第27話 戸田剛と野村大志と福山朋子



 深夜に転移した先はケトルの森だ。まずは戸田から話そうと思う。相手が一人の方が楽だからな。


 野営場所は変わっておらず、焚き火の周りに何人か起きて警戒していた。まぁ、魔物が跋扈する森だし当然か。隠密系スキルを全開で抜けていくのもアリだが、ここは直接テントの中に転移するとしよう。騎士を眠らせてしまうと魔物が来たときに対処できないしな。


 テントの中に転移すると、戸田は気持ち良さそうに寝ていた。今回は周りに音が漏れ易いテントなので、風魔法の静音を周りに展開する。


 戸田の肩を揺さぶって起こすと、驚いた顔をしていたが、直ぐに状況を理解したのか驚きの声を上げずに耐えていた。


「よぉ、戸田。いい夜だな」


「٠٠٠赤城か。それで、こんな夜更けに何の用だ?」


「まずは俺の事情を話すよ。実は٠٠٠」


 戸田に今までの経緯を簡単に話した。聴いていた戸田は驚いてたが、俺の目的を聞くと納得したような感じだった。


「なるほどな。それで次は俺の番ってわけか」


「理解が早くて助かるよ。一応、証拠として帰還者と仲良く撮った画像あるけど。これ」


「お、ホントだ。確かに沼津と寺井だな。ところで四谷と一緒に写ってるのは誰だ?」


「四谷の嫁だ。あいつはこっちで結婚してたんでな。で、日本に挨拶に行ってたんだよ。これはその時の写真だな」


 帰還者の写真はスマホに送って貰ったり、俺が撮ったものがあるから順調に増えていってる。連絡先が順調に増えていってるけど、元がボッチだからちょっと嬉しかったりする。誰にも言えないけど٠٠٠


 ある程度の事情を理解した頃合いに、戸田に帰るかどうか切り出した。すると戸田は切羽詰まったような表情で答えを返した。


「帰るのは全然いい。だが、少し待ってるほしいんだ。」


「何か理由があるっぽいな」


「あぁ、俺には好きな子がいるんだ。その子と出来れば一緒に帰りたい。更に言うなら告白したい!このままじゃあ、後悔が残って帰れない!」


 戸田の物凄い勢いに押されてしまって、少し٠٠٠いや、かなり引いてしまった。恋するパワーってやつか?すげえな!



「おぉ٠٠٠何て言うか頑張れ?てか、それなら早く告白しに行ってこいよ。それに、その子が日本に着いていくかどうかもわかんねーだろ?」


「それなら大丈夫だ。その女の子もクラスの子だからな。ちなみに福山さん٠٠٠福山朋子だ」


「聞いておいて何だが、それ俺に言ってよかったのか?」


「赤城はあんまり親しくないからな。知らない奴には言っても大丈夫だ」


 そうですね!どーせ俺はボッチですよ!戸田の返答にくるものがあったが、確かに俺に知られたところで大した被害はないしな。誰にも話せないし。話さないのほうが正しいけどね。


「それなら大丈夫だ。この後、野村と福山に会いに行く予定だからな。心配なら着いてくればいいさ」


「何っ!?野村も居るのか?」


「あ、あぁそうだけど」


「そうかぁ٠٠٠いるんだ野村٠٠٠」


「えと、何かあったのか?野村と仲が悪いとか?」


「聞いてくれよ。野村はさぁ٠٠٠」



 戸田が語った内容は悲惨なものだった。


 野村と福山は幼馴染みというやつで、小さい頃からずっと一緒だったらしい。小中高と同じ学校に通い、周りからは付き合ってると思われてたそうだ。

 本人達は否定しているそうだが、周りから見れば付き合ってるようにしか見えない。しかし戸田は、もしかしたらワンチャンあるかもと思って、さりげなくアピールしていたらしい。けれど何かとタイミングよく野村が出てきて、中々上手くいかないんだとさ。別に野村との仲は悪くはなく、たまに三人で遊びに行ったりもするらしい。(福山を誘ったら野村も一緒ならと言われて)



 話を聞く限りではワンチャンも無いとは思うんだけど、戸田は異世界転移でいいとこを見せて告白しようと思ってたらしい。


 悲しいことに職業も野村の下位互換で、幼馴染みというアドバンテージもあり、戸田には玉砕の未来しか見えないよ。無理だなんて言わないけど、自暴自棄にならないようにフォローだけしてあげよう。



