけなのか、それともマグマに囚われてろくに動けないのか。


 後者でお願いします。


「ワゥアァァァッ!!」


「ですよね動けますよねぇ!」


 誰だよ動きが制限されてるみたいだ、とか言ったの。

 僕だよ、ちくしょう!


コメント

・あんまり距離離れてないけど大丈夫かw

・今度こそ終わっただろ

・いや、動きは遅い!頑張れ狼くん!

・裏切ってて草

・時折裏切り者いるんよw


 流石に中華鍋でオール作戦は無理!!

 時間もそんなに無いし、バランスがちょっとでも崩れたら僕はマグマにアイル・ビー・バックだ。

 ただし二度と帰ってこない。


 オール作戦に代わる方法を見つけ出さねば……ハッ!


「ドキドキっ! 中華鍋で足場作戦ッ!」



コメント

・こんな状況でこいつは……

・何となく分かった

・成功のビジョンが見えねぇw


 リスナーの反応を見ることなく、僕は次々に中華鍋を購入して前方にぶん投げる。

 僕の歩幅を無計算で適当にやったら、中華鍋7個分の距離だった。


「せいっ、やっ、ほっ」


 一歩目、成功。

 二歩目、右足溶ける。ポーション回復。

 三歩目、左足溶ける。ポーション回復。

 四歩目、両足溶ける。ポーション回復。

 五歩目、バランス崩して右手が溶ける。無回復。

 六歩目、成功。

 七歩目、あかんミスってもうた。


「うぎゃぃっ!」


 陸まで後一歩のところで、僕は誤って中華鍋の縁の部分を踏んでしまい転倒してしまった。

 

 そんな僕を思わぬ形で救ってくれたのは狼くんだった。


 ──転倒し、あわや顔面からマグマポチャ。

 しかし、僕を足止めしようと火球を放った狼くんのお陰で、僕は火球に弾き飛ばされて陸に吹っ飛ぶことができた。


 僕の全身火傷と右腕と左足と陸に打ち付けられたことによる、色々複雑骨折を代償に。


コメント

・狼くんwww

・まさかの奇跡w

・やっぱあの犬畜生、知能低いわw

・噛み合った二人の連携プレー……これは相性が良い?

・噛むのは狼くんだけだろ。腕差し出す辺りWin-Winかもw

・草

・色々失ってらっしゃる

・あらー、レーティング 

・《ARAGAMI》www

・世界2位が言葉を失くした……!?

・笑いすぎてまともに文字打てないだけだろw


 かろうじて動く左手でポーションを《アイテムボックス》から取り出して飲む。

 復活を確認した僕は、吹き飛ばされた衝撃で手放したスマホを回収して叫ぶ。


「復活……ッ!」


コメント

・あー、はい

・すごいねぇ

・へー、やるやん


「淡白っ! 君たちは僕のリスナーならもっと面白く返せると思うんだ。この状況で世迷い言を言いまくる僕よりは学があるでしょ? まあ、人のピンチで酒飲むクズも一定数いるけど」


 アドレナリンがガンガン出てるから、若干テンションがおかしい節はある。それでも僕は信じてるんだ。

 リスナーが面白いことを言ってくれるって。


 ……いや、違うんだよ。 

 僕が欲しいのは有益な情報であって、漫才のネタじゃない。

 

コメント

・また世迷ってる

・なんか新たな言葉が創造されとるw

・何を期待してるんだよwww

・後ろ!後ろ!狼くん来てるってw

・なんの根拠で言ってんw

・酒うめぇ

・人の不幸は蜜の味なんだよな、やっぱり

・自分で前にドキュメンタリー番組って言ってたし良いだろ別にw

・過去の発言を切り取って免罪符にする揚げ足取りの天才

・それ、ただ小狡いだけなんよ


「ダメだクズしかいない。日本終わってる」


コメント

・お前を産み出した国、って時点でもう終わってる

・視聴者の7割外国人だけどなw

・層の厚さが違うからなぁ

・あと狼くんから逃げろよ

・後ろにいんぞ


 お、そろそろ狼くんがマグマから抜け出しそう。

 普通に動けるけど陸ほどのスピードはないし、毒に侵された今、撒くのはできるっちゃできる。


 サッサと逃げようとして、僕はふと立ち止まった。


 でも──本当にそれで良いの?

 逃げ回ってばかりで。

 策が失敗してしまった今、僕が取れる行動は限れているんだ。また逃げて何かを考える?

 それが上手くいかなかったらどうする?


 僕だって戦う勇気を見せつける必要があるんじゃないかな?


 

 僕は料理以外に使うことのなかったショートソードをスラリと引き抜く。

 

 狙うは眼球。


 確か多分、眼は脳に繋がっているはず。

 グサリとやっちゃえばいける。


コメント

・お?

・まさかやるのか?

・やめとけってw

・レベル50の攻撃力でどないすんねんw

・いや、待て見てみろよ世迷の目を。あれは………………何も考えてない目だ。終わったな

・草

・草

・草


 御名答。

 僕は初めて、逃げずに戦う勇気を持って狼くんと対峙する。

 情も愛着もない犬畜生。

 君には随分と手を焼かされた。

 でも、今度こそこれで終わりだ。僕が終わらせる。

 


「死に曝せえええええええええええ!!!!!」


 走る! 走る!

 鈍色に輝く剣刃を……剣刃ってなに?

 

 ……とにかく刃を眼球に向けて振るった。

 狼くんは、未だ完全にマグマから出ていないから半身が浸かっている状態にある。

 そのお陰で、この刃が目に届くのだ。


 

「……デスヨネー」


 ガキン、と音を鳴らして折れた僕のショートソード。

 悪い予想通りに僕の剣が阻まれた。もちろん、狼くんに傷ひとつもない。


 見つめ合う僕と狼くん。


「ほら、折れたお陰で包丁として使いやすくなった的な。君も怪我はないし、僕は包丁が出来た。Win-Winってことで手打ちに────グボェゥッ!!」


 

コメント

・即堕ち二コマ感

・安定の

・どこがWin-Winなんだよw

・頭突きされて壁にめり込んだァァァ!!

・ここでサクッと殺っちゃわない辺り、狼くんの知能の低さが窺える

・大丈夫だ!世迷にはギャグ補正がある!!

・しっかりポーション飲まんと回復しないけどな

・苦痛耐性のお陰で気絶できないという

・グボェゥは草

・《ARAGAMI》やはり君は必要な人材だ

・《Sienna》関わりたくねぇな

・《ユキカゼ》何してるの……?

・いつものお三方はこれまた三者三様の反応


 ポーション飲んで復活。

 多分全身複雑骨折してたから、時間経過で普通に死んでたね。血だらけだし。

 コメントの通り、僕を殺す絶好のチャンスで殺さないんだから、狼くんも僕と同じアホバカなんだね。良かったよ近くに同類がいて。


「いや、毒で思考ができない可能性もあるのか」


 少なくとも落ち着いて状況判断はできなさそう。

 間違いなく僥倖。吹っ飛ばされたのも距離が稼げた。



「さあ、第二フェーズだよ」


コメント

・今のところ全て失敗してるけど大丈夫そ?

・何で穴だらけの作戦を毎度自信満々に言えるのか謎でしかないなw

・そういう年頃なんだろ

・これ第一フェーズだったんか

・今北産業

・逃げる→崖から仲良く落ちる→マグマ風呂→助け合いながらマグマから脱出→喧嘩中

・おけ、把握

・捏造すんなよw

・第三者視点から見たらそれ程間違ってないのウケる

・ツッコミどころ多すぎるだろw





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