第11話 やったね!スキルゲットだよ!

Side 風間雪音


「シャァァァァッ!!!」


「邪魔……《鎌鼬かまいたち》」


 私の持つ二振りの短剣で、唸りを上げて襲いかかってきた虎型のモンスターをズタズタに切り裂く。

 技名通りにまるで鎌鼬に襲われたように複数の切り傷がついたモンスターは、呆気なくその命を散らした。


 何やらアイテムが落ちたみたいだけど、そんなことはどうでもいい。

 今は速く、とにかく速く進まなければならない。


 「今は……60階層。まだ……チッ」


 流石に疲労が色濃い。

 私は破滅しに行くわけじゃない。目的はあくまで救出。

 無理に無理を重ねて私が倒れるのは本末転倒だ。


 私は舌打ちしつつ、今しがた倒したボスモンスターの部屋に腰を下ろす。


 倒した後のボス部屋は非アクティブ地帯に変化する。

 休憩にはうってつけだ。


「今彼は何をしているんだろう」


 私はそろそろ起きたであろう彼……世迷よまい言葉ことはくんの配信を開く。



『ドキドキっ! 世迷言葉のマグマクッキング!』



「何を、しているの……?」

 

 彼が分からない。



☆☆☆


 私は風間かざま雪音ゆきね

 日本で唯一のSランク探索者であり、仮の名をユキカゼ。

 普段、私はBランク探索者のユキカゼとして配信活動をしている。


 最も同接は一桁で、熱狂的なファンが1名ほどいたけれど所謂底辺配信者だ。

 そんなことは兎角どうでも良いし、些事だ。

  

 私は私の技術を磨くことができれば満足だった。

 

 ……褒められて悪い気はしないけど。

 

 ……それはさておき、本来は偽装に複数アカウントなど、絶対にできない仕様になっている。

 探索者の安全を守るための配信義務なのだから当たり前と言えば当たり前だが。


 でも、面倒。

 他人に強さをひけらかすことが嫌いだった。


 だから私はSランク探索者に成って、ダンジョン協会に直談判することで配信義務を停止させ、複数アカウントを特別に認められた。


 そんな特別扱いがあるのか、と思うだろう。


 それだけSランクの称号は重く、多少のわがままを認めてまで手放したくない貴重な人物だ。

 上層部からは金のなる木、なんて揶揄されるけど。


 

 それからユキカゼとして過ごした日々は充実していた。


 熱狂的なファンに支えられて、偶には良いところを見せたり。普段は動かない仏頂面を、仮面の下で微笑んでみたり。

 時には新人探索者の配信でイタズラを仕掛けることもあった。


 が、それが原因で、とある新人探索者が転移魔法陣を踏んだ。

 しかも、彼は私をずっと応援してくれたファンだった。


 何をしている。

 危険性は承知の上だった。ランダムに転移する魔法陣をネタにするなんて探索者の風上にも置けない。


 彼にも一端の責任があることは、客観的に見ても間違いない。

 

 私でさえ真面目に受けた新人講習で居眠りをしたことや、危険性を把握せずに突発的に動くところなど。


 でもそんなのは言い訳に過ぎない。

 発端は私だ。私がそんなことを言わなければ、今頃彼は平和な生活を送れていたことは間違いないのだ。私がその生活を奪った。

 文字通りドン底に陥れてしまった。


 だから私は彼を助けなければいけない……のだけど。 



「た、たくましい……。これ、助けいる……?」


 余りにもハイテンションで乗り切る彼を見ているうちに、段々と助けがいるのか分からなくなってしまった。


「いや、私に責任がある。行かなきゃ──」


『それじゃあ始めていくよ──クッキングを!!』


「いるかなぁ……?」



Side out



☆☆☆



「ちょっと体に力がみなぎったの釈然としない」


 夏野菜カレーを完食した僕は微妙な表情で呟く。

 指示待ち人間には成りたくない一心で育ってきたもんで、自分の力で思考して行動したいという思いがある。

 

 勿論、それだけじゃ今みたいな現状に陥ってしまうから、アドバイスを傾聴することは忘れない。


 兎にも角にも、最終的に判断するのは僕自身でありたい。そしてその判断を誰のせいにもしたくない。

 行動の結果起きたことは僕の責任だ。それだけを違えることを僕は許さない。


「それにしても初めて活用したショートソードが包丁代わりになるとはね……」


 先程のクッキングを思い出して苦笑する僕。

 何せ刃物がなかった。これじゃあ野菜を切ることもできないし、色々と不便だった。

 手持ちを確認して腰に目が移ると、そこには『使ってよぉ』と言わんばかりのショートソード。


「ごめんね、包丁。君はすごいよ」


コメント

・サラッと包丁呼びしてて草

・役目が消えた……w

・まあ、この階層のモンスターに通じないし……

・剣が包丁になった瞬間であった

・俺たちは今感動シーンを見てるのでは?

