第2話 やったね!詰んだよ!

「なんか思ったより拍子抜けだなぁ」


 歩けばどんどんモンスターに遭遇するものかと思ってた。

 でも、全然遭遇しないし戦闘より歩くほうが疲れる。


コメント

・それで二階層行って死ぬんやで

・二階層から難易度が跳ね上がるからな

・油断ダメ絶対


 リスナーの言葉にハッと現実に引き戻される。

 確かに二階層からはゴブリンが現れて、死亡者がグッと増加する傾向にある……はず。


「そっか。堅実って言ったもんね。あと、1時間くらい粘ってスライムが現れなかったら今日は帰ろうかな。ずっと歩いてる映像流されるのも暇だろうし」


コメント

・それなりに話がおもろいから気にならん

・肝が座ってるのかビビりなのか未だに判別つかないw

・初手でスライム握り潰したのは最高だったwww


「えー、だってスライムの核ってそんなに大きくないじゃん。効率の問題だよ。わざわざ剣使ってスライムと戦うの滑稽じゃない?」


コメント

・分からないでもない

・たかがスライムと侮って良い唯一のモンスターだからな

・気づかれずに踏み潰されて命を散らすスライムくん……

・↑不遇すぎワロタw

・認識すらされないの不遇どころじゃないだろ


 あまりに弱すぎて逆に人気が出た、ってことらしい。

 弱いモノほど可愛く見える的なやつかな?


 ……それにしても本当に現れない。

 一階層の終点までまだ距離は離れているし、攻略者たちはこんなに大変な道のりを歩んでいるんだなぁ。


「こんなに長い通路で攻略者さんは大変なんだねぇ。なんか階層をスキップして渡る方法とかないのかな」


コメント

・確かに場合によっては歩きっぱなしだもんな

・今が46階層だっけ?何回層まであるか知らんけど、行くだけでも大変なのに帰ってくるのもきついだろ

・《ユキカゼ》階層スキップあるど


 コメントを眺めていると、思いもよらぬ人からコメントが送られてきて、僕は思わず「ほあっ!?」と情けない悲鳴を漏らした。


「ユキカゼさん!? 僕、ファンなんですよ! いつも配信見てます!」


コメント

・誰?

・え、誰?

・固定マーク付いてるってことはBランク以上か

・Bランク以上とか100人以上いるから分からんな

・《ユキカゼ》まじか。嬉しいぜ


 ユキカゼさんはBランクの探索者で、登録者は少ないけれど実力もある僕が唯一見てる配信者でもある。

 

 狐の仮面にダボッとした服装で、中性的な声をしてるから性別は不明だが、短剣を両手で二刀扱う姿は男心を非常にくすぐられる。くぅ、たまらないぜ!



「ユキカゼさんは僕が唯一見てるダンチューバーだよ。めっちゃすごいから見て!」


コメント

・今までで一番テンション上がってて草

・知らんけど見てみるわ

・Bランク以上ってことは強いんだろうし見るか

・《ユキカゼ》自分のチャンネルで人のこと紹介するの草


 配信内では寡黙だけど意外にコメントでは砕けた話し方するんだなぁ……。新たな一面が知れて嬉しい。

 

「あ、そういえばさっき言ってた階層スキップってどういうことですか?」

 

 そんな方法があるなんて聞いたことないけれど、僕の尊敬するユキカゼさんなら知っていてもおかしくない。


コメント

・《ユキカゼ》もうちょっと行ったら白く輝く魔法陣みたいなのあるから入ってみwww

・おいこらw

・分かってて言ってるやろw

・確かにスキップと言えばスキップだけどもw


「ん? どういうこと?」


 リスナーの反応がどこかおかしい。

 でも、僕はユキカゼさんがしてくれたコメントしか思考がいかなかった。


 首を傾げながら歩くと、ユキカゼさんが言った魔法陣らしきものが見えてくる。

 道幅の半分ほどを取った魔法陣は、確かに白く輝いていて幻想的だった。


「これが魔法陣かぁ」


コメント

・せやで。魔法陣やで。一応()

・ネタでも近づくなよw


 うーん……でもなぁ。

 ユキカゼさんが言ってるなら危険はないだろうし。


「ユキカゼさんが入ってみ、って言ったしちょっとだけ入ってみるね!」


 僕は魔法陣に一歩踏み出す。


コメント

・ちょ、おいやめろ!バカ!

・《ユキカゼ》え、ちょ

・ユキカゼぇ!!

・おいバカ

・マジで入りやがった!?

・本当に講習受けたァ!?


 コメント欄のざわめきはもう僕の目に入ってこなかった。


 なぜなら──視界が眩く光輝いていたからだ。


「うわっ、なにこれ!」


 ふわりと体が浮くような感覚を覚えた。

 どこでもない何処かに行ってしまったような、言葉で形容し難い謎の感覚に包まれる。



 ──そして気づくと僕は崖際に立っていた。


「どこ……ここ」


 ──ボコボコと沸き立つマグマ。

 視界いっぱいに広がる広大なフィールドは、マグマの赤色と地面の茶色に包まれていた。


 更には崖下を覗くと、火を纏った狼のような見たことのないモンスターが闊歩している。


コメント

・乙

・マグマフィールドなんてあったか?このダンジョン

・未踏破地域ですね、お疲れ様


「ちょ、これどういうことなの!? ここどこ!?」


 先程まであの石造りのダンジョンにいたはずだよね?


 どうしてこんなヤバい所にいるの!? あの魔法陣が原因!? 分からない!


コメント

・あの魔法陣は転移魔法陣っつー踏んだらランダムで何処かの階層に転移するもんなの

・《ユキカゼ》ごめん、マジでごめん。本当に踏むとは思わなかった

・↑ごめんじゃ済まねーがwww

・確定で死んだんだよなぁ……

・新人講習で習うはずだろw


 パニックになった僕は、リスナーのコメントで事の事態を把握することができた。

 

「新人講習寝てたんだよね、実は」


コメント 

・自業自得で草

・無知は確死

・何やってんのwww


 つまり、僕の無知が招いた事態ということになる。

 ユキカゼさんが謝ることでもない。僕が盲目してアホみたいに踏み出したからこんなことになったのだ。


 そのまま僕はダンジョン特製のスマホで現在位置を確認する。


「えぇと、なになに? ……は!? 500階層ってどゆこと!!?!!」


コメント

・マジ?

・最新層の十倍は草

・オワタやんけ

・心配するリスナーいないの草

・↑自業自得だし年間死傷者10万人だし……

・スプラッタ配信になる前にワイは抜ける 


 例のスマホは一切の偽装ができないようになっている。

 つまり、500階層という途方のない数字は紛れもなく事実。

 加えて僕のレベルは2。

 装備は安物の初期装備。


 

 ごめん……僕死んだ。

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