第9話 やったね!宝箱だよ!
洞窟の中は薄暗い。けれど微かに光っているために、視界は確保できている。
どこにも光源がないのになぜ? って思うけど考えちゃダメなんだと思う。
ダンジョンの神秘性が物理法則に反すれば反するほど気になってしまう。文系なのに。
「うーん、どこまで繋がってるんだろ。休憩所なのに休憩させる気ないじゃん」
コメント
・それな
・もう充分寝たやろ
・ここまで道が長いと意味がありそうだけどな
・これは洞窟の出口に狼が待ち構えてるパターンでは
・フラグニキ黙れよ
フラグ建てる人は僕のことそんなに殺したいのかな?
絶対に実現させてやろうという謎の執念を感じるんだけど。
言葉は言霊って言うしやめてよね、本当に。
「そういえば今って夕方なんだよね? 思っきり寝たせいで時間感覚ズレるなぁ……」
ダンジョン特製スマホでは17時46分と表示されていた。少しだけお腹は空いているけど、緊張で物を食べられる気がしない。
うん、でも喉は乾いてるし熱中症は嫌だから水でも買おうかな。
「皆から貰った葬式代で水買うね」
コメント
・根に持ってて草
・嫌味やん
・憶えてたのかよw
・冗談やって
「全然根に持ってませーん。貰うものは貰うし有効活用させてもらう所存だよ。ただし切り抜き上げて儲かろうとした奴は許さん」
別にリスナーから生存を諦められたって怒ってないし。
有用な情報をいつまで経ってもくれないから見限ってるとかじゃないし。
コメント
・【朗報】祝!一時間で200万再生!
・あのやけに字幕とエフェクト入った切り抜き上げたのお前かよ……
・本当に稼いでて草
「本当にやったの!? え、僕の口座に儲けの何割か入れといてよね。てか、何で多方向に広めようとするのさ。僕の切り抜き上げたって需要ないでしょ」
地上波で放送してるんだからわざわざ過去を振り返らなくても良いじゃん。
僕のデジタルタトゥーが刻み込まれてるの現在進行系だからね。常に。
行動全てが黒歴史になり得るのすごいデバフ抱えてない? この世の中生き辛ぇ!
コメント
・サラッと儲けに乗っかろうとしてるしw
・何割で良いんだw
・需要ありまくりだぞ
・配信だから見逃したら終わりだし
・録画とかもできないんだからな。よく考えれよ
・需要あるに決まってるだろ。馬鹿なの?
「何で僕責められてるの!? そもそも人の生き死にをポップコーン食いながら笑って見てるリスナーがおかしいんだよッ!!」
コメント
・そういう世の中なんやで
・時代は変わる……
「嫌な時代になったなァ!」
こんな新時代は嫌だ。
ぶつくさ文句を言いながら洞窟内を歩く僕。
その薄暗さと妙な生暖かさは、僕がもし一人だったら恐怖に打ち震えているだろう。でも、リスナーと話しているお陰か、死への恐怖も何もかもが緩和していく。
今この場に立ってピンチなのは僕でも、温かく……温かく……
やっぱりこのリスナー駄目だ。
「あ゛ー、生き返った」
コメント
・その言葉が妙に重く聞こえるのはワイだけか
・正しくは生き残った、なんだよなぁ……
・妙な感慨が
・我が子が成長したような
・手助けも何もしてないのに勝手に成長感じてるの控えめに言って気持ち悪くて草
・あらやだ辛辣
僕が水をグビグビ飲んでる間にそんなやり取りが交わされていた。僕もそれは気持ち悪いと思う。
自暴自棄になってないだけ僕はすごいと思うんだよ。
「ん? なんか見えてきた」
その間にも歩みを進めていた僕は、前方に赤い光があるのを見つけた。
そして生暖かさは、ピリピリと地肌を焼くような強烈な熱さに切り替わっていく。
「あっつ! 真夏のコンクリート並みに熱い!」
耐えられない程でもない。
サウナで水ぶっかけてタオル振り回したくらいの温度。
コメント
・例えが秀逸
・自分の身も顧みずにわかりやすく情報を伝えるとは配信者の鑑
・↑多分咄嗟に出ただけw
・咄嗟にその言葉が出るあたり配信者の才能があるんよ
・嫌なところで開花しちゃったね、その才能
「うるせぇ! 嫌味が酷いよ! とにかく! 何かありそうだからそのまま進んでみるね! 危険なようだったら直ぐに脱出する!」
熱い……熱いには熱いけど、一定温度からそれ以上熱くないようになっている。
明らかに限界設定温度だと言われている40℃は越しているように感じるけれど、前方に見える……マグマに近づいてこの程度で済んでいるのなら十分だ。
「熱いけど狼に焼かれた時よりマシ!」
コメント
・これはブラックジョーク
・でしょうねw
・わざわざ自分で言うんかwww
・いや、草
言葉に出さなきゃやってられないこともあるでしょー!
僕の場合は、思考を勝手に垂れ流すだけでストレス発散に一役買ってるからね。安いもんよ。
「……お? これはもしかしなくてもアレじゃない?」
曲がり角を曲がって見えたのは、行き止まりの壁と、マグマの池。
簡潔に説明すると、一際大きい円状の部屋にマグマの池があって、それより先は壁で塞がれている。
そして!
その前にどどーん! と置いてある豪華な装飾がついた箱!
「これはこれは……っ!? あるんじゃない! 希望ってやつが!」
コメント
・おおおおおぉぉ!
・宝箱キタァァァァ!!!
・持ってるやん!
・希望がまだある!
・《ARAGAMI》うーん……流石に都合が良いのかな?
・いける!!
・開けろ開けろ!
・開けろ!
・AKERO!
・その前に鑑定して罠か確認!
「鑑定は無生物には効かないんだよね。ボックス系統のモンスターは擬態で『箱』になってるせいか鑑定が効かない。罠感知か透視のスキル持ちじゃないと意味がない……っていう会話を聞いた」
僕が新人講習を受ける前に先輩探索者から又聞きした話だ。とことん不遇だな、鑑定。と思いながら僕は枕を濡らしたよ。
コメント
・じゃあ開けるしかないやん
・いっけえええええ!!
・やっちまえええ!!
アラガミさんの言う通り、確かに都合が良すぎるように思うこともある。ここに来てそんなことあるか? と。
それでも目の前にぶら下がった希望に僕は縋りたかった。
散々なダンジョン生活だけれど、きっと希望はあるのだと。
この宝箱はきっと、神様からのプレゼントに違いない!
「じゃあ、みんな! 開けるよ!!」
僕はデデドン!!と置かれた宝箱に胸を膨らませて近づく。
見るからに高そうな装飾は、中にどんな貴重なものが入っているのかと期待させる演出だ。
コメント
・おぉ!
・きちゃ!
・開けろォ!
僕はリスナーの声援(無音)に背中を押された。
そしていざ宝箱に手をかけた時────
────かけた右手がサックリ消滅していた。
「ぎえええええええええ!!! いってえええええええええええ!!!!」
血がすぷらっしゅ。
コメント
・虫のいい話はなかったか……
・知 っ て た
・もう慣れたよ、片腕無くなるの
・早くポーション飲めば?
・《ARAGAMI》察し。ボックス系統のモンスターの動く法則が接触で良かった。でなければ多分普通に死んでる。戻ってポーションを飲むことを強く勧めるよ(笑)
・笑われてて草
・世界2位を笑わせる実力──!
・そんな実力欲しくねー
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます