第9話 ファルム公国
無事に寺井を日本に帰して、また異世界に戻ってきた。
転移場所は泊まってた宿の部屋だ。急に消えたら怪しいから、ちゃんとチェックアウトして出ることにした。城の方が騒がしくなるだろうし、早く出た方がいいだろう。宿の兄ちゃんに今日出ていく事を告げた。
「ありがとうございます。またのお越しをお待ちしております」
キャンセルした分の宿代は、チップとして渡しておいた。儲かって良かったね。
「次の場所に移る前に、商業ギルドでもう一度金策していくか」
商業ギルドに立ち寄り、昨日と同じく米とミスリル鉱石のインゴットを売った。
ベレッタさんに大変喜ばれたけど、次の商売に行くのでこの街を離れることを告げると、残念そうな顔で「商人ですから仕方ないですね」と言われた。
商業ギルドと冒険者ギルドで情報を得たことを足掛かりに、俺に追跡の手がくるかもしれない。なので早々にこの国を去ることにしたのだ。
「次はファルム公国かな?ここからだと、飛んで半日ぐらいか٠٠٠面倒臭いな」
高速飛行は便利だけど、元々の運用方法としては、高速飛行の戦闘を想定して創造したスキルだ。快適に空の旅を楽しむスキルではない。
勿論、高度を上げれば目茶苦茶寒くなるし、風も魔法で軽減しているけど辛いもんがある。
「いっそ飛行機を創造してみるか。操縦もスキルで何とかなるだろうし。ダメならまた別の手段を考えればいい」
思い立ったが吉日とばかりに、ロックガーデン王国を出て人目の無い場所まで移動したあと、高速飛行で近くの平原まで飛んだ。
平原に着いたら転移で一度自分の部屋へと戻る。スマホで飛行機やヘリ等を調べたあと、また先程の平原まで転移した。
「色々と試してみるか。まずは操縦のスキルオーブを創造。んで獲得っと」
操縦スキルをゲットして、次は飛行機を創造する。滑走路が不要なVTOL機という、垂直離着陸可能な戦闘機ハリアーを創造した。
「おぉ~!映画で見たやつにソックリだ!カッコいいな!」
ウキウキしながらハリアーに触ると、なんとなく使い方が脳裏に浮かぶ。これが操縦スキルの恩恵かな?
ハッチを開けて中に乗り込む。計器類の意味も操縦のやり方も理解できる。
「何も問題は無さそうだ。移動途中で魔物相手に戦闘してみるかな?あ、そういえば一度も魔物と戦ったこと無かったな」
何気に初戦闘はまだだったと気付き、一度ハリアーをストレージに入れる。周囲の魔物を索敵で探すと、2Kmほど行った所に魔物らしき気配があった。
「一度ちゃんと戦って感触を掴んでおかないとな。よし、油断せずにいこう!」
高速飛行で近くまで飛んで行くと、デカい猪がノッシノッシと歩いている。猪の手前で降りて、鑑定してみるとフラッシュボアと出てきた。
「これがあのお肉かぁ٠٠٠綺麗に倒して持って帰ろう」
ストレージから剣を取り出す。素早くフラッシュボアに近付いて、通り抜ける刹那に首をスパッと斬り落とした。
「初戦闘完了っと。やっぱゴーレムよりは弱いな。いや、油断は駄目だ!危ない、危ない」
残心とか言われても独学だし、危機感は薄いしで、いつか危険な目に遭うかもしれない。どこかで戦闘について教わる必要も考えるべきかな?
先程の平原に戻り、ハリアーを出して乗り込む。今度こそファルム公国に向けて出発した。
「うっひょおぉぉぉ!最っ高ぉ!!」
戦闘機を操縦するのが楽しすぎる!空は俺のテリトリーだと叫びたいぐらい気持ち良かった。さっき既に叫んだけどね!
