第10話 やったね!クッキングの時間だよ!
「痛かったです。まる」
そそくさとその場から離れて僕は呟いた。
コメント
・それで済ませるのか……
・慣れ、って怖いな
・そんなことに慣れたくない…w
・草
・治療代ノ《¥100000》
サクッとポーションで回復すれば、あら不思議。ニョキニョキっと生えてくるじゃありませんか。右腕が。
単価10万で四肢欠損治せるって結構破格だよね。
それに何故か一緒に食い千切られたはずの服まで回復してるからね。摩訶不思議だよ。
「あ、治療代ありがと〜。ポーションの足しにするね。今現在、1億近く持ってるんだけど、これがどれくらいポーション代に消えるのか楽しみ」
コメント
・楽しみにするな
・娯楽がないからって自虐に楽しみを見出すなw
・1億って冷静に考えたらヤバいな
・《ARAGAMI》ふむ、もう1億に届いたのか。ショップを覗いてみたらどうだ? 恐らく新たな商品が追加されているはずだ
「ショップを?」
アラガミさんから新情報がもたらされた。
ニュアンス的にスパチャ額でショップに商品が追加されるようだけど……。
僕はスマホでショップを開く。
すると、確かに新しい商品が3つほど追加されていた。
「あ、本当だ。ポーションと食料一日分と水。それと、新たに『大鍋』『調味料』『着替え一式』……って、こんな危険極まりない地帯で料理させようとしてない?」
コメント
・これで衣食住が揃ったな!
・やけに食を充実させようとしてくるなw
・《ARAGAMI》ショップの商品はどういうわけか人によって違うんだ。一説によればその人が望む物を提供しているらしいが……
少なくとも僕は料理しようなんて微塵も思ってないけど。危機的状況でクッキングなんてバカみたいじゃん。
でも、あの狼を倒すまではここを拠点にするわけだし、生活のクオリティの向上を計るのは悪いことじゃない。
今の僕のクオリティオブライフはゴミだけどね。控えめに言わずとも。
「……うーん、でも火がなぁ……」
コメント
・マグマがあるじゃん
・ばっか、溶けるわw
「……確かに。マグマならいけるんじゃない? わざわざ大鍋を用意してきた、ってことはマグマ耐性くらいあるでしょ」
アラガミさんの説通りだとすれば、マグマで溶けるようなボロ鍋……いや、普通の鍋は溶けるけども。まあ、用意しないと思う。
ポイントで幾らでも買えるんだし試す価値はある。
そうと決まればやることは簡単だ。
「──ドキドキっ!
コメント
・!?!?
・!?!?
・急にどうしたwww
・突発的に企画を始めたw
・いや、草
・《ARAGAMI》よし、やれ
・世界2位もゴーサイン出してるし良いか……
・世界2位の信頼がすごい
アラガミさんもオッケーって言ってるしやるか。
いや、別に急に頭狂ったとか温度に頭をやられた、とかそういうわけじゃないんだけど、現に僕の探索活動はスパチャに支えられてるわけだし、少しくらい還元しようという心持ちがある。
それを言葉に出すのは癪だから言わない。
視聴者さんもずっと同じ光景見せられるのも飽きるでしょ。変に『嫌だ嫌だ怖い怖い』言ってる映像よりもバラエティーに富んでる方が見たがるよね。
何でピンチの僕がそんな配慮してるか分からないけどね!
自業自得だからそうも言ってられないやい!
「とにかく、外に出るのは危険だから、ボックスくんの隣でクッキングしていこうと思います。接触で攻撃してくるタイプらしいし」
僕の右腕返せよ、と思わないでもないけど。
コメント
・度胸がおかしいてwww
・右腕食った犯人の隣でクッキング
・↑何言ってんのか分かんねぇや
・これにはボックスくんもビックリ
「いや、ね? アクティブに動く狼くんと、触らない限り何もしないボックスくんとどっちが安全か、って話なんだよ」
ボックスくんの方が安全だろォ!?
距離取ればぶつかることもないからね。実質的に無害。
コメント
・それは、まあそう
・触ったで食われたのもお前が原因やからな
・自分の無知でどんどん人が苦しんでる姿見るの楽しい
・↑ガチガチに性癖歪んでて草
「うわ、こっわ。人が苦しんでる姿見て楽しむとかないわー」
まったく。例え人でもモンスターでも苦しんでる姿を笑ったりするのは良くないよ。
全ての命は尊く扱うべし。
「さて、と。とりあえず食料一日分と水、大鍋と調味料を買うね」
お値段は大鍋が21万円……ってポーションより高いし。
食料一日分は5000円。水は500mlのペットボトルが出てくるんだけど、それで400円。遊園地価格かな?
