第29話 カッパー海運国家群



 戸田を回収して異世界へと転移した。今回行くことにしたのはアニマー獣人国家の王都である。


 女の子を紹介するという約束を果たす為に来たんだけど、俺に紹介できる女の子がいるわけがない。なのでモテる方法を教えることにした。その為に獣人の特性がどういったものかを見てもらうことにした。


「冒険者ギルドは知ってるよな?ここで特性がどんなものか見てもらえれば解ると思う。昨日話した内容は覚えてるよな?」


「それは全然オッケーだ。だけど紹介っつーより、モテる方法とはねぇ。人生でモテたことないからなんか実感がねーよ」




 冒険者ギルドに着いて、いつものようにカウンターにいる受付嬢さんの所へ行く。


「すまない、ちょっといいだろうか?」


「はい、大丈夫ですよ。今日はどのような御用件でしょうか?」


「こいつを冒険者として登録してくれ」


 例の狐獣人のお姉さんの前に戸田を差し出した。お姉さんは戸田を上から下までチラッと見て、ペロリと舌舐りしていた。


「それではこちらの用紙にご記入下さい。こちらのお兄さんは結構お強そうですね?」


「わかるか?同郷の者なんだが、強さはそこそこあるから、直ぐに頭角を現すと思うよ」


 美人さんの前で緊張してるのか、黙って用紙に記入している。時折、チラッと受付嬢さんのシッポを見てるけど、それ誘導されてるからな?触んなよ?


 記入しながらコソコソと小声で戸田が話しかけてくる。


「おい、こんなに美人さんだなんて聞いてないぞ」

「どうでもいいけどシッポとか触るなよ?あれは触るように誘導してるからな」


 登録用紙に記入も終わり、受付嬢さんから簡単な説明を受けた。


「これで今日から冒険者ですね。困ったことがあれば、私に相談してくださいね?」


「は、はい!あ、あの、お姉さんは何て名前なんですか?」


「あら?名前を聞いてくれるのですか?フフ、私はディアと申します。よろしくね、ツヨシさん」


「ディア٠٠٠素敵な名前だ」


 あ、駄目だこいつ。早く回収しないとアカンやつや。


「ありがとな!また来る!」


 受付嬢さんにお礼を言って、戸田を連れてギルドを後にした。




 ギルドを出てから戸田に詳しく説明してやった。獣人の独身女性は肉食系女子であり、強い男性に惹かれると。そしてあの手この手で耳かシッポを触らせようとしてくると。


 そしてクラスメイトの片山の話もしておいた。どんな事件を起こして、どう思われていたかもだ。


 同級生の話でようやく正気に戻ったらしく、とりあえずモテる為に冒険者を頑張るようだ。


「まだ誰とお付き合いするかわかんねーし、俺の将来性は未知数だもんな。とりあえず社会的なステータスを上げてくことにするよ」


「あぁ、そうしてくれ。ある程度の資金と装備は渡しておくから頑張ってくれよ。それと悪いことはすんなよ?」


「当たり前だろ?そんなことしねーって!片山や新島じゃあるまいし。٠٠٠てことは他の奴らもどうなってるかわかんねーってことだよな?赤城、気を付けろよな」


「わかった。戸田もクラスメイトに会ったら気を付けてな。何かあれば俺に連絡してくれ」


 渡した装備の中には魔力で通話できるようにしたスマホがある。何かあれば連絡がくるだろう。


 戸田に別れを告げてトライデント連合国に転移した。





 転移した先は野村達と出会ったマザレル山だ。ここからライツ王国側に移動して、更に隣にある国へと飛んでいくことになる。


 ハリアーで空を駆けること二時間ほどで、ライツ王国の王都上空を越えた。更に西へ飛んで行きながら、道中で魔物を倒したりしてると国境らしき関所が見えてきた。


 世界地図で確認すると、サンダール王国という名前だった。ここサンダール王国は海に面した国であり、貿易も盛んなのだとか。


 国境を越えた初めの街へと降り立つ。といってもハリアーを見えない場所に着地させないといけない。そこから歩いて門へと向かった。





 門番にギルドカードを提示して街に入ると、冒険者ギルドに情報を買いに向かった。


 いつもの通りに受付嬢さんに情報を買う旨を伝えて、お金を支払った。今回は安くて金貨10枚だった。安い理由はすぐにわかったけど。


「は?いない?」


「はい、この国には女神の戦士様はおられません」


「その情報で金貨10枚もするのか?」


「この国に女神の戦士様は確かに居ませんが、隣国におられますよ。その情報料となっております。隣国のカッパー海運国家群のどこかにおられます。正確には、この国もカッパー海運国家群の一員なんですけどね」


 話を聞いてみると、どうやらここから西にある幾つかの島々とサンダール王国を合わせて、カッパー海運国家群というらしい。で、今はその諸島のどこかにいるそうだ。


「更に正確な情報となりますと、王都の西にあるニダールの港町に行けばわかるかと思います」


「そうか、ありがとう」


 受付嬢さんにお礼を告げて、ニダールの港町にハリアーで向かった。





 世界地図で確認すると、王都を通り過ぎていてもうすぐ着くようだ。海も見えてきたし、あそこがニダールの港町だろう。


 また近くでハリアーを降ろして歩いて門へと向かった。


 またギルドカードを提示して門から入って、冒険者ギルドを目指した。途中で魚の塩焼きが露店で売ってたから購入した。


「そういえばそろそろ昼飯の時間だったな。丁度いいから露店巡りでもしよう」


 気になる海鮮の料理を次々に購入していって、広場になってる所で食べることにした。


「こないだ買った海鮮も混ざってるな。確かラージホタテだったか?これはブルーサバーだったはず。知らんのもあるな٠٠٠まぁ売り物だから食べれるだろう」


 全て美味しくパクパクと食べてしまった。レビューとか難しいから美味しいとしか言えんけど。




 腹も膨れたので冒険者ギルドに向かった。すぐ近くにあったので中に入って受付嬢さんの所へと向かう。


「すまないが、女神の戦士様の情報を買いたい。いくらだ?」


「はい。そちらの情報は金貨10枚になります」


「安いな٠٠٠まさかどこにいるか解らないから、他の場所に行けという情報じゃないだろうな?」


「おぉ、まさしくその通りですよ。もしかして他でも同じことを言われましたね?」


「金貨10枚だ。それで今度はどこに行けばわかるんだ?」


 受付嬢さんに金貨を払って聴いた情報によると、カッパー海運国家群の首都がある島に行けば解るらしい。ちなみに今日は定期便はもう無いそうだ。


「わかった。その首都のある島の名前は?」


「首都のある島はカッパー島と呼ばれています。次は明日の朝に定期便がありますよ」


「それだけ解れば充分さ。ありがとう」


 冒険者ギルドを後にして、そのまま港町を出る。人気の無い沖合いのところまで飛んでいき、イージス艦をストレージから取り出した。


「やっぱ海と言えばこれだよな!出発進行~!ヨーソロー」


 気分でヨーソローとか叫んでみたけど、誰もいないから恥ずかしくはない。世界地図を確認しながら一路カッパー島を目指した。




 カッパー島まであと少しという所で、光学迷彩をかけて姿を見えなくした。これで人気の無い場所で上陸すれば完璧だ。


 道中で狩った魔物は解体して晩御飯に回すとして、心配だし後で戸田の様子も見ておかないとな。なんかやることが増えてきたような気がする。


 無事に上陸出来たので、イージス艦を仕舞って街まで歩いた。


 ギルドカードを出して門を通ると、活気が溢れる街並みだった。そりゃ首都だもんな。ここが寂れてたら大問題だよ。




 この国は気候が暖かいからか薄着の人が多くて、小麦色の肌の割合が多かった。女の人は扇情的な衣装の人も多くて、南国の雰囲気が出ていた。と言っても南国に行ったことないけど。


 大通りに冒険者ギルドがあったので、本日四回目となる冒険者ギルドに入った。一日にこんなに行ったのは初めてだよ。


 受付嬢さんに情報を買うと伝えて、ようやくまともな情報を買えた。お値段は金貨10枚で安かった。


 ちなみにここの受付嬢さんは日焼け美人さんだ。なんかエロく感じるのは、南国みたいな雰囲気のせいだろうか?あと薄着であることも関係してると言えなくもない。


「女神の戦士様はこの街で市長として勤めております。あの方が来られてから色々な政策を試みてるそうで、今では首都で一番の話題となっております」


「市長?確か女神の戦士様が来てから三ヶ月も経ってないよな?それなのに首都で市長をしているのか?」


「女神の戦士様が言うには職業が市長なので、それを活かせる場所にという要望があったそうですよ。普段は市庁舎で仕事をされてめすから、そちらにおられますが、忙しい方なので会うことは難しいと思います」


