第12話 やったね!レベルアッ……(絶望)だよ!

 余りに信用が無くて泣きそう。

 いや、違う。今更か。


「まあまあ、落ち着いてよ。僕がそんな戯言を口にするとでも?」


コメント

・うん 

・うん

・うん

・うん


「おい」


 ……うーーーん、これまで僕がやらかしてきたことを踏まえると……微妙に否定できないなぁ。

 行動に対する信用だけはゼロから動かない……。

 ゼロに何をかけてもゼロということか。


 でも!!!

 失った信用は取り戻せる!!


 行動の結果失った信用は! 

 行動で取り戻してみせよう!!


「見ててよね!」


 僕は徐ろに、中華鍋でマグマを掬う。

 ドロドロとした赤い物体から迸る熱気は、僕が熱耐性を獲得していなければ手を離してしまう程だった。


 けれど僕は必死に我慢をして、中華鍋に入ったマグマを────



「──ボックスくんにインッッ!!」


 これぞ僕の考えた必殺技!!

 マグマで燃焼アタックだ!


 バシャリ、というよりドロリと付着していくマグマ。


 ………………何も反応しない。


「あ、あれ?」


 おかしいな、計画と違う。



コメント

・マグマ地帯にいるモンスターが熱無効を持ってないわけがないんだよなぁ……

・バカなの? 

・これだからアホは……

・普通に考えれば分かる

・ボロクソ言われてて草


「あぁ……確かに」


 そこまで言わなくても良いとは思うけど、よく考えたらその通りだよね。そこまで言わなくても良いけど!!

 また信用値がゼロになった。この際もう諦める。


 上手くいくかなー、と若干の希望的観測はあったものの、そう現実は甘くないらしい。元から甘くないけどさ。

 

 やれやれ、と頭を振って中華鍋でこの野郎、とボックスくんをツンツンする。

 

 

 ……ん?


 ツンツンする?

 

 ツンツンできてしまう??

 


 僕はふわふわ浮きだった思考のまま、中華鍋を両手に装備。

 ありったけの力でボックスくんを中華鍋で押し始めた。

 

「ふんぐおおおおおおおっ!!!」


 ズズズと動き始めるボックスくん。意外にもそこまで重量はなかったみたいだ。貧弱ステータスの僕が押せているくらいだからね。

 

「きええええええええ!!!!」


 そしてそのまま────マグマにドボン。


 瞬間、何をしても微動だにしなかったボックスくんがジダバダと暴れ始めた。


「フシュアネヒケソミケヒヲムシサビソモクニテユッッ!!!!!!!」


 藻掻く。とにかく藻掻く。

 宝箱の隙間から黒い何かが漏れ出るくらいに、藻掻いて藻掻いて暴れるボックスくん。ピンチに悶えているのか、その行動に何か意図的なものがあるのか。

 僕には彼の行動の真意を知ることはできない。


 ほくそ笑みながら見ることしかできない。

 

 なおも暴れ続けたボックスくんだが、徐々に徐々にマグマに沈み始めて


「アッ」


 断末魔とも言えない何かを発して完全に飲み込まれた。


 窒息ッッ!!



「ボックスくん、君のことは忘れないよ」


コメント

・満面の笑みで草

・沈めたのお前やろw

・苦しんでる姿見て笑うな、って言ってなかった?

・手法がえげつねぇwww

・窒息……ッ

・ボックスくん、呼吸必要だったのか……

・アッ、は草

・無生物に反応しないとかガバガバかよボックスくんw

・ふぁーwww

・エグいてw

・《ARAGAMI》ダメだ。笑いすぎてお腹が痛い

・《ユキカゼ》色んな意味で強い……


 ぶひゃひゃひゃ!! 右腕食ったお返しだ!

 と人でもモンスターでも笑わない、という言葉を前言撤回して楽しんでおります、僕です。

 

 やってやったぜ、という感覚。

 呆気ないな、と拍子抜けした感覚。


 どちらにせよ、体に漲る力が結果だ。


 僕はスマホで自分のレベルを見る。


ーーー

レベル50

ーーー


「あれ!? 全然上がってないんだけど!?!? レベル50!?」


コメント

・上がってるには上がってるんだけどなw

・この階層のモンスターにしては、って感じか?

・【速報】ボックスくん、虚弱経験値

・中下層攻略の推奨レベルやな

・《ARAGAMI》草



「……よし、落ち着いた」


 流石に甘い夢を見すぎた。そんなに現実は甘くない、って再三実感しているじゃないか。


 だから落ち着け僕。落ち着け。


「このクソボックスぅ!!!」


コメント

・全然落ち着いてなくて草

・本音が出てるしw

・哀れボックスくん……

・《ユキカゼ》足元に何か落ちてる?


 ふぅ、ふぅ、と息を切らしながら慟哭する僕。

 僕の養分となった……あれ、誰だっけ? うん、今更文句を言ったって時間の無駄だ。

 

 それよりもユキカゼさんの言っていた足元を見てみる。


「なにこれ?」


 足元には棒付きキャンディーが落ちていた。

 色々なしがらみを気にしてなのか、包装用紙には何も書かれていない。

 こちら500階層産です! とか書けば良いのに。


「どこからどう見ても棒付きキャンディだね。ここにある物としてはそぐわないけども」


コメント

・ご褒美じゃない? 

・ボックスくん倒した報酬? 

・疲れただろうし甘いものでも食べな

・食え食え


「確かにそうだね!」


 僕はパッと包装用紙を取ってキャンディを舐める。


「ん、美味しい。イチゴの味がする」

 


コメント

・本当に食いやがった……w

・お前、少しは立ち止まって考えろよwww

・得体の知れないものを……

・《Sienna》あら、スキル玉じゃない。珍しい

・《ARAGAMI》君がコメントするとは珍しいな

・世界探索者ランキング6位のシエンナ・カトラル……

・人の配信見ない、って言ってたのに


 飴をペロペロしていると、いつの間にかコメント欄がざわついていた。

 何やらまた有名な人がやってきたらしいけど、例に漏れず僕は知らなかった。


「シエンナさん? スキル玉ってなんです?」

  

コメント

・さてはこいつまた知らなかったな

・嘘だろ、姫だぞ、姫。詳細不明を除いて唯一の女性Sランク探索者

・斧を振り回して首を狩る姿から名付けられたその名は首姫


「厨二臭いなぁ……。解説ご苦労ね」


 強い、ってことだけは分かった。あと、首を執拗に狙って戦うことも。怖い。


コメント

・《Sienna》スキル玉はね、稀にモンスターが落とすドロップアイテムのことよ。食べたらあら不思議。スキルが貰えちゃうわ。まあ、大抵ハズレスキルだけれどねwww

・爆笑してらっしゃる……

・やっぱり人の不幸は万国共通で面白いんやな、って

・草ァ


「うわァァァァァァ!!!!」


 僕は急いでスキル玉なるものをマグマにぶん投げた。

 これ、ペッペしないとダメな感じ? これ以上デバフ抱えて生きたくないんですけど!!!


コメント 

・《Sienna》無駄よ。一舐めでもしたら取得しちゃうもの

・《ユキカゼ》強く生きて……

・絶望を突き付けていくスタイル

・まだ諦めるのは早いぞ!

・大抵、ということは稀に当たりもある!


「ハッ、確かに! 当たりかもしれないよね。大抵ハズレでも可能性はある。まだ見てないうちは当たりかハズレか分からない。シュレディンガーの猫と一緒だよ。

 ね、だからさ


 見ないでもいい?」


コメント

・ダメに決まってんだろハゲ

・能力確認しないでこの先どうすんだよ

・早く見ろよw


「うるさいなァ! みんなも薄々分かってるでしょ!? このオチがァ! 今までの僕の出来事を思い返して、この状況が如何にフラグ建ってるか分かるよねぇぇッ!?」


 嫌な予感が全身を包むんだ。

 これから先一生の運命がこれで決まるような。並大抵の努力じゃ覆せないなんて思わせる激しい悪寒が。

 僕は見たくない。嫌なものからは目を逸らしたい。


コメント

・うるせぇな、あくしろよ

・見ろ

・《Sienna》内輪ネタやめろよ

・バチクソ口悪くて草

・今までの出来事→散々。やること為すこと裏目に出る

・おけ、把握

・それが分かってるならお前は成長してる、ってことだよ

・危ないもんをすぐ口に入れるのに……?

・↑3歳児で草


「分かった! 分かったって! 見るから!」


 僕は渋々スマホを取り出す。

 スキルの説明は鑑定を用いなくともできる。それが僕の首をどんどん窮屈にするわけだけど。


「ていっ!」


ーーー

スキル 

《鑑定》《アイテムボックス》《苦痛耐性》《熱耐性》《捨て身》


《捨て身》……これから先のレベルアップで防御上昇分を攻撃につぎ込むスキル。また、重装備が禁止になる。

ーーー


「だと思ったよちくしょう! 何が捨て身だ元から捨ててるんだよこの身はなァ!」


コメント

・あーーー察し

・ある意味最強のデバフスキル

・幾らレベルが上がっても死と隣り合わせになるスキルじゃないですかヤダー

・《ARAGAMI》君は心の底からエンターテイナーなんだね。感服したよ

・バカなだけだよ

・傍から見てたら面白いだけや


 面白がるんじゃないよ。

 あと僕は芸人でもエンターテイナーでも何でもないわ。


「僕の死亡フラグがヤバい」


コメント 

・でぇじょうぶだ。ぽーしょんがある

・大抵何とかなるさ。ゾンビだろ?


「ゾンビじゃないよ! 人間だ! ポーション特攻だって苦肉の策なんだからね? レベル上がって防御上がったらちゃんと戦おう、って思ったのにさァ……」


 全てが水の泡になった。

 死してなお僕の足を引っ張るとは……。


 ふぅ、と僕は深呼吸をして心を落ち着かせる。

 凪をイメージして。ササクレ立った心を呼吸でゆっくり沈めていく。


 叫んでばかりで何も進まないのはダメだ。

 思考放棄は如何なる場であっても危険を呼ぶ。


「とりあえず、寝る」


コメント 

・現実逃避すんなって

・睡眠が思考放棄ツールになってて草

・キャパを超えたのか

・気づいたらもう夜中じゃんか

・俺らも寝るか……


  


 

 


 

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