第19話 アニマー獣人国家



 空を駆ること六時間ほど経った。現在は最後の休憩中である。長時間の飛行はまだ馴れてないから仕方がないのだ。



「初めの頃は興奮して飛ばしてたのにな。これ寝不足で飛んだら大惨事待ったなしだな」



 コーヒーを飲みながら、優雅に椅子に座って休憩している。テーブルも椅子も茶菓子のチョコチップスコーンも、全て創造で作り出したものだ。ちなみに近寄ってきた魔物は、風魔法の風刃ふうじんで瞬殺されてストレージの中に入っている。


 崖の上から景色を見下ろせるロケーションで、わざわざ休憩している。側にはハリアーが停まってるから、この世界の生き物からすれば異様な光景だろうけどね。



「もうひとっ飛び頑張りますか」



 コーヒーを飲み干して、お茶菓子を食べ終わったのでテーブルと椅子を収納する。そしてハリアーに乗って北西へと飛んでいった。





 夕暮れに差し掛かった頃に、アニマー獣人国家の国境の街に到着した。いつものようにハリアーを仕舞って歩いて入った。


「ここがアニマー獣人国家かぁ。獣人だらけじゃん。すっげぇな!」


 周囲の人々は全員もれなく獣人だった。今までの国にもエルフやドワーフや獣人がいたが、ここでは獣人九割の割合を締めてそうだ。ちなみに顔が獣よりの獣人ではなく、コスプレっぽい耳とシッポが付いたタイプの獣人である。勿論、手に肉球は無い。


 近くにいた可愛い犬耳の女の子に声をかけて、ちょっと良い宿の場所を聞き出した。聞いてる最中、耳がピクッと動いたのに感動を覚えた。シッポが動いて無かったので、お礼と言って銀貨を一枚渡すとシッポをブンブン振って喜んでくれた。


 これはセクハラじゃない。お礼だからセーフだと自分に言い聞かせて、獣人の女の子と別れた。




 教えられた宿に入って、受付の女性に一泊食事無しと告げる。受付の女性は牛の獣人みたいで胸が大きかった。なんとか胸に目がいかないように制御し、宿代が銀貨一枚だったので支払う。すると、受付の女性は、払った銀貨を胸の谷間に入れて、俺を部屋に案内してくれた。てゆーか谷間に入れる意味ある!?



 折角胸を見ないようにしてたのに、谷間の衝撃が大きかった、そこから胸をガン見してしまってた。

 案内が終わった後に、してやった顔をする女性に、してやられた気分になった。



「٠٠٠今日は発散しないと色々とダメそう。健全な男子高校生には刺激が強いって٠٠٠」



 自室へ転移すると、発散に時間を使ったのは言うまでもないだろう。その後、何気ない顔でご飯を食べた。今日は刺身が出たので、父さんの要望が通ったみたいだ。

 この時、切り身で買った訳じゃないのに、母さんが魚を捌いて刺身にしていたのに気付いていなかった。肉も解体はしたけど、肉の塊から捌いていたのだ。


 後で父さんに教えてもらった話だけど、花嫁修業によって得た技術スキルらしい。母さんのスキルじゃない技術スキルに驚いた。

 花嫁修業で結婚を認めてもらう為に、色々と学んだことの一つなんだってさ。レディースの総長って肩書きのせいで、父さんの両親から結婚を反対されていたらしい。


 レディースの総長ってのがよく解らないけど、当時は女性蔑視もあったんだろうと納得した。活躍する女性が疎まれてた時代って古いなぁと思う。





 翌日の朝、テラフィアに転移して冒険者ギルドに向かった。


 宿を出るときに、受付の女性から「またね、坊や」と言われた。その大きな胸をカウンターに乗せて言われたのだ。理性を総動員しながら、宿を出た。




 「獣人やべぇ」とブツブツ呟きながら、冒険者ギルドに向かった。道中の俺は変質者に見えたことだろう。途中で気付いて良かった。けど獣人の彼女もいいなぁなんて、ちょっと思ってしまったのは内緒だ。


 冒険者ギルドを見つけて中に入り、受付嬢さんに話し掛けた。今回は情報を買いにきたのだ。カウンターに白銀級になった新しいカードを置いた。


「情報を買いたい。女神の戦士様の情報だ。この国のどこにいるか知りたい」


「おぉ~白銀級なんですね。お若いのに凄いですね。その情報だと金貨500枚ですね」


 いつも思うんだけど、この情報料ってどんな基準にしてるんだろう?高いと感じるのは、情報化社会の弊害だろうか。それとも何か理由があるんだろうか?聞いてみるか。


「とりあえず金貨500枚だ。数えてくれ。それと聞きたいんだが、女神の戦士様の情報は何故こんなに高いんだ?」


「最初はそれほど高くもなかったんですが、女神の戦士様を一目見ようとする人が、連日大勢集まったそうです。それを見かねた各国の取り決めで、高額の情報料にすることで、集まる人を減らしたそうですよ。他にも理由はありますけど、無料分はここまでですね」


