第17話 倉木夕子の嘘
翌朝は最悪の目覚めだった。厳密に言うと寝てないけど。寝られなかった原因の浜口は、昨夜と違って、朝はスッキリとした顔をして寝ていたよ。
もしかしたら誰かに聞いてもらいたかったのかもしれない。なんて考えても仕方がないけどね。
「とりあえず送る前に話しておくか。ご飯でも食べよう٠٠٠眠いけど」
夜の間に色々と考えていたけど、気の利いたセリフは言えそうもない。だから事実だけを突きつけてあげようと思った。
「あ٠٠٠おはよう赤城くん」
「おはよう、倉木。浜口が起きたら、朝御飯があるから一緒に下りてきて。先にリビングにいるから」
先に倉木が起きたので、用件を伝えてリビングへと向かった。暫くテレビを見ながら待ってたら二人が下りてきた。母さんに挨拶をしてたけど、二人ともちょっと顔が強張ってた。
父さんはもう仕事に行ってたので、四人でご飯を食べた。母さんは二人にご飯の感想なんかを聞いてた。二人も何気ない会話で緊張が解けたようで、何事もなく朝食を食べ終わった。
ご飯を食べたあと、俺の部屋に三人で戻った。今から送る前に色々と話さないといけない。例によって記憶が無いという設定だからね。
「その格好じゃ家に帰れないと思うから、これを着てくれ。それと警察が事情を聞きに来ると思うから、今までの記憶が無いという設定で頼むな。皆で口裏を合わせるようにしてるから」
説明しながら、創造で作った制服を渡す。それを受け取って、異世界に行ってたことは内緒にするように頼んだ。
「それは理解したんだけど٠٠٠私は兎も角、夕子は嘘を突き通せないかもしれないわよ?」
浜口は倉木のことを心配しているようだった。しかし俺の見立てでは、倉木の方がその辺はしっかりしていると思った。なので直感を信じて、俺の推測を話すことにした。
「これは俺の推測なんだけど、倉木の方が上手いことやれると思うぞ?だって倉木は今も嘘をついて黙ってるからな」
「そ、それは、ダメ!赤城くん!」
「え?夕子、どういうこと?」
倉木からの恨みがましい視線を受ける。嘘がバレると思って咄嗟にダメと言ってしまったようだ。困惑している浜口を横目に、話の続きをする。
「だって倉木は人を殺してないんだろ?」
浜口は突然告げられた言葉に衝撃を受けながらも、倉木のほうを見た。
「夕子٠٠٠あなたまさか٠٠٠私に合わせてたの?」
「赤城くん٠٠٠恨みますよ」
「やっぱり!どうしてなの?夕子!」
浜口に詰め寄られながらも困った顔をしていたが、しっかり俺を睨みながら事情を話し始めた。
「凛ちゃん。あのね、私は凛ちゃんを騙したかった訳じゃないの」
「ならどうして!」
「凛ちゃんは異世界に送られてから、ずっと一人で気を張って頑張ってたよね?気が弱い私を心配して、頑張って隣国と共同で討伐隊を組むように、王様に掛け合ってくれたって聞いたよ」
「それは夕子が心配だったから」
「そうだよね。いつも凛ちゃんは私を助けてくれた。だから今度は私が凛ちゃんを助けたかったの。もうバレちゃったけどね」
昨日の浜口と同じように自虐的な笑みを浮かべながら、器用に俺を睨み付けていた。いい加減睨むのを止めてもらいたい。逆恨みだぞ?それ。
「二人の友情はよくわかったから。もういいだろ?俺から言いたい事があるから聞いてくれよ」
「赤城くん、あなたねぇ٠٠٠」
「俺は気の利いたセリフなんかは言えないし、慰めも出来ないけど事実を伝えることはできる。浜口٠٠٠ステータスを見てくれ」
「はぁ、わかったわ。はい、これでいい?」
浜口は呆れた顔をしながら自分のステータスを開いてくれた。他人からは見えないけど、目線はステータスを見てる。
「浜口の称号には何て書いてある?」
「女神の戦士って書いてあるわね。それだけよ」
「俺には鑑定のスキルがある。それで他人の名前やレベル、スキルに称号と全部見れるんだ」
「それがどうしたのよ」
