第5話 やったね!死にかけだよ!

「もおおおおぉぉやだああぁぁぁあ!!!」


コメント

・気合いで何とかなる

・終わったやんけ

・フラグ建てるから……

・見るからに舐めプしてるなw


 コメント欄の緊張感の無さも、スマホに目を移す余裕のない僕は気が付かない。 

 レベル2の雑魚身体能力でどこまで逃げることができるのか。舐めプしてる今がチャンスなんだろうけども。


「無理いいいぃぃ! 逃げ場がないいぃぃ!! リスナー何とかしてえええ!!」


 僕のダチョウほどの脳みそじゃあ、打開方法なんてものは思いつくはずもなく、情けない悲鳴と鼻水をこぼしながらリスナーに縋り付くことしかできなかった。


 僕が一縷の望みを賭けてスマホに目線を移すと──


コメント

・ノ《¥1000》葬式代

・ノ《¥1500》楽しかったぞ!

・ノ《¥2000》骨は拾えたら拾う

・ノ《¥10000》後で切り抜き上げて儲からせてもらうわ


「人の生き様で金を稼ぐなァァァ!!!!」


 駄目だこいつら話にならない。

 今更スパチャ貰ったって何の意味もないでしょうよ!


コメント

・《ユキカゼ》貰ったスパチャでポーション買えるよ

・《ARAGAMI》打開策は無いが、ポーションを買って口に含ませておくことで、ダメージを受けた時に回復できる。一本¥10万ほどで四肢欠損までは回復する。

・《ユキカゼ》《¥300000》三本分

・《ARAGAMI》《¥1000000》何とかこれで生き残ってくれ


「神はいたあああァァァ!!!」


 貰ったスパチャでポーションを買えることは知っていたけど、その額の大きさから無縁の代物だと思っていた。

 しかし、ここでリスナーから葬式代だの儲けの分前だとかふざけて頂いたスパチャが生きてくる。


「ポーション……ポーション……これか!」


 僕は走りながらスマホを操作して《ショップ》機能を発見する。

 急いで開くと、中には『ポーション』『食糧一日分』『水』の3つが書かれていて、僕は迷わずにありったけのスパチャをポーションにつぎ込む。


 その瞬間空中からポーションの瓶が数十本落ちてくる。


「うわっ! あ、《アイテムボックス》!」


 刹那の判断で僕はスキルを使用する。

 空中にそれなりに大きい穴が空き、吸い込まれるようにポーションが入っていくのを確認した僕は、早速一本を口に含む。


 まさしく小瓶で、お猪口に入る程度の緑色の液体だ。


 味は結構不味い。そんなこと言ってられないけどね!


「ふごごご!」


コメント

・何言ってんだこいつ

・一連の動作が神がかってて草

・曲芸かな?w

・怪我する前提なの草

・頑張れwww《¥15000》


 逆に怪我しないでどうやって切り抜けるわけ??

 うん、スパチャありがとう。笑うなよ、刺すぞ。


「ガウァッ!!」


 鬼ごっこを続けて5分ほど。

 僕の体力も限界を迎えてきた。

 狼も痺れを切らしたのか、どんどんスピードを上げて僕に迫ってくる。

 まるで終わらないシャトルランをしている気分になった。


 それでも僕をすぐに殺さないのは、狼の矜持か。ただ単に遊んでいるのか。矮小な存在に本気を出すことが恥ずかしいのか。


 モンスターの気持ちなんか僕は分からない。

 けれど、生きるために必死に足掻いているのは僕だ。負けてたまるかと気張っているのは僕だ。


「ふぁへふぁんふぇ!(負けらんねぇ!)」


コメント

・何言ってんだ

・頑張ってるのは分かった

・いよいよ別れの時間だな……

・楽しかったよ

・そろそろ飯の時間だから落ちるわ


 僕のピンチ<飯なん???

 何で諦めムードになってるわけ!? 死ぬ気ゼロ!


 あーもう、熱いし脚はパンパンだし狼との距離は数メートルだし!

 

 こんな文句言ったところで現状は変わらないんだ。

 僕ができることはひたすら足を動かすこと。


 ここで死んだら両親は悲しむし、数少ない友達も多分きっとメイビー恐らく限りなくイエスに近い感じで悲しむに違いない。


 それに……ここで死んだらユキカゼさんはどうなる。


 世間からの批判を一身に受けることになってしまう。

 それが僕は一番許せない。

 僕が死ぬことで不利益を被る人がいる限り死ねない。


「ふぃんふぇふぁふぁふふぁああ!(死んでたまるか!)」


 


 ──そう叫んでも、嘆いても。

 余りにも現実は非情で。


 

 ──先程とは比にならないくらいの熱波と。

 ──ゴゥと迫る人間大の火球。


 咄嗟に交わしたけれど完全には交わしきれずに。






 ──僕の左腕を完全に焼き尽くした。



 


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