第25話 上木望
翌日の朝、再びアーガスの王都へと転移する。上木の悩みを解決するために、上木と相談して決めるためだ。俺一人の考えだけじゃなく、上木と共に考えることでシナジー効果を促せるのでは?と思ったからだ。名案が浮かばなかったともいう。
「今日はどこにいるのかなっと。まずはギルドに行くか」
冒険者ギルドに入って受付嬢さんに情報を買いたいと伝えた。お値段は金貨一枚だ。
「女神の戦士様は西にある山に魔物を狩りに行ってますよ。隣国との主要となる街道に出る魔物を狩って下さるそうですよ」
「そうか、それはありがたいことだな。情報ありがとう」
ここでは金貨一枚を高いと言われないから気が楽だなと思いながら、王都を出て高速飛行で西の山を目指した。
それにしても上木のボランティア精神が凄いな。まぁ山に囲まれてる国だから、魔物被害があれば交易が途絶してしまうもんな。
西の山に辿り着くと、二年三組探知機に反応があった。あれから改造して半径一kmで反応するようにしている。
反応があった場所に行くと、上木がホーンウルフと思われる魔物を討伐していた。戦闘は既に終わっていたようで、周囲を警戒しながら狩ったホーンウルフを集めていた。驚かせるのも悪いので、声をかけてから姿を現すとしよう。
「よぉ、上木。討伐お疲れさん」
「誰だい?あ、赤城か?君は空を翔べるんだね、すごいな٠٠٠」
上空から声をかけたのは失敗だったか?けどいきなり降りたら弓を射られたかもしれないしな。躱せるだろうけど危ないし。
「今日は上木に相談しようと思ってきたんだ。仕事の邪魔はしないから、一緒に狩りをしてもいいか?」
「そういうことなら歓迎するよ。誰かと狩りをするなんて初めの頃以来だからね」
「初めは騎士たちと一緒に行動してたのか?」
「いいや、僕の職業が森狩人だったからね。城から紹介された森の狩人と一緒にいたよ。その道30年のベテランの人だったよ。その人から色々と教わったんだ」
「もしかして生存術ってスキルもその人から教わったのか?」
「そうだね、偉大な人だったよ。森で生きていく術を全て教わった。あの人がいなければ、今の僕は居なかっただろうね」
上木は少し懐かしむような遠い目をしながら語った。もしかしてその人は亡くなってしまったのだろうか?さっきから過去形で話してるし。ここは踏み込まないほうが良さそうだな。
上木と話ながらホーンウルフを集めて運ぶことになった。全部で五匹いた。近くに荷台があるからそこに運んでいくそうだ。運ぶのを手伝ってほしいと言われたので、全部ストレージの中に収納した。
「うわ!ホーンウルフが消えた?」
「あぁ、悪い。ストレージに仕舞ったんだ。収納系のスキルでな、物の持ち運びに便利なんだよ」
「へぇ~そんな便利なスキルがあるんだね。それは僕にも覚えられるのかい?」
「基本は何でも覚えられると思うぞ。けど俺のスキルや魔法は、この世界のスキルや魔法と違うんだよ。全て創造で作ったから、この世界の基準や法則なんかとは別物だよ」
何度か戦闘をして思ってたけど、俺の使う魔法もスキルも完全に別物だった。同じ火魔法でも全く違っていたからだ。例えるなら、違うタイトルのRPGで使う火魔法みたいに、同じ初級火魔法でも形や速度も規模も違う。名前が同じスキルでも効果が違うと思うし、この世界にないスキルや魔法もありそうだしな。もっと人を集めて鑑定したり、実演してもらえれば色々と検証できるだろうけど、そんなことは面倒臭いからやらない。
そういったことを上木に説明すると、ゲーム知識はあったのか理解してくれた。
「なるほどね。ファイクエとドラエフみたいなものか。フォイアとミェラじゃあ、同じ火属性魔法だけど全く違うもんね」
「ゲームが違えば魔法もスキルも違うからな。けどステータスはこの世界に準拠してると思うぞ。一部は変えたけど」
「一部を変えた?どういうことだい?」
「上木は俺の職業を知ってるか?」
「あぁ、あの時騒ぎになってたからね。それに特徴的だったから覚えているよ。確か昼行灯でしょ?」
「その昼行灯には、ある特徴があってな。昼間は弱体化するんだよ。じゃあ昼行灯の意味は知ってるか?」
「えと、たしか٠٠٠」
上木は知っていたらしくその意味を語った。内容は間の抜けたぼんやりした人って意味だけど、それを人から言われるとちょっとくるものがあるな。
「その通りなんだが、その意味を変えたんだよ。それにより昼間でも弱体化しなくなったという訳さ」
「へぇ、赤城も色々と大変そうだね。話は戻るんだけど、赤城のスキルを僕にも教えてもらえないだろうか?きっとこの国を守るのに役立つと思うんだよ」
