第15話 浜口凛と倉木夕子



 母さんにビッグバードの肉を渡した。これで今晩の夕食に、キラーファルコンかビッグバードが出てくるだろう。


 最近は肉尽くしな気がしないでもないので、今度は異世界の野菜を仕入れるのもアリかも。そういえばナカヨス王国には海があったし、魚もあれば仕入れてみたいよね。


 夢を膨らませながら夕食を待っていると、やはり冷蔵庫がカツカツだと母さんが言っていた。


「お肉をくれるのは嬉しいんだけどねぇ。うちの冷蔵庫じゃ全部保管なんて出来ないからねぇ。お裾分けするわけにもいかないしねぇ?」


 母さんはチラッと冷蔵庫を見てそう言うと、「暫くは肉料理だけになるね」と呟いていた。

 いくら健康な男子高校生だとしても、毎日肉は勘弁してほしい。



 夕食後に部屋でステータスを見て閃いた。創造で作ればいいじゃん!と。早速冷蔵庫を創造してみる事にした。


「イメージは電力が要らない魔力で動く保管庫かな?いや、それならストレージみたいな時間停止にして٠٠٠サイズも小さくして٠٠٠」


 あれこれ試行錯誤しながら、結局作ったのはストレージ機能が付いたアイテムBOXだった。

 見た目は小さな箱で、小物入れみたいなケースにしてみた。パカッと開けると、中は真っ暗な空間が広がっている。容量は無限で時間停止も付いている万能箱となった。


 出来上がった箱を持って母さんに渡してあげた。使用方法を説明して、買い物も楽に出来るように持ち運びも便利なサイズだ。更に使用者制限を家族限定で付けたから、紛失や盗難など万が一でも大丈夫な仕様となる。



「これは御大層な代物だねぇ!おいそれと人前で使えないじゃないか」


「そこは上手く人目の無い所で使ってよ。これで食材も痛まないし、大量に保管できるし」



 母さんは普段はテーブルに置いとく事にしたみたいで、テーブルにポンッと置いた。それを見た父さんが欲しそうにしてた。それを見て、父さんは使う場面とか無いだろ?と思った。


 けどいずれ両親の安全の為に、何か対策を練っておかないといけない気がする。これは自身の直感だ。あ、スキルの直感も作っておこう。絶対に役に立ちそうだし。


 直感スキルを獲得し、その日は明日に備えて寝ることにした。




 そして翌日、宿へと転移する。


 宿を出て冒険者ギルドへと向かった。今日はクラスメイトが二人来るかもしれないのだ。上手くいけば一気に二人帰せるので、気分も上がってくる。


「接触方法は前回と同じじゃあ無理だよな。場所を特定してから夜に会いに行くか」


 方針も決まったので、冒険者ギルドに入り、カウンターにいる受付嬢さんに情報がないか確認した。


「女神の戦士様方なら、護衛の騎士様方と調査に向かわれましたよ。もし挨拶とかされるなら、帰ってからにしたほうがいいと思いますよ」


 どうやら既に現地入りしているらしい。今から現地に行っても護衛の騎士とやらが邪魔だし、千里眼で確認だけしてみるか。

 受付嬢さんにお礼を言って、冒険者ギルドを後にした。



 街の外に出て目立たない場所を探すが、ここから見える範囲は冒険者で溢れていた。現場の森の周りには多くの野次馬が集まってるようだ。


「みんな野次馬根性出しすぎだろ٠٠٠。そりゃ有名人を見たい気持ちはわかるけどさぁ」


 仕方ないので、隠密系スキルを使って少し離れた森に入っていく。索敵を使って周囲の安全を確認して、千里眼でハリアーの墜落現場を見てみた。


 現場付近では大勢の騎士が、立ち入り禁止とばかりに立ち塞がっていた。それを遠巻きに見学している冒険者も大勢いるようだ。そして火災が起きてた場所で二人のクラスメイトを発見した。



「二人とも女子だな٠٠٠見覚えはある。何て言ってるのかわからんけど、マズイ気がしてきたぞ」



 二人のクラスメイトはストレージで回収しきれなかった、ハリアーの残骸を拾っていた。急いでたし、大きな残骸だけを回収したから、細かい部品や弾等は回収しきれなかったのだ。


