第10話 沼津美咲



「なんだ?お前、女神の戦士様と知り合いなのか?」


 ヤバい!兵士の皆さんが俺と女子生徒を見てる。さっきのセリフは全員に聞かれていたようで、傷の手当てをしていた兵士も周りを警戒していた兵士も、全員の視線が俺達に向いている。


 このアホには後で怒りの説教をぶつけるとして、まずは穏便に切り抜けなければ!



「いやぁ~女神の戦士様、無事で何よりですよ。ギルドからの依頼で救援に来たんですけど、間に合って良かったです!前に少し話した程度の、私ごときを覚えて下さってるなんて、大変光栄でございます!」



 演技スキルを発動させながら、大きな身振り手振りで状況を解りやすく説明する。周りの兵士も「ほう、そうなのか」と、頷いていた。



「はぁ?あんたねぇ٠٠٠」


「おぉっと!これはいけない!治ったとはいえ、まだ大怪我をした直後なのです。あまり喋ると御体に障ります。ここは安静にして下さい。兵士の皆さんも彼女を早く公都まで連れて行って下さい!」



 彼女の言葉に被せて発言したあと、こっそりと闇魔法の『睡眠スリープ』をかけた。睡眠雲と違って、個人を対象とした魔法だ。彼女は急な眠気に襲われて、倒れるように眠りについた。


 それを見てわざとらしく演技スキルを披露していく。


「ほら、急に大声を出すからですよ?暫くは眠ってて下さいね」


 その様子を見ていた兵士が、心配そうに彼女の容態を確認してくる。


「女神の戦士様は大丈夫なのか?」


「はい。血を失ったままなのに、急に立ち上がって大声を出したもんだから、立ち眩みをしたのでしょう。今は疲れて眠っているようですし、暫くすれば目覚めると思います」



 回復魔法を使ってた兵士も彼女の容態を確認したようで、俺の診断に合わせて同じ回答をしてくれた。


「どうやら彼の言っている通りですね。今は落ち着いて眠っているだけのようです」



 その報告を聞いて、リーダー格の兵士が俺に向き直り感謝の言葉をくれた。


「そうか。君が居なければどうなっていたか分からなかったよ。ありがとう!」


「いえ、これもギルドの依頼ですし、女神の戦士様のお力になれたのなら光栄ですから」


「全て事実なんだから、そんなに謙遜するな。それにしても君は冒険者にしては珍しいな?普通の冒険者なら、自分の手柄を主張するものなのにな」


 え?やっぱりそうなの?けど知らないものはしょうがない。この国では謙虚にいこう。





 こうして無事に公都に帰ってきた。救援の依頼を成功させたので、ギルドから報酬をもらった。昇級もしてくれるらしく、銀級冒険者のギルドカードをくれた。


 ちなみに銀級と書いてあるだけで、実際に銀色のカードとかではない。



「本当に驚きましたよ~。一人で救援に向かった時は心配したんですからね?」


「いや、なんかいけるかなって。心配かけて、すみません」


「もういいですよ。それよりも昇級おめでとうございます!これで銀級の依頼も受けれるようになりましたね」



 昇級によって受けれる依頼も増えるし、報酬も上がるけれど、一番は得られる情報が増える事だろう。銅級とどれだけ違うかと言うと、情報代も安くなって開示される情報も増えるそうだ。更には詳細も変わってくるらしい。



「どれだけ変わるかといいますと٠٠٠」



 受付嬢さんに情報量の規制と開示に関する、例え話をしてもらった。



 ここにパンがあったとする。銅級ならこのパンを売ってる店を教えてくれる。けど銀級なら値段も味も教えてくれる。更に金級なら、パンの作り手の名前や店の他の商品まで教えてくれるそうだ。


 ちなみに白銀級と白金級は想像にお任せします、だってさ。パン屋の土地の値段とか弱味でも教えてくれるのだろうか?



