第24話 アーガス国



 異世界テラフィアにはステータスという概念がある。名前、年齢、性別、レベルに職業、スキル、称号とゲームみたいな仕様だ。ここに新たに武技というものを発見した。


 武技は言ってしまえば必殺技といったスキルである。使用時にHPを消費して放つスキルである。今回の一件でそれを発見したので、今はワクワクしながらスキルオーブを作っているという訳だ。


 マダラ大平原の人気の無い場所を選んだので、自由に練習しようと来たところである。




「速さを駆使すれば似たようなことは出来るんだけど、ちょ~っと違うんだよなぁ。やっぱ必殺技にはロマンがあるからさ」


 創造で作った武技のスキルオーブを使用して、剣の武技『乱れ斬り』を習得した。


 試し斬りをしたくてゴーレムを出して、逸る気持ちを抑えながら放ってみた。


「いくぞ、武技『乱れ斬り』!」


 ゴーレムの体を無数の剣閃が襲う。バラバラになったゴーレムが土に返る。今度は武技を使わずに、同じように剣を振ってみた。


「いくぞ、『なんちゃって乱れ斬り』!」


 先程の軌跡を追うように剣閃を走らせた。同じようにバラバラになったゴーレムが土に返った。


 うん、違いが全く解らない。これは選んだ武技が悪かったのかと思い、色々悩んだ末に新しい武技を習得する。ゴーレムを出して早速試し斬りだ。


「これで違いがわかるはず。武技『爆発剣』!」


 剣がゴーレムに触れた瞬間、轟音と共に大爆発が起きた。ドゴォォォンッ!という爆音が辺りに響き渡り、俺は爆発に巻き込まれて吹き飛んだ。全く予想してなかったので踏ん張ることも出来ずに空を飛んでた。


 高速飛行で体勢を立て直して地面に着地して、何がいけなかったのかを考えた。幸いなことに、膨大なステータスのおかげで少しのダメージで済んだ。不幸なことに、膨大なステータスのおかげでダメージを喰らったけど。異世界で初めてダメージを受けたのが、自爆という情けない結果に笑ってしまったな。はぁ٠٠٠





 あれから色々と武技を検証してみたけど、扱いはスキルなのでスキル強制消去で消せることは解った。あと、使用する武技によって消費するHPが変わることも鑑定で判明した。この二点である。


 検証には協力者を頼った。

 むやみやたらに武技を覚えても仕方ないので、ガガハッドに頼んで武技を使える者を何人か教えてもらったのだ。

 彼らを鑑定して判ったのは、決まったHPを消費するものもあれば、何割消費するといったものがあった


 消費が少ない武技だと『歩法』というのがあった。ローア流格闘術という体術の独特な足運びらしい。これの消費は一だけ。見せてもらったけど、いつの間にか間合いに近付いていた。距離を詰めたのは判ったんだけど、距離感が誤認識される感じ。

 他にもHPを一割消費する武技で、『流星槍』という武技があった。槍を使って棒高跳びのように上空に跳んで、槍を突きながら高速で落下する武技だ。自由落下じゃないスピードで落ちてくるのは、まさに流星のようだった。ファンタジーっぽい技に少し感動した。


 ただどちらのタイプの武技も、使えば使うだけ体力を消費するから、単純にHPの数だけ使えるというものでもないらしい。一割消費の武技を十回使えないというわけだね。


 武技の検証も一通り終わったけど、今は必要性を感じないから次の国へ旅立つことにした。ガガハッドに別れを告げて、世界地図を見ながらいつも通りハリアーを出した。



「次はアーガス国ね。ガガハッドから聞いた話だと、山に囲まれた小国って話だけど。見つからずにいけるのか?ハリアーだと目立つか?とりあえず行ってみるか」



 アーガス国を目指して西へと飛んでいく。その道中でハリアーに改造を施した。ちょっとした名案が浮かんだのだ。


「隠密系の魔導具をこうして٠٠٠更に静音の機能を٠٠٠で、自動操縦に٠٠٠できたぁ!」


 こねくり回すこと30分。ついに完成である。三代目ハリアーの誕生だ!