 なるほどね。確かに職業が市長ならそれが一番いいかもな。後は頭脳と中身が伴っていたらだけど。会うのは難しいのは解ってるけど、それはいつもの事だから大丈夫だし、場所を調べてまた夜に会いに行くか。


 受付嬢さんにお礼を言って冒険者ギルドを出た。世界地図で市庁舎を調べてそちらに向かった。





「この世界にしては大きい建物だな。窓の数からして四階建てかな?」


 このテラフィアでは大きくても二階建てが精々で、城や砦などを除けば市庁舎は一番大きな建物になるだろう。

 冒険者ギルドや商業ギルドでも二階建てと地下があるぐらいだし。前に商業ギルドで聞いた限りではだけど。


 人の出入りも頻繁にあるようなので、流れに沿って入ってみた。


 中に入ると受付カウンターが複数あり、各カウンター毎に受け持つ役割があるようだ。市役所に行った時に見た受付窓口にそっくりだった。元からこうだったのか、それともクラスメイトの提案なのか٠٠٠どっちでもいいか。


 何処に並べばいいか解らなかったから、総合受付というカウンターに並ぶことにした。暫く待ってたら、あと一人で俺の順番という所で、ゴーンゴーンという鐘の音が聴こえてきた。


 前にいる商人風のおっちゃんと職員が話してる最中に、職員がカウンターに立て札を置いた。


「定時になりましたので、本日はここまで。また明日の朝の鐘にお越し下さい」


 立て札には『本日の受付は終了しました』と書かれていた。


「おい!私は大事な用件があってきたんだ。こんな半端な所で帰れるか!」


「そう言われましても。役所は夕の鐘で終わるのが規則ですので。また明日お越し下さい」


 それだけ言って職員は奥に引っ込んでいった。このお役所仕事な感じはクラスメイトが決めたことのような気がする。


 商人風のおっちゃんは苛つきを見せながら帰っていった。他の窓口でも同じような事が起きていたけど、文句を言っても仕方ないと解ってるのか、みんな帰っていった。


 俺は帰ると見せかけて、隠密系スキルを全開にして階段を上がっていった。クラスメイトは多分だけど最上階に居そうな気がする。二年三組探知機の反応も上からしているし、間違いないだろう。


 階段を上がっていき四階に到達。部屋を見ながら廊下を歩いてたら、執務室と書かれた部屋を見つけた。探知機の反応からしてここだろうと思い、ドアを静かに少しだけ開けて中に入った。


「うん?誰かいるの?٠٠٠誰もいないの?ドアの建て付けが悪いのかなー?」


 デスクに座っていた女の子がカップを手に寛いでいた。お茶でも飲んでたのか、カップから湯気が上がっていた。


 席を立ってドアの所に行き、何度かドアを開け閉めしてから席に戻った。その間に鑑定したところ、やっぱりクラスメイトだった。




カイリ・オオカワ

人族 16歳 女性

職業 市長


LV 33

HP 1100+400

MP 1800+400


力  80+400

体力 170+400

速さ 80+400

知力 220+400

精神 280+400

魔力 1800+400

運  420+400


スキル

市民扇動、求心力、鼓舞、高速思考


称号

女神の戦士、指導者、都市長




 どうやってレベルを上げたのか解らないスキル構成だけど、もしかしたら職業補正的なものがあるのかもしれない。+400とかかなり高い補正だぞ。ステータスだけなら今までのクラスメイトより強いんじゃないか?


 職業の市長を詳しく鑑定してみると、驚愕の事実が明らかになった。




職業 市長

支持を得ている市民の数が一定数になると、市民の数に応じて補正が入る。支持を得ている市民を使うことでレベルが上がる。




 もしかしたら最強クラスの職業なのかもしれない。あくまで支持を得ていたらだけど。もっと支持を得ていたら恐ろしい程に能力が上がる狩野があるな。市長とかハズレ職業だと思ってたわ。


 友好的なのを願いながら、話し掛けてみることにした。声が漏れたり誰か入ってこれないように、部屋全体に結界を張っておいた。


「大河、俺だ。同じクラスの赤城駆だ。今から姿を現すから、大声を出さないでもらえると助かる」


「えっ!赤城くん?」


 隠密系スキルを解除して大河の前に姿を現した。


「久しぶりだな。お前に話があって来たんだ。少しいいか?」


「な、何の用?私、ちょっと忙しいからまた今度にしてほしいな~」


 大河は後退りしながら応える。めっちゃ警戒されてる感がバシバシ伝わってくるな。怪しい者じゃないですよ?


