リスナーに騙されて最下層から脱出RTAすることになった

恋狸

第1話 やったね!初ダンジョンだよ!

「えー、どうもこんにちは。新人ダンチューバーの世迷よまい言葉ことはと言います! 新人講習が終わったので早速ダンジョンに潜りたいと思います!」


 僕と周りの光景が配信画面に映っている。


コメント

・おー、装いがまさに新人

・守りたくなる

・死ぬなよ


 新人講習が終わると全ての人がダンジョン専用のスマホを手渡され、そこでは自分の能力やレベル、そしてダンジョン内の様子を配信することができる。


 僕もそんな新人の一人で、ダンジョン協会から配信活動を始めたというわけだ。


「やっぱり最初の配信は同接が多いって本当なんだね」


 同時接続……つまり、今この配信に何人の人が来ているのか、という数字が160人を記録している。

 配信内において全ての言語が自分と馴染みのあるものに変換される、ってハイテクな代物だからか外国人の方が多いように見受けられる。


コメント

・本当ゾ

・これから応援するかふるいに掛ける意味もあるからね

・新人くんには是非とも頑張って欲しいですねぇ

・↑なぜに上からw


 ふるい……怖いなぁ。

 コミュニケーション全般が苦手なんだよねぇ。幾ら死亡率を減らすためだとしても配信は自由にしてほしい。

 とはいえ、ダンジョンに入ったら自動で配信が始まるからどうしようもないんだけど。


 プライバシーぷりーず!


「期待に添えるように頑張るね。まあ、今日は一階層を見て回る感じになりそうだけど」


コメント

・それはそう

・深入りした奴が死んでく世界だからな

・頼むからレーティング表示になるのはやめてくれよ

・19歳の時に丁度死亡配信だったのマジトラウマなんだよ


 配信者が過度な流血に陥ると、AIが勝手に判断して18歳以下をブロックする機能がある。

 よく分からない不思議なパワーで18歳以下の人は画面が見れなくなるらしい。詳しくは知らないけど。


 僕は死なないけどね!

 堅実にコツコツとがモットーなんだよぅ!


「一階層で死ぬ方が難しいって言われてるけど、油断しないようにする」


コメント

・うむうむ

・がんばえー


 ダンジョンチューバー。

 略してダンチューバー。

  

 これから僕の輝かしいダンジョン生活が始まるのだ。




ーーー


「ここが一階層かぁ……」


 受付の美人さんにときめいて入場したダンジョン。

 石造りの洞窟のような風景が広がる。

 光源は何もないけれど、ダンジョンの特性として薄暗いが視界はハッキリしていた。

  

 ちょっと綺麗に見えるね。幻想的ってわけじゃないけど、非日常感のワクワク的な……?


 目の前には4つに分かれた道がそれぞれ広がっている。

 分かれていることに関して特に意味はなく、4つの道は最終的に収束して次の階層の部屋に辿り着くことになっているのは地図で確認済み。


 ハァ、と息を吐いて立ち止まる。


 微かに緊張していることは鳴り止まない心臓の鼓動で明白だ。


 革の胸鎧に丈夫な靴とズボン。

 平凡な顔立ちの黒髪黒目が金属製の篭手に映った。

 僕は剣帯に差し込められた安物のショートソードを握って気持ちを落ち着かせた。


コメント

・緊張してるなぁw

・初々しい

・過度な緊張は危険だけど仄かな緊張は大切

・思い切り石畳に頭を打ち付けなければ一階層じゃ死なんから大丈夫よwww

・↑6年前のレアケースやめろ


「……よしっ。じゃあ早速進んでいくよ。今日の目標はスライム3匹の討伐かな」


 スライムは子どもでも簡単に倒せるほど弱いモンスターで、豆腐くらいの柔らかさの魔石を砕くことで消失する。


 スライムは人を襲わないし、水のように液体の体を這って移動するだけの生物なんだよね。


コメント

・んー、安パイ

・新人の一日目は妥当だな

・堅実に進むタイプは好感が持てる

・スwラwイwムw

・↑スライム舐めるなよ。窒息で死亡者出てんだぞ

・↑それダンジョン内で寝てたせいだろw


 ダンジョンで寝るってすごいな……。

 緊張でとてもじゃないけど眠気が襲う気配もないし、こんな魔物蔓延るダンジョンで横になることはできないでしょ。


「人いないルート選んだけど何でここいないんだろ」


コメント

・あー、3つ目ルートか

・……まあ、大丈夫やろ

・ちゃんと講習受けたもんな


「ん? 講習? 受けたよ」


コメント

・ほな、大丈夫か

・穴場っちゃ穴場だから安心して進めるぞ


 何の話をしてるんだろう……?

 講習はちゃんと受けたよ、うん。寝てたけど。


 異様に話長いだもん仕方ないよね。


「お、あれスライムじゃない?」

  

 道なりに進むこと5分。

 目の前からズルズル……と何かが這う音が聞こえてきた。

 目を凝らして見てみると、丸みを帯びた青い液体の生物が近づいていることが分かった。


 僕はてくてく歩いて鈍足のスライムに近づく。


コメント

・ス ラ イ ム が あ ら わ れ た

・相変わらずなんか可愛い

・殺すな!見逃してくれぇ!


「スライム死すべし、慈悲はない」


 僕はスライムの体に手を突っ込んで魔石を握り潰した。


コメント

・うわあああああぁぁああ!!!!

・スライムうううぅぅ!!

・なんて酷いことを!!

・様 式 美 w

・スラ虐たすかる


 コメント欄が一気に盛り上がる。

 ただスライム倒しただけなのになぜ……?


「なぜかスライムって人気あるよねぇ。僕には分かんないや」


コメント

・なんか可愛くない?

・こう……クソ弱いのに頑張って生きてる感じが……

・年に数万単位で殺されてること考えたら情が湧いちゃう


「スライムはスライムじゃん。モンスターにいちいち情が湧いてたら……ほら、スノーラビットとかどうなるんだよ」


 スノーラビットとは愛くるしい見た目のウサギ型モンスターだ。

 結構下層に行かないと会えないモンスターで、見た目を本当にただのウサギだから可愛い。


コメント

・スノラビ許さん

・油断させて牙で首千切るんやぞ、あいつら

・大概スプラッタ配信になるからトラウマ

・見た目と力と残虐さが合ってねぇんよ

・スノラビ◯ね

・アレはバケモンよ


 今度は逆の意味でコメントが盛り上がる。

 何やらリスナーの地雷を踏んでしまったようだけど、生憎と僕は人の配信はほとんど見ないから分からない。

 

「なんかごめん。とりあえずスライム倒したから褒めて?」


コメント 

・わーすごい

・えらーい

・おー

・へー


「棒やめろ。何気に初だよ!? 倒したの!」


コメント

・知らんがな

・スライム倒してイキってんじゃねーよ

・スノラビ解体してから言え


「急に罵倒されるじゃん。あと、どれだけスノラビに恨みあるの。討伐じゃなくて解体って部分に非道さを感じる」


コメント

・魔物に慈悲はねぇ!


「スライムも然り」


 墓穴を掘ったとはまさにこのこと。

 僕はリスナーにスライムを虐殺する許可を得たのであった。


 









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