「なるほど、勉強になりました。ありがとうございます。今日は色々と疲れたから、そろそろ宿に戻って寝ますね」


「はい、今日はお疲れ様でした!また明日も依頼頑張って下さいね!」



 冒険者ギルドを出て、宿に戻った。受付でもう一泊することを告げて、支払いをして部屋に入った。


 入って直ぐに自宅へと転移した。今日のご飯に、フラッシュボアの肉を使ってもらおうと思っていたのだ。



「母さん、ただいま~」


「あら、お帰り。今日は晩御飯食べてくのかい?」


「そうなんだけど、使ってほしい肉があってさ」



 そこまで言って、ストレージから出そうとして気付いた。あ、解体してねーわと。



「あ、ごめん。肉を用意したんだけど、解体してなかったから素材のままなんだ。これは明日に取っておくよ」


「そうかい?もうご飯は出来てるから、明日ならちょうど良かったってもんだね。さ、冷めないうちに食べとくれ」


「母さん、ありがとう。明日はちゃんと用意しとくよ」



 その日はご飯を食べ終わった後に、近くの山に転移で移動した。解体をするためだ。といっても素人がいきなり解体なんて出来るもんじゃない。




「というわけで、解体スキル取りました!早速、あのおっちゃんの解体をイメージしながらやりますか!」



 解体時にプラス補正がかかるナイフを創造して、更に解体していく毎に天才スキルの補正も入っていく。およそ30分程で解体が終了した。



「ふぅ、やれば出来るもんだな。けど、今後は食肉を加工してる業者さんには頭が上がらないな」



 いかに解体が大変だったかを身をもって知った。改めて、普段何気なく食べてる食品を作ってる人達に、感謝とリスペクトの念を送った。





 そして深夜零時。場所は公都の城。前回の寺井の時のように、上空から城に侵入していた。もちろん目的は彼女だ。



「正直な話、名前を知らないんだよな~。名簿を見たけど、顔写真とか無かったし。顔を見たらクラスメイトってことだけは判ったんだけどなぁ。ま、探せばわかるか」



 索敵には巡回している兵士の反応があったが、まだ二年三組探知機には反応がない。半径100mしか調べれないから仕方ないけど。


 そのまま城の端から端まで高速飛行で調べていったが、どうやら奥まった部屋とか地下室にいるのかもしれない。普段は守ってることから、窓のある所にはいない可能性がある。



「じゃあ城内に侵入するしかないか。はぁ、面倒だ٠٠٠」



 手近な窓から侵入する為に、思い付きで直ぐ作った解錠スキルを使用した。スキルを使うと、頭の中に針金の映像が浮かんできた。



「これが必要って事かな?針金を創造」



 針金で窓の隙間から鍵を開けた。体が勝手に動いたような感覚だ。これがスキルの恩恵なのだろう。


 感心しながら城内へと侵入成功。隠密系セットを発動しているのを確認して、上から調べていった。



「見つけたぞ」



 城の一階にある見張り付きの、下り階段を発見した。睡眠雲で門番らしき二人を眠らせた。


 そのまま階段を下りていくと、通路の左右には牢屋があった。



「さすがに、こんなところには居ないだろう。別ルートを廻ってみるか?」



 そんなことを考えていると、索敵の反応では左右の牢屋以外にも、正面からの反応があった。正面にも部屋があるのか?


 もしかしたらと思い近付いてみると、二年三組探知機が反応を示した。



「まさか地下牢に入れられてるのか?」



 慌てて近寄ると、反応のあった場所には、豪華な扉のある部屋があった。もしかしたら身分の高い者を収監する為の部屋かもしれない。とりあえず扉をノックして呼び掛けてみた。