「嘘つけ。さっきまでお茶飲んでまったりしてたろ?そう悪い話じゃないから聞いていけ。あと誰か呼ぼうとしても無駄だからな?この部屋には結界が張ってあるから」


「え、嘘?」


 さっきから不審な動きをしてたから、牽制の意味も込めて教えてあげた。何かの装置を弄ってるけど、もしかしたら防犯的な道具なのかもしれない。


「やだやだやだ!いや!誰かぁ~!」


「落ち着けよ、お前を日本に帰すために来たんだからよ。ほら、これが証拠だ。見てみろよ」


 取り乱し始めた大河にスマホの画像を見せてやった。フフ、戸田達の画像も増えてるからな。かなりの数になってきたもんだよ。全員友達って訳じゃないのが悲しいけどね。


 それでも大河は騒いで中々スマホを見ようとしなかったので、頭を掴んで無理矢理スマホを見せることで、ようやく落ち着きを取り戻したようだ。繁々とスマホにある画像を見ている。見られて困るものはないけど、なんか恥ずかしくなってきた。



「確かにここに写ってるのは日本のようね。これは帰った子たちで合ってる?」


「あぁ、沼津の提案でな。俺と写ってる写真があったほうが、信憑性が増すからとか言われて撮ったもんだ」


「ふ~ん。美咲ちゃんこんな顔もするんだ」


「ん?何かあったのか?それは全部本物だぞ。加工とかしてねーし、やり方も知らんからな」


「疑ってないわよ。はい、これ返すわ。ありがと」


 何だったんだ?まぁいいかとスマホを受け取った。後は大河に帰りたいか聞くだけの簡単なお仕事だ。


「それで質問なんだが、大河は日本に帰りたいか?」


「勿論、帰りたいわよ。まだまだ学ぶことも多いし、パパとママに何も言えずに連れて来られたんだから」


「それじゃあ決まりだな。今から帰るけど、いいか?何か忘れ物とかあるなら持ってくぞ」


「ちょっと待って。まだ話は途中なの。赤城くん、日本にはどうやって帰るの?何か方法があるんでしょ?」


「あぁ、それはな٠٠٠」



 大河にざっくりと日本への帰し方と、そこに至るまでの経緯を説明した。それを聞いて暫く考えた後、何やら決意したような真剣な表情を見せた。あ、これは残ってやりたい事があるパターンだな。



「お願いがあるの赤城くん。私を日本に帰した後に、またここに連れてきてほしいの」


「そんなことだろうと思ったよ٠٠٠で、何か理由があるんだろ?それはなんだ?」



 大河の残りたい理由を聞いた。ざっくり説明すると、この首都であるカッパー島を含めた海運国家群を運営していきたいという話だった。


「私ね、街造りとか国造りシュミレーションのゲームが好きで、ずっとやってたの。ここは正に私にとっての理想郷なのよ」


 この世界に呼ばれて右も左も解らない時に、この島の住人達から優しくしてもらった。南国気質で温かい人情味を持つ国民性らしい。そんな人達だからこそ、この国を豊かにして恩返しがしたいそうだ。



 その理論でいくと、上木も帰さずに残せば良かったとなってくるんだけど。どうしたものか٠٠٠悩むな。


「大河はどこまでここにいるつもりなんだ?豊かになるって線引きを決めとかないと、ずっとここにいることになるぞ?それに大河が抜けた後は大丈夫なのか?」


「その辺も考えてあるよ。最悪はこの国で骨を埋める覚悟もあるわ。だからお願い、私をまたここに連れてきてほしいの」


「٠٠٠少し考えさせてくれ。今日はもう遅いから、明日の夕方にまた来るよ。どちらにせよ帰るなら大河もやることがあるだろうし、それまでに準備しておいてくれ」


 ちょっとした案が浮かんだけど、ちゃんと細部まで考えてみたい。大河に再会を約束して、その日は家に転移した。




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