「テラフィアに来たときにさ、街で何人も鑑定していて気付いたんだけどな。殺人を犯した者は、『殺人者』って称号がつくんだよ。この意味わかるよな?」
「それって、もしかして٠٠٠嘘よ٠٠٠だって私は٠٠٠」
浜口も倉木も気付いたようだな。浜口はまだ噛み砕けてないようだけど、倉木は明るい表情になっている。浜口が救われるかもしれないと喜んでいるのだろう。
「俺の意見としては世知辛い判断になるけど、盗賊や殺人者は殺されても仕方ないと思う。誰かが殺してでも止めないと、もっと多くの人が犠牲になるかもしれないんだ。そこに綺麗事を持ち込むのは違うと思うぞ」
「そう٠٠٠そうね。少しだけど心が救われたわ。赤城くん、ありがとう」
「凛ちゃん!凛ちゃんは立派だよ。胸を張っていいんだよ!凛ちゃんに助けられた人は、いっぱいいるんだから!」
「夕子もありがとう。少し気が楽になったわ」
二人の間には、もう何のわだかまりも無くなっていた。その証拠に二人は抱き合って喜んでいた。
そんな二人を部屋に置いて、準備ができたら出るように伝えた。今回は演技スキルも必要無いだろう。
暫くすると制服に着替えた二人が出てきた。まだ思うところはあるようだけど、浜口は少しスッキリした表情をしていた。
「じゃあ行こうか。二人を家まで送っていくよ」
まず浜口の家から送った。去り際に感謝の言葉をもらったけど、俺は事実を伝えただけ。感謝されるような事はしていないと返した。
家に帰った浜口は、家に居た両親に温かく迎えられていた。三人で抱き合う姿を千里眼で確認したので、次は倉木を送る為にそこから立ち去った。
倉木を連れて家の近くまで来ると、倉木から睨みながらお礼を言われた。
「結果的には良かったんだと思う。まだ恨んでるけど、それでも凛ちゃんが救われたのなら赤城くんには感謝しないといけないよね。٠٠٠ありがとう」
一息で言いたい事を話すと、倉木はさっさと家に帰っていった。倉木も家族と抱き合って喜んでいたので、複雑な心境になりながらもその場を去ることにした。
家まで帰って、着替えてから異世界へと転移した。いつも通りに宿から出て、街を出た。少し気分転換をしたくなったので、そのまま海まで行くことにした。
ハリアーが無いのを思い出したので、人目の無い場所で新しいハリアーを創造した。今度は装甲をミスリル製にしたので、仮に墜落しても原型を留めるだろう。
「異世界の海かぁ~。どんな魚がいるのかな?貝もいいな!あ、魔物も美味いかもしれないな」
夢と期待を膨らませながら、ハリアーで海を目指して飛んでいった。
暫く飛んでいくつか村や街を越えていき、前方に海が見えてきた。港町みたいなものも見えたので、人目の無い場所で降りて、近くまで高速飛行で向かった。
街に着いてギルドカードを提示して、門を潜って中に入ると、薄着で褐色肌の人がたくさんいた。活気にも溢れていて、商売人の声かけが辺り一帯から聴こえてくる。
「へい、らっしゃいらっしゃい!今日は安いよ!」
「奥さん!帰る前にブルーサバーどうだい?安いよ!」
「ラージホタテが今なら銅貨5枚だぁ!」
「今朝獲れ立ての魚だよ!今夜の一品にどうだい!」
そこまで大きな街じゃないようだけど、この活気は気分転換になった。屋台をキョロキョロしながら見ては、おじさんに何の魚か聞いては購入していった。
ブルーサバー
ライジングフィッシュ
ラージホタテ
ハマーチ
マグマグロ
ピンクシャーケ
ヒラメン
好奇心のままに買っていっては、ストレージに仕舞っていく。店舗型の店では瓶詰めされた小魚の干物とかも売ってたので買った。昆布と思われるコーンブも買っておいた。
ここにきて結構な額を散財してしまったので、少し金策しようかと考える。
冒険者ギルドと商業ギルドのどちらにしようかな?と考えたけど、両方行けばいいかと思い直した。
世界地図を見ながら一番近かった商業ギルドから向かった。ギルドに入って受付カウンターにいる受付嬢さんに話し掛けた。