「まぁなんにせよ、今から二人の所に行くから、思いの丈を伝えてきたらどうだ?後悔したくないんだろ?」


「٠٠٠そうだな。赤城、告白するから協力してくれるか?ちょっとだけでいいから二人きりにしてほしい」


「わかった。それぐらいなら協力するよ」



 成り行きで戸田の告白を手伝うことになった。戸田を連れて転移することを伝えて、持っていく荷物をストレージに回収してあげた。準備ができたのでようなので、戸田を連れてマザレル山に転移した。





 転移した後に世界地図を確認すると、近くの山小屋に反応があったので、戸田を連れて反応があった場所へと移動する。


 山小屋の近くまで来ると、山小屋の周りを騎士が数人見張りをしていた。


「おい、見張りがいるぜ。どうするんだ?」


「こうするのさ。闇魔法『睡眠雲スリープクラウド』と光魔法『光学迷彩ステルス』」


 睡眠雲で見張りの騎士達を眠らせて、光学迷彩で俺達の姿を見えなくした。光学迷彩は光の屈折率を操作して姿を消すことができる魔法だ。


「これで安全に入れるって寸法さ」


「おぉ、すげえな赤城。光魔法にこんなのがあったんだな」


 俺の魔法は俺が考えたものです。とは言えないので、ニヤリと笑って誤魔化した。スキルも魔法も創造頼り。アニメに漫画やゲームを参考にしてるから、戸田に頑張って覚えろとも言えない。


 山小屋の中にいる他の騎士達にも、ドアの隙間から睡眠雲をかけて深く眠らせる。


 魔法がかかったのを確認して、戸田と一緒に山小屋の中に入った。




 中に入ると騎士達が数人寝ていて、奥に野村と福山が並んで眠っていた。福山の隣には女騎士も寝ており、女性に対する配慮が見れた。反対側には野村がいるけど。それを見た戸田がグギギと音が出るほど歯ぎしりをしていた。


 戸田に落ち着くように声をかけて、野村と福山に声をかけて起こした。


「おい、起きろ」


「ん、うぅん。交代の時間ですか?」


「違う。お前らに会いに来たんだ」


「ハッ!?だ、誰だ?」


 先に目覚めた野村は少し寝惚けていたが、俺らの姿を確認すると警戒態勢をとった。暗くて誰かわからんから仕方ないけどね。


「光魔法『室内灯ライト』。これで見えるだろう?俺だ、同じクラスの赤城だよ」


「俺もいるぜ、大志」


「赤城?おぉ、剛じゃないか!大丈夫だったか?」


 光魔法で部屋を明るく照らすと、野村はその眩しさに目を細める。俺と戸田だと教えてやると、戸田に心配そうな顔をして駆け寄っていった。


「あ、あぁ。元気にはやってたよ。お前たちも元気にやってたみたいだな?」


「俺と朋子は何とか上手くやってるよ。最近になってようやく合流できたんだ。国の方針ってやつでな。剛も赤城と組んでるのか?」


「いや、俺の方はちょっと違うんだ。え~と、赤城説明を頼むわ。福山さんも起こさなきゃだしな」


「あ、そうだな。トモ~起きろよ!」

 野村が福山をゆさゆさと揺らして起こそうとするが、中々起きないので頬っぺたをペチペチしてる。それを見ている戸田の表情が凄いことになってるが、もう少し上手く感情をコントロールしようね?


 野村に起こされた福山がボーっとした顔で俺達を数秒見てると、戸田に駆け寄って話かけた。


「戸田くんじゃない!今までどうしてたの?大丈夫だった?」


「お、俺は大丈夫さ。福山さんこそ大丈夫だったか?」


「私達は一緒だったから平気だよ。まぁ一緒になったのは最近なんだけど。それより聞いてよ~タイちゃんったら酷いんだよ?この前もさぁ٠٠٠」


 福山が聞いてもないのに今までの事をペラペラ喋り始めた。内容は野村のことばっかりだったけど。それを嬉しさ半分悲しさ半分で戸田は聞いていた。


「トモ、剛が困ってるだろ?そろそろ落ち着けよ」


「えぇ~もっと喋りたいのに~!タイちゃんの意地悪!」


「え~とスマン。二人ともいいか?」


「あ、はい。えっとどなたですか?」



 やっと話ができると思ったら、福山は俺のことを知らないようだった。俺だって福山のことを知らなかったから、ここはお互い様としておこう。


「同じクラスの赤城だ。二人に話したいことがあって来たんだ」


「同じクラスの赤城くん٠٠٠?あ、女神様のとこで吊し上げられてた赤城くん?」


「ちょ、バカ、トモ!そうゆーこと言っちゃダメだろ?ごめん赤城。トモにはよ~く言っておくから。ほら、トモも謝って!」


「ご、ごめんね赤城くん。そういうつもりで言ったんじゃないの。つい思い出したことをそのまま言っちゃったの」


「あ、うん。気にしてないから別に構わない。あ~それよりも話の続きをいいか?」



 二人のやりとりを見ていて気付いたんだけど、さっきから話ながらもボディタッチが多くて、体の距離も近いんだよな。これってもう付き合ってるんじゃないの?戸田は大丈夫かな?