調味料が一万円。
「結構高いなぁ……」
コメント
・食料と水を買えるのはでかい
・その程度で済んだんやから
・文句を言うでない
「あ、はい、ごめんなさい」
何だろう。ムカつくな。
家でぬくぬくしてるおめーらに言われたかない。的な。そういうことを考える度に、結局こうなったのおめーのせいじゃねぇか、と自虐することになるんだ……。
サクッと購入すると、例のごとく上から色々と降ってくる。
食料は豚肉150g、人参一本、ピーマン一個、ナス一本、玉ねぎ一個、カレー粉が少々。そして炊かれているご飯
。
うん……うん、うん。
僕はダンッ! と床を叩いて叫んだ。
「料理する前提……ッッ!! 火と調理器具なきゃ詰んでるんじゃねーかよ!! ホワイ!? この仕様腐ってるでしょ! てか、カレー作れ、って丸わかりなんだよこんちくしょう!!」
衛生面も踏まえると、ご飯以外生食できないよね!?
コメント
・荒ぶってらっしゃるw
・そら怒るわw
・ショップくんはどうしても料理させたいらしい
・草
・草しか生えん
・カレーはカレーでも夏野菜カレーですねぇ
「夏野菜カレーでも食べて少しは涼しくなりなさい、って? やかましいわ。マグマでも食ってろ」
……ふぅ、落ち着いた。
口調が少々雑だったのは許して欲しい。さすがにアレには怒りが堪えきれなかったんだ……。
「まあ、最初から作るものが決まってる辺り良心的なのかも? 意図通りになるのは癪だけど、ここは大人しく夏野菜カレーを作るね」
コメント
・れっつ!下層で夏野菜カレー〜
・↑美味しくなさそう
・こら
・このクッキングがまた切り抜きに上がるんだろうな
・どんどん有名になっていきますねぇ!
・だって頭おかしいんだもん
なんかボロクソ言われてるけど。
確かに絶望に彩られている中でクッキングする辺り、まともな思考回路をしていないことは我が事ながら分かる。
それでも……かれーたべたい。
色々吹っ切れてお腹空いてきた。
「それじゃあ、大鍋を買って……と、うわっ」
大鍋を買うと、空中から金属状の鍋が降ってきて、カランカランと大きな音を立てた。
「大鍋っていうか中華鍋じゃない? これ。ご丁寧に持ち手はあるみたいだけど」
よく料理系配信者が炒飯作る時に使うやつ。それに柄がついている。
火傷しないような配慮がなされてる理由は……マグマクッキングだから? 意図的な何かを感じるなぁ。
コメント
・ほんまや
・中華鍋で草
・まあ、万能だからな
・普通にカレーも作れるから問題はない
便利だ、ワーイと喜ぶべきなのか。
微妙に肩透かしな気分を味わいつつ、更に僕は調味料を購入する。
上から降ってきたのは、料理のさしすせそや、辣油とか……様々なもの。これが一万円なのは安いかも。
どれも小瓶サイズだけど節約すれば充分に使える。
「よし、大鍋をもう一つ買って、と。これをまな板代わりにしよう。準備の前に耐久性をチェックしておこう」
僕は恐る恐るボックスくんのいた場所へと戻る。
変わらずそこに佇むボックスくんを注意して避けて、マグマの前までやってきた。
熱気で汗が垂れる。マグマに少量の液体を垂らすのは危険なので、服の袖で拭きながら……いざ、大鍋を
「インッッ!」
コメント
・どうだ……?
・果たして!
・溶けろ
「──耐久性クリア!」
僕の杞憂はぷかぷかと浮く鍋によって晴らされた。
散々なダンジョン生活で初めての成功体験かもしれない。
コメント
・おぉぉ!!!
・やるやん!!
・物理法則無視してるね!
・どんな性能してんの、この鍋w
「それじゃあ始めていくよ──クッキングを!!」
この後めちゃめちゃ食べた。
しばらくして気がついたけど、最近ユキカゼさん見ないな。
「大丈夫かな?」
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