 今回新しくなったのは、イージス艦にも搭載した高性能AIと、隠密系スキルの効果がある魔導具に、音を消す静音の魔導具を取り付けた。これで静かに目立たずに、自動操縦で移動できるようになったというわけだ。


「かといって、することが無いんだよな。٠٠٠仕方ない、オフラインのゲームでもするか」





 パズル系ゲームで遊ぶこと三時間、ようやくアーガス国に到着した。山を越えて森を抜けて河を渡ると辿り着く、そんな苦労しそうな旅路だった。もちろん俺はその上をバビューンと越えて行くから楽だったけどね。


 街の近くでハリアーを降ろして、バレてないことを確信した。よしよし、今後もこれでいけそうだな。


 街道まで出て隠密系スキルを解いて、旅人を装って街の門へと向かった。

 門番の衛兵たちが何やら騒いでいたので、何があったか聞いてみた。


「すまない、ここには初めて来たんだが何かあったのか?」


「お?兄さん旅の者か?いやな、風も吹いて無かったのにな、さっきあそこでちょっとした竜巻?いや、旋風が巻き起こってたんだよ。何かあったのかわかんねぇけど、もう何も無いから大丈夫だとは思うんだけどな」


「へ、へぇ~。不思議なこともあるもんだな」


「まぁこんな田舎じゃ珍しいもんがあったから騒いでただけさ。ようこそ、アキームの街へ」


 衛兵に冒険者カードを提示したら、白銀級が来たことに驚かれてたな。金級までなら来ることもあるらしいが、ここら辺は弱い魔物しかいないから、実力がある白銀以上は見たことがないらしい。


 街に入ってから気付いたけど、何気に街の名前を言われたのは初めてだったな。やはり田舎のほうが人当たりが良いのかもしれない。衛兵も気さくで好い人っぽかったし。




 冒険者ギルドに入って受付嬢さんのところに行くと、ここの受付嬢さんは人族だった。ちょっとホッとしながら、ギルドカードを出して話し掛けた。


「女神の戦士様の情報を買いたい。今はどちらにおられるかわかるか?」


「あ、情報ですね。えと、こちらの情報は金貨一枚になります」


「やっす!あ、いや、失礼だが、何故そんなに安いんだ?」


「٠٠٠?えと、金貨一枚ですよ?高いと思いますけど。どこにいるか聞くだけで金貨一枚ですよ?一家四人なら一ヶ月生活できちゃいますよ!」


「あ、そう?なんかごめんね?はい、金貨一枚」


 受付嬢さんの勢いある答えに気圧されてしまった。ここは相当物価が安いのかもしれない。


「本当に払っちゃうんですね。わかりました。女神の戦士様は王都におられますよ。王都近郊の魔物を狩ったり、村を廻って農業を手伝ったりしてるそうです。なので誰かに聞けば直ぐにわかる情報なんですよ」


「あ、それでそんなに安かったんだ。誰かに聞けばわかるぐらい有名な話だったんだ」


「だ、か、ら!安くなんかないですってば!金貨一枚ですよ?わかってます??」


「あ、そうだね、ごめんね?じ、じゃあ俺もう行くから。ありがとう!」





 最後まで受付嬢さんに圧倒されてしまった。慌てて礼を言ってギルドを出たけど、近くで飲んでた冒険者も生暖かい目で笑ってたし、ここじゃ殺伐とした雰囲気とか無縁なんだろうな。


 ギルドを出て街中を観察してみたけど、実にほのぼのとした街である。街とは言ったものの、本当に小さい街だ。街中でも鶏みたいなのが歩いてたりする。田舎気質な雰囲気に少し癒されながら、王都に向かうために街を出た。


