第21話 マダラ大平原



 片山を無事?に帰した翌日、王都の冒険者ギルドに顔を出していた。今日もいつもの狐獣人の受付嬢さんである。


「情報を買いたい。この国の女神の戦士様の情報はあるか?」


「その情報は金貨500枚となります。٠٠٠白金貨5枚でもいいですよ?」


「なんだ覚えてたのか。まぁいい、払おう」



 商業ギルドでした世間話によると、金貨で支払う男よりも、白金貨で支払う男のほうが、経済力があるとされてモテるそうだ。この受付嬢さんは白金貨で支払ったことを覚えてたようだ。カウンターに白金貨5枚をそっと置いた。



「ありがとうございます。女神の戦士様ですが、失踪されたそうです。修行の旅に出たそうですよ。行き先は誰にも言わずに出られたので不明となっております」


「そうか。ちなみに女神の戦士様には婚約者とかいなかったのか?いれば国に繋いでおくこともできたと思うんだが」


「それが誰にもお手を出されてないのですよ。私もチャンスさえあれば、手を出してもらえる自信はあったんですけどね~」



 そう言うと受付嬢さんはシッポを抱えて、こちらをチラッチラッと見てくる。

 あ、あざとい٠٠٠!



「うん!大変参考になった、ありがとうな!」



 またもや逃げるようにしてギルドを去った。いや、確かに可愛いんだけど、俺って追われると逃げるタイプなのかもね!くそぅ!


 ギルドの公式記録も確認でたし、これで問題は無さそうだ。暗黒魔法の平行世界の効果を確かに実感できた。


 この魔法の面白いところは、効果の範囲外にも徐々に影響を及ぼすところだ。今回は王都をすっぽり覆ったから、王都だけの効果になる。だから範囲外の人の記憶やギルドの記録には、しっかりと残ったままである。しかし、徐々に周りに影響を及ぼすようになってくるのだ。近くの街や村に王都の人が訪れると、その人から他の人へと影響が広がっていく。悪い言い方をすれば、侵食や汚染されていくようなものだ。



「けど今回はこれで良かったと思おう。人の記憶を弄るなんて悪いことだと、道徳的には思うけどね。俺は聖人じゃないから時と場合によっては使うけどさ」



 王都をのんびり歩いて出ながら、そう独り呟いた。






 人目の無い場所でハリアーを出して、世界地図を確認する。目的地の方向を確認すると、次の国へと移動を始めた。


「次はマダラ大平原か。てゆーか、ここもかなり広い国だな!いや、国٠٠٠なのか?もしかしたら遊牧民みたいな感じ?」


 考えても解らなかったので、ハリアーの気の向くまま飛べばいいさと進んでいく。


 暫く飛行すること一時間、世界地図上で街に該当するアイコンが動いていた。


「どういうことだ?街が動いている٠٠٠まさか移動要塞みたいなのがあるのか?」


 そんなの浪漫の塊じゃん!とばかりに、嬉々として飛んでいくが、どうやら移動している街は一つじゃないらしい。動かない街もあるけど、どうしたものかと頭を悩ませた。


「とりあえず近くの移動中の街に行ってみればわかるか。アフターバーナー全開!」


 テンションを上げる為に叫びながら言ってみたけど、ちょっと癖になりそう。

 一番近い街の側で速度を落として、街の様子を確認することにした。そして近くまでくると、街が移動する理由が判明した。





「あれって遊牧民ってやつなんじゃね?」


 大勢の人間と動物がゾロゾロと移動していた。馬に乗った人が多いが、周りを囲んで家畜と思われる動物を連れている。まるで授業で習った遊牧民の生活そのままだ。


 ハリアーのジェットエンジンの音に驚いたのか、動物達が恐慌状態になってるようだ。これは不味いと思ったので、その集団から全速離脱していった。


「なるほどね。移動要塞じゃなくて、遊牧民の集落を街と定義しているのか」


 謎は解けたものの、これではクラスメイトを見つけるのは困難だと思った。考えた末、大きなグループを探すことにした。もしかしたら冒険者ギルドの出張所みたいなものがあるかもしれないからだ。





 更にマダラ大平原の中心部へと飛んでいく。動かない大きな反応を見つけたので、そこで情報収集することにしたのだ。


 今度は動物を驚かさないようにするために、ハリアーから降りて高速飛行で向かうことにした。

 沢山のテント?みたいな住居を見つけたので、ここが集落だろうと思いそこからは歩いて行く。


 門番も何も無いので、近くにいた男に話し掛けることにした。



「すまない、聞きたいことがあるんだがいいか?」


「ん?外から来た者か。珍しいな。どうした旅の者よ」


「この国と言っていいのか解らないが、王都のような場所はどこにあるか教えてほしい」


「ん?なんだ、何も知らないのか?ここマダラ大平原では、各集落は部族毎に別れて生活している。どこの部族が取り仕切っているとかは無いんだ。大小様々な部族があるだけだ」



