第20話 やったね!釣れたよ!
『ニュース速報です。只今破竹の勢いでダンジョンが攻略されている件について、ダンジョン協会はSランク探索者の風間雪音さんではないか、と見解を示しています』
☆☆☆
「うげ、まだいるし」
再び洞窟の入口まで戻ってきた僕は、入口前で立ちはだかる狼くんを見てため息を吐いた。
またどこかに行ってると思ってたのに待ち伏せしてた。ストーカーかな? 僕のことそんなに好きなの?
コメント
・そりゃあんなことされたら見逃すわけないよなぁ
・当然の帰結
・めっちゃ睨んでらっしゃるw
「まあ、毒殺には都合良いかな? 変に居場所分からなくなるよりも近くにいた方がチャンスはあるよね」
コメント
・ノリと勢いでどうすんだよてめーはよ
・正確に口の中狙って投げられるならやれよw
・失敗したら二度と出られないね!
・そもそも本当に毒なのか分からない件
確かに試してないから毒かどうか分からないんだよね。
見るからに聖水的な何かにしか見えないけど、僕の勘が言ってる。多分きっとこれはメイビー毒だって。
「心配はご尤もだけど、僕には策があるんだ」
狼くんに安心して毒を飲んでもらうためにも、僕は一応策と呼べるものを考えてきたんだよね。無い知能を捻り出して、知恵熱が出るくらいに思考して。
そして僕はハッ、とアイデアが降りてきた。
「チキチキっ! 投げれないなら腕ごと喰わせれば良いじゃない。題して、腕で毒殺タイム!」
コメント
・何言ってんだこいつ
・また変なこと始めたよ。いつものことか
・珍しくニュアンスは伝わる。ただそれがアホなのは分かる
・あーね。狂ってんの?w
・お前この前好きで腕消費してるわけじゃない、って言ってなかったっけ?
・腕消費をコンテンツ化するな
・《Sienna》こいつ頭イッてるよ
・《ARAGAMI》相変わらず最高に狂ってて好き
・《ユキカゼ》あぁ……
ん? ユキカゼさんはどうしたんだろ。
シエンナさんとアラガミさんはいつも通りとして、この策は結構僕的にも良くできた方だと思うんだけど。
確かに腕を喰わせる、って一見エグめなドMに聞こえるかもしれないけど、確実に体内に摂取させるなら一番効率が良いと思うんだ。
「本当は毒殺前に『狼くんの纏ってる火で料理してみた』とか『狼くんとフリスビー(中華鍋)で遊んでみた』とか単発企画モノをやろうと思ってたんだけどね」
コメント
・本来の目的忘れてない?
・あくまで脱出が目的だよな??
・そこで配信者としての矜持を出す必要ないのよ
・……ちょっと見てみたいと思ったワイがいるwww
・クソ、知能を配信者の才能に全振りしたアホが
・《ARAGAMI》スパチャするからやってみないかい?
・もっとアホがおったwww
・唆られるなよ世界2位w
・享楽主義者で草
「いやぁ、やってみたいんだけどね。できない理由はまず高確率で死ぬことでしょ。後はなんかこれ以上狼くんの顔を拝みたくないこと」
コメント
・明確な理由とただの私情で草
・顔に嫌悪感を抱くようになったんかw
・だから飽きたとか言ってたわけねwww
・珍しくまともな理由だったw
・拝みたくないは草
目的は忘れてないよ、うん。
サッサと脱出したいからこそ、面白そうな企画を断念してまで毒殺するんだから。並大抵の覚悟じゃないよ、これは。
「僕のQQLを上げるためでしょ。目的は忘れてないよ……ふっ」
僕はどこかで聞き覚えのある言葉を活用して言った。
コメント
・QOLな?
・クオリティ・オブ・ライフだぞ?バカか?
・無知をドヤ顔で披露できるのすごい
・待て、クオリティ・クォーター・ライフかもしれん。四分の一の確率で四肢を失うことを示唆してる……!?
・深読みで草
・今のところ二分の一か二分の二なんよ
「ま、まあ知ってたけどね」
知ってるよ、QOL。昨今の社会情勢の……アレだよ、何かが問題になってどうこうしてるアレでしょ?
知らんけど。
と、に、か、く。
「いきなり腕差し出しても食べないと思うんだ。僕より賢い狼くんなら、何かを疑うのは当然だよね。だから、少しずつ懐柔していくのが良いと思うけど……」
念入りに火球飛ばして焼こうとしてる辺り、何かを狙ってることは明白だ。そもそも人間を食べるのかも地味に分からない。
モンスターは何を目的に人間を襲うんだろうか。
食べるためなら分かる。知能が高いなら、闘争心を満たしたいのも分かる。
けれど強者が一方的に弱者を甚振る。
狼くんはこれには当てはまらないと思った。
舐めプしてる頃はその線もあったけれども、本気になった今分からなくなったんだ。
コメント
・流石にお前みたいに得体の知れんものを食わんよな
・こら、道端に落ちてる物食べちゃダメでしょ!
