第31話 大河海里



 夕方になったので大河の執務室に転移したら誰も居なかった。


「あれ?部屋を間違えたかな?」


 一度ドアの外に出て確認したけど部屋はここで合ってた。


「忙しいのかな?いや、お役所仕事だから17時には終わるはず。何かトラブルがあったのかもしれない」


 二年三組探知機には反応があるから、まだ市庁舎内にいるようだ。会いに行ってみるか?けど不法侵入してるから姿を見せるのはまずいな。よし、隠れて行くか。


 隠密系スキルを全開で姿を隠して、大河の反応がある場所へと移動した。


 階段を下りていくと、三階にある大会議室と書かれた部屋に多数の反応があった。こっそりドアを開けて中に入ると、白熱した感じで何かを話し合っていた。


「٠٠٠なので、課長はラリル海賊団の被害者の遺族へと連絡して下さい。それと係長は各ギルドマスターに召集をかけて下さい。この後、市庁舎で緊急の会議を開きます。それと誰かをアーヴィル商会へと使いを出して下さい。用件は先程の内容で٠٠٠」


 大河が取り仕切って何かを指示していた。何か忙しそうだし、出直そうかな?


 連絡手段が無いと不便なので、テラフィアでも使えるように改造したスマホを創造した。前から考えてたけど、今後は異世界に残る奴等に持たせる予定で作ったものだ。異世界間でも通話が可能な一品である。


 紙とペンも創造してサラサラっとメモを書いて、スマホとメモを忙しそうな大河の前にそっと置いて立ち去った。





 市庁舎を出て、家に帰ろうかなと思ったらスマホが鳴り出した。かけてくるの早いな!


 周りの目が俺に集中してるので、慌ててスマホに出ながら路地裏に移動した。


「はい、もしもし?」


『あ、ちゃんと繋がった!もしもし?赤城くん?』


「あー俺だよ。ちゃんと受け取ったみたいだな。なんか忙しそうな雰囲気だからさ、邪魔しちゃ悪いかと思ってスマホを置いてきたんだよ」


『そうだったんだ。ごめんね、ちょっと緊急性の高い案件があってさ。ホントは仕事終わりだったんだけど、今日は遅くなりそうなの。夜中でもいいかな?』


「こっちは大丈夫だから、仕事を優先してくれて構わない。都合のいい時間になったら電話してくれ」


『わかった。また後で電話するね』


 大河との話も終わったので、家に帰ってご飯を食べた。




 部屋に戻って今日の冒険者活動を振り返ってみる。


 召喚魔法も中々上手く機能してたし、実戦での魔法の効果も確かめられたし、大変満足する結果で終わったと思う。各種武器を使った動きも確かめられたし、今後はもうちょっと槍とか体術も使っていこう。


 反省点を考えながら、暇潰しにゲームをしていると大河から電話がかかってきた。


「もしもし?終わったのか?」


『私よ。遅くなっちゃったわ、ごめんなさい。さっき全ての指示出しを終えたところよ。今からだけどいいかしら?』


「オッケー。じゃあ今から迎えに行くよ。市庁舎でいいのか?」


『市庁舎の自分の部屋にいるから、そこで会いましょう』


 電話を切ったあと、大河を迎えに市庁舎へと転移した。反応がある場所へと移動すると、執務室の隣が私室になってるようなのでノックをしてから入った。


 部屋の中で疲れ気味の大河がテーブルに突っ伏していた。



「だいぶ疲れてるようだな。大丈夫か?」


「緊急の案件だったからね。しょうがないよ。ラリル海賊団って知ってる?あれを壊滅させて捕らわれてた人達が救出されたのよ。その対応で大変だったのよね~」


「たかが海賊団を壊滅させただけだろ?都市にとってそんなに大事になる案件なのか?」


「今日までの被害総額や被害者の数が多いのと、捕らわれてた人達に最大手の貿易船団の御曹司がいたから話が大きくなってたのよ」


 なんか忙しいのは俺のせいみたいな感じになってそうだな。討伐したのは俺だってのは黙っておこう。


 話を切り替えて本題に持っていこう。


「それは大変だったな。それはそうと、日本に帰る準備はいいか?」


「それだけど、また私をこの世界に連れて来てくれるの?」


「あぁ、問題無い。というか、俺も考えを改めたよ。ちょっと聞いてくれるか?」


 俺は今後は異世界に戻りたいと希望する者は戻そうと思う。勿論、その人の良識というか、善悪によるというか、人格に問題が無ければだけど。その旨を大河に伝えた。強制送還になったクラスメイトについても話しておいた。変に接触されるとアイツらは何するかわからんしな。


「それから異世界で暮らすには何かと力が必要だろ?だから大河にもこれを渡しておくから使ってくれ」


 いつものLV1000ドリンクセットとスキルオーブセットを渡しておく。使い方を説明して、自衛に必要そうな物があれば創造するから何かあるか?と伝えると、少し考えてから幾つか言われたので創造して渡した。