幾つか街や村を越えて、順調な空の旅を満喫した。
途中で創造を使って、操縦しながら給油するという荒業をしながら、ファルム公国に到着した。
世界地図ではもうファルム公国の領土に入っている。ファルム公国は狭い国土しかなく、公都と呼ばれる都市しかない。
公都の少し手前でハリアーをストレージに入れて、入場門の入り口まで歩いていった。
門番に冒険者のギルドカードを見せて入ると、歩いてる人が少なく感じた。印象としては地方の駅前って感じだ。
「小国家ってこんな感じなんだな。とりあえず冒険者ギルドに行くか」
その辺を歩いてた中年の男に声をかけて、冒険者ギルドの場所を聞いた。
「あの、道を聞きたいんですけど、冒険者ギルドって何処にあります?」
「兄ちゃんこの国は初めてか?この大通りに各ギルドが並んでるから、冒険者ギルドなら左を見ながら歩けば見つかるぞ」
中年の男に感謝を伝えて、左側を見ながら歩いていくと、冒険者ギルドの看板が見えてきた。ギルドに入って、カウンターの受付嬢に話しかけた。ここの受付嬢は美人なお姉さんだった。
「ようこそ冒険者ギルドへ。お兄さんは初めましてかな?今日は何の用かしら?」
「初めまして。今日は情報を買いに来ました。この国の女神の戦士について教えて貰えませんか?」
「その情報なら金貨10枚ね」
ロックガーデン王国の情報よりも、めっちゃ安かった!受付嬢さんに金貨を払うと、情報を教えてくれた。
「女神の戦士は若い女の子よ。今は冒険者をしながら修行中ね。今日も地道に活動しているはずよ。お兄さんも噂を聞いて来たのかしら?」
「え?噂って何ですか?」
「女神の戦士って聞くと強そうに聞こえるでしょ?だから腕試しを申し込む冒険者が多いのよ」
「へ~それで申し込んできた冒険者を返り討ちにしてるんですか?」
中々パンチの効いたクラスメイトかもしれない。異世界に来てはっちゃけてるのだろうか?
「逆よ。弱いからギルドが挑戦者から守ってるのよ。国からも強くなるまでは守るように頼まれてるの。だからお兄さんも止めてあげてね?」
「そうなんですね。初めから挑む気はないから大丈夫ですよ。どんな奴かと気になっただけですから」
「それならいいのだけど。か弱い女の子だから、もし絡まれてたらお兄さんも止めてあげてね?」
受付嬢さんにお願いされてしまった。どうやら女子生徒みたいだな。ギルドに居たら会えるのかもしれないけど、時間がかかりそうだし先に宿を抑えるか。
受付嬢さんにお礼を言って、冒険者ギルドを出た。ギルドの向かいに宿屋があったので、中に入って受付のオバサンに話しかけた。
「すみません。一人で一泊食事無しでお願いします」
「こんにちわ。一泊食事無しなら銀貨一枚だよ。部屋は奥から二番目を使っておくれ」
言われた部屋に入ると、簡素なベッドがあるだけの部屋だった。ちょっと高く感じたけど、もしかしたら食事が美味い宿屋だったのかもしれない。知らんけど。
まだ昼過ぎなので、冒険者ギルドに戻って依頼でも受けてみようかと考えた。
ランクを上げたら情報も解禁されるし、地道に活動しよう。実はちょっとやってみたかったし。そうと決まれば早速行ってみよう!