「俺だ、赤城だ。今ちょっといいか?」



 少しするとバタバタした音が聴こえてきて、扉をバターンっと開けた。扉に顔を打ちそうだったので、一歩退いて素早く躱した。



「あ、あんた!私に何かしたわね!気付いたらここだったんだけど!何をしたのよ!」


「しぃ~!声が大きいよ、お前は。誰かに気付かれるだろ?とりあえず中に入れてくれ」



 中に強引に入ると、まだ何かギャーギャー騒いでいたので、周りに結界魔法の『静音サイレント』をかけておいた。これで声が漏れる事はないだろう。


「ちょっと!聞いてるの?」


「あ~もう、うるさい!何だよ!助けに来たってのに静かにしてろよ!」


「は?あんたが?冗談でしょ?ウケるw」


「ウケねーよ!いいか?事情を説明するから大人しく聞けよ?実はな٠٠٠」




 ここまでの経緯を一通り説明した。はじめは話の途中で茶化したり、嘘つき呼ばわりしてたが、寺井も日本に帰した事も説明すると目付きが変わった。


「あんた、マジで日本に帰れるの?本当に?嘘じゃなくて?」


「だからさっきから言ってるだろ?寺井は帰還者第二号だよ。お前が帰るなら第三号だな」


「お前じゃなくて、美咲よ。沼津美咲。あんた、クラスメイトの名前を覚えてないの?失礼ね」


「すまん、それは悪かったな。クラスじゃ浮いてたから、顔は覚えてても名前は知らないんだよ」




 まぁ名前を覚えてないのは失礼だと思ったので、潔く頭を下げて謝っておいた。あとボッチという定義には、当てはまらないとだけ言っておこう。浮いてただけだ。



「わかったわ。それで?日本に帰れるの?」


「あぁ、沼津が帰りたいんならな。一応だけど、本人の意思確認はしてるんだ」


「あぁ、そういうね?男子で張り切ってたやついたもんね。わかるわー。そりゃ意思確認もするか~。私は帰りたいけどね」


「なら沼津は帰りたいってことで帰すわ。次元空間魔法『次元転移』」




 光に包まれていく途中で沼津が何か叫んでたけど、転移が成功して日本の俺の部屋に着くと、辺りを見回した後に突然泣き出した。



「うっうっうぅ、ひっぐ!うわぁぁぁん!」


「な、なんだよ?そんなに驚いたのかよ?お、俺は悪くないぞ!」



 ずっと女の子が泣いているということで、流石に謎の罪悪感が芽生えたので、泣き止むまで背中をさすってあげた。暫くして部屋がノックされるまで宥めていた。



「駆?何かあったのかい?女の子の泣き声があんたの部屋から聴こえてるんたけど?」



 母さんの声に、サァーっと血の気が引いていくのを感じた。女の子が泣いているシチュで、背中をさすってるのが俺なら、有罪判決を受けるかもしれない。逆の立場なら俺も有罪判決を下すだろう。



 あわあわしているとドアが開いた。入ってきた母さんは事情を察したようで、沼津に声をかけていた。



「ようやく日本に帰ってこられたんだねぇ。あんたらが無事で良かったよ。٠٠٠おかえりなさい」



 母さんから優しい声で言われた沼津は、泣いてる顔を上げて母さんを見ると、より激しく泣き出して母さんに抱きついていた。


「よ、よがっだよ~!ぐすっ、がえっ、てごれで、よがっ、だよ~!」


「えぇ、あんたたちをずっと心配してたわ。本当によく帰ってきたねぇ。おかえり」


「うんっ、うんっ!ただいまっ!うぅぅ、ひっぐ」



 どうやら沼津は感極まって泣いていたらしい。俺の変な罪悪感が解消された。ドッと疲れが押し寄せてきたわ。変な汗かいたし。


 その夜はもう遅いからということで、家に泊まる事になった。客室があったけど、沼津が一人は不安だという。ならばと母さんが俺の部屋をすすめた。


「あんたなら安心だし、今晩だけだから。駆、わかってるね?」


「あ、ハイ」



 結局、寺井の時の様にベッドを用意して、そちらに寝てもらうことにした。



「٠٠٠さっきはごめん。それと、ありがと」


「ん?何がだよ。別に何かしてほしいとか無いから、気にしなくていいぞ。それよりも明日、無事な姿を親御さんに見せてやれよ」


「親御さんって!ウケるわー。あんた、たまに言い方古いよね?」



 沼津が眠るまで他愛ない会話をしていた。沼津が転移してからの日々、周りからの期待とプレッシャー。日々強くなるホームシックな気持ち。色々と話してくれた。


 ちなみに沼津が寝たあと、女の子が部屋にいるというだけで、ドキドキして眠れなかった。寝顔を見て、少し可愛いと思ってしまったのが原因だ。あまりに女子に免疫が無さすぎた٠٠٠くそう




 翌日の朝食後に、寺井にしたように沼津にも話を合わせてもらう必要があったので、演技スキルを獲得してもらった。その際に、女子制服も創造して着替えてもらっている。


 そして話を打ち合わせて、沼津の家まで送っていった。



 彼女の家は少し学校から離れてるらしく、三駅ほど行かなければならないらしい。仕方ないから、高速飛行で家の近所まで送った。勿論、見付からないように隠密系セットを使用している。



「もうあそこが家だから、ここでいいよ。本当にありがとう٠٠٠赤城。他のクラスメイトもちゃんと助けろよな?」


「言われんでも助けるって!それよりも、親御さんに早く顔を見せにいってやれよ」


「なんか赤城って親目線だよね?ウケるw」


「ウケねーよ!ほら、俺といるとこ見付かるとやべーからさ!」


「うん、わかった!マメに連絡するから頑張れよ!あんたカッコ良かったよ!」



 そう言うと沼津は家に駆け出していった。俺は去りながら、沼津の家の状況を千里眼で見ていた。帰ってきた時に誰も居ないのは悲しいもんな。



 沼津が母親と抱き合って泣いているのを確認して、また異世界テラフィアへと転移した。




以下、沼津美咲のステータス




ミサキ・ヌマツ


人族 16歳 女性


職業 魔法使い


LV 8


HP 110

MP 350



力  20

体力 20

速さ 25

知力 50

精神 50

魔力 350

運  150


スキル

光魔法、演技


称号

女神の戦士




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