 そして昨日獲得した直感が嫌な方向に働いた。



「これは٠٠٠危険視されている?いや、敵視されてそうな気がする。こりゃマズイな٠٠٠どうする?」



 普通に考えれば、現代兵器があったら警戒する。流石に元は何かまで解らないと思うけど、俺に対して好意的じゃないクラスメイトなら、敵視するのも頷ける話だ。


 色々と残骸を回収しているようだけど、どうするつもりなんだろう?銃を再現するつもりかな?彼女たちがミリオタでないことを祈りつつ、現場から離れた。




 街に戻ってきて、冒険者ギルドの向かいにある酒場で時間を潰した。二年三組探知機の反応を伺いながら、どう接触しようか考えていた。


「誠実さをアピールしながら٠٠٠誤解を解くには٠٠٠いや、いっそ逆転の発想で٠٠٠」


 今の俺は周りから見れば、葡萄ジュース一杯で粘る一般人に見えただろう。あれから二時間座ってブツブツ言ってると、店員の男が痺れを切らして話し掛けてきた。


「お客さん、何も頼まないならそろそろ出てってくれ」


 注意された事で気恥ずかしくなり、「すみません」と言って会計を置いて店を出た。


 店を出たところで、二年三組探知機に反応があった。なんてタイミングだろうか。向こうもこちらに気付いたようで、自分たちを見てくる者を警戒するように、冒険者ギルドに移動している。


 ここは先に入っておこうと思い、ギルドに入って依頼掲示板の前に移動した。用も無いのに掲示板を眺めながら、彼女たちが入ってくるのを待った。入り口をチラチラ見ながら。


 完全に不審者である。


 夜に会いに行くにしても、誤解を解いておきたかった。話し掛けようとしたところで、周りの護衛の騎士の目があることを思い出した。


 接触しても警戒されて、夜間の警備が増えるだけだ。そう思い、入ってきた彼女らに見えないように他の冒険者の陰に隠れながら、ギルドを後にした。






 深夜零時。アラームと共に起きて出掛ける準備をする。今までは一般人の服装だったが、忍び込む時は黒装束の衣装にしようと思い、黒いフード付きの黒装束を創造しておいた。


 黒装束を纏い、探知機の反応がある宿に飛んでいった。もちろん隠密系スキル全開だ。


 高級宿っぽい所に反応があったので、窓の横で索敵をかける。部屋に反応二人と、ドアの前に一人。隣の部屋から反応四人。どうやら他の護衛は別の宿か、離れた部屋にいるのかもしれない。千里眼でも確認したから間違いないだろう。ちなみに彼女らは眠っているが、護衛は全員起きているようだ。


