第20話 片山春樹
アニマー獣人国家の王都について語ろう。
この国の王様は強い獣人じゃなければいけないという、テンプレ獣王では無いらしい。代々続く王家のちゃんとした血筋であり、人族の社会とそう変わりがないそうだ。
王都に着くまでの間に立ち寄った街で、色々と情報を仕入れてきたので、少しテラフィアの常識を知ることができた。今までは急ぎ足で国から国へと回っていたので、一般常識が解ってない事が多かったと思う。
冒険者ギルドへの道を住民に聞きながら、途中の屋台で知らない果物を買いながら進んでいく。
「このナナツの実って味がオレンジだよな。スコルの実は桃の味がするし。色や形は違うのに不思議だよなぁ」
もっと判りやすい名前で、アッポーというリンゴに似た果実とかを想像してただけに、新しいものを見て感じて楽しくなってきていた。新しくやるゲームのアイテムを覚えていく感覚であった。
冒険者ギルドに着いたので、受付嬢さんから情報を買うために話し掛ける。まだこの前の記憶が新しいので、衝動で耳とシッポには触らないように気を付けようと誓った。
「女神の戦士様の情報を買いにきた。今はどちらにおられるか?」
そっとカウンターにギルドカードを提示して、受付嬢さんに確認してもらう。ここの受付嬢さんは狐の獣人っぽい。耳とシッポがフサフサしていた。٠٠٠いかんいかん、見ないようにしないと!
「その情報なら金貨100枚ですね。買われますか?」
「白金貨一枚だ。今は金貨の枚数が足りないからこちらで頼む」
「承りました。女神の戦士様なら王都の西側にある、グラル平原で毎日魔物を討伐しているようです。休日は王城にずっと居るようですよ」
「休日に王城で何をしてるかわかるか?」
「٠٠٠恥ずかしい話となりますが、手を出した女性たちとヨロシクやってるそうですね。これ以上増えないように監視されてるようですが」
「あ~例のアレかぁ٠٠٠」
獣人の異性の耳とシッポを触ったってやつだな。やつれるってことは、そういう事なんだろう。羨ま٠٠٠けしからん奴だ!
「え~と、ちなみに何人に手を出したかわかるか?」
「公式では13人となっております。その中には王家の姫も含まれているそうです」
「ということは、非公式なら?」
「٠٠٠既婚者や恋人がいる者を合わせると、50人を超えているそうです。子供は除外してますが、今は王家が賠償金を建て替えていると聞いてますね」
「少なくとも払い終わるまでは、延々と討伐に出されるって訳か。てか、子供もって٠٠٠」
受付嬢さんが軽く頷いた。この国の英雄になるどころか、恥になっている現状だからな。表立って公表も出来ないだろうし、御愁傷様としか言えない。更に日本に返すことになるから、逃げたと思われても仕方ないだろうな。
「ところで、カケルさんは白銀級なんですね。随分とお強そうですね」
「ん?あぁ、この前昇級したばかりだから、まだ実績は無いけどな」
「ご謙遜を٠٠٠ところで、私のシッポが最近少し痛むんですよ。トゲが刺さってないか見てもらえませんか?」
「ん?どこだ?」
「ほら、ここですよ、ここ」
カウンター越しにシッポを胸に抱いて見せてきた。パッと見た感じではトゲは見えないな。そもそもこんなにフサフサなら、毛に隠れて見えないだろう。少し掻き分けてみないと分かるはずもない。掻き分けようと手を伸ばしたところで、「ハッ!」と気付いた。
「なぁ受付嬢さん。もしここで俺がシッポを触ったらどうなるんだ?」
「えー?それ聞いちゃいますぅ?」
「おい、口調が変わってるぞ」
「٠٠٠チッ!勿論、責任を取ってもらいますよ」
「え?今舌打ちしなかった?」
「いいえ?全然してないですよ」
狐獣人の受付嬢さんは積極的だった。肉食系の獣人だからだろうか?いや、狐は雑食だったな。そう考えると、宿屋のお姉さんは草食だったのだろう。誘い方が遠回しだった気がする。いや、そーじゃなくて!
「ありがとう!また来るよ!」
急いで礼を言うと冒険者ギルドを後にした。なんかデジャブを感じるぞ。あの街でも同じ展開だったような気がする。
とりあえずグラル平原とやらに顔を出しにいこう。二年三組探知機に反応を記録しておけば、後の展開が楽になるしな。
途中で宿屋を見つけたので、受付に食事無し一泊と頼んだ。今回は中年男性の受付だった。ちょっと残念に思いながらも支払いをして宿を出た。
王都を転移で出た後に、世界地図で確認しながら西側にあるグラル平原に向かった。今回は現地から直接転移で王都に帰る予定である。日もだいぶ暮れてきたからね。
グラル平原に高速飛行で向かっている最中は隠密系スキルを使って、誰かに姿を見られないようにした。
王都に帰ってくる冒険者や商人などが多く、目撃されると厄介だからな。それに帰り道でクラスメイトに出くわすかもしれない。
歩いてる人達にも気を配りながら飛んでいると、とある一団の中で二年三組探知機に反応があった。グラル平原より王都寄りで見つかって良かった。気付かれないように後ろから回り込むように着地する。そして偶然を装って話し掛けてみた。
「こんにちわ、あんたらも狩りの帰りかい?」
急に話し掛けられたことで、一団が一斉にこちらに振り向き戦闘態勢をとった。剣に手を掛けてる者や、弓を既に構えてる者など、熟練した動きが伺えた。何の武装もしていない俺を怪しんでいる。基本は手ぶらだから怪しまれてもしょうがない。
「おっと、怪しい者じゃないよ。偶然見掛けたから女神の戦士様に挨拶しておこうと思っただけだ。ほら、武器も持ってないだろ?」
「٠٠٠お前は何者だ?我らに気配を悟らせない手練れが、怪しくないだと?」
おっしゃる通りだと思った。隠密系スキルを使った弊害があるとは思わなかったから、怪しさ爆発だと思う。
「٠٠٠逃げることに特化したスタイルなんだよ。あんま手の内は晒したくないから、聞かないでくれるか?戦闘はからっきしなんだ」
「ふむ٠٠٠一応筋は通ってるな。よし、挨拶したらお前は先に王都へ向かえ。我々は後ろを歩く」
「ありがとよ。女神の戦士様を一目見たかっただけだからよ。挨拶したらすぐに行くさ」
剣を構えていた護衛の兵士らしき者に連れられて、集団の真ん中にいたクラスメイトに会うことに成功する。
見たことはある顔だけど、やっぱり名前は判らなかった。男子生徒ということは判ったけどね。
「初めまして、女神の戦士様。冒険者をやってるカケルと申します」
「あ、男なの?あ、そう。うん、挨拶はわかったから。もう帰ってもいいよ」
そう言うと、興味もないといった態度で王都に歩いていった。残された俺に対して、バツが悪そうに護衛の兵士が肩をポンポンと叩いて去っていった。
女癖が悪いどころか、男に対して冷たすぎないか?なんて露骨な奴なんだと呆れてしまった。
女神の戦士一向が見えなくなったので、転移で王都に戻って、宿に帰ることにした。
宿に帰って部屋から自宅へと戻ると、先ほどの記憶が思い出されてムカムカしてきた。
「あの性格でハーレムを築くとか無理があるだろ!それにあんなのでも急に消えたら迷惑になるとか、ホントろくなことしないな!」
夕食後、全て丸く収める良い方法がないか、考えながら眠りについた。
翌日の朝、俺は冒険者ギルドに情報収集に来ていた。昨日の受付嬢さんのところだ。耳がピコピコ動いている。٠٠٠誘いには乗らないぞ?
「女神の戦士様って何人と結婚してるんだ?耳やシッポを触ったからってすぐに結婚するもんなのか?昨日会ったけど、お世辞にも人格者とは言えなかったからな。少し気になったんだ」
「昨日の続きになりますが、公式には婚約者という扱いになってまして、体の契りはまだ無いそうです。王族も含まれてますので、姫様が第一婦人にということもあり、まだ正式な婚礼の儀を行ってません」
「もし仮に、女神の戦士様が責任を果たさずに逃げた場合、残された女性はどうなるんだ?」
「一年間見つからなければ、失踪したという扱いになります。そうすれば婚約も破棄されますね。ただし、耳やシッポを触られたという事実は残りますので、その後の貰い手などは期待できないでしょうね」
しんみりとした表情で受付嬢さんは言うと、獣人の女性問題は根が深そうだと感じた。触られたのが強姦されたのと同義ってキツイもんがあるよな。
「王様や他の女性たちの親族も納得してるのか?」
「٠٠٠ここだけの話ですが、あまりの礼儀知らずな態度に、ほぼ全ての獣人が納得していません。まさか獣人の風習を逆手に取るような男性が現れるなんて、誰も想像してませんでしたから」
「そりゃそうだな。ハーレム希望じゃないと、そこまで手を出さないだろう。バカな真似をしたもんだな」
「カケルさんはハーレムには興味が無いんですか?一途な男性もまた素敵だと思いますけど」
受付嬢さんが狐シッポを胸に抱えながら、頬を染めて微笑んできた。あ、俺狙われてる。
「ありがとう!邪魔したな!」
慌てて、ギルドから飛び出して逃げた。モテるのは嬉しいけど、今はそんなことをしてる場合じゃない!嬉しいけども!
「こうなったら考えてた案を実行するしかないか。多分、いけると思うんだけど」
ギルドから逃げながら、クラスメイトの後始末に頭を悩ませるのであった。
王都から転移で出たあと、二年三組探知機を使いながら、グラル平原を高速飛行で飛び回った。目標はクラスメイトの強制退去である。
「お、いたいた!」
魔物と戦ってる最中らしく、剣や弓で何匹か仕留めていた。相手は狼系の魔物のようだが、もう勝敗は決したようだ。最後の魔物が倒されたようだ。
昨日会った時に鑑定してなかったので、今日は空中から鑑定させてもらった。
ハルキ・カタヤマ
人族 16歳 男性
職業 豪格闘家
LV 36
HP 2650
MP 110
力 220
体力 360
速さ 250
知力 70
精神 110
魔力 110
運 350
スキル
格闘術
称号
女神の戦士、ハーレムの卵
周りの護衛のに比べたらまだまだ弱いが、それでも成長が早いように思う。今までのクラスメイト達も二ヶ月程で、かなりレベルを上げていた。今後はもっと強く厄介になってくるだろう。
٠٠٠それよりも気になる称号があるんだが。ハーレムの卵って、ハーレムのことだよね?
「ろくでもないと思ってたけど、無理矢理でも帰さないといけなくなったな。闇魔法『
空中から睡眠雲を発生させて、護衛の兵士だけを眠らせる。急に周りの兵士がバタバタ倒れていくので、片山は何事かと辺りを見回している。そんな片山の前に着地して姿を見せた。
「よぉ、昨日ぶりだな。片山」
「は?な、なに?お前は誰だ?」
「ホント、男には興味ないんだな。昨日の帰りに挨拶しただろ?」
「あ、昨日の男か!お前は何をしようとしてるんだ?僕は、女神の戦士だぞ!偉いんだぞ!」
相当チヤホヤされた環境で守られていたみたいだ。なんかこいつと同郷ってのが情けなく感じてきた。
「もう充分異世界を楽しんだろ?日本に帰るぞ」
「え?日本に?い、嫌だっ!僕は絶対に日本になんか帰らないからな!僕は強くなったんだ。もう誰にも馬鹿になんてさせないんだ!」
そう言い放つと、ダッシュで真っ直ぐ距離を詰めながら跳び、蹴りを放ってくる。二回、三回と蹴りを放つが、遅すぎて相手にならない。四回目に足を掴み、残った軸足に足払いをかけて転ばせた。
「お前に拒否権は無い。それと王都では好き勝手にやりやがって٠٠٠現実をもっと見ろよ!」
倒れている片山に眼を合わせて、魔眼の一つ『麻痺眼』をかけた。本人の精神による抵抗値で解けるけど、俺とのステータスの数値に絶対的な差があるから解けることはない。
