第8話 寺井信二
異世界に行く前に用意していた物がある。二年三組のクラス名簿だ。実は名前も知らないクラスメイトがいるので、照らし合わせる為に用意した。顔は流石に覚えているから大丈夫だけど、異世界には容姿を偽るアイテムがあるかもしれない。
そんな時の為に創造した魔導具がある。『二年三組探知機』である。半径100mにいるクラスメイトと先生を探知できる魔導具だ。と言っても、かなりニッチな仕様となっている。
今回は尖塔の最上階にその反応があったわけだ。窓の横に近付いて周りに誰かいないか索敵すると、部屋の中で死角になってる所と、ドアの外に人の反応があった。探知機は部屋の中だと反応を示しているから、ドアの外にいるのは見張りの兵士か何かだろう。
「闇魔法『
窓の隙間から睡眠効果のある雲をスルスルと入れていく。そのまま部屋を横切って、ドアの隙間から外にいる相手を包みこんで寝かせる。
千里眼で兵士が寝たのを確認した後に、窓を何回かノックする。千里眼で部屋を確認すると、死角になってる所にベッドがあるみたいで、どうやらノックで起きたみたいだ。小さな声で日本語で呼び掛けてみた。
「二年三組の生徒か?」
「え?誰?もしかしてクラスの誰かか?」
返ってきた声から男子生徒だと判明。けど声だけで誰かまで判らない。念のため名前を聞いてみよう。
「静かに。俺は赤城駆だ。お前の名前は?」
「赤城なのか?俺は寺井だ。寺井信二だよ。赤城はどうしてここにいるんだ?」
「ちょっと話があって来たんだ。とりあえず窓を開けて入れてくれないか?」
「わかった。そっちで何があったのか聞かせてくれよな」
寺井に窓を開けてもらい中に入れてもらう。部屋を見回すと、ベッドとテーブルに椅子しかない殺風景な部屋で、まるで監禁されているかのようだ。シチュ的に囚われのお姫様がいそうな部屋なのに、いるのが冴えない男子高校生という٠٠٠
気を取り直して、寺井に俺の目的を伝えた。
「俺がここに来た目的は、二年三組の皆を日本に帰すことだ。俺には日本に帰す方法があるんだ」
「それってマジかっ!マジで帰る方法があるのか!?」
「シッ!声が大きい」
「わ、悪い。で、まさか女神様の言う魔族を退治するって話じゃないだろうな?それとも何か別の手段があるのか?」
「少し長い話になるけど、聞いてくれ。あれは、女神の所で最後に転移先をイメージした時なんだけど٠٠٠」
ここまでの経緯を簡単に説明した。トキオ砂漠に行かず、東京に帰ったこと。創造スキルを使って移動手段を確立し、異世界テラフィアに転移できるようになったこと、そして皆を連れ帰る為に来たと告げた。
「とまぁこんな感じだ。そっちはどうなんだ?なんか監禁されてるように見えるんだけど」
さっきまで興奮していた寺井は、げんなりとした表情になり、今までの自分の苦労話を始めた。
「最初はさぁ、勇者だ使徒様だーって皆に煽てられてたの!けど俺の職業が魔物使いで、スキルがテイムだと知った途端に綺麗な掌返しさ」
「何でだ?その職業とスキルの組み合わせは当然だろ?」
「この辺は強い魔物しかいないって知ってるか?魔物をテイムするには、自分の力だけで戦って従わせるしかないんだとよ。だからまだ弱い俺は戦力外通告を受けたってわけさ」
「なるほどな。国は即戦力を期待してたって訳か。素人を一から育てるくらいなら、自国の騎士を強くするほうが早そうだもんな」
「そういう訳さ。だから帰れるなら是非とも早く帰りたいね。トイレも汚いし、風呂は無いし、最悪だよ」
意思確認をするまでもなく、寺井は帰りたいらしい。確かに異世界のトイレ事情は酷いもんだ。大体が汲み取り式で、それ以外だと高価な魔導具を使った浄化式トイレしかない。何でも汚物を分解浄化するらしいが、俺も見たことないからわからん。
