第21話 やったね!道連れだよ!
「思ったより速いな、狼くん」
僕には地図がある。
曲がり角で何とか差をつけられているけれど、それも時間の問題だ。というか狼くん、ホームグラウンドのくせに地形把握できてないのウケる。
コメント
・そういうお前は随分余裕そうだな
・漂うフラグ臭w
・もっと必死に走れよ
・てか、何すんの?
「必死に走ってるでしょッ! 見れば分かるよね!! 見て、この玉のような汗。努力の結晶ってやつだよ」
コメント
・余裕じゃねぇか
・軽口叩いてる暇あったら足りない知能を働かせろ
・発言全てが叩かれる炎上者(物理)
・草
・見て、じゃないのよw
余裕そうに見えるかもしれないけど、これはこれでキツイんだよ。
スタミナ切れたら終わるしポーションを時折飲むことで何とか撒けてはいるけど、さっさと行動に移さないと狼くんが毒から回復しちゃう。
「Bダッシュ!」
コメント
・ふざけるなって
・お前の辞書にシリアス、って言葉はないんか?
・通常ダッシュが黙れよ
ピンチに陥る度にリスナーが辛辣になっていく……!
僕だって真面目にする時は真面目にする……って前も言った気がするけど、絶望に染まった時こそふざけて精神を安定させるんだ。
というか誰が通常ダッシュだ。全力だよ!
そんなツッコミを心の中でしつつ、僕は後ろ手に迫る狼くんの叫び声と足音をBGMに、フィールド上に点在している岩の丘に登った。
例えるなら東尋坊。
ドラマで犯人役が追い詰められる崖のやつね。その高度を低くしたバージョン? 多分。
崖の下には煮えたぎるマグマがぶくぶくと音を立てている。
「待ちの姿勢」
僕は崖際で膝立ちをした。
コメント
・何してんの?w
・意図を説明しろよw
・待ちの姿勢、とかそういうセリフはどうでもいいw
「まあ、簡単に言えばアレだよ。……えーと、海水の陣? みたいなやつ」
ほら、あったじゃん。
後ろが危険で、ギリギリに陣形を組むことで力を発揮できる、みたいな故事成語。知らんけど。
コメント
・背水の陣な?
・全然ちゃうやんけwww
・噴いただろ、何で海水なんだよw
・海水の陣は草
・無知もここまで来たら滑稽だなw
・《ユキカゼ》……
・遂に喋らなくなったしw
待ってよユキカゼさん! わざとじゃないんだ!
……いや、わざとじゃなくて普通に無知だから呆れられたのか、うん、そうだよね。ダメじゃん。
「あ、狼くん来た」
ゆっくりと丘を登ってきた狼くんは、ようやく追い詰めたと言わんばかりに犬歯を剥き出しにする。
でも、あんなに凛々しかった顔面はピクピクと痙攣していて、酒に酔ったみたいにフラフラと足元が覚束ない。
「え、なんか目がイッちゃってるんだけど……こわ。可哀想に」
コメント
・下手人が何を言ってるんだよwww
・誰がやったと思ってる? お 前 だ よ
・悪意持って仕掛けてから「可哀想」のセリフはまさしくサイコパスが過ぎるw
・情緒も行動も言動も狂ってるんよ
・《ARAGAMI》恐ろしいもの見てる気分だね
・世界2位は引くどころか爆笑しそうなんだよなぁ……
・ある意味ガチ恋勢だろw
・ガチ恋勢は草
・愉悦趣味の間違いじゃねーかw
ここが正念場だ。
最早コメントを見る暇すらない。見ても有益な情報なんてミジンコもくれないから必要ないけどねェ!
「来いよ狼くん。ひと思いに楽にさせてあげる」
僕はあらん限りの優しい微笑みで啖呵を切る。
それが伝わったかどうか分からないけれど、狼くんはヨダレをベロンベロンに垂らしながら一直線に飛びかかってきた。
コメント
・菩薩のような笑み
・こ わ い
・狼くん表情がキマっちゃってる……
・知能が……!知能が感じられねぇ……!
・世迷の腕食った時点で知能なんてカスだろ
・浅はかなり……
・同じ空間にバカが一匹増えただけなんだよなぁ
・世迷も匹扱いで草
・せめて一頭、二頭にしてやれよ……!
・違う、そうじゃない
僕に向けて走る狼くん。
走って、走って、距離を詰める。
いざ、数メートルの距離になった時に、狼くんはジャンプをして僕に飛びかかってきた。
「ガルァァァァァァァッッ!!!!!!」
「それを待っていたんだっ!!」
別にジャンプしてこなくても作戦は成功してたけど。
毒で弱って、思考がおしゃかになった狼くんだからこそ仕掛けることができた薄氷ギリギリの作戦。
僕は飛びかかってきた狼くんの────腹の下をスライディング!
わざわざ腹下空けて飛んできてくれてありがとね!
頭上をひゅーん、と通り過ぎていく狼くん。
今君は何を思い、どんな光景を見てるんだろう。
多分マグマだけど。毒で苦しんでるし思考すらしてないと思うけど。
ま、全部僕がやったことだけどね!
「バカが! 知能も判断能力も失ったモンスターなんて、ただの獣でしかないんだよ! あはははっ!」
僕は確かな勝利の予感を感じたままハイになって叫ぶ。
腰辺りに感じるナニカの気配なんかに気づく訳もなく、僕は確定してない勝利の雄叫びを上げた。
そしてその僅か0.1秒後、グイッと強い力で引っ張られているかのような感覚が襲いかかってきて──
「─────え」
────気づけば僕は丘から真っ逆さまに落ちていた。
視界に広がるのは真っ赤な海。
そして今僕はこんなことを思っています。
拝啓、リスナーの皆様。
「調子に乗るんじゃなかった!!!」
コメント
・狼くん「お前も行くんだよッ!」
・尻尾でサラッと巻き添えにしましたねぇ……
・これが鮮やかなフラグ回収というやつかw
・《ARAGAMI》生きてたら盛大に笑うよ
・《Sienna》即堕ち二コマ
・あーあ、終わったなw
・反省して次に繋げよう
・次があるのか、これはw
・反省しても改善できない男
・〜完〜
・誰一人として心配してないの草しか生えん
・何とかなる。世迷だぞ?
・世迷だぞ、は世界一信用したらダメなのよ
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