 チラッと横目で見てみると全然大丈夫じゃなかった。拳を震えるように握りながら歯を喰いしばってたよ。視線を戻して二人に話の続きをした。


「俺は今までクラスメイトを日本に帰す活動をしてきたんだ。今日来たのもお前達を日本に帰す為に来たんだ」


「え、マジ?冗談だろ?」

「え、マジ?冗談でしょ?」


 ピッタリと息の合うように二人は同じ返事をする。これが幼馴染みか!凄いな!


 戸田を含めて三人に今までの事情を説明していった。今までに帰したクラスメイトの話をしたり、証拠となる画像を見せたりすると信じてもらえたようだ。

 三人とも帰ることに異論はないようなので、今回は早く終わりそうだった。


「じゃあ早速だけど日本に帰ろうか。何か忘れ物とかはないか?」


「俺は大丈夫だ。トモは何かないか?」


「お城に私物があるけど戻ると面倒なことになりそうなのよね~。どうしようかな?」


「ある程度の私物なら俺が創造できるから心配いらないぞ。制服やスマホなんかは創造で出せるから」


 話ながら三人の制服を出して渡してやると驚いていたが、それならスマホは最新機種がいいと福山が言い出したので、帰ってから三人に渡すことになった。最新機種のスマホがどんな物か解らなかったからだ。帰ったら調べるとしよう。


「これでついに異世界ともサヨナラか。楽しいこともあったけど、生活が不便なのは勘弁だな。命懸けなのも何度かあったし」


「そうね、早く帰ってお風呂に入りたいわ。残念なのはもうキューちゃんに会えないことだけど。٠٠٠仕方ないよね」


「日本じゃ飼えないからな。連れていく訳にもいかないだろ?しょうがないさ」


 野村と福山の会話に召喚した魔物の話っぽいのがあった。何か勘違いしてるかもなので訂正しておいてあげよう。



「キューちゃんが何かは知らんが、召喚した魔物のことか?それなら日本でも魔法は使えるから、あちらで呼べばいいんじゃないか?勿論、バレないようにしてもらうけど」


「え?帰ってもキューちゃんに会えるの?」


「召喚すれば会える。けど悪いことに能力を使うなよ?」


「そんなことしないよ!やったよ、タイちゃん!帰ったら皆でピクニックにでも行こうね?」


 福山はキューちゃんを呼べることに大喜びだった。野村も一緒になって喜んでいたが、キューちゃんって何の魔物なんだ?ま、人前に出さないならいっか。何かすればスキル強制消去からのフルコンボすればいいし。


「じゃあそろそろ日本に帰る٠٠٠」


「ちょっ~と待った!٠٠٠おい赤城アレだ。例の話だよ。忘れてないか?」


 いい感じに帰る流れになってたのに忘れてなかったか。戸田が言ってた二人きりにさせてくれってやつだ。

 ハッキリ言って彼女は脈なしだと思うんだよな。どう見ても野村と付き合ってるようにしか見えないぞ?それでも告白したいのか?恋愛ってのはよくわからんな。


 振られるにしても経験になるのならいいか。よし、存分に振られてこい。


 戸田への返事代わりにめっちゃいい笑顔を返しておいた。


「おい、なんだその顔は。やめろ、なんかムカつく」


「まあまあ落ち着きなって。わかってるさ。俺に任せておけ」


 コソコソ話してる俺らを怪訝な目で見られてるが気にしない。



「それじゃあ日本に帰るぞ。まずは野村から行こうか。転移するから俺の肩に触れていてくれ」


「へぇ、転移ってそうやってやるんだ。触れてないとダメってやつか?何にせよようやく帰れるんだ。じゃあちょっと失礼するぜ」



 野村が俺の肩に手を置いたのを確認して日本へと転移する。転移先は安定安心の俺の部屋である。


「おっと、土足禁止だからな?ここで靴を脱いでくれ。それと制服と靴を渡しておくな。大体のサイズを教えてくれ」


「あぁ、サイズは٠٠٠」


 なるべくゆっくりとサイズを聞いて、なるべくゆっくりと創造した。


「それじゃあ着替えておいてくれ。女子もいるから先に着替えてた方がいいだろう。着替え終わったら福山も連れてくるから」


「おう、わかった!ありがとな、赤城!」


「やりたくてやってるだけさ。俺からしたら俺達は拉致被害者だからな」


 男の着替えを見る趣味は無いので部屋を出て待つことにした。そういえば戸田は上手いことやってるのだろうか?


 気になったので千里眼で覗けるかやってみた。なんか引っ掛かる感覚が邪魔して上手く見れないから、次元を超えるスキルを創造してみた。名付けて次元千里眼スキルだ。早速習得して使用してみたら、上手く戸田が告白する場面が見えた。




『あの、福山さん。実は言っておきたいことがあるんだけどいいかい?』


『あ、私も戸田くんに報告したいことがあったんだ!聞いてもらってもいいかな?』


『あ、じゃあ福山さんから先に言ってよ』


『いやいや、戸田くんから先にどうぞ』


『いやいや』

『いえいえ』



 どっちからでもいいから早よ言えや!と思ってると、福山から先に言うことになったようだ。



『も~仕方ないな。じゃあ私から言うね?実は٠٠٠タイちゃんとお付き合いすることになりました!』


『٠٠٠え?マジ?』


『えっと、改めて言うのは恥ずかしいけど、戸田くんには伝えておきたかったんだ。今まで応援してくれてたから結果を言っておきたくて』


『へ?応援?』


『やだな~もう。誤魔化さなくてもいいのよ?私がタイちゃんと二人で遊びに行けないからって、いつも三人でって戸田くん気を利かせてくれてたじゃない。ちゃんとわかってたからね?』


『そ、そうかぁ~バレてたかぁ٠٠٠ハハハ٠٠٠』


 戸田は死にそうな顔になっていた。てか福山に話を合わせるってことは、告白は無くなりそうだな。今さら言えないもんな。まさか告白する前に失恋するとは٠٠٠後でフォローしてやるか。


「お~い、赤城。着替え終わったぞ~」


 タイミング良く?悪く?野村から声がかかったので、後の二人を迎えに行くと告げて転移する。




 山小屋に転移すると戸田がこっちを見て泣きそうな顔になっていた。今は何も言えないので、福山を送ることを伝えて日本へと送った。


「ほら、着いたぞ。あ、靴はここで脱いでくれな。あと制服や靴を作るからある程度のサイズを教えてくれ」


「ほ、本当に日本に帰って来たんだ٠٠٠すごい」


 福山は俺の話をあまり聞かずに、窓の外に見える街灯を見ていた。俺の部屋からでも日本の街並みだと判るし、それを見て帰ってきたという実感を得ているのだろう。


「トモ、おかえり」


「ただいま。タイちゃんも、おかえり」


 二人が抱き合って感動のシーンをやってるのを見て、こりゃ時間がかかりそうだと判断した。

 適当に見た目で制服と靴を作って置いておく。一応、戸田を迎えにいくと言って山小屋に転移した。





「戸田、迎えに来たぞ」


 戸田は体育座りしながらあからさまに落ち込んでいた。もう放って置いてくれと言わんばかりの空気を出してる。心なしか空気が重たく感じるぞ。


「なんだ、赤城か。ハハ、俺、ダメだったよ。ダメダメだわ」


「そ、そうか。まぁなんだ?月並みのセリフしか言えないけど元気だせよ」


「なんかもうどうでもよくなってきたわ。死にたい٠٠٠フフフフ」


 ついには泣きながら変な顔で笑いだした。これは新しい恋でも見つけるしかないかな?前に漫画で見た知識しかないけど、心当たりが一つあるから紹介してやろう。


「そんなお前に朗報がある。新しい恋を探してみないか?失恋の傷を新しい恋で癒すんだ。もちろんお前にその気がないなら無理にとは言わないけど、て、うぉ!」


「その話、乗ったぁ!可愛い子を紹介してくれぇ!どうしても彼女が欲しいんだよぉぉぉ!」


 切り替え早いなこいつ!少し呆れながらも、今度連れてってやると宥めることでようやく落ち着いた。


 まずは一度日本に帰ることを約束させて、嬉々とした戸田を連れて転移していった。


 あ、ちゃんと眠らせた騎士たちは光魔法の覚醒で起こしてから帰ったからね。


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