第14話 やったね!命がけの探索だよ!
結局、何をどう考えても打開策が浮かばなかったから、保留という前進も後退もしない中途半端な結果になった。
まあ、僕のカスIQで少しばかり方法は詰めてる最中なんだ。最も、カスだから期待できないけど。
「いやぁ、それにしても動体視力が良くなったことを配信のコメントで実感するとは。速いスピードで流れるコメントが全部読めたよ」
いつの間にか同接150万を突破している大人気(自虐)の僕だけど、当然コメントのペースは凄まじく速い。
Bランク以上の冒険者は固定マークと呼ばれる、簡単に言えばコメントがしばらく画面に残る機能があるから、ユキカゼさんやその他のコメントは見逃さない。
けれど、通常のコメントは追い切れるはずもなかった……けど、今やレベルアップのお陰で止まって見えるね!
その代わりに頭が痛いけど!
コメント
・毎回成長を実感する場所がおかしい
・精神的な成長がないんだもん、当然だよね
・地上に脳みそを置いてきた男だ……面構えが違う
・草
・日常生活でちょっと便利そうなのウケるわw
・フラッシュ暗算が得意に……
・数字読めても暗算できないから無理定期
・ボロクソ言われてんやんw
「フラッシュ暗算ね。確かに暗算できない、って点については否定できないかな。でも、僕結構学校の成績は良いんだよ? 定期テストだって学年一桁だし」
数少ない僕の自慢できること。
それが学力だ。5位以内には入れなくとも、安定して一桁順位には飛び込める。日々の勉強が大切なんだけど。
コメント
・思考力と学力は別なんよ
・凄まじく学力の良い奴が凄まじく天才なわけじゃない
・脳足りん、ってそういうとこだぞ
・学歴で測れるのは辿った努力の形跡。スペックは測れない
・なんか名言生み出してるやついて草
・学歴は良ければ有利になるのは確かだけどな……
「言い返せない……」
僕は地面に手をついて軽く嘆く。
努力を認めてくれる分まだ優しい……あれ、染まってきてる? この思考はDVされてたまに優しくされた時に異常に優しく感じるやつでは? 知らんけど。
と、まあこんな漫才みたいなことをやってたら、どれだけ時間があっても足りなくなる。
僕は徐ろに立ち上がって胸を張る。
「僕は決めた。コソコソしながらフィールドの地図を作ることを」
コメント
・ついに動くのか
・あ、オワタ
・地図か
「何をどうするにも情報がやっぱり一番大事だと思うんだ。逃げる時も地形を把握しないと、行き止まりとか待ち受けてて物理的に終わっちゃうじゃん? って、見るからに強そうな探索者の人が言ってた」
コメント
・受け売りかよw
・やけに頭良いこと言うな、って思ってたら
・知 っ て た
・途中までその通りだ、って頷いてたのに最後の一言で信用ゼロになったわwww
聞き耳立てるのも情報収集の一つでしょ!
まあ、あの場合は強そうな探索者さんがロビーで大きな声で言ってたから、っていうのもあったけど……。
「よし、これで僕の受け売りストックは消え失せたよ。無生物は鑑定できない、ってのと今のね」
コメント
・ストック少ねぇなおい
・また無知蒙昧な世迷い言人間に戻るのか……
・さよなら受け売り。こんにちは無知
「何気に酷くない? その通りだけど! ……まあいいや。地図はスマホにデフォルトで入ってるメモアプリで書いてくよ。ザックリとでもあるのと無いのとじゃ大違いだし」
上手く地形を利用して戦えたら、な、というビジョンがある。狼くん脳筋っぽいから全部一点突破で攻めてきそうだし。
コメント
・頑張れ
珍しい応援コメントでやる気になった僕は、早速準備を始めた。
☆☆☆
休憩所の入口に戻ってきた。
長らく奥で過ごしていたからか、入口が眩しく感じる。
口がぽっかり開いたような入口は、僕にとっては地獄へのスタート地点であり、希望への一歩を掴む第一歩でもある。
「ふぅ……」
マグマに大きい茶色の何かを落とした僕は無敵だ。
気分的にも身体的にもスッキリしているからね。
コメント
・こいつ便秘だったんやな……
・すごい清々しい顔してやがるw
・まるで長年の憑き物が落ちたみてぇに……
・ある意味覚悟決まって良いんじゃない?w
・《ARAGAMI》ダンジョンで排泄する人は一定数いるとはいえ、マグマは初めてのパターンだ。その瞬間は見れないとはいえ、『規制』の行方は気になるかな。例えば熱耐性は『規制』に作用するのか、などね。見る限り問題は無さそうだが臭いについても気になる、後は容赦なくマグマに向かって
・なんで『規制』について暑く語ってんだこの2位は
・
・《ユキカゼ》うん
・やめろユキカゼw
・意味深で草
なんかコメント欄が大喜利みたいになってる?