「他の理由ね、まぁ大体想像はつくけど。それよりも女神の戦士様の情報を聞こうか」


「女神の戦士様は、王都で修業をしながら魔物を討伐しているそうですよ。ただ、問題もあるそうです」


「問題?何かあったのか?」



 受付嬢さんは難しい顔をしている。時折ネコ耳がピクッと動く。可愛い。



「その٠٠٠どうやら女癖が悪いそうなのです。英雄色を好むと言いますが、その、無遠慮に耳やシッポを触るそうなのです」


「すまない、知らないことなので聞きたいのだが、耳やシッポを触るのはダメなのか?獣人たちの風習や慣習で何かあるのか?」


「はい。人族の方々はあまり知らないかもですが、獣人族の種族的特徴を他者が勝手に触ることを禁じています。異性なら尚更です。もし故意に異性に触られることがあれば、強姦と同じような扱いになります。地方によっては重罪とみなされる程です」


「マジか٠٠٠あ、いや、仮に俺が受付嬢さんの耳やシッポを触ったりしたら?」


「責任を取ってもらいますよ?」



 受付嬢さんはニッコリ笑ってそう言った。けど目が笑ってなかった。若干恐怖を感じながら、誤魔化すように続きを促した。



「なるほど。それで女神の戦士様は複数の強姦٠٠٠もとい、重罪を犯したわけだ。けれど立場的に裁けないといったところか?」


「そうですね。少し語弊があるようなので補足しますが、既婚者や恋人がいる相手ならば、高額の罰金や労働で罰を受けることになります。しかし相手が未婚で恋人もいなければ٠٠٠」


「いなければ?」


「責任を取って、結婚してもらうことになりますね」


「え?こう言っては何だが、結婚するだけでいいのか?それだと別に重罪って感じがしないんだが」



 またもや受付嬢さんがニッコリ笑った。もちろん今回も目は笑ってない。シビアな女性問題だからだろうけど、圧が強すぎないですか?



「ほとんどの国が一夫多妻制ですが、実際にたくさんの妻を養ってる方はそう多くいません。何故だと思いますか?」


「その言い方だと、養えば養うほど経済的にキツいからか?」


「その通りですが、もう一つあります。我々獣人族は、他種族よりも性欲が強い傾向にあります。つまり男性独りでは複数の女性を養うことが出来ないんですよ。例え獣人の男性でもね。この、わかりますか?」


「あ、ハイ。すみませんでした」




 受付嬢さんの圧に屈して何故か謝ってしまった。周りの男性冒険者たちもシッポを股に挟んでいた。女性冒険者はそんな男たちの尻を蹴ってたけど。



「その、聞きにくいことなんだが、仮に俺が受付嬢さんに対して責任を取ったとして、受付嬢さんの気持ちはそれでいいのか?知らない男だぞ?」


「はい、全然大丈夫ですよ。獣人族の特性はまだありまして、強い男性に惹かれるというものがあります。その点、カケルさんなら文句無しですよ」



 獣人の特性でようやくラノベっぽい設定が出てきたことに安堵した。性欲が強いとか初めて聞いたわ!ん?ってことは、宿のお姉さんは俺を誘ってたのか?


「シッポ٠٠٠触ってくれていいんですよ?」


「ありがとう!邪魔したな!」



 急いで礼を言って、小走りで冒険者ギルドを後にした。






 赤城駆が去った後のギルド内は、静寂な空間になっていた。受付嬢は近年稀に見る、強者の気配を持つオスを取り逃がしたことを後悔していた。


「んもう、貰ってくれても良かったのに」


 静かな空間に響き渡った声に、周りの男性冒険者たちは、受付嬢さんの呟きを聴こえないフリをしていたそうな。






 街を出て人目のつかない場所まで来たので、ハリアーを出して王都に向かった。

 世界地図で確認すると、この国は広かった。多種多様な獣人がいるので、もしかしたらパンダの獣人とかもいるかもしれない。そう思うと、未だ見ぬ未知の冒険にワクワクしてきた。



「あ、冒険じゃなくてクラスメイトがメインだった。危ない、危ない。獣人の特性からの衝撃で目的を見失うところだった」





 そこから2日ほど街をいくつか通り過ぎながら飛んでいった。


 失礼だとは思いながらも、家族へのお土産代わりにスマホで獣人を撮影してたりする。


 父さんも母さんも獣人の姿に驚き、大人げなくはしゃいでいた。どうせならドワーフも撮っておけばよかったなと少し後悔した。今度見つけたら撮っておこうと誓う。



 そして夕方頃に、アニマー獣人国家の王都へとたどり着いたのであった。



「どんな奴に会ってもいいように対策しないとな。そういえば、ちゃんと責任を取ってるんだろうか?受付嬢さんに聞くのを忘れてたな٠٠٠ここのギルドで聞けばいいか」



 王都に入る列に並んで、まだ見ぬクラスメイトの女性問題を想像しながら、列を進み王都へと入っていった。





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