 男の説明によると、王都に該当する拠点は無いらしい。大小様々ってどんだけいるんだよ。探すのが手間だな。


「部族の数はわかるのか?」


「大小含めれば100は超えてるはずだ。数人の集団もあれば、我が部族のように一万を束ねる部族もある」


「冒険者ギルドは無いのか?」


「小さい集落には無いが、我が部族の集落にはある。旅の者よ、案内してやろう」



 そう言うと男はスタスタと歩き出していった。慌ててついて行くと、周りには似たようなテントしかない。確かゲルって言うんだっけ?確かに冒険者ギルドがあっても、案内が無ければわかんないな、これは。




 男は少し大きなゲルの前に立ち止まって、ここが冒険者ギルドだと告げると立ち去っていった。男にピンを付けたので、後でお礼を言いにいくか。


 ゲルの入り口から中に入ると、いつもの冒険者ギルドの出張所って感じの、簡素な作りになっていた。小さいながらも依頼掲示板があり、受付カウンターもあった。


 受付嬢さんがいたから話し掛けると、余所者に対する視線的なものを感じた。あまり好意的じゃない視線だ。一応、身元を証明する為にカードを出した。



「情報を買いたい。女神の戦士様が何処にいるのか知りたい」


「٠٠٠その前にどこの部族の方でしょうか?」


「俺はどこの部族でもない。旅の冒険者だ」


「ではお売りできる情報はありません。お引き取りを」



 初めて拒否られたのでショックを受けた。こないだまでモテてただけに、地味にショックだった。が、ここで引き下がる訳にはいかないので喰い下がった。



「部族で人を選ぶのか?あまり言いたくないが、これでも白銀級だ。金も充分持っている。それでもダメなのか?」


「ダメです。余所者の冒険者には解らないかもしれませんが、部族の人間は同胞にしか売るものはありません。お引き取りを」



 これ以上は無駄だと思ったので、納得はいってないがギルドを出た。周りの冒険者の視線も、外様に対する敵意みたいなのを感じたからだ。



「かといって諦める訳にはいかないよな~。一昔前の日本の田舎じゃないんだからさぁ。あ~どうしよ٠٠٠」



 どうしようか考えたけど答えは浮かばなかった。集落を歩いていると、住民からも似たような視線を感じる。ギルドに行くまで視線を感じなかったのは、あの男と一緒にいたからかな?ふと中学の時にいた、地元のグループだけで仲良くしてる奴らを思い出した。住民はまさにあんな感じだ。


「何も思い付かないし、さっきの男にお礼を言いにいくか」





 世界地図で男に付けたマーカーを便りに行くと、先ほど出会った場所に戻っていたようだ。



「先ほどはどうもありがとう。冒険者ギルドに行ったけど、何も話にならなかったよ」


「そうか٠٠٠旅の者よ、同胞が失礼した」


「いや、いいんだ。あんただけでもまともに話してくれたからな。ところで俺以外でもああいう対応なのか?」


「仲の良い部族でない限りはそうだろうな。多くの同胞は、古い歴史や仕来たりに従っているのだ。これは根深い問題でもある。旅の者には中々理解できぬものだ」



 昔ながらのってやつか。何かしら悲惨な歴史でもあったのかもしれない。仲の良い国もあれば、仲が悪い国もある。こういうのは世代が変わっても、簡単に意識が変わることは無い。地球でも異世界でもそれは変わらないのだろう。



「旅の者よ、俺でよければ何か力になろう。寝る場所が無いならうちに泊まるといい。食糧が欲しいなら何か狩ってこよう」


「いや、どちらも大丈夫だ。気持ちだけ貰っておくよ。それよりも情報が欲しい」


「情報か?俺が語れる話はそう多くはないが、何が聞きたいのだ?」


「女神の戦士様がどこにいるのか探してるんだ。知らないか?」



 女神の戦士という言葉を聞いた瞬間、男の顔が険しくなった。何かあったのか?



「٠٠٠あの男の関係者か?」



 そう聞いてきた男の表情が一層険しくなった気がする。

 ここで久しぶりに直感が発動した。この男には嘘や偽りで誤魔化さずに、正直に話した方がいい気がする。さすがに異世界うんぬんとは言えないから、ある程度正直に話すことにした。