 世界地図を確認しながらハリアーで飛ぶと、30分経たない内に到着した。世界地図で見たところ、この国の王都から街や村までそんなに離れていない。王都を中心に街や村が点在していて、その周囲を森が囲み、更に山が連なって囲っている。

 攻めにくい地形だけど、攻めても旨味がないといった感想だな。何年も戦争とは無縁だから、あんなにのんびりした感じなんだろうか?歴史を知らないからわかんないけど。




 考察をしながら王都に着くと、今度は風の影響が見えない位置でハリアーを着陸させた。冒険者カードを見せて王都に入ったけど、今まで見た王都よりも小さく感じた。実際に見えるお城も小さかったし、ファルム公国の公都といい勝負だと思った。


 冒険者ギルドを見つけたので入っていき、受付嬢さんにギルドカードを見せる。



「情報を買いたいんだが、女神の戦士様はどこにおられるかわかるか?」


「そちらの情報は金貨一枚になります」



 先程の受付嬢さんと違い、こちらでは普通に対応してくれた。少し安堵しながら金貨一枚を渡した。



「確かに受けとりました。女神の戦士様は城で暮らされてます。今日は森へ狩りに行ってると思いますよ。終わればギルドに帰ってきますから、用事があるなら待たれますか?夕方には帰って来られますよ」


「いや、それならまた出直すさ。ありがとう」



 冒険者ギルドを出て街中で情報収集をしてみた。といっても屋台で買い食いしながらだけど。アキームの受付嬢さんは誰でも知ってるってニュアンスだったし、ここで聞き込みしてみるのも経験だと思ったからだ。


「おっちゃん、そこの肉串一つちょうだい」

「あいよ、銅貨一枚だよ」


「ちょっと聞きたいんだけど、女神の戦士様ってどんな人なんだ?どんな人なのか気になってさ」


「なんだ兄ちゃん知らねぇのか?あの人は立派なお人さ。俺らの為に魔物を狩ったりしてくれてんのよ」


「魔物を狩るなら冒険者だって狩ってるだろ?」


「あの人は違うんだよ。狩った魔物を貧しい者や孤児院に寄付してんのさ」


「ギルドに行ってるんだろ?報酬を貰ってないのか?」


「そこは倒した魔物を報告しなきゃならねえし、解体だってしてもらうだろ?無報酬で働いて、解体費用は王家持ちだって話だぜ」


「へぇ~王様も太っ腹だね」


「そらそうよ!ここの王様はよくできたお方さ。女神の戦士様も気さくで優しい人柄だしな。うちの肉串を食って感動してくれてたからな!」



 屋台のおっちゃんは嬉しそうにガハハと笑っていた。それって多分だけど、異世界に来てテンプレの肉串に感動してたんだと思うよ?俺も感動してたし。


 他にも幾つか屋台を廻って食べてみたけど、じゃなくて聞いてみたけど、いい噂ばかりだった。話を聞いた限りでは男子生徒みたいだな。性格も良さそうだし、今回はサクッと終わりそうだな。


 色々と廻ってたら夕暮れに差し掛かったので、冒険者ギルドに顔を出しにいくことにした。




 ギルドに近付くと二年三組探知機に反応があった。ギルドに入ると、受付嬢さんと話しているようだ。討伐報告と解体を頼んでいるのだろう。もしくは口説いているとか?それはないか。世間話してるようにしか見えないし。そうだ、事前に名前を確認しておこう。



