第15話 やったね!運がないよ!

「また腕か! ワンパターンは配信映えしないでしょ!」


コメント

・心配するとこそこ???w

・これは配信者の鑑

・死にかけの一言が違うそうじゃない

・まずは腕生やせよ

・腕生やせ、というパワーワードw

・苦痛耐性あるからって冷静すぎんかお前www

・《Sienna》私のキャラが薄く見えるくらい濃いわね

・《ARAGAMI》ハッハッハッ



 僕は《アイテムボックス》からポーションを口で取り出し、太ももに挟む。そして蓋を口で引き抜いてそのまま飲んだ。

 曲芸無しの最短効率の飲み方だ。多分。


「復活」


コメント

・ゆっくりやればできるけど、動作が速すぎて結局曲芸なんよw

・エグいて

・ポーションを愛しポーションに愛されたアホ

・草しか生えん


 あれだけ血を失えば意識がヤバいかなー、とか呑気に思ってたけど、ポーションを飲めばそこまで辛くない。

 鉄分いっぱい含んでるのかな? 万能ポーション最高!

 

「というか、いつの間にか狼くん消えてるし」


 遠目に見えた狼くんは、ポーションで回復している間に姿を消していた。

 あれだけ執拗に狙ってくる辺り諦めた、って線は考えにくい。


コメント

・マジか

・寿命伸びて良かったじゃん

・今のうちに休憩所に行くんや


「まあ、それしかないよね」


 僥倖と思ってサッサと逃げるに限る。

 地図作りはまた今度。写真を撮れただけでも御の字だ。

 

 僕は一応警戒しながら、坂を下って休憩所に向かう。

 岩陰からチラリと休憩所の入口を見る。


「おぉ……僕より頭良いことしてる……」


 狼くんが入口を塞ぐようにして佇んでいた。

 もう逃さないと言わんばかりに、犬歯を剥き出しにして唸っている姿にはさしもの僕も身震いをした。


 と、同時にモンスターって結構知能高いんだ、と感心もしている。頭脳派の称号は君に譲るよ。元々僕も持ってないけどね。


コメント

・感心してるしw

・あー、まあ流石に逃げ込まれたらそうするよな

・終わったやんけw

・お前と違って学習してるじゃん


「うるさいな! 僕も学習はするよ。身につかないだけで」


コメント

・ダメじゃん

・学んで習ってない定期

・そんな悲しいこと言うなよ。事実でも

・で、どーすんの?


 リスナーのボロクソコメントが酷い。

 僕だって好きでこんなことになってないんだ。学習能力の無さに関しては親と友達からにこやかにお墨付きを貰ってるけども。

 学習能力が無いというよりも思考能力なのかな?

 いや、結局ダメじゃん。何で自分の粗探ししてんの?


「うーん。狼くんがそこで待ってるなら、僕はその間に地図作りしようかな。僕の帰る場所を理解して陣取ってるならわざわざ追ってくることもないでしょ」


コメント

・まあ、せやな

・《ユキカゼ》【画像を投稿しました】これまで歩いてきた道のりの地図。切り抜きから集めるのに時間かかったけど、空白の部分は頑張って


「──ッ!? 神ですか!?」


 ピコンと表示された画像。

 それは、僕が転移した時から今までの歩いてきた形跡から作った地図だった。

 僕が作っているヨレヨレの線の地図なんかとは違って、しっかりとした地図らしさがある。


 やっぱりユキカゼさんしか勝たん。

 

「はぁ、やれやれ。リスナー。君たちが見習うべき人はユキカゼさんだよ」


コメント

・偉そうにしてるけどお前何にもしてないじゃん

・頼っておいて傲岸不遜な態度なのなんなん?

・怒るぞ?

・キレてええんか?あぁ?


「ごめんなさい」


コメント

・ちゃんと謝れて偉い

・どこかで見たような光景

・ピンチと比例して態度までデカくなるの草

・普通逆だろw


 ごめん、それは自覚なかった。

 最初にあったはずの遠慮が、数々のリスナーの悪辣な言葉で消え去っただけだと思うんだ。


「君たちもピンチと比例しておつまみの数が多くなるでしょ。僕知ってるよ。昼から酒飲んでゲラゲラ笑ってるの」


コメント 

・ギクッ

・なぜ、分かった……?

・クズばっかで草 ……酒うめぇwww

・よくよくレーティング表示になるから成人が多いのは理解できるけど、クズばっかなのなんなんw


 まあ、僕も配信者としての心構えが板についてきたし、娯楽として見てくれる分には全然構わないんだけどね。


 そんなことを考えながら、とりあえずその場を離れる。

 このフィールドは結構広いから、ユキカゼさんの作ってくれた地図にも空白は多い。

 ここを如何に素早く埋められるかが勝負だ。



「ええと、まずは西側から攻めていこうかな」


 僕は休憩所とは真反対の方角に向かうことにした。

 狼くんから離れたいという気持ちもあってのことだけど、効率を重視……してないね、勘だよ勘。


「にしてもやっぱり暑い。休憩所は最後のマグマゾーン以外はひんやりしてたから環境は良かったんだねぇ」


コメント

・見てるだけで暑そう

・相変わらずマグマが近くにあるのに暑い、で済ませられるダンジョンに疑問w

・ダンジョンに物理法則説いても無駄よ

・そして世迷は何か楽しそうだなw

・ホンマや。ワクワクしてね?


「ん? 楽しそうに見えるって? ふふーん、だって当たり前でしょ? 今、僕久しぶりに探索者らしいことしてるじゃん? 一階層以来だよ? 魔法陣踏んで、フラグ建てて、逃げて、夏野菜カレー作って、忘れたけど何か倒してレベルアップして。いや、濃いッ! 僕のダンジョン生活が濃いッ!」


 今更だね!!! ちくしょう!!


「で、これほとんど僕自身が原因で引き起こしたこと、ってのがまたミソ」


コメント

・炸裂しました自虐ネタ

・言葉発する度に自分を追い込んでいくスタイル

・ボックスくんの存在忘れてんの草

・腕が消失することは薄い出来事なのね……

・あら、慣れって怖い


 ボックス、くん……? まあいいや。

 自虐って程でもないかなぁ? 現状の理解をしてるだけだし。そして理解すればする程に辛くなるのは間違いない。


「ん、まあ地上波で延々と流されれば君たちも慣れるよ」


コメント 

・慣れたくないのよ

・それは間違いないw

・たまにワイらに同じ思いさせようとしてない?

・これやるから許せ《¥18000》


「スパチャありがとー。別にお金は無理しなくても良いからね。あ、いや優しさとかじゃなくて。リスナーに借り作りたくないだけで」


 助かるには助かるよ?

 ポーション買えるし。幾らあっても良いのがポーション。飲み物としても傷薬としても、何でも使えるからね。

 ただ金払ったからもっとエンタメしろよ、的な薄氷の上でタップダンスさせられそうなのが、ね。何回目か分からない言葉だけど、これも今更だったかも。


コメント

・徹底してんなw

・金払うだけの価値があるんだよな

・流石密着ドキュメンタリー番組!!


「もう国営放送くん、スパチャ頂戴よ。ギャラ代欲しい」


コメント

・ギャラは草

・一応ニュース的扱いだから……w

・《NTD》予算つ《¥5000000》

・いや、草ァwwwwww

・マジでやんの??www

・国営放送ォ!www

・ギャグセン高ぇw

・好きになったわwww


「ぶふっ! 本当にやるんだ!?」


 公式マークのついたコメント。

 クリックしてみると、紛れもなく本物のNTD放送局だった。何してんの、本当に。

 てか、予算て。額が現実味を帯びてるよ……。


 僕は一頻り笑ってから、にっこりと満面の笑みを作った。


「許す!!」


コメント

・金に目が眩んでらっしゃる

・チョロい

・でしょうね!w

・こいつの笑顔には嫌な予感しかしないw

・許されるNTD放送局w

・やったね!肖像権使い放題だよ!

・プライバシーの欠片もなくて草


 デリケートな部分はレーティング関係なく非表示になる神機能が無ければ許してないと思うんだ。

 僕は全世界に全てを曝け出すケツイはないからね。



 そんな会話を繰り広げながら、地図を埋めていく僕。

 西側の壁に辿り着いた時、僕はある物を見つけた。


「既視感」


コメント 

・同意

・それな

・学習、してるよな?


 ──マグマ溜まりの近くに鎮座している宝箱。


 装飾はなく、簡素な木でできた宝箱がそこにはあった。


「これ、どうしたら良いと思う?」


コメント 

・落とせ 

・落とせ

・落とせ


「中華鍋召喚!!」


 僕はショップから中華鍋を買う。

 落ちてきた中華鍋を空中でキャッチして、木箱を全力で押す。


 マグマ溜まりがあるのが運の尽き。

 消え去れ!!


 ドプリ、と。

 

 沈む木箱。 


 うんともすんとも言わない木箱。


 漲る力もない。


「…………」


コメント

・あー、これは…… 

・スゥーーーーー

・やっちゃい、ましたね

・《ARAGAMI》普通の宝箱だったね、うん。ドンマイ

・《Sienna》草ァ


「───さいっっっっあくっ!!!!」


 世界よ滅びろッ!!

 



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る