アラガミさんは『規制』愛好家なのかな? 僕にそういう趣味はないから知ろうとしなくて良いよ。本当に。遠慮しとく。
僕はアラガミさんを『やべー奴』の枠に入れながら、走るための準備体操を同時並行で行う。
いきなりアキレス腱が切れても困る。攣るのも勘弁。
「さて、行くよ」
僕は床に両手、膝立ちの姿勢になる。
──そう、クラウチングスタートだ。
コメント
・ん?
・ん?w
・え、は?www
・こいつ急に何してん?
・まさかまさか
「はい、よーい、ドンッ!」
僕は全力で休憩所の外に出た。
確かに上がった身体能力に感嘆を覚えつつ、僕は周りに気配がないことを確認して、近くの岩陰に隠れた。
息を整えつつ訳を説明する。
「はぁはぁっ、最初に言っておくけど、全力ダッシュしたのは、入口近くに狼くんがスタンバイしてた可能性があったからだよ。流石に不意打ちは死ぬから一挙に走ったの。これに関しては何か言われる筋合いはないと思うんだ」
僕のなけなしの警戒心が3日遅れで発動した。
多分もう二度と発動しない。ありがとう、警戒心。そしてさよなら。
コメント
・チッ
・足りねぇ頭を働かせやがって
・最初からその警戒心を使えよw
・つまんね
「僕は君たちが殺人鬼に見えてきたよ」
舌打ちはなくない!?
自分の思い通りにいかなかったからって八つ当たりしないで欲しいんだけど……?
「ハァ。とりあえず、早速地図を書いていくね」
僕は休憩所から今来た道のりをメモに記述する。
絵も描ける仕様だから、文字で補足して行こう。
まず、このフィールドが円形なのは転移した最初に判明してる。だからグルっと円を描く。
休憩所を東に置くとして、ここを起点に書こう。
……なんか小難しいこと考えてたら脳がパンクしてきた。
「あ、てか高いとこに登って写真撮るのもありだよね」
そうじゃん! 写真あるじゃん!
僕はやっぱりバカだ。そんなことすら思いつかないなんて。
きっとコメントはまた罵倒であふれているのは言うまでもない。
敢えてコメントを見ずに、僕は丁度近くにあった坂を登って、フィールドをある程度見渡せる場所に来た。
そして写真をパシャリ。
パシャリ。
パシャリ。
「うん。狼とマグマが映える良い写真だ」
遠目に見えたのはフィールドの壁伝いに流れる、さながらマグマの滝と言える場所にいた狼────
「あ、そうじゃん、高いとこ登ったら丸見えじゃん!?」
コメント
・さっきからそれ言ってんだよアホ!!
・早くコメント見ろよ!!
・バカなの!?バカだろ!バカ!!
・逃げろって
「グルァァァァァァッ!!!」
怒りの咆哮を撒き散らす狼。
明らかに本気で殺る眼光をした狼と僕の命を賭けた鬼ごっこが、再び始まろうとしていた。
──まあ、休憩所は近くだし、狼くんとも距離離れてるし大丈夫でしょ!
えー、そんなことを思っていた時でした。
「アァァァッッ!!!」
両腕消えた。
コメント
・本気出してきとるやん
・まーたレーティングか
・何にも見えなかったけどいきなり切り飛ばされてね?w
・腕ないとポーションが!?
・ホンマやピンチじゃん!
ホンマやピンチじゃん、じゃねーんだ。軽いなァ!
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