・正気に戻れ


 まあ、そんな冗談はさておき。

 

 腹ごしらえもした。現状の確認も済んだ。

 汗塗れになった着替えもした。

 

 ……ちなみに着替えシーンは誰の目にも見れなくなるらしい。野郎の裸を見たところで……、と思ったけど昨今の様々な状況を鑑みてのことなんだろうね。知らんけど。


「では、早速会議を始めようか。議題は僕の強化方法だ」


コメント

・倒せるモンスターいないんだから無理でしょ

・レベルアップできないもんな

・詰んでんのよ

・モンスターを倒す以外のレベルアップ方法は?

・↑無いですwww

・スキルや!スキルを覚えるんや!

・《ARAGAMI》現状の手立てとしては、スキルを覚える方がまだ現実的かもしれない。スキルは特定の動作をすることで手に入る、と言われているが……その特定の動作は明らかになっていないし、確率とも言われている。つまり、当てずっぽうで何らかの動きをする必要がある


「それ、無理では?」


 最後が雑だよアラガミさん!

 結論としては何もわからない、ということですね、はい。


 やっぱり詰んで──


コメント 

・《ユキカゼ》戻った。経験則に基づいて、耐性系のスキルは比較的簡単に入手できる。例えば熱耐性であれば今すぐマグマに手とか突っ込んでポーション飲めば付く。多分


「ユキカゼさん! ユキカゼさんじゃないか! 本当ですか! ちょっと試してみます! あっちぃぃ!!」


コメント

・バカなの? 

・アホなの?

・熱すぎて熱く感じねぇだろw

・即刻手を入れたのは引いた

・行動力の化け物かな?


 急いで左手を使ってポーションを飲む。

 マグマに溶けた右手よ。サラバ。


「うん、確かに熱すぎて一瞬で炭化したし」


 切り飛ばされるよりまだマシかなぁ?

 でも、で耐性付くならヌルゲーだと思うよ。


 というか、最初の時と比べて痛みに慣れてきてるから、そこまで苦痛に……感じるけど平気かも。


「耐性付いたかなー」


 そんなわけで、スマホのステータス画面をタップする。


ーーー

スキル

《鑑定》《アイテムボックス》《苦痛耐性》

ーーー


「なんか苦痛耐性? みたいの付いてた」


コメント

・このでしょうね感 

・納得のスキル

・慣れたら耐性付くのか……ダメじゃんw

・ますますゾンビっぽくなってきたな!

・熱耐性付くまで頑張れよ!

・《ユキカゼ》耐性付くのに時間かかるはずなのに


 なるほど。途中から痛いけど我慢できたのはこのスキルのお陰なんだね。

 人間として大切な何かを着々と失いつつあるけど、まあ怪我の功名ってことで有り難く活用しようかな。


「熱耐性ブートキャンプを始めます。画面の前の皆さんも是非お近くの火気で自分の腕を燃やしてみてください。僕の苦痛がわかります」


コメント

・草

・巻き込むなw

・熱耐性ブートキャンプは草

・お前以外真似できないのよ

・名字らしく世迷い言言わないでもらっていいですか?


 折角リスナーの皆にもこの臨場感を味わってもらおうと思ったのになー(棒)

 まあ、いいや。炎上するのは僕の腕くらいでいい。



「じゃあ、これからショッキングな映像が流れると思うから、ご飯時の人とか心臓が弱い人はチャンネル変えてね。……はい、いっきまーす!! あっちぃ!!」


コメント

・元気良くて草

・やってること地獄以外の何物でもないというのにw

・現在地が地獄の時点でお察しって感じ

・《ユキカゼ》あわあわ……

・《ARAGAMI》こういう狂いに狂ったのに正気を保っていられるのすごいね。生き残ったら私のギルドに入ってほしいものだ 

・引き抜き来とるwww

・生き残ったら←ここ重要


 当然マグマチャレンジの真っ最中の僕はそんなコメントを拾えるはずもなく、ひたすらマグマに手を浸し、スマホで耐性が付いているか確認する作業に没頭していた。


 苦痛耐性が付いていようと痛いことには変わりない。

 この手を溶かされる感覚が妙に気持ち悪いけど、少しでも生存確率を上げるためだ。仕方ない。



 そして一時間後。



「やったぁー! 熱耐性付いたぞー!!」


コメント

・おぉ、おめ!

・気が狂ったようにマグマに浸してたもんな

・スキル取得速い、って思ったけどあれだけ一挙にやればそら付くわな

・草

・おめ《¥12500》

・やるやん《¥5000》


 リスナーの賞賛にニコニコしながら、僕はもう一度マグマの中に手を突っ込んでみた。


「……やっぱり熱い!! でも、溶けるまで少し時間がかかるね! 耐性スキルすごい!」


コメント

・笑顔で試しやがったよ

・自ら苦境に飛びこんでいくスタイル

・熱湯ダイブがチープに見えてきたわ

・すごい、じゃねぇのよw

・なお、防御(紙)を身に着けただけで攻撃はできない模様

・やめろ水を差すなw


 リスナーのコメントに僕はニヤリと笑った。  

 そして、ふんぞり返りながら言う。



「レベルアップ方法、分かっちゃった」



コメント

・フラグか?

・フラグかな?

・終わったな

・さよなら

・あーあ


「え、流石に失礼すぎない? 信用ゼロかよ、僕」

 



 


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