今すぐ日本に帰すことを伝えて、寺井を連れて日本に転移した。転移する前に、少し小細工しておいた。これで少しは誤魔化せるだろう。
寺井信二が日本に帰った翌朝。ドアの外で見張りをしていた兵士がソワソワしていた。朝になっても女神の戦士が中々部屋から出てこないからだ。この後、見張りをしていた兵士は、昨晩居眠りしたことを後悔することになる。
「おい!そろそろ起きろ!」
兵士が部屋のドアを乱暴にノックする。返事が無いので、部屋の鍵を開けて中に入ると、部屋には誰もいなかった。暫く放心状態になったが、テーブルの上に置いてある手紙を見つける。
急いで内容を確認すると٠٠٠
『修行の旅に出ます。探さないで下さい』
そう一言だけ書いてあった。
これにより城内は上へ下へと大騒ぎとなる。これが駆の偽装工作であることを知る者はいないので、当然の結果である。
「に、日本に帰ってきたぁぁぁ!!」
「おい、まだ夜中だぞ!叫ぶなよ」
「わ、悪い。けど嬉しくてさ!本当にありがとうな赤城!」
「いいって。今日は家に泊まってけよ。明日、一緒に自宅に帰ろうぜ。その前に打ち合わせする事もあるからさ」
「へ?打ち合わせ?何を?」
ここで寺井に現状の説明をした。今日本中で騒ぎになってること、異世界の話はしていないこと、異世界や女神の話をしても精神異常として施設に入れられるぞと、失踪した内容を話せない理由を伝え、色々と設定している内容を共有しておいた。
明日、家に帰っても記憶が無いで通すように言い含めておいた。
「話は理解できたよ。けどさ、"記憶がありません"だけで、警察を騙し通せるか不安なんだけど?」
「そういうことも想定してたから大丈夫だ。ほら、これを使ってくれ。念じたらスキルをゲットできる、スキルオーブだ。このオーブは演技スキルを獲得するから」
「何だよそれ!チートアイテムじゃん!早速使わせてもらうぜ!」
寺井は嬉しそうにスキルオーブを使用して、無事に演技スキルをゲットしたようだ。何故か人気アニメの主人公のキメ台詞を声真似してる。そういう使い方するんだ٠٠٠
俺のベッドの横に、もう一つベッドを出して、今夜はそちらで寝てもらった。寝るまでに少し話をしたけれど、異世界テラフィアに転移してから、まだ二ヶ月程しか経っていないらしい。
どうやら日本との時間のズレが無いっぽいな。クソ女神がいた場所だけ時間の流れが違っていたみたいだ。
翌朝、寺井に案内されて家まで同行した。家の近くまで送ったあと、寺井に再度感謝の言葉を貰った。
「赤城、本当にありがとうな。俺さ、ずっとあっちで死ぬもんだと思ってたんだ。それが無事に帰って来れたんだ。本当にありがとう!」
「いや、俺たちはあのクソ女神の被害者なんだから、当然の行いをしただけだよ。早く帰って親御さんに顔を見せてやれよ」
「ハハッ、そうだな!他の奴らも助けに行くんだろ?頑張ってな!赤城も無事に帰って来いよ!」
最後に寺井と握手をして別れた。俺が一緒にいると話がややこしくなるからだ。帰り道、千里眼で寺井の家を覗いてみた。寺井の母親らしき人が、寺井と抱き合って泣いていた。寺井も泣いていた。
やはり寺井の親も、ずっと我が子の心配をしていたんだろう。視線を移すと、玄関の靴棚の上に、二年三組の生徒の顔写真が載ってるビラがあった。きっと寺井の家族もビラを配っていたんだろう。
「次の生徒も迎えに行かなきゃな。さて、次はどこが近いかな?」
そう一人呟いて、異世界テラフィアへと転移した。
以下、寺井信二のステータス
シンジ・テライ
人族 16歳 男性
職業 魔物使い
LV 13
HP 270
MP 220
力 55
体力 55
速さ 35
知力 22
精神 30
魔力 220
運 110
スキル
テイム、演技
称号
女神の戦士
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます