第16話 やったね!アイテムゲットだよ!

前半はインタビュー形式の番外編です。

後半から本編があるので、飛ばしても構いません。


ーーーーー


『今週のエンタメ情報です』


『世界的に注目を集めているダンジョンの転移事故。今回は被害に遭われた世迷よまいさんの知り合いの方々にインタビューしてきました』


『始めに、世迷さんの母親である世迷よまい美智子みちこさんの取材です』


 息子さんが被害に遭われたということで、大変心配されているかと思いますが、お気持ちを聞かせて頂いてもよろしいでしょうか?


「あー、いつかやらかすとは思ってたね。あの子はね、見てれば分かると思うけどアホなのよ。底抜けのアホ。運が悪いとしか言いようがないんじゃない? ……まあ、実の息子の腕がスパスパ飛んでるの見たら気が気じゃないのは確かさ。でも、あの子はバカでアホだけど生命力だけは高い。信頼もしてる。きっと何とかなる、って意味では然程心配してないかね」


 な、なるほど。

 その、随分豪気な方、といった印象を感じますが、息子さんは……その


「あぁ、気を使わなくて良いよ。息子のアホは父親譲りだからね、ははっ。アホは手綱を握れば簡単なんだよ。あの子にそういういい話は聞かないのが唯一の心配かもしれないね。あっはっは!!」


 あ、あはは……今回、美智子さんから是非顔出しで、と強い勧めがあったと聞いております。それについてはどのような意図があるのでしょうか。


「息子が全世界に恥を知らしめてるんだ。母親のあたしが顔出しくらい渋ってたら、生きて帰ってくる息子に顔向けできないよ」


 ……ありがとうございます。

 

『形は違っていても母親の深い愛情が伝わる取材でした』


『では続いて、世迷さんのご学友のインタビューを紹介します』


 今回の件についてどう思いますか?


「んあー、なるようになった、的な? 世迷は、ほら、愉快な性格してっから割と影で人気あんだけど、転移事故起きた、ってニュースが学校にいる間流れてきてさ。もう、全員爆笑。そりゃ心配もあるけど、それよりも遂にこいつはデカイことやらかした、ってのが強いなぁ。とりあえずさっさと帰ってきてほしいな」


「私、世迷くんとは隣の席なんですけど、観察していて結構面白い人なんですよね。普段は普通の人ですけど、いきなり突拍子もないことをするんです。それがもう面白くて。転移事故があった、って聞いた時も世迷くんなら何とかするでしょ、としか思いませんでしたね。え、配信ですか? あぁ……レーティングかかるのであんまり見てないですね。応援はしてますよ」



『信用……? 信頼……? されている? のでしょうね、ハイ。担任の方にもインタビューをしました』


 普段、世迷さんはどんな生徒なのでしょうか?


「うーん、世迷は成績も悪くありませんし、人に迷惑をかけるような人でもないですね。ただ……担任という立場で正しい発言ではないと思いますけど、すこぶるアホです。でも、クラスを明るくしてくれる存在だと思っています。彼のことは担任としても一人の人間としても、行く末が気になります。配信ですか? はい、仕事が終わったら必ず見てますよ。ビーr……おつまm……ごほん、しっかり大人として見守っていこうとね、はい」


 ありがとうございました。



『以上が取材でしたが……意見はどうあれクラス内でも人気者だったようですね。ダンジョン研究家の赤城あかぎさんは、どうお考えですか?』


『そうですねぇ。彼がここまで注目を浴びているのは、ただ単に未踏破地帯で遭難しているからではありません』


『と、おっしゃいますと』


『彼が一躍脚光を浴びたのは、配信者として面白いことが理由にあるでしょう。一軒絶望に思えるシーンでも、クヨクヨせずに探索している姿は非常に人気があるようです』


『私も拝見させて頂きましたが、確かに何というか凄まじいと言いますか』


『ええ、今後の行く末には目を離せません』


 ニュース《アイマイミー》から一部抜粋








☆☆☆


「クシュンっ! なんか噂されてる気がする」


コメント 

・自惚れ乙

・地上波で流れてるんだし噂くらいされてるんじゃね?w


「噂されてるにしても醜聞として伝わってると思うんだ」

 

 三日目の今だけど、まだまだ注目は集めてるみたいだ。

 世間的にそろそろ飽きる頃だと個人的に思ってるんだけど、何が注目の原因になってるんだろ。

 やっぱり未踏破地帯、ってブランドかな?


コメント

・醜聞は草

・自分がしてる行為の愚かさについては理解してるのか…

・理解してコレw

・で、そろそろ現実逃避から戻ってくれば?


「現実逃避とか言わないでよね。僕はただ目を背けたいだけなんだ。本物の宝箱をマグマに沈めた、なんてまさに醜聞をね……ははは」


コメント

・それが現実逃避って言うんやでw

・目が死んでるしw

・草

・草

・切り抜き確定だったな

・まだ間に合う!サルベージだ!

・無駄で草


 マグマの深さが分からない以上、すくい上げることは不可能に近い。

 僕がマグマに沈んだ場合、僕の命がサルベージされることはないんだよね。そこのところ分かってほしい。


 あぁ……本当に何で沈めたんだ。

 確かめる方法は幾らでもあったのに。


「四肢を犠牲にしていれば……。いや、だめだめ。後悔先に立たず。沈んだことは忘れて次に行こっか」


コメント

・四 肢 を 犠 牲 に し て い れ ば

・並大抵の覚悟じゃねぇwww

・だからスナック感覚で腕消費すんなよ

・《ARAGAMI》ふと思った。東、西に宝箱があるということは、北と南にも宝箱がある可能性はあると思うんだ。周辺を探索したら向かってみることを提案するよ


「確かに……」


 丁度休憩所と真反対の位置がここ。

 真東と真西に宝箱がある、と仮定するからば北と南にあってもおかしくない。

 これは再び手渡された希望だ。


「ありがとうございます、アラガミさん。地図の空白埋めるためにも行く予定だし、宝箱に注意を払ってみようかな」

 

 どんな意図で宝箱があるのか分からないけど、それが探索者にとって有利なモノであることは間違いない。擬態モンスターについては憎いけど。

 

「正直、武器防具について期待はしてないけど、何か光明が拓ける物が欲しいよね」


コメント 

・運を見放した男

・見放されてるんじゃなくて自分から捨ててるからなw

・諦めろ。無理だ


 運だけじゃなくてリスナーにも見放されてるからね!

 

 ボロクソコメントを流し読みしながらひたすら歩く僕。

 地図が埋まっていくことに達成感を覚えつつ、僕は北の方角に向けて歩いた。


 この階層の直径は、リスナーによると3キロくらいらしい。僕的には広いなぁ、って思うけど、中層にはもっと広いエリアがあるみたいだ。

 

 時折警戒しながら歩くこと十数分。


 僕は銀色に光る宝箱を発見した。


「本当にあった!! はい、では四肢チェック入ります! はい! 欠損あり! ──いってえええええ!!」


 コミカルに進めようと思ったけどやっぱり痛かった。

 でも、今回は痛いには痛いけど、感じたことのない種類の痛みだった。

 何ていうか刺激痛?

 

コメント

・四肢チェックは草

・い つ も の

・欠損あり!じゃねぇのよwww

・なぜ企画っぽく言ったw

・あれ?でも溶けてない?擬態じゃなくて罠じゃね

・本当だ。ドロってしてる


 恐る恐る断面を見ると、お見せできないレベルでドロリと溶けていた。

 僕はダンジョンの神秘を感じながらポーションを飲んだ。


「本当だね。溶かすタイプの擬態モンスター? それとも罠? 罠解除持ってないんだけどさ」



コメント

・相変わらず鬼畜設定してるよな、ダンジョンってw

・罠感知持ってても罠解除無きゃ開けられないというw

・《ユキカゼ》酸の罠。見つけたらスルーが基本


「……ふむ。でも宝箱なんだよね?」


 わざわざスルーするとかさァ……勿体無くない?


 折角発見したのにスルーとかつまらなくない?  

 それは僕の沽券に関わる。


「良いこと思いついた」


コメント

・嫌な予感したの俺だけ?

・また突拍子もないことするんやな、って

・悪いこと思いついたの間違いだろ?w

・さてさてさーて


 ふふふふふ、いつもの僕と思わないことだね。


 僕だって思考したよ、ちゃんと。

 罠って接触型でしょ? 触ったら発動しちゃうんだ。

 でも、何か布で覆っても布ごと溶かされるし、道具を使って遠隔で開けるのも僕の技術じゃちょっと拙い。


 僕にできること、使えることは一つでしょ?


 僕はポーションを二本取り出す。


 一本目は口の中に含ませておく。

 これだけじゃ2段階目の罠でどうしようもなくなる。


 だから、二本目のポーションの蓋を外して、瓶ごと口に咥える。

  

 そう。

  

 かの織田信長は、連射性に欠ける火縄銃を『三段撃ち』という手法を使って事実上の連射を可能にした。


 それと同じだよ。多分。


 誰がポーションは一本ずつ、なんて決めた?


 名付けて『ポーション二段飲み』。



「ふぃふぼ!(行くよ!)」


 僕は颯爽と宝箱に手を伸ばす。

 触れた途端に発射した酸によって、僕の両腕はドロリと消えた──と同時に口に含んだポーションを飲むことで即座に復活。

 宝箱の開ける蓋に手を添えて、あらん限りの力を込める。


 浮き上がる蓋!

 発射される酸!


 宝箱の蓋の隙間に右肩をねじ込み、顔を傾けることで2個目のポーションを飲み両腕が復活。


 ねじ込んだ右肩と復活した左腕を使って、僕は宝箱を開けることに見事成功したのだった。


コメント

・はい、曲芸

・サーカス団の団員募集してます?

・まーた変なことやってるよ

・《ARAGAMI》笑いすぎて顎外れそう

・《Sienna》丁度戻ってきたらエグい一連の動作見せられたわ。腕のいいサーカス団を紹介するわよ

・《ユキカゼ》おぉ……


「少しは褒めてくれても良いんじゃない?」


コメント 

・すごーい

・わー

・へー

・すぎょーい


「君たち人の心をどこに捨ててきた?」


コメント

・ゴミ箱


「うるせぇ!」


 叫んだ。

 妙な達成感と、リスナーのクズさに呆れる心情が折り混ざっている。これが労働か……。


 とりあえず僕は、宝箱の中身の検分をすることにした。


「はぁ……。中には……ポーション? めっちゃ毒々しいし」


 中には僕の愛するポーションと全く同じ形の小瓶が入っていた。

 ただ違うのは中身で、愛するポーションが鮮やかな緑色だとすれば、宝箱に入っていたのは毒々しい紫色。


「毒薬にしか見えない」


コメント

・それな

・飲め 

・飲もうぜ!!

・イッキ!イッキ!


「いや、流石に飲まないよ!? 人間が飲める色してないじゃん! なんかドロっとしてるし……腐ってるんじゃないの?」


 明らかに毒だと分かるモノを飲むバカがどこにいるのさ……いるよ、そうだよ、僕だよ!

 飴に関してはノーカウントでお願いしたいんだ。


「とりあえず保管」


 紫色の液体が入った小瓶を《アイテムボックス》の中に入れて、僕は気持ちを切り替える。


「次は南だ」


 




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