第19話 やったね!毒だよ!

「そろそろ飽きた」


 起床。

 ご飯食べた後に寝て、今は転移生活4日目。

 自分で起床と就寝選べるから、結構怠惰な生活を送っている節がある。代償が腕だけどね。

 

コメント

・何に?

・何がだよ


「今、4日目だけどさ。同じ環境に身を置きすぎたなぁって。一日が探索、腕消費、鬼ごっこ。以上。狼くんの顔も良い加減見飽きたよね」


コメント

・腕消費を一日のルーティンにすな

・視点がリスナーなのなんなん?w

・環境(間近に死)

・草

 

 何なのかな。

 どうせ見てる人が沢山いるなら楽しんでもらいたいじゃん。自己犠牲精神とかそんな高崇なモノは一切持ち合わせてないけど、僕も死なずにリスナーも楽しめる。Win-Winだね!


「まあ、そろそろ狼くんを倒しに行きたいな、って」


コメント

・算段は?

・何か策でもあるわけ?

・狼くんリストラされるのか……

・草


「え、策? あるわけないじゃん、そんなの。だから君たちに聞いてるんだよ? あるならもう行動してるしね」


コメント

・さも当たり前みたいな顔で何言ってんだこいつw

・これぞまさに厚顔無恥w

・厚かましさの見本市がおる

・一階層に恥を置いてきたんか

・策があってもガバがあるだろお前の場合


 僕のカス頭脳で導き出した策。

 確証も無ければ実験もできない危うい策。良い加減リスナーに言っても良いかもしれないけど、また馬鹿にされることは目に見えてる。

 土壇場でやって驚かすのも面白いかも。


「とりあえず、調味料の類は有効なことが分かったね」


 まさかあんな可愛いくしゃみをするとは思っていなかったけど。あれは少しあざとくないかな? 狙ってる?

 

 他の調味料で使えそうな物は……


「ラー油、七味、酢……かな。犬に食べさせたらダメな物とかは、あの巨体だったら毒にならなそうだし」


コメント

・その辺りが有効か

・攻撃はどうすんの?w

・ダメージ与えられなくない?


「いや、本当にね。攻撃手段がないんだよ。目にショートソード突っ込んで抉り取るって方法も考えたけど」


コメント 

・えげつないw

・絶対に飯時にやらないで欲しいわW

・眼球もそれ相応の耐久力があるだろうし、無理だな 

・《ARAGAMI》あの手に入れたポーションが毒ならば可能性はあるね

・見る限り毒だけどどうなんだろw

・つくづく邪道だけどそうも言ってられねぇか

 

 宝箱から手に入れたポーション。

 毒々しい紫色と透き通るような青色。どっちが毒かなんて一目瞭然だし、確かに狼くんを毒殺するのは有効な手立てかもしれない。

 でも、


「毒か……さすがに可哀想じゃない?」


コメント

・おま、それ言う?

・散々邪道進んできたくせに今更????w

・ボックスくんをどうしたか思い出せよ

・窒 息 ッ !

・可哀想とかwww

・憐憫とかお前に持ち合わせない感情かと思ってたわw


「情の一つや二つくらいあるけど!? 僕のこと何だと思ってるのさ、まったく」


 あ、でも僕のこと殺そうとしてる狼くんに情が湧く理由がないよね。


 うん、毒殺しよっか。


「もう、それはそれは苦しませて毒殺しよっか」


コメント

・この一瞬で何があった?

・サイコパスだろお前

・もう分からねぇ。思考も行動も言動も何もかもが理解できない……もうこいつ人間じゃねぇよ

・ボロクソで草

・ここまで言われるのも否めないw

・《ARAGAMI》おもろ

・おい元凶

・毒を吹き込んだ世界2位がよぉ

・凶器をもたせると人ってこんなに変わるんだな

・いや、草


 4日で僕のことを完全に理解できるなんて思わないでよね!


「大丈夫。僕の家族も友達も僕のこと理解できないから」


 理解できるのはいつだって自分だけ。

 他人に理解されようと振る舞う必要性を感じないし、理解できないことをわざわざ押し付けてまで理解させるのは違うでしょ。


 別に僕の隠された闇……! とかじゃなくてね?