「俺のスキルの覚え方は真っ当じゃないし、考えが纏まってないからまだ何とも言えないんだ。すまない٠٠٠」
「そうか、それじゃ仕方ないよね。それに赤城の相談したいことと何か関係がありそうだし」
「そうなんだけど、察しがよくて助かるよ。その前に、先に狩りを済ませてしまおう。後で街に帰ったら話すからさ」
そのあとは上木と一緒に狩りをして魔物を倒していった。といっても俺は荷物運びしかしてないけどね。狩りは真面目な上木に任せて経験値を稼いでもらった。
夕方まで魔物を狩りまくった。荷物運びをしなくて楽だと上木は言っていた。普段はこまめに村に戻ったり、ある程度の量を狩ったら帰らざるを得なかったからだ。本人が大変満足そうなので好きにやらせていたけど。
王都には転移で一緒に戻ってきた。事前に転移のことは話していたが、使ってみると大はしゃぎしていた。上木はゲーマー寄りのオタク気質があるらしく、スキルや魔法には敏感に反応していた。色々と質問もされたけど、唯一装備に関してだけは呆れられた。
「なんで装備は一般的な服なんだい?剣も鉄製だし、アクセサリーも無いなんて危ないでしょ。序盤の始まりの町じゃないんだよ?」
そんなことを言われてもと思うが、どこから見ても一般人の格好なので紙装甲に見えるだろう。服は破れても創造するだけだし、鎧とか動きづらいイメージしかない。だから俺はこれでいいのだ。アクセサリーも特に必要性を感じないからな。けど他人に渡すのならアリかもしれない。
冒険者ギルドに着くと、大量の魔物を渡して解体をお願いした。受付嬢さんは驚いていたけど、俺が荷物持ちだと説明したので多分大丈夫だろう。
「今日は僕がおごるよ。個室のレストランがあるから、話すならそこに行こう」
上木に連れられて、個室のある王都一のレストラン?みたいなところにやって来た。少し大きい酒場といったイメージだ。二階があるらしく、そこに個室が何部屋かあるそうだ。
個室というには殺風景な部屋で食事を頼んだ。オーダーが届いたので、軽く乾杯をして食事を楽しんだ。ちなみに葡萄ジュースである。二人とも未成年だからな。
「早速だけど、赤城が僕に話したかった相談ってなんだい?」
「俺の目的は上木を日本に帰すことだ。だけど上木はこの国が心配で帰ることが出来ないだろ?逆に言うと、その心配を取り除けば帰れる訳だ。だから俺はその方法を相談したかったんだよ」
「君なら僕を力ずくでどうとでもできるのにかい?」
「あぁ、力ずくでってのは最終手段だ。何人かのクラスメイトはそうなったけど、漏れ無く襲いかかってきたからなぁ٠٠٠」
「٠٠٠君も苦労してるんだねぇ。けど僕の悩みを聞いて、考えてくれたんだね。ありがとう、赤城」
お礼を言われると、くすぐったくなる。そんなに出来た人間じゃないからな。
それから俺たちは色々と話し合った結果、一つの解決策を見つけた。
「赤城は凄い力を持ってたんだね。まるでゲームみたいだよ」
「ここが小国だから可能ってだけさ。それよりも、俺より魔法の使い方を理解している上木の方がスゲェよ」
「じゃあ早速行動に移そうか。僕も城に帰って準備をしてくるよ。帰る前にお世話になった人達に挨拶もしておきたいからね」
「急な話になって、スマンな」
「何も言えないよりマシだよ。1日でも時間を貰えただけ、ありがたいからね」
次の日、上木はお世話になった人達に挨拶に廻った。この国を出て修行の旅をすると告げた。沢山の人から別れを惜しまれ、上木の人望が表れてると感じた。
「俺は俺の仕事をするとしますか」
アーガス国王都上空でプカプカ浮かびながら魔力を練り上げる。
「魔法合成、光魔法と結界魔法で『悪意拒絶結界』」
アーガス国全土と周囲の山々を不可視の結界が包み込む。魔法の効果は、よくある悪意ある者を拒絶するという結界だ。
この規模の結界を一人でずっと維持するのは難しいけど、それを解決したのが上木のゲーム知識だった。国の東西南北にある山に、創造で作った結界の増幅器を地中に埋め込んである。これにより半永久的に結界は維持されるだろう。ゲームによくある結界が張ってある都市なんかを参考にしたらしい。提案された時は感心したもんだ。
『ゲームだと結界の要になる装置なんかは破壊されるんだけどね』
上木は嬉しそうに語っていたな。それって破壊されるフラグじゃないよね?
これでひとまずこの国は脅威から守られたので、上木を連れて日本へと転移した。去り際に上木がボソッと「さよなら、皆」と言っていた。どこか心配するような哀しそうな顔をしていた。
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