第17話 やったね!珍しくうまく行ったよ!

「──罠無しでまた変なポーションか」


 地図を埋めながら最南端に辿り着く。

 丁度僕が転移してきた近くに金色の宝箱があった。灯台下暗しってやつだね。

 そんなわけでサクッと四肢チェックを挟んで開けると、そこには透き通るような青いポーションが入っていた。


コメント

・即死系の罠に当たってない時点で割と運良いんだよなぁ

・そのうち四肢チェックが即死チェックになったりしてw

・そうなったらもう手の施しようがないだろwww

・今度は毒っぽくないな

・何で本当に鑑定は無生物に効かないんだよw


 いや、本当にね。

 《鑑定》って名前しておいて盛大な詐欺だと思うんだ。 

 今のところ狼くんに対してしか使ってないし、正直死蔵してる。

 これも全て《アイテムボックス》が便利すぎるのがいけないんだ……!


「まあ、効果分からないし仕舞っておくかな。大体地図は埋めたし、そろそろ戻ろっか」


コメント

・戻ろっか←狼くん歓喜

・その先は地獄だぞ

・元から地獄定期

・よく笑顔で言えるな、こいつw


「選択肢がそれしかないんだから仕方ないでしょ」


 フィールドをいつまでも彷徨ってたら、痺れを切らした狼くんに急襲されるのは流石に僕でも分かる。

 そうなったら、二度目は逃げ切れない。

 レベルアップして身体能力が上がったからって、あのレベル差じゃ雀の涙だよ。


コメント

・結局休憩所はあそこしかないみたいだしな

・情報集める度に絶望しかないのなんなん?w

・大丈夫だ。こいつは何があっても悲観しないwww

・謎の信頼w


 僕はコメントを眺めてふむ、と唸りながら言う。


「悲観ねぇ……。クヨクヨしてたって状況が好転するの? 誰かが助けてくれるの? 自分の思い通りになるの? ……違う。そんなわけないよね。どうにもならないから現状を受け入れるしかないんだよ。そうやって生きていくしかないんだから」

  

 どうしようもない時って、立ち止まるか足掻くかの二択だと思う。現状に絶望して、どうせ無理だと決めつける。立ち止まって、絶望に喰われるんだ。


 僕はそうはなりたくない。

 死ぬにしてもやり通してから死にたい。何にもしないまま生を終えるなんて絶対に嫌だ。

 だから僕は立ち止まらない。立ち止まるわけにはいかない。


コメント

・おう……初めて感心したわ

・芯は持ってるんだよなぁ

・だから安心して見ていられる

・やるやん


「リスナーが……デレた!?」

 

コメント

・前言を撤回するわ

・やっぱ感心してねーわw

・すぐ調子乗るんだからよwww

・デレる要素なんて1ミリもないが?


 ツンデレかな? 随分ツンが激しい上に、デレたと思ったらカウンター仕掛けてくるけども。悪辣だなァ!

 僕はやれやれとため息を吐く。


「まあ、良いよ。僕にシリアスは似合わないし」


コメント

・自分で言うのかよw

・コメディ色が強すぎるんだよなぁ

・腕を嬉々として失くしに行く奴にシリアスが似合うわけないんよw

・素でボケる男

・存在がギャグ


「存在がギャグ!?」


 君たち本当に好き勝手言うよね。


 思いっきりご飯時にエグいグロシーン見せてやろうか。


「立ち往生してるわけにもいかないし、進みまーす」


 僕は細やかな報復を構想しながら歩みを進めた。

 目的地は休憩所。

 三度目となる狼くんとの対面だ。


 



☆☆☆


 心拍音が徐々に上がっていく。

 僕が狼くんに近づくと必ず起きる現象なんだけど、本能的に恐怖を感じているのか、はたまたトラウマを植え付けられているのか。


 ま、どうでも良いけどね。

 そんなの無視すれば大丈夫だし。


 再び戻ってきた休憩所近くの岩陰で、僕はそんなことを考えていた。


「うん、やっぱりまだいるね。あの様子だとしばらくは待ってそうだけど」


 休憩所までは約50mほど離れている。

 どうもバレていて泳がされてる気がしないでもないね……。あれだけ嗅覚が鋭いならその線もあり得る。


コメント

・賢いなぁ。お前と違って

・ちゃんと考えて動いてるなぁ。お前と違って

・体の大きさとか利用して計画してるな。お前と違って

・お前と違って


「君たちどっちの味方なの? あと、お前と違って、の単発利用はどういう意図があるわけ?? いや、僕をバカにしてるってことはふんだんに伝わってくるんだけど!!」


 分かってるよ! 僕よりモンスターの方が賢いことは!

 だから僕より頭良いことしてる、って言ったしね。認めるべきところはちゃんと認めてるよ。

 僕の首は永続的に締まってるけどね。締めてると言っても過言ではない。多分。


コメント

・草

・小声で怒鳴る、という器用なことをしてらっしゃる

・《ユキカゼ》応援してる

・純粋に優しいのユキカゼだけだなw

・ある意味被害者だもんな


「おぉ……! ユキカゼさん、ありがとうございます! 頑張りますよ!」


 ユキカゼさんの応援は百人力だ。

 アラガミさんもシエンナさんも面白がってる雰囲気の方が強いから、どうも素直に感謝するのは癪なんだよね。

 ユキカゼさんだけが僕の癒やしだよ。


「さて、やる気も出たことだし使うよ」


コメント

・お、ちまちま作ってたやつ使うのか

・まあ、狼くんと会った時用だもんなw

・どうせ会うだろうなとは思ってたけど


 僕も何となくそう思ってた。

 僕がバカだっただけだけどね! 自虐最高!