ノゾム・ウエキ

人族 16歳 男性

職業 森狩人


LV 18

HP 220

MP 110


力  60

体力 60

速さ 80

知力 40

精神 110

魔力 110

運  220


スキル

弓術、生存術


称号

女神の戦士



 うん、ウエキね、上木か?確認してたら話が終わったようで、受付を離れてギルドから出たところで、俺もギルドを出て声をかけた。



「よぉ、久しぶり。ちょっといいか?」


「ん?誰だい?え٠٠٠もしかして、赤城かい?え~と、久しぶりだね。どうしたんだい?」



 ちゃんと俺の顔は認識していたらしい。一応、出席番号は俺の次だし、もし忘れられてたら泣けるわ。俺は名前忘れてたけど。


「色々とあってな。ここじゃなんだから、ちょっと時間貰ってもいいか?話したいことがあるんだ」


「あぁ、いいよ。僕も話したいことがある。あんまり時間はないけど、少しぐらいなら大丈夫だよ」


「そんなに時間は取らせないさ。どこかいい場所はないか?」


 それならと、近くの酒場に案内してもらった。移動の途中で聞いたけど、城で寝泊まりしてるけど、食事は色んなところで食べるようにしてるそうだ。地域密着型の女神の戦士ってことらしい。なんだそれ?




 酒場に入って席に着くと、お互いに食事を頼んだ。注文が届いてから本題を話すことにし、それまでは上木の近況を聞いていた。

 注文が届いたので、上木がある程度食べ終わってから本題を話した。


「実はおれがここに来たのは٠٠٠」


 俺がここに来るまでの経緯と目的を簡単に伝えると、上木は考え込む姿勢を見せた。ちゃんと信じてもらうために沼津推奨の画像も見せてある。こいつも何か問題を抱えているのだろうか?


「悩んでるところ悪いが、何か問題でもあるのか?話せるなら聞かせてほしいんだけど」


「ん?あぁ、すまないね。悩みという程ではないんだけどね。いや、やっぱり悩みなんだろうな」


 高校生特有の悩みなら解決してやれないが、異世界絡みなら何とかできるぞ?さすがにそれは言わないけど。


「実はね、この国から離れてもいいもんかなって悩んでるんだ」


「どういうことだ?何か問題があるのか?」


「問題といえば問題なんだろうね。赤城、この国のことは知ってるかい?」


「牧歌的な雰囲気の田舎国家ってイメージしかないな。あ、悪い意味じゃなくていい意味だぞ?」


「牧歌的な雰囲気の田舎国家か。的を得ているとも言えるね。僕はね、この国のそういうところを心配しているのさ」



 上木は語った。この国はよくも悪くものんびりした国らしい。それは戦争を知らないというのもあり、周りに脅威となる強い魔物が居ないのもあるそうだ。危機感といったものが全く無いらしい。王様に魔族のことを尋ねてみても、よく知らないと言われたそうだ。

 女神の神託についても、自国に神託を受けれる高位神官がおらず、他国からもたらされた情報で知ったそうだ。どうやら他国との交流もちゃんとあるみたいだな。



「僕はLV18だけど、この国じゃ高いほうなんだよ。ギルドで聞いた話だと、他国では駆け出し冒険者ぐらいの強さらしいね。受付の人は言葉を濁してたけど、それぐらいはわかるよ。僕が居なくなったらなんて自惚れだとは思うんだけど、それでも僕だけでも強くなってこの国を守りたいと思うんだよ。この国の人たちが好きだからね」


「上木٠٠٠そうか。何か出来ないか、俺も考えてみるよ」



 そのあと俺たちは酒場を出て別れた。その日は適当に宿をとり、自宅に帰ってから少し考えた。

 上木は邪な理由じゃなく、ちゃんとした理由があって残りたいと悩んでる。今までならそれでも日本に帰してたけど、四谷の一件から俺は考えを変えている。


 上木にもLV1000ドリンクを渡すか?

 仮に上木を強くしたとしても、魔族の脅威が本当にあるならば、この国の人間が全体的に変わらないと、根本的な解決にはならないと思う。けれど牧歌的な雰囲気はこの国の良いところだと思うし、無理に変える必要はないと思う。


 あーでもない、こーでもないと悩みながら、夜も遅くなってたから寝ることにした。


 また明日の俺が解決してくれることを願っていよう。




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