第4話 やったね!鬼ごっこだよ!

『緊急ニュース速報です。東京ダンジョンの転移事故に遭ったと思われる17歳の男子高校生が未踏破地帯で遭難しました。事故に遭われたのは東京都港区に済む世迷よまい言葉ことはさんで、本日午後4時頃に転移事故に遭ったとされています。世迷さんは現在も配信中であることから無事であることが分かっています』



ーーー


「い、いえーい、お母さん、お父さん見てる……? 一応無事でーす……なんちゃって」


コメント

・黙れよ親不孝者

・いえーいじゃねーよw

・ある意味草

・無事(笑)なんだよなぁ……

・どんどん同接増えてくやん


 とりあえず何か言ってみたけれど、数字を急激に伸ばす出来事に軽く混乱しているのが自分でも分かる。

 つい数十秒前は15万人だったのに、すでに40万人を超えている。


 やったね、大人気だよ!!


 いや、不本意ィィ!


「……落ち着いた。これから僕の痴態が地上波で流されることに関しては見て見ぬふりをするよ。……多分、血はスプラッシュすると思うのでテレビ局の人は何とかしてください」


コメント

・草

・今北産業

・転移踏む←今ここ

・いや、努力しろよw

・丸投げで草


 まあ、生き残る知恵を絞るための頭数が増えたと思えば、そこまで悲観するような事じゃないと思う。

 問題は両親のメンタル的なアレだけど……うん、帰れたら謝ろう。


「とりあえず、これからどうするかさっさと決めたいんだけど、何か案はある? ちなみに僕は講習受けたばかりの新人です」


 新たに入ってきた人に向けて簡潔に説明する。

 すると、大勢のコメントが視界に映る中、固定マークと呼ばれる上位探索者のコメントが輝いていた。


コメント 

・《ARAGAMI》まずは休憩所を探すといい。アメリカ、ドイツ、イギリスのダンジョンで50階層から先は必ず一階層に一個休憩所と呼ばれる非アクティブエリアが存在する。大概洞窟にあるのだが……まずはそこを目指してこれからの方針を考えるのがオススメさ。微力ながら手伝いをさせてもらうよ


「えーと、アラガミさん? ありがとうございます。休憩所って場所があるんですね。……じゃあ、そこを目指していこう」


コメント

・探索者ランキング2位がおる……

・アメリカのビッグスター……

・知らないのかよお前w

・ソロでアメリカダンジョンの50階層攻略する化け物やぞ

・どこが微力w


 そんなすごい人だったんだ……失礼だったかな?

 アメリカのトップスターが僕の配信を何で……?


 ……ああ、未踏破だからか。これから先に踏み入れる場所として知っておきたいのかな。それは手伝ってくれるわけだよ。


「じゃあ、まずはモンスターに見つからないように洞窟を目指すことにしよう」


 僕は早速行動を開始した。

 巨大なモンスターがいる代わりにモンスターの絶対数が少ない……と楽観的に考えられる場所だったら良いんだけどね。

 

「地面も熱いな……」


 僕は岩陰にコソコソ隠れながら移動を始める。


 現在の僕の位置は全体を見渡せる崖の上。


 少し辺りを見れば、急勾配の坂がある。


「ここから下に降りていきます」


コメント

・隠密スキルもない上に嗅覚が利く狼系統のモンスターがいる……ファイッ!

・勝ち目なくて草

・宝箱に伝説アイテム入ってて無双とかできないんか

・《ユキカゼ》ボックス系のモンスターが擬態してる場合もあるから、一縷の望みを賭けるにはリスクが高い

・あー、そういうのもあるのか


 ユキカゼさんがリスナーの疑問に答えてくれている。

 僕もたまに目を移しながらコソコソと小走りで歩く。


 額から流れる落ちる汗と、胸の奥がキュッと引き締まるような圧迫感。

 死を間近に感じる緊張が全身を硬直させていくのを肌に感じる。……これじゃあいざとなった時に動けない。


 ふぅ、と息を吐いて力を抜く。肩肘張りすぎてても身を滅ぼすだけだよね。


「……よしっ。坂は抜けた。サークル上のダンジョンだから、壁際に沿えば洞窟があったりするのかな?」


コメント

・休憩所って言うくらいだから中腹にありそうな気もするがな

・ワイら休憩所の存在そもそも知らんのよ

・《ARAGAMI》休憩所は分かりやすい形で示されていることが多いが、存在自体が謎に包まれていてね。どこにあるのか、なぜできたのかも定かではないんだ

・はえー、そうなんか


 はえー、そうなんか。

 リスナーのコメントと同調しながら、僕はアラガミさんの言葉を咀嚼する。

 

「つまり、当てずっぽうで危険地帯を歩くしかないってことか」


 それ、なんて無理ゲー?

 どれくらいモンスターがいるのかもわからないのに。


コメント

・《ARAGAMI》妙と言えば妙だが、やはりモンスターの数が異常か程に少ないことが気になる。下層に行けば行くほどに5分歩けばモンスターと遭遇するのは当たり前だ。それが、最初に見たとされる狼型のモンスター以外に見かけないというのはおかしい話だ


 すっごい頭良さそう……。

 どんどん広げられていく考察にそんな考えしか抱けない僕は、理解力が幼稚園児並みなんだろう。

 情けない……。


「確かにこれだけ広いのにモンスターと遭遇しないのはおかしいですよねぇ……でも、このまま行けば楽に突破でき──」


コメント

・おいバカ

・フラグ建てんな 

・え、ちょ

・《ユキカゼ》逃げてエエエ!!


 僕がそんな言葉を吐いた途端に、頭上に影がかかった。

 同時に酷い悪寒と、身体的に感じる熱波が僕の表皮を焼く。


 顔を上げたくない気持ちとは裏腹に、思考とは関係なく生きようとする本能が僕を突き動かす。



「あ、どうも……こんにちは……ヘヘッ」


 顔を上げた先にいたのは、例の炎を纏った狼で。

 ザッと10mほとの体格で獰猛な牙を剥き出しにしながら笑っている。

 どう考えても逃す気はない。

 

「あのぉ、見逃してくれたりとかってぇ……」


 そんな卑屈で媚びた声音は──


「ワオオオオオオオオオオオオンンンッッ!!!!!」


 耳を塞いでも鼓膜に響く絶叫に掻き消された。



「ですよねえええええ!!!!」


 僕は踵を返して脱兎の如く走り出す。

 後ろを振り向かずとも、迫る熱波で追ってきていることを明白である。


コメント

・やべえええええ!!!

・やべぇのきた!

・でっかw

・命乞いは草

・お前、実は余裕ある?

・《ARAGAMI》うーん、クレイジー

・《ユキカゼ》がんばれ


「っ、がんばるうううう!!!」


 明らかに手加減して舐めている狼との地獄の鬼ごっこが開幕した。


 

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