ウキウキしながら冒険者ギルドに入って掲示板を見ると、まばらだけど依頼が貼り付けてあった。その中で銅級依頼は二つしかなかった。
ラノベの知識どおりなら、来るのが遅いと、良い依頼はもう取られてるものだと納得する。
「仕方ないか。じゃあ二つとも受けるか」
依頼の紙を剥がして受付に持っていった。先程の受付嬢さんが居なかったので、別の受付嬢さんにギルドカードを見せて、二つとも受けると伝えた。
「すみません。この二つを受けたいんですけど、依頼を複数受ける事ってできるんですか?」
「はい、大丈夫ですよ。ただし失敗した場合のペナルティは、通常一件受けた時よりも罰金が多くなりますので、充分気を付けて受けるようにしてくださいね?」
「はい、解りました。ところで、依頼を受けてない魔物を売ることって出来ますか?」
ついでに狩った魔物がいれば、売ってお金に変えておきたい。もしくは評価に繋がれば昇級も早くなるかもだし。
「魔物の状態にもよりますが、買い取りもやってますよ。機会があれば一度足を運んで下さいね」
どうやら買い取ってくれるみたいだ。ちょっとテンション上がってきたぞ。
街を出て、公都の近くにある森にやってきた。
肝心の依頼内容だけど、傷薬になる薬草の採取と、ホーンウルフという魔物の討伐だ。どちらも数が多ければ多いほどいいらしい。薬草なら最低10本で、ホーンウルフなら最低三体の討伐だ。
「索敵の反応だとこの先に魔物が五体いるな。銅級依頼だからそんなに強くないはずだ。焦らず確実にやろう」
五体に奇襲をかける為、高速飛行で上空から魔物に迫ると、寛いでいる角の生えた狼が見えた。あれがホーンウルフだろう。
上空から風魔法で一体のホーンウルフの首をスパッと切断した。残るホーンウルフは仲間がやられたことに気付くと、唸り声をあげてこちらを威嚇する。
「次は剣で戦ってみるか」
地上に降りてストレージから剣を取り出す。フラッシュボアも斬れたし、多分大丈夫だろう。
左右に別れてホーンウルフが迫ってきた。先に右側のホーンウルフの首を落とし、振り返る勢いのままに左から襲いくるホーンウルフの首を斬った。
残りのホーンウルフが逃げようとしたので、高速で走り抜け二体とも首をスパッと斬る。
「案外やれるもんなんだな。よし、全部ストレージに入れてと。後は薬草を採取して帰るか」
その後は、鑑定で薬草を見つけながら採取して帰った。帰りにフラッシュボアに遭遇したので、これも綺麗に討伐して回収した。公都に着く頃には、夕焼けの空模様になっていた。
「依頼完了しました。これが薬草です」
冒険者ギルドのカウンターに、ストレージから出した薬草をズラッと並べた。30本採ったので、三回分こなした事になるのでは?と思って頑張ったのだ。
「お疲れ様です。収納系スキルを持ってたんですね。薬草30本ですので、銀貨一枚と銅貨五枚です。ホーンウルフは討伐できましたか?」
「ホーンウルフは解体してないんですけど、何処に出せばいいですか?五体あるんですけど。あとフラッシュボアが一体あります」
「そうなんですね。奥に解体場所があるので案内しますね」
受付嬢さんに案内されて解体場所に着いた。解体場所で複数の男達が何かの魔物を捌いていた。現場はこんな風になってるんだ。ちょっと感動した。
「こちらに魔物を置いて下さい」
指定された場所にホーンウルフ五体と、フラッシュボアを置いた。辺りに血の匂いがプーンと漂ってきた。密室だから血生臭い香りが充満しやすいようだ。受付嬢さんは気にせずに魔物の状態を調べていた。
「状態が良いので、素材も高く買い取れると思います。それでは受付に戻りましょう」
一緒に受付に戻って来ると、受付嬢さんがカウンターに報酬を置いた。
「こちらが報酬になります。ホーンウルフ五体で銀貨5枚、フラッシュボアが銀貨4枚になります。状態が良かったので、上乗せ分も合わせて金貨一枚です」
「ありがとうございます。質問なんですけど、多く討伐したり採取した場合は、依頼外でも昇級の評価になりますか?」