 窓を静かに解錠スキルで開けて、闇魔法の睡眠雲スリープクラウドをドアの隙間に流し込み、ドア前の護衛を眠らせる。

 隣の部屋にいる護衛も眠らせようか迷うが、静かに事を運べば大丈夫と思い、窓から部屋に入った。



「お~い、起きてくれ。起きろ~」



 触るのはダメかと思ったので、ちょっと離れて声をかけてみた。


「うぅ~ん、夕子ぉそれ私の٠٠٠」


 "私の"って何?気になるけど、ここは急がねばならない。もうこのまま日本に連れて行こうかなと思ったけど、眠りから覚ます魔法を思い出した。


「光魔法『覚醒ウェイクアップ』」


 魔法の力でパチクリと眼を開けて目覚める二人。そしてこちらと目が合ったので挨拶した。



「よう。起きたか?久しぶりって!おわっ!」



 目覚めるなり、ベッドの横に立て掛けていた剣と槍を手に取り、二人が斬りかかってきた。


「夕子!」


「凛ちゃん!」


 夕子と呼ばれた女子が剣で牽制して、凛ちゃんと呼ばれた女子が避けたところを槍で突いてくる。連携が取れた動きで間断なく攻撃してくる。


「ちょ、待って!待って!俺だよ、赤城だ!二人ともタイム、タイム!」


「え?赤城くん?」


「もしかしてクラスメイトの?あの卑怯者の?」



 二人からの俺の評価はどうやら悪いようだ。クソ女神に久しぶりに殺意が芽生えた瞬間だ。いや、それよりも先ずは話を聞いてもらわなければならない。



「そう、赤城だよ。二人を日本に帰すために来たんだ。今はクラスメイトを探して、見つけたら帰す旅をしているんだよ」



 胡散臭そうな者を見るように、二人は顔をしかめた。剣と槍を構えたまま、凛ちゃんと呼ばれた方が俺に問い掛けてきた。


「それが本当だとしたら、どういう方法で帰してるの?」


「俺のスキルを覚えているか?創造だ。それを使って異世界を渡る魔法を創造したんだよ。既に三人帰すことに成功している。俺も自宅とテラフィアを毎日行き来している」


 ここで伝家の宝刀、スマホで撮った仲良し自撮り画像を見せた。ツーショットは恥ずかしいから、三人で撮ったやつだ。



「確かに٠٠٠これは美咲ちゃんね。寺井くんもいるみたいだし、本当のようね」


「だろ?こうしてクラスメイトに声をかけて帰していってるんだ。お前たちも帰す為にここまで来たんだよ」


「それはわかったけど٠٠٠赤城くんは担当地域はどうしたの?」


「ん?担当地域?あートキオ砂漠のことか?それがどうしたんだ?」



 俺の返答が気に入らなかったのか、凛ちゃんとやらは剣呑な雰囲気を出していた。まだ戦闘態勢を崩しているわけじゃないので、返答次第では斬りかかりそうな気配を出していた。


 なんだこいつ?サイコパスか?人斬りに目覚めた危ない人なんじゃね?槍だから人突きか。


「どうしたも何もないでしょ?魔族の脅威が去っていないのに、何故赤城くんはクラスメイトを帰しているの?その様子だと、トキオ砂漠も放置してきたんでしょ?」


 凛ちゃんとやらの言った言葉についていけなかった。俺たちは女神に拉致されて戦わされてる。強制的にだ。それなのに魔族のことだって?知らねーよ!


「は?なんで俺たちが魔族と戦わなきゃならないんだ?もっと冷静に考えてみろよ。拉致られて強制的に戦わされる?ただの高校生が?俺たちの意思を無視して、関係無い世界の命運を託すとかありえねーだろ!」


 ちょっと鬱憤が溜まってたせいか、強めに言い放ってしまった。間違ってないけど、凛ちゃんとやらの言い分にイラッときた。


「そう٠٠٠赤城くんはそう思ってるのね。関係無いからって、この世界の人々を見捨てるのね」


「見捨てるかどうかとかじゃないだろ?この世界のことは、この世界の人が解決するもんだろ。大体、魔族が本当に悪い奴らなのかも知らないし、女神が嘘をついてるかもしれないだろ?夕子٠٠٠ちゃんはどう思うんだ?君も凛ちゃんと同じ意見なのか?」


 ずっと黙ってたもう一人の女子に意見を求めた。てゆーか、名前が呼びにくいから、名字を教えてほしい。



「私は凛ちゃんの言うことに従うよ」



 夕子ちゃんは凛ちゃんが言うことは絶対!って感じの女の子だった。この子は絶対に後ろからついていくタイプだな。主体性が無さそうなイメージだ。



「赤城くん、あなた私たちの名前を覚えてないんでしょ?」


「うっ!٠٠٠悪いな、あまり接点がないからクラスメイトの名前は知らないんだよ。それでも顔は覚えてるから問題は無いんだよ」


「はぁ٠٠٠もう一度名乗るわ。私が浜口凛よ」


「私は倉木夕子」



 リーダー肌の浜口に、腰巾着の倉木ね。オーケー覚えたよ。そんなことより、何とか警戒を解かないといけない。正直な話、浜口の正義感ぶった考え方を変えることは無理だ。もう気絶させて連れていこうかな?



「二人の名前は覚えたよ。それで話は戻るが、二人とも日本に帰る気は無いのか?」


「使命を果たすまでは帰らないわ」


「私は凛ちゃんに着いていくよ」



 あかん。これはいくら話しても平行線になるやつや。もう強制的に戦わされてもオッケーのようだし、強制的に帰しても文句は無いだろう。



「雷魔法『麻痺パラライズ』」


「なっ!ががっ!」


「きゃあっ!あばば!」


 俺の放った魔法で麻痺になった二人を抱えて、日本へと転移した。危険だからこの二人のスキルは消しておこうと固く誓った。


「はぁ~面倒だなぁ」





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