「すみません、こちらではどのような商品が高く買い取りされてますか?」
「いらっしゃいませ。当ギルドでは現在、鉱石類が高くなっております。逆に食材等の品は交易もあって安くなっておりますよ」
小さいとはいえ港町だもんな。他所から仕入れているから安いんだろう。ならまたミスリルでも売りますか。
受付嬢さんにミスリル鉱石のインゴットを売ることを伝えて、倉庫まで案内されたので白金貨30枚分のインゴットを出した。
受付嬢さんは驚いていたが、上客と思ったのか直ぐに表情を戻してニコニコしていた。
「またの取引をお願いしますね。次に会えるのを楽しみにしております」
「ありがとう。また仕入れたら寄らせてもらいます」
もしかしたら国によっては酷い状況のギルドもあるかもしれない。なので一応、礼儀正しく接する。商業ギルドが一番稼げるからな。
次に冒険者ギルドに顔を出した。といっても初めての場所だけど。依頼掲示板を見て、良さそうな高額依頼を探す。
「あ、これ面白そう。たまには受けてみるか」
面白そうな依頼があったので、受付嬢さんの所に依頼を受ける旨を伝えにいく。ギルドカードを提示すると、受付嬢さんは難色を示した。
「キングホエールの討伐を受けるんですか?失礼ですが、船はお持ちでしょうか?」
「あぁ、大丈夫だ」
「金級の方ですと難しい依頼となりますが、その、大丈夫でしょうか?推奨ランクは白銀級からとなっておりますが」
「ペナルティを心配してくれてるのはわかる。なら先に罰金を預けておこう。これならいいか?」
カウンターに白金貨を1枚置いたら、受付嬢さんは諦めたのか依頼を受理してくれた。
まだ日も高いので、先ほど屋台で見た魚の串焼きを買って、昼飯代わりに食べながら街を出た。
街を出て人目の無い海岸を目指して高速飛行で飛んでいく。いきなり座礁するのは勘弁なので、少し沖に出てから創造で船を出す予定だ。
「よし、ここら辺でいいかな?その前に船を調べないとな」
スマホを出して電波が無いことに気付いた。諦めて一度海岸へと戻ったあと、日本へと転移した。
日本で調べた後、もう一度同じ場所まで来たので船を創造する。今回創造するのは、イージス艦と言われるものだ。詳しくは知らないけど、カッコいいからこれに決めた。これから創造するのは、日本で最大級のイージス艦と呼ばれている。
「イージス艦、創造!٠٠٠おぉ~!カッコいい~!」
早速乗りこんで戦闘指揮所に入ると、操縦スキルが反応する。どうすれば動かせるか理解した。ちなみに一人でも動かせるように、戦闘指揮所に全ての機能をまとめたパネルを創造している。更に今回は高性能AIも搭載しているから、指示しなくても自動で動いてくれる優れものとなっている。
「これだけ勝手に改造できるのも創造様々だな。原理はどうなってるのか全くわからんけど。全て"ファンタジー"の一言で解決するから便利だよな」
こうして海をいく手段を手に入れた。まさに気分は艦長である。こうしてキングホエールの討伐に向かったのであった。
以下、浜口凛と倉木夕子のステータス
リン・ハマグチ
人族 16歳 女性
職業 疾風槍士
LV 28→1
HP 1220→120
MP 220→20
力 170→20
体力 170→20
速さ 140→30
知力 100→20
精神 200→80
魔力 220→20
運 330→130
スキル
称号
女神の戦士
ユウコ・クラキ
人族 16歳 女性
職業 嵐剣士
LV 26→1
HP 1020→80
MP 200→20
力 180→15
体力 140→10
速さ 160→40
知力 120→30
精神 150→50
魔力 190→20
運 300→100
スキル
称号
女神の戦士
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