「はい。昇級はそんなに難しくはないんですよ。昇級しても実力に見合ってないと、簡単に命を落としますから。無理して狩るのも、どこかで魔物を買って手柄にするのもオススメしませんよ?」
「解りました。忠告ありがとうございます」
どこかで高ランクの魔物を討伐して、さっさと昇級した方がいいなと思った。
ちなみに女神の戦士も帰って来ているか聞いたら、情報料金として金貨一枚を求められた。さっきの報酬がパァになったけど支払った。
「そういえば今日はまだ戻って来てませんね。少し遅く感じます」
「女神の戦士は一人で依頼を受けたんですか?」
「国から付けて貰った兵士達とパーティーを組んでますよ。なので余程の事がない限りは、大丈夫だと思いますよ」
それがフラグとなったのか、ギルドに兵士が駆け込んできた。周りの冒険者や受付嬢の視線が、兵士の姿に釘付けになった。身体が傷だらけになっていたからだ。
「誰かっ!冒険者を救助に派遣してくれ!北の森でマンティコアの群れに襲われた!女神の戦士様が危ないんだっ!」
傷だらけの兵士の叫びに、救助依頼かと動こうとしていた冒険者も、マンティコアだと聞くと動くのを止めていた。強い魔物なのかもしれない。
「マンティコアが群れで現れたとなると、金級を数名含む、銀級で構成されたパーティー20名は必要となります。今から集めるのは難しいと思われます٠٠٠」
兵士に駆け寄った受付嬢さんが、応急手当をしながらそう告げた。兵士も解っているのか悔しそうな顔をしていた。
クラスメイトが関わる以上、ここは俺が行くしかない。もしかしたら、今日でこの国を出る事になるかもしれないな。
「俺が行きます。後で報酬を頼みますよ?」
受付嬢さんに伝えてギルドを飛び出した。後ろで受付嬢さんが、止めるような言葉を言ってたけど無視した。裏手に回って、人の気配が無いことを確認して高速飛行で北の森に向かった。
索敵で多数の魔物の反応と、数名の人の反応があった。近付くと魔物は群れの上空にもいたので、全て風魔法で切り刻んだ。上空にある仲間が攻撃されたのを察知して、地上にいた魔物の注意がこちらに向いた。
その隙に、魔物と戦っていた兵士の前に降りた。
「冒険者ギルドから救援にきた!全員下がってくれ!」
兵士達を背にして魔物を鑑定すると、マンティコアと出た。やはりこの一団が女神の戦士の護衛なのだろう。
怪我人も多そうなので、急いで討伐するために駆け抜けて首を落としていった。1分もかからずに討伐を終えると、兵士達は俺の強さに絶句していたようだ。呆気に取られて誰も何も喋らない。仕方ないので、こちらからフレンドリーに話し掛けた。
「皆さん無事ですか?回復も出来るんで、怪我人がいたら言って下さいね」
俺の言葉にハッ!と正気を取り戻し、怪我人のところに案内された。
回復担当っぽい兵士が、倒れている女の子に淡い光を当てていた。だけど兵士は悲壮な顔で叫んでいる。
「ダメです!俺の魔法じゃ流れる血を止めるしか出来ません。毒を貰ってるようで、傷が治りません!」
「俺が代わります。水魔法『解毒』、『治癒の水』」
倒れている女の子を水が包み込む。イメージは、アニメで見た治療ポッド内に満たされている水だ。傷が徐々に治っていき、顔面蒼白だったのが血の気が戻り治っていった。
「おぉ!治ったぞ!」
「あんた凄いなっ!」
「ありがとう!助かったぜ!」
兵士達から感謝の言葉を貰った。倒れていた女の子は見たことはあるが、名前は知らない生徒だった。
意識を取り戻したらしく、起き上がってこちらを見たので、口の前に指を立てて、"内緒にしとけ"とジェスチャーしといた。
「あ、あんた!確かクラスメイトの赤城じゃない!なんでここにいるのよ!?」
意図が伝わらなかったのか、一瞬で喋りやがったぞ。ややこしい事になりそうだと頭を抱えたくなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます