第26話 トライデント連合国



 上木を日本に帰して無事に両親と兄弟に会わせることができた。家族に再会した時は喜んでいたけど、上木は何かをやり残したような後悔している顔をしていた。つい気になって千里眼で覗いてしまったことが悔やまれる。

 自室でゴロゴロしながら考え込んでいた。


「本当は自分でなんとかしたかったのかもしれない。愛着が湧いてたっぽいもんな。もしかしたらこの先出会うクラスメイトは、そういう奴らが増えてくるかもしれない」


 あの時は正しい選択をした気になってたけど、本当に正しかったのか?と考えてしまう。本当に帰してしまって良かったのかなと。


「はぁ、やめやめ。考えても終わったことは仕方ない。明日に備えて寝よう」




 翌日の朝、少し寝不足だけど異世界テラフィアへと転移した。


 世界地図を確認してアーガス国の西にある、トライデント連合国へとハリアーで向かう。

 このトライデント連合国は、三つの国が一つに纏まったけど纏まってないという国だ。世界地図をアップデートして解説機能を付けたら、そのような説明が表示された。


「向こうに着いたらギルドで聞いてみるか。最初の街はチョリスっていうのか。一昔前に流行った挨拶みたいな名前だな」


 近くでハリアーを降ろして、歩いて門へと向かった。






「アーガス国からか?あそこは何も無いからなぁ。この国で稼げばいいさ、では次っ!」


 ここの衛兵は街の名前を言わなかったな。やはりあそこだけ特別だったのかもしれない。




 冒険者ギルドを見つけて入ると、中に居た冒険者たちの視線が俺に刺さる。余所者に向ける視線というよりも、カモがネギしょってきたやつに近いと思う。

 珍しい展開にちょっとウキウキしながら、受付嬢さんに話し掛けた。


「聞きたいことがあるんだが、何故ここの冒険者は俺をジロジロ見てくるんだ?」


「それはお客さんが来たからですよ」


「お客さん?俺は冒険者だぞ、ほら」


 そういえばギルドカードを出してなかったことに気付き、受付嬢さんに見せると驚かれた。


「これ、白銀級の٠٠٠失礼しました。あまりに一般人みたいな格好だったもので。そういえばどことなく風格が漂ってますよね」


「٠٠٠お世辞はいい。それよりも情報を買いたい。女神の戦士様はどこにおられるかわかるか?」


「その情報なら金貨50枚になります。全てまとめてなら200枚になりますけど、どうしますか?」


「ん?まとめて?何か違うのか?」


 初めてそんな事を言われたもんだから、どういうことなのか聞き返してみた。


「この国は連合国ですので、一国分の情報よりも、全て合わせた情報の方が確度の高いものとなってるんですよ」


「へぇ、そういうものなのか」


 確かに連合国という変わった国だから、三人合わせて運用している可能性もあるか。浜口と倉木の例もあるしな。それならまとめて情報を買った方が確かかな?


 受付嬢さんに金貨200枚分を払って、情報をまとめ買いした。200枚無かったから白金貨二枚払っておいた。アーガス国の後だから、なんだか高く感じるわ。


「ここ連合国では、イーサン王国、ライツ王国、フレスベル公国の三国を合わせて連合国となっております。それぞれに女神の戦士様がいらっしゃいます。現在はここイーサン王国にあるケトルの森に一人と、ライツ王国とフレスベル公国の間にあるマザレル山に二人出向いているそうです」


「三人一緒じゃないんだな」


「連合国とはいえ、どこも自国から出したくないんですよ。マザレル山は国境地帯ですからお二人いますけどね。どちらも魔物が多く危険地帯ですが、白銀級なら大丈夫だと思いますよ」


「そうか、情報感謝する」


「それよりも聞きたいのですけど、カケルさんは休暇中なのですか?その、庶民的な一般人の格好をしてますので、気になってしまいまして」


 受付嬢さんに言われて自分の服装を見た。やはり冒険者スタイルにしたほうがいいかなと思ってしまう。上木にも装備が云々と言われてたし。


「いや、これが俺の装備なんだよ。けどやっぱりおかしいよな?」


「う~んそうですねぇ、やはり侮られないように多少は冒険者に見られる格好の方がいいと思いますよ?」


「わかった。参考にするよ」


 受付嬢さんにお礼を言って冒険者ギルドを出た。俺が依頼人じゃなかったので、周りの冒険者たちはまた酒を飲み始めていた。ここら辺ではあまり仕事が無いのかな?衛兵さんは稼げるみたいに言ってたけど、アーガス国と比べたらって意味だったのかもしれない。




 受付嬢さんにアドバイスしてもらったし、少し冒険者らしい格好をしようと、武器と防具が置いてある店を探した。


 大通りにあった武具屋に入って、参考資料として防具を見て廻った。

 今まで金属製の鎧を着ていたのは、騎士ぐらいだった。冒険者は大多数が革鎧を着ていた。じゃあ革鎧でいいだろう。


 店内にある魔物素材らしき革鎧を見て、目立たなさそうな一般的なデザインを調べた。周りにいる客も見ながら参考にした。


 店から出て路地裏に入ってから自宅へと転移した。


「一般的な冒険者らしい革鎧を創造しよう。素材はあるかわからないけど、魔法防御力が高そうな黒龍の素材にして創造!」


 動きやすそうなデザインの革鎧が出来上がった。色は黒一色にした。この色にしたくて黒龍を素材にしたのだ。ちなみに黒龍素材はゲームから得た知識で作った架空の素材である。


 見た目は肩当てと胸当てがあるだけの革鎧となった。鑑定すると防御力は一級品になったが、守る箇所の面積は何とも頼りなく見える。


「ま、当たらなければどうということもないか。あ、剣もぶら下げなきゃ。武器も創造しておくか。これもあるかわからないけど、素材はオリハルコンとミスリルの合金にして創造!」


 そのままの勢いで、槍、斧、弓矢、鎌、鞭、ガントレットとレガースを創造した。これには理由があって、習得したものの死蔵しているスキルは多い。武王は武術関連の統合スキルだけど、剣以外にも槍術や斧術等があるけど使っていない。使うのが面倒というのが一番の理由なのだが、この際折角だから専用装備を作ってみようと思ったのだ。


 一端の冒険者スタイルになったと思い、自分の姿を鏡で確認した。


「おぉ!格好いいじゃん!今後はこれでいこう」


 大変満足したので、もう一度連合国へと戻って移動を開始した。





 ハリアーで飛ぶこと一時間程で、ケトルの森に到着した。


 情報ではここにクラスメイトの一人が来ているらしいけど、お付きの騎士もいるんだろうなぁ。面倒臭い奴じゃなければいいけど。まぁ会ってみればわかるか。



「ピコーン!」



 森を高速飛行で縦横無尽に飛んでたら、二年三組探知機に反応があった。反応を頼りに飛んでいくと、夜営場所みたいなものが見えてきた。


「あそこにいるな。なんだかキャンプしてるみたいだな。場所が場所だけに命懸けだろうけど」


 この世界には大型の動物以外にも魔物がいるんだから当たり前なんだけど、テントが張ってあったり焚き火の跡があるんだからそう三重県ちゃうんだよな。


 怪しまれないように少し離れた所で地面に降りて、歩いて近付いていくことにした。




 近くに行くと警戒していた騎士らしき人が警告の声をかけてきた。


「止まれっ!何者だ?」


「俺は冒険者だ。この森で狩りをしていたんだが、女神の戦士様がおられると聞いたので挨拶に伺った。女神の戦士様にお目通りをお願いしたい」


「ふむ、女神の戦士様が言う『追っかけ』というやつか。わかった、少し待て」


 そう言うと騎士らしき人がテントの方に歩いていった。現地の人に追っかけとかいらん知識を教えてどーすんだ?なんか他にも下らない知識を話してそうな気がする。


 そうして待ってると騎士らしき人が戻ってきて、手土産はあるのかと聞いてきた。少し考えてストレージからビッグバードの肉を取り出して渡しておいた。


「これはビッグバードの肉です。皆さんで食べて下さい」


 そのやりとりを見ていた他の騎士らしき人達から大層喜ばれた。やはりお約束通り野営中は不味い飯なんだろうか?今度冒険者ギルドで聞いてみよっと。


「こっちだ、ついてこい。粗相のないようにな」


 騎士に連れられてテントの中に入ると、椅子に座って剣を磨いている男がいた。間違いなくクラスメイトだ。なんか見たことある顔だ。こっそり鑑定しておこう。


「初めまして女神の戦士様。本日は近くまで来ましたので、ご挨拶に伺わせてもらいました。俺はカケルと申します」


「え?おまっ٠٠٠!」


 直ぐに俺だと気付いたようなので、口に指を立てて黙っててくれとジェスチャーする。背後に騎士がいるのを見て直ぐに黙ってくれた。


「こちらで狩りをしていると聞いたものですから、御利益があるかと思いまして御尊顔を拝みに参りました。些細な手土産ですが持って参りましたので、皆さんで食べて下さい。それでは、女神の戦士様またお会いしましょう」


「っ!٠٠٠なーる。わかった。また会えるといいな」


 後ろに立っている騎士に見えないように、宙に火魔法で文字を書いて用件を伝えた。念のため日本語でメッセージを伝えたからか、ちゃんと意図を理解してくれたようだ。見せたメッセージは、『今夜会いにくる』だ。


 騎士たちにもお礼を言って、野営地を離れた。日が高くて時間がまだあったので、その足で次の目的地にハリアーで向かった。




「さっきのクラスメイトが戸田剛か。会うなり卑怯者と呼ばれなくて良かったよ。次に会う奴らに呼ばれるかもだけど」


 先ほど鑑定で名前を知ったものの、次に会うクラスメイトのことを考えると少しテンションが下がる。そんなことを考えているうちに、無事に国境地帯にあるマザレル山に着いた。


 隠密系スキル全開で高速飛行しながら探すと、二年三組探知機に反応が二つあった。索敵すると周囲に他の反応もあるから、騎士か兵士の護衛だろう。


 近くに降りて様子を見てみると、複数の魔物と戦っている最中だった。


 よく見ると一部の魔物の動きがおかしかった。クラスメイト一行を守るように戦っていたのだ。


「なんだあれは?テイマーか?いや、寺井の職業が魔物使いだったから違うはずだ。後天的に得たスキルか?」


 男子のクラスメイトが、女子のクラスメイトを守りながら戦っている。そして女子が操っている魔物が、敵対している魔物を攻撃していた。周りの騎士たちもそれに合わせて攻撃しているようだ。


 考えても埒が明かないから鑑定で確認すると理由が判明した。




トモコ・フクヤマ

人族 17歳 女性

職業 召喚師


LV 38

HP 1550

MP 2880


力  115

体力 125

速さ 110

知力 250

精神 430

魔力 2880

運  350


スキル

召喚魔法、MP消費削減小、召喚の心得


称号

女神の戦士、召喚師の卵




 こちらが女子の福山のステータスだ。

 そうか、召喚師か。それなら魔物を使役して戦わせていることに納得だ。てか、召喚って格好いいな!俺も後で創造しておこう。あと男子の方はと٠٠٠




タイシ・ノムラ

人族 17歳 男性

職業 聖騎士


LV 40

HP 2200

MP 1150


力  195

体力 240

速さ 180

知力 170

精神 340

魔力 1150

運  330


スキル

ウェポンマスター、聖騎士の心得、生存術、光魔法


武技

スラッシュ、十字斬り、パワーシールド、身代わり、聖なる光


称号

女神の戦士、聖騎士の卵、聖騎士の誓い




 ん~?また見慣れないものがあるな。武技も多いし、ステータスも強い。バランスのとれたステータスに見えるけど、何でウェポンマスターを取ったんだ?最初のスキル選択にあったからわかるけど。あと称号の聖騎士の誓いって何だろ?詳細を鑑定してみるか。




ウェポンマスター

武器系統のスキルを統合したスキル

武王の下位互換


聖騎士の誓い

聖騎士が己の守る者を定め誓いを立てた証

愛する者を守る時、ステータス二倍




 oh٠٠٠なんか凄い鑑定結果になった。ウェポンマスター取っても剣しか使ってないように見えるし、完全に選択ミスってんじゃん!そういえば四谷も治療士なのに鞭術取ってたな。いや、それよりも聖騎士の誓いって誰に誓ったんだ?こいつも異世界人と結婚もしくはお付き合いしてるのか?ステータス二倍の効果って結構破格なんですけど!


 色々と調べてる内に戦闘は終わったようで、護衛の騎士が魔物の解体を始めたようだ。


 さっき鑑定で見た戸田よりも野村の方が強いな。どちらも騎士系の職業だけに、その違いが顕著に表れている。野村の下位互換が戸田となっているような感じだ。

 ちなみに戸田のステータスはこれ。




ツヨシ・トダ

人族 17歳 男性

職業 栄光騎士


LV 35

HP 1700

MP 550


力  140

体力 180

速さ 140

知力 240

精神 410

魔力 550

運  460


スキル

騎士道、栄光騎士の後光、剣術、盾術


武技

スラッシュ、栄光の剣、パワーシールド、栄光の盾、騎士のプライド


称号

女神の戦士、栄光への軌跡




 ステータスだけ見れば野村の下位互換だと完全に思うだろう。けどスキルと称号を見ればどうかと言うと、それでも下位互換だったりする。同じ称号でもここまで効果が違うのかと戸田に同情したぐらいだ。


 肝心の称号の効果がこれ。




栄光への軌跡

自身の栄光の道を完全に記憶し、人々に己の栄光を語ることができる




 称号も酷ければスキルも酷かった。初めに選択した騎士道というスキルの効果が、"不退転の覚悟を決める"といった効果だけだった。あまりにもショボすぎるスキルだ。栄光騎士の後光も栄光の剣と栄光の盾も、掲げると後光が差すのと剣と盾が光るだけという、目立ちたい人向けのスキルだった。


 戸田の不遇さに同情していたら、いつの間にか解体が終わっていたようだ。


 野村と福山には話し掛けず夜に会いに来ようと思い、その場を後にした。




 一度家に帰って時間を潰してる間に、召喚魔法のスキルを創造した。直ぐに試してみたいけど、今夜のこともあるので大人しく寝ることにした。


 そして深夜零時にアラームが鳴って、三人のクラスメイトに会いに異世界へと転移していった。



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