「あぁ、関係者だ。そいつを連れ戻すために、俺はここまで来たんだ。それが俺の目的だ」


「ふぅ٠٠٠どうやら本当のことのようだな。馬鹿正直な者は損をするぞ?旅の者よ。だが、そんなお前を俺は気に入った。そうだな、ここではまずい。ついてこい」






 ついていく途中で男は名前を教えてくれた。男の名前はガガハッドというらしい。俺も名前を名乗った。お互いに自己紹介も終わり、ガガハッドに案内されたゲルに入った。


「ここは俺の家だ。楽にしてくれ」


 ガガハッドはそう言うと、敷いてあるカーペットに座り込んだ。ここは床に座る文化みたいだ。俺もガガハッドの前に座った。


「女神の戦士は、我が部族と敵対関係にある部族に現れた。その部族の名はザガ族。我が部族、ガガ族の敵だ。昔からガガ族とザガ族は肥沃な土地を廻り争ってきた。それは我らが時代にも続いている。そしてあの日に全てが変わったのだ٠٠٠」


 ガガハッドは事件が起こった日のことを語ってくれた。

 ある日、女神の戦士がザガ族の土地に転移してくると、ザガ族は女神の戦士を祭り上げたそうだ。そして各部族に対し、女神の戦士がいる場所こそが、女神の御意志であるとか主張したらしい。

 これによりザガ族に追従する部族が増えていき、ついには半数を超えた。七割もの部族がザガ族の支配下に収まったそうだ。そしてザガ族は肥沃な土地を優先的に廻っている。それが女神の御意志として。


「我らは誰の支配も受け付けない。そして誰も支配したりしない。大平原の民はそうやって自然と共に生きてきたのだ。ザガ族の支配する部族は日々増えている。部族だけではない、外からの者も従えているのだ」


「だから俺も敵視されてたのか。納得はしてないが理解したよ」


「すまない、カケルよ。今はザガ族の脅威がどこにあるかわからない時期だ。旅の者は、ほぼザガ族の密偵だ。密偵の存在を知るまで、幾度も部族の集まりを襲撃されたからな。カケルのような者は、この集落には居ないのだ」




 もしこの一件が、クラスメイトの意思で手を貸してるのなら、キツいお仕置きが必要だな。



 お仕置きをする為に、ガガハッドにザガ族の詳しい場所を聞いた。今は南にある、湖や果実の樹がある場所に拠点があるらしい。前まではガガ族もそこを拠点にすることもあったそうだ。悔しそうにガガハッドは語っていた。


 ガガハッドに礼を言って、創造した穀物や果実などを大量に渡した。水も樽でたくさん渡したら、凄く驚いていた。受け取れないと言うガガハッドに無理矢理押し付けて、ガガ族の集落を後にした。






 ザガ族の集落がある南の方角に向けて飛んでいく。今回は最初から高速飛行で隠密系スキルを全開にしている。少し大きな湖が見えてきた。どうやらザガ族の集落に到着したようだ。湖の辺りにはゲルがたくさん建ち並んでいた。


 果実を採取している人々を見ながらと集落の中を見て廻る。武装している人がやたら多いのは、部族的な特徴だろうか?それとも何処かに攻め込む準備だろうか?


 中心地らしき場所に一際大きなゲルがあった。入り口の脇には護衛らしき男が二人いたので、そこが部族の長がいる場所だろうと当たりをつけて侵入する。




 中に入るといくつか車座になってるグループがあったが、奥の方に偉そうなゴテゴテした衣装を着た男がいた。あれが長なんだろうか?うん、鑑定してみるか。




ザガギギム

人族 28歳 男性

職業 ジェネラル


LV 132

HP 3580

MP 1220


力  2480

体力 2200

速さ 3800

知力 260

精神 1850

魔力 1220

運  190


スキル

弓術、騎馬術、槍術、集中、騎乗、威圧


武技

乱射、ランスチャージ、乱れ突き


称号

ザガ族の長、殺戮者、征服者の心得




 現地人にしては中々の強者だった。武技という知らない情報があったので、鑑定で詳細に調べてみる。




武技

武器を使用して発動する専用スキル

HPを消費する




 へぇ、こんなスキルもあったんだ。あとで創造してみるか。必殺技とかカッコいいもんな!


 他にも気になる称号があるので、鑑定で詳細を調べた。




殺戮者

同胞を殺した数が千を超える者

直接、間接を含める


征服者の心得

征服者としての種が蒔かれた存在

華開く時、征服者となる



 なんだこいつ!ガガ族をこんなに殺していたのか!?

 いや、きっとガガ族以外にも今まで殺してきたのだろう。それも自分の都合でだ。それに気になるのは征服者の心得のところだ。生まれ持った称号なのか、それとも後天的に得たのか。それ次第ではこいつよりも大きな脅威があることになる。


 周りに父親がいるか見てみるが、鑑定で見たところ部下しか見当たらない。出掛けているのか、そもそもいないのか解らない。




 俺のステータスなら負けることは無いだろうが、ここはファンタジー世界だ。常に気を付けるに越したことはない。


 クラスメイトの反応も無いので、情報を集めるためにゲルの中で待つことにした。


 何か有意義な情報がないか、ザガ族の長たちの会話に耳を傾けることにした。



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