 持論だけど、自分の心の底を暴かれることほど怖いことはないと思うよ。


コメント

・いや、でしょうね

・理解できてたらこんな怪物になってないって

・家族もなんかw

・満面の笑みなの何でなん?www

・真似したくないけど考え方は同意できる


「誰が怪物だよ」


 か弱くて儚い人間だけど。

 むしろ弱すぎてそろそろ腕のもげた回数が二桁を突破しそうまである!


 僕はそこで思考を打ち切って、狼くん討伐作戦の話に戻った。


「じゃあ、第一案は毒殺ってことで、まずは例の物が本当に毒か検証してみよっか」


 僕は《アイテムボックス》から二つの小瓶を取り出す。

 相変わらず紫色の小瓶は、少しドロっとしていて見るからに毒です、と言わんばかりに存在をアピールしている。


 一方の透き通るような青色の小瓶は、光に反射してどこか幻想的な雰囲気が感じられる程だった。

 グレートバリアリーフ的な海の色とはまた違う綺麗さがある。


コメント

・検証とは

・あれ、これまた例のパターン?

・嫌な予感しかしない

・信用ゼロで笑える。さすがにそれはないだろ

・まあ、これはな?


 コメント欄が少しざわついている。

 うん、僕もそこまでバカじゃないからね。


「分かってるって。僕のこと見くびらないでよね。──ほんの一舐めだから」


 僕はきゅぽんと蓋を外すと、指先にドロリとした紫色の液体を付けて────舐めた。


「──うっ」


コメント

・分かってねぇじゃん!?

・バカなの!?バカだよ!?バカだろ!?バカァ!!

・ほら言わんこっちゃない

・死因。毒の毒見

・毒の毒見とはw


「……まっっっっず!!!」


 うへぇ、口の中がもう言語化できないレベルで気持ち悪い。


コメント 

・あ、生きてた

・不味いで済むんかw

・草

・相当お顔を歪めてらっしゃる


「何だろう。苦いと思ったら酸っぱくて、かと思ったら辛くて。次に吐き気を催すくらいの甘さがくるんだ。エグミと苦味の成分が凝縮されてて……これは健康に良さそう」


コメント

・そのレベルまで行ったら良薬口に苦しちゃうねん

・とにかく不味いのは分かった

・どうして最後のセリフに繋がるんだw

・形容し難い味なのね


 リスナーのツッコミがどんどん刺さる中、僕は水をがぶ飲みすることでようやく口の中が落ち着いてきた。

 後味が悪いせいで今にも吐きそう。


「最初からこれは毒じゃないと思ってたんだ。今までのパターン的に、危ないと思ったものが大丈夫だったり、大丈夫だと思ったものが危険だったり。天邪鬼なダンジョンだからこそ、これは毒じゃない、って判断したんだよ。リスナーの一人が」


コメント

・お前じゃねぇのかよ!

・少しでも知能が上がったと思ったら下げてくる

・納得だ、って頷いてたのが馬鹿らしいわ

・《ユキカゼ》納得だけどなぜ舐める……?

・そ れ な

・予想信じすぎ定期


 実は宝箱から毒々しいヤツが出てきた時に、コメントに今言った予想が書かれていた。僕も経験からして納得できたことだし、毒なら毒でポーション飲めば良いや、って。


「落ち着いてよ。ポーション飲めば毒なんて治るでしょ?」


 

コメント 

・状態異常はポーションで治んないぞ



「え」


コメント

・こいつ知らなかったな……?

・新人講習寝てた弊害が再び……!

・結局自業自得で草

・やっぱり学習しねぇなァ!!

・知らなかったは死んでからじゃ通じねぇぞw

・草


 マジかぁ……。そうなんだぁ……。


 僕は無理やり笑顔を使って親指をグッと立てた。


「結果オーライ!」


コメント

・誤魔化すな

・結果、な?

・無知は恥ずかしいでちゅね〜?

・恥ずかしい指摘された今の気分は?ねえ?


「うぜぇ!!」


 今のは、というか今のも僕が悪いけどさァ!

 言い方ァ!!


 ……というかもう一つの小瓶が毒なのか確かめようがないんじゃ……。

 

 あ、狼くんで実験すれば良いのか。

 倒せたらラッキーってことで。


「よし、狼くん毒殺計画の開始だよ!」


コメント

・これで倒せなかったら詰むんだよなぁ

・なんつー物騒な計画名

・で、どうやって飲ませんの?


 こうね……グッと、バッと。なんかね。


「ノリと勢い」


 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る