「それじゃあ今日はもう遅いし、家で晩御飯を食べたら明日帰るための打ち合わせするからな」


「٠٠٠変なことしないよね?」


「しねーよ!女神のとこであった一件は説明しただろ?ちょっとは信用してくれよ」


「そうね、パワーアップもしてもらったし。基本、赤城くんは悪い人じゃなさそうだしね」


 大河とのやりとりに疲れながらも、自宅へと転移した。


 久しぶりの和食に大喜びの大河に、ご飯を褒められて母さんは満足そうだった。父さんはそれを微笑ましそうに見ていた。


 晩御飯を食べたあと、部屋でいつもの設定を説明した。一応、演技スキルのオーブも渡してあるから大丈夫だろう。政治家に渡していいものか悩んだけど。


 いつものようにベッドを一つ出して、大河に制服やらを渡すとお礼を言われた。


「色々とありがとう、赤城くん。もう制服も着れないと思ってたし、スマホなんか使えないと思ってたもん。本当に感謝しかないよ」


「٠٠٠どういたしまして。明日は家に帰ってちゃんと話し合えよな。無理矢理は駄目だからな」


「わかってるわよ。ちゃんと両親には話すわ。それにこのスマホがあれば異世界間でも通話ができるんでしょ?連絡が取れるのなら大丈夫よ」


「ならいいさ。話が終わったら連絡してくれ。迎えに行くから」


 明日の予定を決めて二人とも眠りについた。さすがに女子と一緒の部屋で寝ることにも少し慣れてきたから、今回は緊張して眠れないという事はなかった。




 翌朝、朝食を食べて大河を家に送った。


 千里眼でチラッと確認すると、感動の再会の後に家族会議みたいなのやってた。その横で、父親が会社に遅れる電話をしてたのが印象的だった。


 電話相手が見えてない状態でもペコペコ頭を下げる٠٠٠あれが社畜か。


 大河からの連絡待ちの間に、他の帰還者に連絡をとってみることにした。異世界へ戻る希望者がいるかもしれないから。特に上木とかめっちゃ気にしてたからな。


 ちなみに新島や片山みたいな奴等はブラックリスト入り(俺の中で)しているので連絡しない。


 寺井と沼津٠٠٠美咲には連絡したから、次は浜口と倉木だな。どちらからかけようか?倉木は主体性が無さそうだし、浜口からでいっか。


 スマホを取り出して浜口にかけたら、数コールしたあとに出た。


「もしもし?赤城だけど、今ちょっといいか?」


『課題をやってただけだし、別にいいわよ。あれからどう?何人か戻ってきてるの?』


「浜口と倉木の後は七人だな。今のところは順調だよ」


『そう、それは良かったわ。赤城くんが私に電話してくるってことは、何か話したいことがあるのかしら?』


「あぁ、一部を除いた皆に聞いてるんだけど、浜口は異世界٠٠٠テラフィアに戻りたいか?」


『え?どういう意味かしら?』


 浜口に今までの経緯を簡単に説明した。暫く考えた後で、倉木と相談してから決めたいと言った。


『多分、私達は行かないと思うわ。けれど、一度夕子と相談させてちょうだい』


「わかった。無理はしなくていいからな。あくまで本人の希望があればって話だから。色々と柵だってあるだろうし、そこは俺にはわからんから任せるよ」


『そう、ありがとう。赤城くんも変わったわね。前はもっと頑固で強引なイメージたったのに。色々と経験をしているってことかしら?』


「まだ俺達は高校生のガキだろ?そりゃ変わりもするさ。何が正解だなんて決まってないんだから。また考えが変わるかもだし。あ、急がないけどなるべく早めに連絡してくれ」




 浜口への連絡が終わったので、次の候補にかけることにした。次は上木だ。


『もしもし?赤城じゃないか!元気にしてたかい?』


「まぁ、元気にやってるよ。今ちょっといいか?」


 上木は元気良く電話に出た。あれから連絡するのは初めてだけど、あの時に見た後悔しているような顔を思い出してしまう。


 気持ちを切り替えて上木に思っている事を話してみた。


『そうか٠٠٠いや、わざわざ僕の為にありがとう赤城。あれからずっと考えてたんだ。このままでいいのかなって。ずっと後悔してたよ。けれど行けるチャンスがあるのなら、もう後悔はしたくないんだ。だから僕をもう一度あの世界に送ってくれないだろうか?』