・ゴミ扱いで草
・人間卒業おめでとう
・草
「幼気な純情青年を化け物扱いするなんて失礼な」
コメント
・幼気?純情?ハッw
・どこがw
・青年しか合ってる要素ねぇぞ
・すでに扱いが化け物
僕はただの人間なのに……。
ちょっと頭が弱くて無知で行動派なだけなんだ……!
「とりあえず僕に対する扱いは要相談として、一回試してみようかな」
休憩所として機能を果たす明確な境界線は入口付近。
そこまでは僕が絶対的な安全を有する。一歩でも出れば、そこは狼くんのテリトリーゾーン。
僕は狼くんの元へと一歩ずつ進んでいく。
「グルルルルルルゥ……」
近づけば近づくほど音量が大きくなる唸り。
地の底から震えるような唸り声に、僕は「またか」とワンパターンさ加減に苛立ちが恐怖を勝る。
「常にクリエイティブに生きてる僕なのに、君はちっとも改善しようとしないじゃないか。僕の両腕を消し飛ばした謎の攻撃は目新しさがあったけど、結局は火球しか飛ばさないし」
グチグチと文句を吐きながら、僕は右の手のひらに小瓶を握りしめる。
青色に透き通る液体に僕の命運を賭けた。
僕はニコリと笑って右手を洞窟の外に出した。
「ほら、たんとお食べ」
コメント
・だーかーらー感情の落差ァ!
・最早怖さが勝った
・どんな目線でお前は語ってんの?w
・笑顔は殺意を隠すため、ってどっかで聞いたんや
・笑う度に恐慌を引き起こすアホの言葉
・お前もう笑うな
・てか、流石に食わんやろ
・狼くん警戒しながら見て……
・口を大きく開けて……
・《ARAGAMI》いったァァァ!
・《Sienna》日本には類は友を呼ぶ、って言葉があると聞いたわ
「あ、本当に食べるんだ!?」
サックリと逝った右手に合掌しながら、僕はポーションを飲んで復活した。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ゛ッ゛」
その間に目の前で白目剥きながら悶えてる狼くんがいた。
「ねえ、君バカなの?」
コメント
・否めない
・お前に言われたくない、と言えない程のバカさw
・呆気ねぇw
・やっぱ毒だったんかいw
やはりモンスターはモンスター程度の知能しか持たないんだね……。
と密かに冷笑する僕は、休憩所から出て悶える狼くんを観察する。
背中を地面に付けてジタバタする様子は傍から見てもバカ丸出しで、僕は知能で初めて優越感を覚えた。
と、同時に嫌な予感。
悶えてから結構経った。
5分? 10分?
「ヤバい狼くん死なない……ッ!」
「グルァァァァァァァッ!!!!」
大気を震わせる叫び声が響いた。
その瞬間に僕は脱兎のごとく走り去っていたけれど、追いかけてくることはもう分かった。
コメント
・何で休憩所に逃げないの!?
・どこ行くんお前!
・《ARAGAMI》いや、正解だ。毒で一応弱っている今、倒すにはこの瞬間しかない。猶予を与えると体内で毒を分解してしまう。そうなれば、攻撃力の持たない彼が倒すことは不可能に近いだろう
・《Sienna》私も同感よ。幸か不幸か、本能か。知らないけれど彼は無意識に正解を選び取ったようね
・《ユキカゼ》筋道を整えれば……いや、難点は決定打
・上位勢による珍しき真面目な解説
・そうなんか
・多分あいつは何も考えてないけどな
ごもっとも。
とりあえず逃げなきゃ、って体が勝手に動いてた。
「────現状維持がこれ以上ない逃げなのは分かってる。僕はそれが嫌だ。ピンチなのは元から変わってないし、やるべきことはやった! 今この瞬間に運命を変えぶっ」
噛んだ!!
「走ってる最中に長文喋るの無理!!」
コメント
・うーん、この世迷感
・絶望をコメディに変える異能力
・世界一いらないがw
・格好つけようとするから……
「うるさいな。憧れてるんだよ、そういうセリフ」
言えなかったけどね!!
なんて茶番劇を繰り広げてる間にも、千鳥足で狼くんが追いかけてきたのが後ろ目に確認できた。
フラフラして今にも倒れそうなのに、その速さはレベルアップした僕の身体能力よりも遥かに速い。
──たまーに役に立つ意見を挙げてくれるリスナーもいるんだ。
実践、させてもらうよ。
僕はスマホで作った地図を開く。
コメントも見れるように小さい画面で。部分的な二窓状態だね。
「やるよ」
コメント
・格好つけんな
・どうせボロ出るんだから
・黒歴史増やすだけだぞ
・やるよ……ガクガクブルブル
・草
コメント見る必要あるかな、これ。
ーーー
【速報】狼くん、主人公に匹敵するアホだった。
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