「いいか、片山。異世界に行って『俺TUEEEE』ってしたい気持ちはわからんでもない。かといって調子に乗った奴の末路なんて、どうなるか判るだろ?獣人のルールを利用した悪どいやり方でハーレムなんか作りやがって!」
「あ、が、が」
「何か言いたいのか?首から上だけ麻痺を解いてやる。言ってみろよ」
麻痺眼と雷魔法の麻痺の違いは、部分的にかけたり解除できるところだ。ただ複雑な操作をすればするほどMPを消費するけどね。
「お、お前はもしかして、同じクラスの卑怯者か?女神様に嫌われてるくせに!」
「言いたいことはそれだけか?俺もクソ女神を嫌ってるからおあいこだな」
「モテない腹いせはやめろよな!僕は姫とも婚約してるんだ。英雄だぞ!ケモ耳ハーレムを作ってるんだぞ。お前らとは違うんだ!」
「強引に耳やシッポを触ってか?聞いて呆れる。片山、王都で皆からどう思われてるか知ってるか?英雄どころか恥だってよ。子供にも手を出したそうじゃないか。いい加減、眼を覚ませ!」
片山と話しても平行線になりそうだったので、スキル強制消去を使う。片山の体から光が抜けていく。
「ぼ、僕に何をしたんだ?」
「スキル強制消去だ。もうお前はスキルを使えない。そしてこれを飲んでもらう」
レベルリセットドリンクを嫌がる片山に飲ませた。首を振って抵抗するから、鼻を摘まんで強引に飲ませた。
「これでお前のレベルはリセットされた。ステータスを見ればわかるだろう。最後はこれだ。闇魔法『
片山の頭に、黒いねっとりとした粘液みたいな闇が纏わり付いた。闇魔法の記憶改竄を受けて、片山は意識を失った。俺が使った魔法で、授業中から今までの記憶をゴッソリ消した。あとは適当に日本に帰すだけである。
魔物に襲われないように、眠っている兵士たちに状態回復をかけてから、日本へと転移した。
日本に着いたので、学校の校舎裏に転移して片山を置いて、今度は家に転移した。
30分ほど放置した片山の様子を千里眼で見ていたら、片山を見つけた生徒が先生を呼んだ。保健室へと連れていかれた片山が目を覚ますと、行方不明となった生徒だと判って大騒動となった。今回は打ち合わせが無くとも記憶が無いので、警察から事情聴取されても問題は無い。
片山への千里眼を外して、深夜まで時間を潰した後、王都へと転移で戻った。
「あともう一仕事やらなきゃな。気が重いなぁ」
深夜の王都上空で強い風を受けながら、魔力を高めて広範囲に届くように操作する。魔力操作と魔力吸収のスキルを使って、大気から魔力を吸収しながら、王都全体に届くように、結界等の障害も貫くように高めた魔法を放つ。
「魔法合成、闇と闇を合わせて、暗黒魔法『
王都全域を暗黒の光が包み込んだ。数秒もすると、暗黒の光は消失した。パッと見た限りでは何も起きてないように見えるけど、この魔法の効果は絶大だ。
「暗黒魔法『
独り王都上空で厨二っぽいセリフ口調を吐いた。もちろん周りには誰もいない。意識すると段々と恥ずかしくなってきた。
「٠٠٠帰ろ。疲れた」
闇とか暗黒って言葉は厨二心をくすぐるから、仕方ないよね!そう心に言い訳をしながら自宅へと帰った。
片山が発見されてから数日間、世間は大いに騒がしくなった。連日報道されて、自分が注目されているのを勘違いした片山は、自分に自信を持つようになる。その姿や振る舞いに、心を惹かれる女性が何人か現れた。
「オレって、モテるようになったよな。記憶喪失様々だぜ!」
カケルが消し忘れたのか、消せなかったのか?『ハーレムの卵』という称号が活躍していた。
この称号は意中の相手が寄ってくるスキルや称号ではない。
後日、片山春樹の元には、ヤンデレやメンヘラ、地雷女といったバリエーションに富んだ女性が詰め掛けてくることになる。
尚、この話が本編で語られることはない。
以下、片山春樹のステータス
ハルキ・カタヤマ
人族 16歳 男性
職業 豪格闘家
LV 36→1
HP 2650→200
MP 110→10
力 220→65
体力 360→85
速さ 250→55
知力 70→10
精神 110→10
魔力 110→10
運 350→90
スキル
称号
女神の戦士、ハーレムの卵
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