「──では、これより世迷よまい言葉ことはによるチャレンジが始まります。実況は僕、世迷と、解説は僕、言葉が務めさせて頂きます」


コメント 

・!? 

・急にどうした定期

・また変なことやり始めた

・真面目な場所でふざけないと死ぬ病にでも罹患してんのかお前は

・どっちも同一人物じゃねぇかw


 真面目な場所でふざけないと死ぬ病、ってのは否めないかも。厳粛な場では我慢するけど……こう、ウズってするというかね、うん。

 僕はリスナーのコメントを無視して続ける。


「どう思いますか言葉さん。……ええ、そうですね。一見絶望に思えるかもしれませんが、チャンスはあると思いますよ。果たして彼の足りない頭でそれを導き出せるか。そこが勝負の鍵を握っていると思いますねぇ」


コメント 

・サ ラ ッ と 自 虐

・い つ も の

・何がしたいのか分からんw

・誰にも分からんよ

・ちょっとそれっぽいのやめろw


 僕は徐ろに中華鍋とを取り出す。


「おおっと、中華鍋を召喚しました! これは、恐らく狼の火球を耐えるための防具でしょう! ……悪い手ではないと思いますよ。彼にしてはよくやった方ではないでしょうか。熱耐性と耐熱中華鍋の二段構え。どうなるのか見物ですね」


コメント

・行動の意図を遠回しに説明してるの草

・一人称で三人称っぽく説明……あれ、分かんなくなってきた

・草

・持ち手の部分が熱いんだよなぁ……w

・ポーションで何とかなる


 そのコメント通り、僕はポーションを口に含む。

 これで実況、解説は封じられてしまったけど、元からただふざけたかっただけなので問題はない。

 

「ふぃふぼ!(行くよ!)」


 掛け声と同時に僕は岩陰から飛び出す。

 休憩所までは直線距離。当然すぐに狼くんは僕の存在に気づき、ようやく来たかと言わんばかりに口元を歪めた。

 一階層、ひいてはユキカゼさんの配信では見なかったモンスターの自我。流石知能が僕より良いだけある。


「────グラァァァァ!!」


 早速挨拶と言わんばかりに火球が飛んでくる。

 うーん、敵ながらナイスコントロール。


「────ッ!!」


 なんて言ってる場合じゃない、ね!!

 

 中華鍋を通して伝わってきた衝撃に、たまらずつんのめる。同時に堪らないほどの熱気と痛みが体全体に生じた。

 それでも防御できた! と、根気を入れて倒れかけた体を何とか元に戻す。

 

 中華鍋を持っていた手は、すでに焼け爛れていて『うわぁお』と心の中で悲鳴を上げるくらい状態は酷い。

 うわぁお!!


コメント

・威力やっば

・紙防御の世迷が受け止めた!!

・すご!!

・めっちゃ手がグロいことになってるw


 まあ、まだポーションを使うわけにはいかないけどね。

 この程度の怪我で音を上げていたら、この先は絶対に生き残れない。



 その間に縮めた距離は30m。

 残り20mほどになって狼くんのデカさが身に沁みて分かる。

 例えるならばビルの3階くらいの大きさ。

 僕が出会ってきた生物の中で一番巨体なのは言うまでもない。


「ラァァァァッ!!」

 

 火球を受け止められたことが不服なのか、性懲りもなく何発も火球を放ってくる。

 一発で結構な被害受けてるのに、そう簡単に撃ってくれちゃってさァ!


コメント 

・ヤバ!

・めっちゃ撃つやん

・狼「一発ずつなんて誰が決めた?」

・実際そんなこと思ってそうw


「──ぐっ」


 噛み締めた口元から声が漏れる。

 受け止めた!! 走りながら何とか受け止めた!!


 でも、消失しかけた腕に中華鍋を握る力はもうない……から今がポーション!


「復活!」


 スマホを見る余裕なんて当然ないから、どんなコメントが来ているかは分からないけど、どうせ草生やしながら盛り上がってるんだろうね!!

 

コメント

・復活、って毎回言わんとダメなん?w

・曲芸無しのポーション回復、だと……?

・それが普通なんよ

・世迷に間接的に感覚を狂わされてるワイら

・もう普通の配信じゃ満足できねぇんだ……!

・末期で草


 なんか嫌な予感した!!

 まあいいや、それどころじゃない。


 その間にも狼くんは次のモーションに入っていた。

 

 しかし今は、狼くんの爪や牙がギリギリ届かないセーフティゾーン。

 必然的にまた火球を撃ち放つことは分かっている。


 だからこその──今ッ!


「そいやっ!」


 僕は、手に隠し持っていたヒビの入った小瓶を投げつけた。


コメント

・気が抜ける掛け声やめろ

・そいや、じゃねぇのよw

・ナイスコントロールw

・マジで鼻に当てやがったw

・勝負運だけは強いんやな


 鼻に当たった小瓶は、割れて中身を盛大に飛び散らかす。


「ワゥッ!? ば、ば、バゥッシュ……ッ!!」


「犬のモンスターにはセオリーだよね」


 大きなくしゃみをした狼くんにケラケラ笑いながら、動きを止めた隙を狙って、僕は休憩所に戻ることが叶ったのであった。


 てか、バウッシュって。


コメント

・うおおぉぉぉ!!!

・やりやがった!!

・マジで成功したし!!

・まさかショップの調味料が役に立つとはなw

・狼くんのくしゃみが草しか生えんw

・ちょっと可愛かったわw

・最後スライディングで狼くんの股下通ってったなw

・走りながら胡椒を鼻に投げつけて……正確にくしゃみしている間に股下をスライディングして通り抜ける……やっぱり曲芸では???





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分かりづらくて申し訳ないですが、擬態モンスター及び無生物(アイテム等)は鑑定できません

だからこその四肢チェックです(造語)

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