 上木はやっぱり後悔していたようだ。あの国に思い入れもあるんだろう。上木を連れて行くことにしたけど、その前に家族に許可を取ることを伝えた。


『それなら大丈夫だよ。家族には既に話をしているからね。秘密もちゃんと守ってくれるし、やり残した事があるならやってこいと言われているよ』


「それなら大丈夫だな。後は学校の課題をやるだけだけど、どれぐらい終わった?」


『それなら三日で終わったよ。することが他に無かったからね』


 そういえば上木と話した時に、学年順位が五位だと聞いたことがあったな。さすが優等生だ。


 サクサクと話が進み、上木を明日迎えにいくことになった。


 電話を切ったらメッセージが届いてたので見てみると浜口からだった。



『電話してもいいかしら?』



 わざわざメッセージで確認してくるあたり真面目だなぁと思いながら、こちらから浜口に電話した。


 話の内容は異世界行きを断るといった内容だった。やはり盗賊相手とはいえ、あの一件が相当尾を引いてるようだ。別に無理強いするつもりは無い。それよりも浜口と倉木のアフターケアをしておこう。


 浜口に今から二人の家に行くと告げて、浜口の家の近くに転移した。





 インターフォンを鳴らして、浜口には家から出てきてもらった。


「会いに来るなんて何かあったの?」


「二人にアフターケアをしに来た。このまま倉木の家に行くぞ」


「え?ちょ、まっ٠٠٠」


 何か言おうとしてた浜口を連れて倉木の家に到着。インターフォンを鳴らして玄関まで入れてもらった。誰かに見られなければ玄関までで大丈夫だし。


「赤城くん、凛ちゃんを連れてどうしたんですか?」


「二人のアフターケアをしに来たんだ。光魔法『精神回復マインドヒール』」


 二人をぺカーッと光が包み込む。強目にかけたから、これであのトラウマもかなり軽減されるだろう。急な魔法の使用により二人は驚いてたけど、精神回復が効いたのか落ち着きを取り戻してきた。


「頭がスッキリする٠٠٠何か気持ちが楽になった気がするわ」


「そうだね、これって赤城くんの魔法の効果?」


「気休めかもしれないけど、精神を回復させる魔法だ。折角帰って来れたんだから、困った事があったら俺に出来ることはするから。気兼ねなく言ってくれ」


 その後、二人にお礼を言われた。気にするなと返事をして、浜口を家に帰した。


 時間が余ったので砂漠で魔法やスキルの練習をしていると、大河から連絡があった。


『お父さんが会社に行ったから話は終わったんだけど、やることがあるのよね』


 話は一通り終わったらしいが、学校や警察への連絡もあるから暫く日本に滞在するそうだ。日本に滞在するってのも変な言い方だけど。それと事情聴取が終わったら学校からの課題を持ってくそうだ。


『あんまり時間を無駄にしたくないからね。効率よく、ね』


 政治経済の本なども持ち込んで、本格的に取り組むと言ってた。大河の今後の活躍に乞うご期待!ってことらしい。


 そういえば戸田は警察への事情聴取も学校への連絡も一切してなかったな。よし、一度日本に戻しておこう。




 異世界へと転移して戸田に会いに行った。アニマー獣人国家の首都にやってきて、戸田の反応を探してたら冒険者ギルドにいた。


 何をしてるのか覗いてみたら、飲食スペースで複数の獣人の女の子に囲まれていた。


「そこで俺は言ってやったのさ。"悪の栄えた試しなし"ってね!」


「きゃ~!すごい~!」

「さっすがツヨシね!」

「フフフ、強いのね。男らしいわ」

「これ、あんたの為に作ったんじゃないんだからね!」


 戸田はどうやら女の子を侍らして自慢話をしているようだった。無駄に栄光の光をぺカーッとさせていた。鼻の下を伸ばしてるけど、女の子に迫られると萎縮して逃げていた。


 そんなことより冒険者活動しろよと思いながら、戸田を強引に回収した。


「ちょっとみんなゴメンね。こいつは連れてくから」


「あ、赤城!これは違うんだ!まだ何もやってない!」


「見てたらわかるからいいよ。めっちゃ童貞臭いムーブしてたし」


 今のセリフは自分にも返ってくるブーメランだったけど。心のダメージを堪えて戸田を外に連れ出した。


 日本に帰して一度警察と学校に連絡しないといけないことを説明して、戸田を日本に帰した。


「終わったら連絡するから迎えに来てくれよな!まだ誰ともデートしてないんだから!」


「ハイハイ、学校の課題もちゃんとやれよ?あと冒険者活動もな」


 戸田に異世界スマホ(仮名)を渡しておいた。あとは上木と沼津٠٠٠美咲にも渡さないとな。



 昼になったので家に帰ってご飯を食べた。昼からは沼٠٠٠美咲に会いに行くか。課題とか勉強が苦手っぽいし、ちょっとブーストしてやるか。


 多分、明日は上木と美咲を連れてくことになりそうだ。あと、やっぱり女子を下の名前で呼ぶのは中々慣れないと思った。



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